弱点発見
思わぬ大反撃で24個在った『磁力石』が一気に11個も解体され、残り13個になってしまった『磁力石』だったが。
その『磁力石』を巧みに操る『古代獣』は『磁力石』の磁力によって生み出される現象、反発を用いてカレンとミツルギこの二人の攻撃を完璧に封じたと思われたが、偶然にもアイシャとロロが『磁力石』の致命的な欠点を発見する。
「ロロ、耳貸して!」
「ん?」
貴重な情報を得たことでこのことをカレンとミツルギにも伝えるべく、アイシャはある指示と共にごにょごにょとロロの耳元で囁く。
「今話した通りの事をミツルギに伝えて! 私はカレンの方に行くから!」
「おう! 任せろ!」
瞬時に伝える相手を決めると、ロロとアイシャは極めて重要且つ有益な情報を今すぐ伝えるためにそれぞれの相手の元へ颯爽と駆け走る。
「ブレイヴ!」
「ゼオラル!」
一方、武器が強制的に手元から離され、それぞれ『磁力石』と壁に武器が突き刺さってしまったカレンとミツルギだったが、お互いに『アブソード』型の魔装器だけが備わっている能力『瞬間移動』を用いて、魔装器を己の手元に戻させた。
するとそこへアイシャがカレンのところへ、ロロがミツルギのところへやって来た。
「カレン、良く聞いて!」
「ミツルギ、良く聞けよ!」
「えっ?」
「む?」
いきなり横から現れて『話を聞けと』催促して来たアイシャとロロにカレンとミツルギは首を傾げるが、お構い無しに二人はそれぞれの相手にある指示をかくかくしかじかと耳元で囁く。
そしてその指示を聞いたカレンとミツルギは心得たようで首を縦に振って頷き、素直に指示通りの行動を早速取った。
まず二人はお互いに同じく指示された一つの『磁力石』に向かって突っ走る。
すると、まだ二人が『磁力石』の元へ向かっている途中、ここでカレンはミツルギが受けた指示とは違う自分だけの指示に従って、行動に移った。
「えいっ!」
それは、指示された『磁力石』目掛けて大剣をブーメランのように投げ付けたのだ。
グルグルと円を描くように剣は垂直に高速回転しながら、ひとりでに『磁力石』の元へ飛んで行った。
その姿はブーメランというより人間が空中で大車輪をしているようだった。
しかし、四人の行動の意図が分からずとも、ただでさえ残り少なくなった『磁力石』をこれ以上減らすわけにはいかないため、迫り来る大剣に対して『古代獣』は当然の如く『磁力石』から磁力の波を発生させる。
磁力の波が発生したことによって、言うまでもなく発生した磁力から生み出された現象はもちろん反発で、大剣は『磁力石』に触れる直前に跳ね返された。
「縮地」
その直後、カレンの大剣が跳ね返されたのを合わせたかのようにミツルギが一瞬で、『磁力石』の裏の方に回り込んだ。
回り込むとミツルギは早速地面を蹴って宙に浮かぶ『磁力石』の元まで飛び、身体が『磁力石』の真ん中ら辺まで到達すると剣を水平に振るった。
だが、『磁力石』から磁力の波が発生している以上、ミツルギの剣もカレンの大剣と同様、反発によって跳ね返される…………筈なのだが。
『磁力石』から磁力の波が発生しているにも関わらず、ミツルギの剣は反発の影響を受けずにそのまま『磁力石』の身体を横に真っ二つに分断した。
「……本当に斬れた」
思いっ切り斬ったくせに、斬った本人のミツルギも斬れるとは思っていなかったのか、『ブレイヴ』に視線を傾けて驚きの声を漏らす。
そして地面に着地すると、すかさずミツルギはまた一瞬で他の『磁力石』の裏の方に回り込み、更に続いて飛び上がった。
「とおりぁ!」
飛び上がってすぐ自身の身体が『磁力石』の真上ぐらいのところまで到達すると、今度は剣を垂直に振り下ろした。
『古代獣』はミツルギの剣が『磁力石』に触れる前にその『磁力石』からも磁力の波が発生させたのだが。
さっきと同じようにミツルギの剣は磁力に因る反発の影響を受けず、易々と『磁力石』を縦に真っ二つに切断する。
「!!」
熱量を持った物や金属類に対しては絶大な効果を発揮する『磁力石』の磁力がミツルギの剣には効かず、またしてもご自慢の『磁力石』が破壊されたことに『古代獣』の顔に雷如く衝撃が走った。
そしてこの時、『古代獣』はようやく悟ったのだ。
四人が『磁力石』の弱点に気付いた事を。
「ゴギャアァァァァァァァァァァッ!!!」
それを悟ると、一先ず『古代獣』はミツルギを『磁力石』から遠ざけようと雄叫びと同時に『ステンジウム光線』を放った。
「縮地!」
着地の瞬間を狙われたミツルギだったが、お得意の超高速移動技でロロのところまで戻り、『古代獣』の『ステンジウム光線』を難なく回避した。
「ロロの言う通りだったな。確かに斬れたぞ!」
「だから言ったろう! 〝あそこが弱点だって〟」
「ふむ、それは間違いなそうだ。しかし、良くこの状況の中で、あの『磁力石』の弱点を見つけられたものだな」
「ふふん、俺様の眼に掛れば朝飯前よ! 弱点を見つけるなんて」
「なんと! ロロは見掛けに由らず、観察力が良いのだな!」
「〝見掛けに由らず〟って言うのは余計だよ! とにかく、この危機的状況の中で一番早く弱点を見つけたこの俺様に感謝するんだな!」
『あっはっはっはっはっはっ!』と高笑いをして天狗になるロロ。
『磁力石』の弱点を最初に見つけたのはアイシャなのだが、何気にロロはアイシャが近くに居ない事をいいことに自分の手柄にしていた。
一方、ミツルギとは違って指示だけを聞かされ、『磁力石』の弱点の話は省かれて聞かされていないカレンは何故、ミツルギの剣だけは『磁力石』の反発で跳ね返されなかったのか、そのことをアイシャに尋ねる。
「どうして今、ミツルギの『ブレイヴ』は『磁力石』を斬れたの? 僕の『ゼオラル』はあんにあっさり弾かれちゃったのに……」
「簡単だよ。あの『磁力石』の磁力は〝全方向に磁力を発生出来ない〟。だからミツルギは磁力の影響を受けない方向から斬ったってこと」
「?」
突発的な説明に付いていけずカレンは首を傾げ、その反応を見てアイシャは、一から説明した方が良いと察し、心の中で溜息を吐く。
「……カレン、最初に剣を弾かれた時、剣が別の『磁力石』に刺さっちゃったよね?」
「う、うん」
「じゃあなんでその時、君の剣は〝『磁力石』に刺さることが出来たか〟、分かる?」
「えっ? それは、えっと………磁力を発生させるのが間に合わなかったから?」
「それは私も思った。けど私はある一つの仮説を立てたの」
「仮説?」
「そう。あの『磁力石』は〝全方向に磁力を発生できない〟という仮説を」
次にアイシャは自分の立てた仮説が確証に変わった経緯を丁寧に淡々と説明を続ける。
「私はその仮説を確証に変えるべく、一つの『磁力石』に六発の弾丸を撃ち込んだの」
「六発も? 何の為に?」
「さっき言った通り仮説を確証に変える為だよ。もし複数の攻撃が別々の方角から来たら、『磁力石』は攻撃を全部跳ね返せるかどうか」
「成る程、それを確かめるために六発も……」
「発射した弾丸の六発の内、四発は〝私たちから見て『磁力石』の表側の方〟に向かわせ、残り二発は〝裏側の方〟に向かわせたの」
「それで、どうなったの?」
「結果は表側の方の四発は全て跳ね返されたけど、裏側の方の二発は無事に命中したんだ」
「! ……って、ことは!」
「うん。私が睨んだ通り『磁力石』は全方向に磁力を発生できない! 私が立てた仮説は正しかったんだ」
六発の弾丸を使っての検証によってアイシャが立てた『磁力石は磁力を全方向に展開出来ない』という仮説は正しいものと証明され、同時にアイシャとロロはこれが『古代獣』が操る『磁力石』の弱点でもあることも確信した。
「じゃあ僕とミツルギに『磁力石』を攻撃させたのは僕達にそれを分からせるためだったの?」
「もちろん〝それも〟在った。けどカレンとミツルギを実験のように使って悪かったけど、もう一つ確かめたいことが在ったんだ」
「確かめたい事?」
「『磁力石』の磁力が前後対象であるかどうかをね」
アイシャがカレンとミツルギに指示を与えてまで確かめたかったこと、それは『古代獣』の『磁力石』が磁力を表側の方に展開している時は裏側の方には磁力を展開出来ず、逆に裏側の方に磁力を展開している時は表側の方には磁力を展開出来ないという前後対象式かどうかを確かめることだった。
「一つ目は予想通り。カレンの指示通りのフェイントのお陰で『磁力石』の磁力は私たちから見て表側の方に展開され、カレンの剣は弾かれたけど、裏側の方に回り込んだミツルギが『磁力石』の破壊に成功した。そして二つ目はフェイントを掛けずに最初から裏側の方に回り込み、『磁力石』を破壊しようとした。その時は絶対に『磁力石』は磁力を発生していた筈、前後対象式なら裏側の方に磁力を展開すれば、ミツルギの剣を弾き返せた…………だけど何の問題もなくミツルギは『磁力石』を破壊することに成功し、剣も弾かれずに済んだ………これはつまり」
「『古代獣』が操っているあの『磁力石』の磁力は〝僕達から見て、表側の方しか展開出来ない〟ってこと?」
「……その通り。どういう訳か分からないけど、あの『磁力石』は裏側の方だけには何故か、磁力を展開出来ないみたいなんだ」
という訳で前後対象式を確かめるべく、カレンとミツルギを動かした結果、行動したミツルギも含めてアイシャとロロは『磁力石』の磁力が前後対象式でないことも知った。
そしてカレンもアイシャの説明のお陰で、その事をアイシャが結論付ける前に自ら察する。
だが、そこでカレンはアイシャに素朴な疑問をぶつけて来る。
「でも、どうして裏側の方は展開出来ないんだろうね?」
「それは恐らくだけれども、『古代獣』は〝『磁力石』の裏側の方に何らかの力を与えて『磁力石』を操っている〟から、裏側の方だけは磁力を展開できないってところじゃない…………」
「ゴギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
アイシャの憶測を遮るように『古代獣』が今まで聞いて来た雄叫びの中で、一番強いんじゃないかというぐらいの強大で邪念に満ちた雄叫びを上げた。
四人はその雄叫びを聞いた瞬間、時間が止まったかのように硬直した。
そして『古代獣』の顔を見てみると、『磁力石』を10個になるまで破壊されたことによって、ついに怒りが爆発したのか、『古代獣』のギラっと光るその眼には溢れ返るような怒りと殺意がドロドロに満ちていた。