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ユニヴァース  作者: クモガミ
白霧山脈の怪物
63/125

英雄の血が流れている者

幾度無く縦横無尽に飛んで来る9発の光線の所為で身動きを大幅に制限され、その場から逃げだせない状態になってしまった四人は、ただひたすら自分のところへ来る光線をかわすことしか出来なかった。

その中でカレンとアイシャの一組は。

「カレン、今度は伏せて!」

「うぉと!」

アイシャの隣に並び、アイシャの的確な指示に従い、アイシャの動きに合わせてカレンは彼女と共に視界内と死角内から同時に襲って来る何発の『ステンジウム光線』を連携感溢れる動きでかわしていた。

一方、ロロとミツルギの一組はと言うと。

「とぉ! なぁ! ちょっ! やめっ!! あひぃ!! のぉぉ!!」

「無闇に動くなロロ! その場凌ぎの対応じゃなくちゃんと光線全ての軌道を見て、飛んで来る方向を予測し、最小眼の動作でかわすんだ!」

「うるせぇ!! 一発か二発ならともかく、こんなに多かったら一々予測している暇なんて無ぇよ!!

ロロは動いて動いて動きまくって迫り来る光線を無我夢中でかわし、それとは対照的にミツルギは必要最低限の動きで光線を回避していた。

「ロロ! 頭を下げろ!!」

「のぶぉ!??」

一瞬でも動くのを止めたら即ハチの巣に成りそうな勢いの光線の嵐にロロは必死になって動いてかわしていたが、その最中、突然ミツルギが片手でロロの背中を押さえ込むように上半身だけを下へ少し下げさせると。

直後に一本の光線がロロの背後から頭上へと通過する。

あとほんの少しミツルギが身体を下げるのが遅かったら、ロロの頭は今頃、空中に飛散するタンパク質の塵カスと成り果てていただろう。

「ひぃぃ!!?」

頭上を通った光線がロロの一部分の髪を僅かにカスれ、グリーンライト色の髪を色濃く焦がし、ロロは思わず悲鳴を上げる。

「後ろにも眼を付けるんだロロ!」

「無茶言うじゃねぇよ!! そんなことを急に言われて出来たら苦労なんてしねぇよ!!つぅか何でお前だけはこの状況の中で人を助けれる程の余裕があるんだよ!!? でも助けてくれてありがとうだよ、クソったれが!!!」

無理のある助言だったが、この危機的状況の中でも命を救ってくれたのでロロはミツルギの無茶振りに反論混じりにちゃんと感謝の言葉を述べる。

最後に汚い言葉が出てきたがミツルギはあまり気にせず、嵐のように吹き荒れて襲って来る『ステンジウム光線』の回避に専念しながら同時に話も続ける。

「よもや、これが狙いだったとはな」

「何が?」

「『磁力石』たちの配置とこの小さい『ステンジウム光線』の意味さ。見ての通りこの『磁力石』たちの配置は光線を全方向から移動させるためと、光線を使って〝俺達を此処に閉じ込めさせる〟気なんだ!」

「閉じ込める?? どういうことだ!?」

「光線を網代わりにしているのさ! こうやって光線をこの『磁力石』たちに囲まれているこの空間内で縦横無尽に移動させることで、俺達の身動きを制限させて此処から動けなくさせているだろう?」

「ああ、確かに………」

「それが『古代獣こだいじゅう』の狙いなのさ! 奴は俺達を此処から逃さないために『ステンジウム光線』を動く網として使い、それで『磁力石』を、網を結ぶための柱として使い、光線と『磁力石』で出来た〝檻〟を作り。そして俺達をこの〝檻〟の中に閉じ込め、尚且つ光線を全方向に走らせることで俺達の死角を突いて倒そうとしているか、もしくは例え死角を突いて倒せなくても俺達を無理矢理動かして体力をジワジワと削り、体力が消耗して動くが鈍くなってきたところを確実に光線で射るためなんだ!!」

9個の『磁力石』たちの配置と通常版よりずっと早い9発のスモール型『ステンジウム光線』の意味は〝檻〟を作り、その〝檻〟の中に四人を閉じ込め、尚且つ光線を空中で縦横無尽に走らせ、四人の死角を突いて倒すもしくは四人の体力と気力を削って弱らせ、弱って動きが鈍くなったところを光線で確実に射るための布石だとミツルギは推測する。

片やもう一組の方のアイシャも『磁力石』の配置とスモール型『ステンジウム光線』の意味に関して、ミツルギと同じ内容の推測をカレンに述べていた。

そしてこの短時間でアイシャの指示なく、アイシャの動きに合わせられるようになったカレンはその推測を聞いて、素朴な疑問をぶつける。

「でも何でステンなんとか光線を小さくする意味があったのかな? 別に今まで通りの大きさでも、さっきみたいな凄く大きかった光線でも良かったんじゃないかな?」

「それは多分、今まで一番多かったのとさっきの馬鹿デカイ光線はこの小さな光線よりも遅くて、空間内の面積も大きく取ってしまうからじゃないかな? こんなに光線が飛び交う中で、光線のスピードが遅かったり、場所を大きく取り過ぎてしまったら、光線同士がぶつかり合ってお互いを相殺してしまう。だから『古代獣こだいじゅう』は早くて面積を大きく取らずに済む、この小さな光線が一番最適だと判断したから撃ったんだと思う」

「成る程…………あれ? それじゃあ、何でもっと光線の数を増やさないんだろうね? もっと数が多ければ、僕達を更に追い詰めたり、僕達の体力をもっと削れる筈なのに」

「恐らくそれは、これ以上光線の数を増やすと光線一つ一つの移動が難しくなったり、もっと複雑になってしまうから増やさないんだと思うんだ。これだけの数の光線を全て『磁力石』の磁力で軌道を修正し、バラバラの方向に移動させ、更に光線同士をぶつけさせないようにするのはかなりの計算力が要る! だからこれ以上数を増やさないのは増やせば、光線をコントロールしきれなくなるのかもしれない」

「そっか! 光線の数を増やさないのは、〝増やさない〟んじゃなくて、〝増やせない〟んだね!」

光線の〝数を増やさない〟のではなく、〝数を増やせない〟という逆転の発想を思い付いたアイシャの的確な読みによって、カレンの心の中で生まれた疑問は霧のように消える。

その頃、カレンとアイシャと同様、身に振り掛る光線の嵐を何とか回避し続け、双方とも今ところ被弾無しのミツルギとロロだったが、最小限の動作で回避しているミツルギとは対照的に無我夢中に動いて光線を回避しているロロが、とうとう疲れが出始め、動くが鈍くなりつつあった。

すぐ近くに居るミツルギはロロの動きが僅かに鈍くなったといち早く気付き、ロロの体力が危険域に達しようしていることも察し、このままでは危ないとミツルギは危惧する。

そしてミツルギはある行動に出る。

「ロロ、動きが鈍くなっているぞ。もうそろそろ限界なんじゃないか?」

「だ、大丈夫だ! まだまだ動ける……」

「強がっても無駄だぞ。君の顔から流れているその大量の汗はなんだ?」

「あっ、いや、こ、これは」

「君が疲れて来ているのはもう分かっている。このまま此処に居たら皆やられてしまう、そう成らない為に此処から早く脱け出そう」

「ど、どうやってだよ? 光線の所為で全く移動が出来ないこの空間で……」

するとロロの言葉が急に詰まった。

何故かというとロロが視線を横に傾けたら、ある物が映ったからだ。

怪訝そうにミツルギもそこに視線を傾けると、遠く離れた自分達の向かい側の壁の端に居る『古代獣こだいじゅう』が口の中でエネルギーを溜め込んでいる姿が在った。

口の中から覗かせているエネルギーの量の多さを見て、二人は直感的に判断した。

あれは最大級の『ステンジウム光線』だと。そしてその矛先は自分達の組に向けられているということを。

「ロロ、今すぐ出るぞ!!」

「だ、だ、だ、だ、だから、ど、ど、ど、ど、どうやってだよ!!? 俺こんな状況じゃ逃げれない……」

「こうやってだ!!!」

黙らせるようにそう叫ぶとミツルギはロロの腹から腰に左腕を回して掴む、それと同時に『古代獣こだいじゅう』が最大級の『ステンジウム光線』を放った。

轟音と共に超高速で迫り来る馬鹿デカイ『ステンジウム光線』が自分達のところに押し寄せる前にミツルギは『縮地』とボソリと呟くと、一瞬でその場からロロと共に姿を消した。

そして二人が元居た場所やタイミング的に光線の車線に居合わせた三発のスモール型『ステンジウム光線』も最大級の『ステンジウム光線』に飲み込まれ消滅し、やがて光線は行き止まりの壁にブチ当たり、壁に今までの物とは比べ物にならない最大の風穴を作る。

二人が姿を消してから約0.1秒、二人は光線の網を掻い潜り、『磁力石』たちが囲んでいる空間と『古代獣こだいじゅう』との間に位置する場所に姿を現す。

「あ……あれ? ここは? 俺は………一体何処に?」

「〝檻〟の外側さ。俺達はあそこから脱け出させたのさ」

景色と共に状況が一瞬でガラリと変わったことに、ロロは何が起こったか分からず、軽い混乱状態に陥るが、助け舟を出すようにミツルギは光線と『磁力石』で出来た〝檻〟から脱け出せたんだと自分達が居た空間内に指を指して知らせる。

ミツルギに促され、自分達がさっきまで居た〝檻〟の中を見るとロロは瞬時に自分はあそこから脱出したんだと自覚し、同時に自分はミツルギが使うあの謎の高速移動技であの空間から脱出したんだと言う事も気付く。

「………ん?」

そして更にロロはここである事に気付いた。

そのある事に気付いた途端、何故かロロの顔は俯き、更に表情はとても暗くて怒りに満ちた物に変わり、眉間に多大なシワを寄せ、眼元がピクピクと震える。

「おい…………ミツルギ……」

「む?」

すぐ隣に居るロロがそんな心境になっているにも気付かず、低い声で呼ばれたミツルギは何も知らずにロロの方に振り返ってみると。

「!?」

突然、この広い空間内にガンッ!! という、まるで素手で何か硬い物を殴ったような鈍い音が響いた。

音の発生場所はミツルギの頬とロロの拳がくっ付いているところから。

そう、音の発生原因はロロがミツルギの顔を思いっ切り殴ったからであった。

「…………………っ!」

痛さを訴える小さな声が口から漏れる。

そしてその痛さがどんどん強くなり、やがて我慢仕切れなくなって、火山が噴火するように大きな悲鳴が上がる。

ミツルギの…………

「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

………のでは無い、ロロの声が。

「いきなり何をするんだロロ?」

殴られたのに痛がっている様子は微塵も無く、ケロッとしているミツルギは殴られた頬を痒そうに人差し指で掻きながら、ロロに何故殴ったのかその訳を不服そうな顔で問う。

対してロロはどうして自分の方がこんなに痛がっているのか分からず、殴った拳に走る激痛に悶えながらも、ミツルギの問いに応える。

「なんで…………もっと早くしなかったんだ?」

「む? 何の話だ?」

「すっ惚けんな! お前はあそこから脱け出す手段を持っておきながら、どうして最初から〝それ〟を使おうとしなかったんだよ!?」

ロロの言い分はこうだ。

縮地法しゅくちほう』というミツルギの高速移動技で瞬時に光線の網を潜り抜けて〝檻〟の中を容易に脱け出せたというのなら、わざわざ〝檻〟の中で居据わって光線の嵐をかわし続ける必要など、何処にも無い筈だ。

それなのにミツルギは何故か始めから『縮地法』を使って脱出しようとしなかった。

なのでロロは、理由は分からずともそれに腹を立てて、ミツルギを殴ったという訳らしい。

事情を聞いたミツルギは『成る程』と呟き、納得したのか相変わらず態度を崩さずに、自身が最初から『縮地法』を使わなかった理由を述べる。

「どうして俺が初めから『縮地法』を使わず、あの〝檻〟の中に居据わり続けたのか、その訳を一言で言い表せば、〝タイミングを計る為〟だ」

「〝タイミング〟?」

「あの〝光線の網を潜り抜けるタイミング〟さ。あの光線の網は普通の檻の網とは違って、ずっと同じ場所に居続けるのではなく、光線達がいつも縦横無尽に宙を舞って、俺達の周りを囲むように飛び回ることによって、〝網〟として成り立っていた。そうだろう?」

「ああ、それが?」

「光線がずっと同じ場所に居続ける訳ではないのなら、俺は〝必ず光線達が一瞬だけその場を通らない瞬間〟があると踏んだ。しかし光線達が超高速で俺達の周囲を飛び回っている以上、下手に動いて外に出ようとすれば、光線の網に引っ掛かって身体が八つ裂きにされるのがオチだ」

「お前の『縮地法』さえあれば、簡単に抜けられただろう」

「いや、そう簡単にはいかない。俺の『縮地法』は魔装器まそうぎの『瞬間移動』や〝時空〟属性の『時空移動』のような〝障害物が在っても正確に目標地点に辿り着く特殊な移動法〟とは違って、〝目標地点に向かって一直線に移動する移動法〟なんだ。それに『縮地法』もいくら早いとはいえ、少しでも潜り抜けるタイミングを誤れば、光線の網に引っ掛かって命は無い! だから俺はあの場にずっと居据わって丹念に脱出の機会を窺っていたんだ」

「ええっ!? じゃ、じゃあお前、あの光線の嵐をかわし続けながら、光線の網を潜り抜けるタイミングをずっと計っていたのか!?」

「うむ、中々大変だったが………潜り抜けるタイミングを幾つか掴むことが出来たし、眼も光線達の速さに慣れて来たから、あの場に留まり続けたのは決して悪くはなかったな!」

「……………」

言葉が見つからないようにロロは愕然とする。

こちらは四方八方から降り注ぐ光線達の猛襲に避けるのが精一杯だったに、ミツルギは最低限の動きで光線をかわし、しかも一瞬でも気を抜けば命取りになる状況の中で、檻の中から脱け出すタイミングを念入りに計っていたと言うのだ。

百戦錬磨のベテランの軍人でも一度に〝それ〟だけのことをこなせるのかどうかも分からないのに、〝それ〟を〝大変〟だったと清々しい顔で言って済ましているミツルギにロロは圧倒的な実力の差を感じる。

外見上、自分とは同じぐらいの年齢なのに、これだけの差があることに対してロロはこの時、これが400年前に世界を救った英雄達の血が通っている者の力なのかと思い知らされた瞬間だった。


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