自爆兄貴の妹の証言
やって来たのは、一人の少女だった。
「すいません! 兄が迷惑を掛けてしまって!」
ロロを兄と呼んだ一人の少女はロロの代わりに頭を下げて謝罪した。
「兄? 彼が君のお兄さん?」
カレンは黒焦げたロロを指して少女に尋ねる。
「はい! そこで黒焦げているロロ・グライヴィーの妹、イミナ・グライヴィーです!」
黒焦げた兄を全く心配せず、自己紹介をするロロの妹イミナ。
「イミナちゃんか………」
外見上、カレンやロロとはそう歳は離れているには見えない。それにロロと同じ瞳孔が縦に細い茶色い眼とグリーンライトの髪と猫の様な耳をしている。あとロロと似たような物を感じることから、カレンは彼女がロロの妹だと納得した。
「本当にすいません、家の兄が迷惑を掛けてしまって………後でキツく言っておきますので!」
「いやいや! いいよ謝らなくて! それより、君のお兄さんがこうなってしまった事を聞かないの?」
また頭を下げられ困ったカレンはそんな事より、兄に何が遭ったか尋ねないのかと伺った。
「どうせ兄の事です。きっとあなたに勝負だとか勝手に吹っ掛けて、昨日徹夜で完成した爆弾の威力を試して上で自慢したかっただけなんですよ」
まるで何もかも見ていたかのように兄の行動原理を推測で言い当てるイミナ。
「もしかして………見てたの?」
「まさかぁ、爆発の音を聞き付けて、急いでお店を飛び出して駆け付けたら、黒焦げた兄を見つけた瞬間、大体の想像が尽きました。どうせまた調子乗って自爆したんでしょう」
仕方のない兄を持った妹の苦労の経験だろうか、さっきまでの出来事の容易に想像できたようで、イミナは再び溜息を吐く。その溜息に同情したカレンは苦笑いを浮かべるがここである重大な事を思い出す。
「あっ! そうだ! 彼に聞かなきゃいけない事があったんだ! でも………あの状態じゃ……」
今のロロの状態では金髪の女の子の行き先をもともに聞けないと判断したカレンは、どうしようと困惑するがその様子を見たイミナは。
「えっ? 兄に聞きたい事って何ですか?」
カレンの言葉に反応したイミナは自分の兄に聞きたかった事をカレンに尋ねる。
「君のお兄さんに今日外から来た女の子について教えて貰う筈だったんだ」
「えっ? それって………今日朝早くに外から来た、長い金髪の蒼い瞳をした綺麗な女の人ですか?」
「そうだけど……もしかしてその子に会ったの?」
この問いに頷くイミナ。
「はい………、その人に会ったのは、あたしが働いているお店の開店直後の事です。わたしはいつもどおり朝の店番をしていました」
今日朝早く出会った外から来た少女についてイミナは語った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ついさっき朝日が昇り、『カム―シャ』の村のほとんど住民がまだ起きていない時間に食糧店のドアのベルカランコロンと鳴る。
「いらっしゃいませー!」
朝早くから店番をしていたイミナの所に一人のお客が入って来た。その客は長くて綺麗な金髪に蒼く透き通った瞳、メイドのようなドレスのような服にそれに似合う美しく整った顔をした少女であった。イミナはその少女を一目で見たら。
「(うわ~~~~綺麗な人……きっと外から来た人だ~~~)」
女性のイミナでも見惚れる容姿の少女は店内を少し見渡し、イミナの居るカウンターまで歩いてくる。
金髪の少女はカウンターにあるメニュー表を見て。
「これと……これ……あと………これもちょうだい」
少女はメニュー表にある食糧を指で指して、イミナに注文をする。
「あっ、はい! 少々お待ちください!」
ボ~~と見惚れていたイミナは少女の注文に我を取り戻し、少し慌てて少女の注文通りカウンターの後ろの棚から注文の品を取り出し、袋の中に包もうとした。そのイミナの後ろ姿を眺めていた少女は。
「ねぇ、あなた、『カム―シャ』から『レイチィム』に向かうにはどう行けば良いの?」
不意に少女はイミナに尋ねた。
「えっ? 『レイチィム』って軍用都市『レイチィム』事ですよね?」
少女の方に顔を向けながら作業を続けるイミナ、少女はその返答に頷く。
「今は無理だと思いますよ。一月前の大地震のせいで『レイチィム』に向かうための一本道の大橋が壊れてしまって、今は修理中ですから渡る事ができないんですよ」
「他に行く道は無いの?」
「他に………ですか? 『カム―シャ』を少し東に行った所に『水底の洞窟』が在って、そこ通り抜けてば『レイチィム』に着きますが……………」
「そう……、わかったわ、ありがとう」
少女の返答にギョっとするイミナ。
「お、お客さん! 言い遅れましたけど、あの洞窟は最近魔物が大量発生して、とても危険ですよ! やめておいた方いいと思います………それに洞窟の先に在る、大きな運河を渡ることはできませんよ」
「運河?」
「はい、この大陸特有のとても大きな川でその川を渡る為にさっき言った、大橋が作られたんですけど」
イミナの言った『レイチィム』の一本道の大橋を思い出した少女は理解したように頷き。
「そう……そうゆう事なら問題は無いわね………」
「えっ………?」
少女の言葉に耳疑うイミナ。そして丁度良くイミナは注文の品を袋に入れ終えて。
「もう、できた?」
「えっ? あっ………は、はい!」
少女の指摘にイミナは急いで注文の品が入った袋を少女に渡す。
「全部で、980トールになります!」
袋を受け取った少女に注文の品の値段を告げるイミナ、少女は手に持っていた1000トール札を差し出し、お釣りを貰わないまま出口に向かう。
「あっ! お客さんお釣り!」
お釣りを受け取っていないとイミナは呼び止めようとするが。
「急いでいるから、いらないわ」
カランコロンとドアのベルが鳴り、少女はその言葉を残して、そのままお店を出てしまい。イミナはそれ以上言葉が出ぬまま少女の背中を見詰めながら立ち尽くした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここまでがイミナの見た記憶であった。
「………という訳です」
イミナは朝の少女の出会いをそのままカレンに話した。
「その事を兄にも話したんですが………まさか私が話した事を悪用するなんて………」
「軍用都市『レイチィム』?」
溜息を吐くイミナ、少女の行き先をやっと掴めたカレンは、少女の行き先の場所を呟く。
「ところで……カレンさん、その人とお知り合いなんですか?」
素朴な疑問をイミナはカレンに尋ねる。
「えっ? あっ、いや~~、知り合いって訳じゃないけど、顔見知り程度くらいなのかなぁ~~~?」
「?」
答えに困るカレンに首を傾げるイミナ。
「と、とにかくその子に渡さなきゃいけない物があるんだ!」
「渡さなきゃいけない物?」
カレンの発言に相槌を打つように問うイミナ。
「渡さなきゃいけない物ってなんですか?」
「彼女の………大切なものさ………」
「大切なもの………………?」
「うん! だから、一刻も早く彼女に会わなくちゃいけないんだ!」
力強く自分の目的を話すカレン。その言葉に妙に納得したイミナは。
「………うん、そうですか………事情はよくわかりませんが、頑張ってください!」
カレンを応援するように励ましの言葉を贈るイミナ。
「ところで……彼の事は良いの?」
黒焦げたロロを指で指してカレンは気にならないのかとイミナに尋ねる。
「ああ、大丈夫ですよ、あれくらい! 頑丈ですから家の兄は!」
と言いつつイミナは未だに倒れている黒焦げた兄もといロロの首根っこを掴む。
「それじゃあ、私は帰って兄の看病をするので、カレンさん本当に兄がご迷惑を掛けました! 機会が有れば、また会いましょうね!」
ペコリッと頭を下げて別れの言葉を告げ、兄のロロをズルズルと引きずりながら自分らの家に帰っていくイミナの背中を心配そうに見詰めるカレン。
「だいじょうかな………彼?」
ロロの身を案じながら地面に放置したままの魔装器を拾って、カレンはそのまま宿屋に戻った。