磁力石
『爆弾石』の爆発の影響で天上の壁ごと白い霧が無くなって、巨大な穴へと変わった天上から太陽の光が差し込んで空間内が明るくなって、かれこれ数十分。
壁の無い天上の上に元々は在った白い霧が少しずつ戻って来て、その霧によって太陽の光が差し込み難くなり、空間内が少しずつ暗くなっていく中、アイシャの必死の催促に由り、『古代獣』の正面に居る宙に浮かぶ岩のトンネルの後ろに逃げ込もうとしたカレン・ロロ・アイシャ・ミツルギの四人だったが。
四人が行動に移る前に『古代獣』は口の中で溜めていた光線のエネルギーを溜め終え、そのエネルギーを眼の前に居る岩のトンネルの中へ吹き通すように『ステンジウム光線』を撃ちこんだ。
「「「「!!!!」」」」
次の瞬間、眼の前で起こった光景に四人は背中の辺りに悪寒が走った。
『ステンジウム光線』が岩のトンネルの中に入ると、ビームも怪獣の光線も屈折させる岩に因って、光線はトンネル内で何万回の屈折を起こし、次第に極太だった光線は数千個の光線へと分散し、そのままトンネルの出口を飛び出した。
岩のトンネルの中を通過した事で所謂『拡散ステンジウム光線』へと変貌した『古代獣』の光線は四人が居る空間内の半分をほぼ埋めつくす程の無数の光線の雨が四人を飲み込むように襲い掛かった。
「(に、逃げ切れねェ!!)」
「(というより、逃げれる場所が無い!!)」
隠れる場所も無いこの広い空間の半分を埋め尽くす程の広い攻撃範囲にロロとアイシャは避け切れないと一瞬で悟り、そしてそれを悟った事で二人の心境は絶望が芽生え、迫り来る光線の雨に己の死を予感した。
「「!」」
だがそんな二人のそれぞれの前に一つ人影が現れた。
その人影達の正体はカレンとミツルギであり、全員が光線の雨に飲み込まれる前に咄嗟にカレンはアイシャの前に立ち、大剣の側面を前に出して翳し、続いて強く念じた。
片やミツルギも瞬時にロロの前に立ち、待ち構えるように剣を構えた。
「ENERGY・FIELD!!」
掛け声に応じるように大剣の形をしたカレンの魔装器から山吹色の光が漏れ出し、その光は球状の壁を作り出して、二人を包み込み。
カレンは球状の光を使って、光線の雨を弾き返して自分とアイシャの身を防いだ。
「やらせんよ!!」
一方、ミツルギの方は無数に飛んで来る光線の雨から自分達に当たるものだけを片っ端から叩き落とすように一つずつ或いはまとめて光線を剣で全て弾き返し、後ろに居るロロを含めて光線から身を防いだ。
やがて光線の雨は次第に収まっていき、そしてそう経たない内に『拡散ステンジウム光線』は止み、今回もなんとか凌ぎ切った四人は安堵のため息を漏らす。
攻撃は止んだ事を確認するとカレンは『ENERGY・FIELD』を一旦解き、光の球状の壁が消えると振り向いてアイシャの身の安否を確かめる。
「アイシャ、何処か怪我は無い?」
「…ありがとう。なんともないよ、カレンのお陰で」
「役に立って良かったよ」
己の死を予感したアイシャだったが、絶体絶命のピンチを救ってくれたカレンに対して、アイシャは感謝の言葉と共に感謝を籠めて小さな笑顔を浮かべ、カレンもその笑顔に自身も笑顔で応えた。
片やミツルギの方も振り向きはしなかったが、前を向いたままロロの身の安否を尋ねた。
「生きているか、ロロ?」
「……へ、ヘッチャラだぜこんなの! で、でも、サンキューなミツルギ……」
「ああ」
言葉の割には声が震え、背中越しに聞こえるロロの身体が震えている音にミツルギはロロのバレバレの心情を悟り、密かに苦笑いを浮かべる。
そしてまたもや自身の攻撃を防がれた『古代獣』は苛立ちの雄叫びを上げ、眼の前に在る四個の岩で形作っている岩のトンネルを操って退かした。
苛立っているようだが、さすがに『古代獣』の方も四人の防ぎ方を見て、二回連続で同じ攻撃をしても無駄だと察したのか、自分を守る為に自分の周りを囲ませている岩達の列の中にとりあえずその四個の岩を戻した。
見た目の割には脅威だった岩のトンネルが無くなり、もう一度『拡散ステンジウム光線』は来ないと四人は確認すると相手が攻撃を仕掛けない内に作戦会議を決行する。
「このままでは消耗戦になるな。あの厄介な岩をなんとかしなければ、いずれ俺達は死角を突かれて全滅するぞ」
「あんな攻撃の仕方も出来るぐらいだからね」
「バリエーション豊富で便利だよな、全く!」
「せめて、あの『古代獣』が操っている岩の力が何なのか、それだけでも分かれば良いんだけど……」
「そうえいばアイシャ、今さっきの『古代獣』の攻撃の時、岩のトンネルの意味を察したような口ぶりだったが……もしや、あの岩について何か分かったのか?」
「うん。大体だけど、あの岩の正体を掴めてきたんだ」
「マジかアイシャ! 一体何なんだよ、あの岩は!?」
「少し待って、大体は分かったって言ったけど……」
急かすように答えを求めるロロを宥めるとアイシャは手に持っていた1mぐらいの『ショットガン』を懐の中へスッポリと収める。
そして『ショットガン』の代わりと言ったみたいに懐から自身の等身大ぐらいの引き金が付いた金属製の長い筒のような物を出した。
「「「!?」」」
「……最後に確認したい事がある!」
そう言って男子三人の驚く顔など全く気にせず、アイシャはそれを片方の肩で背負いように構え、迷う事無く『古代獣』に向けて引き金を引くと、筒の円状の口から火が吹くと共に口から火の噴射で宙を超高速で飛ぶ、先端が鋭く尖った拳ぐらいの大きさの金属製の弾丸が飛び出した。
「ROCKET・LAUNCHER!」
一目でアイシャが取り出した謎の武器の名をミツルギが一発で言い当てた。
ケツの辺りから噴射されている火の力によって、宙を高速で飛んでいる『ロケット・ランチャー』と判明された弾丸は火の噴射から生み出されている白い煙で一本の線を描きながら、『古代獣』の顔面目掛けて突き進んで行ったが。
案の定、『ロケット・ランチャー』はカレンのビームの二の舞を踏むような形で、『古代獣』を囲むように守っている岩達の眼に見えない波の波に因って軌道を180度変えられ、弾丸はUターンして四人の所へ戻っていった。
「おののののののののっ?!!」
軌道を変えられた弾丸はロロの顔面目掛けて飛び戻って来て、『何故、俺!?』と思いつつロロは奇妙な悲鳴を発しながらも素早くしゃがみ込んで回避した。
『ロケット・ランチャー』が発射されてからロロの頭上を通り過ぎて行き止まりの壁に衝突するところまでをしっかりと捉えていたミツルギとカレンは冷静なコメントを呟く。
「光線やビームだけでは無く、金属類も曲げられるのか」
「ますます厄介だね、あの岩」
「そんな分析より、人のことを心配しろよお前ら!!」
仮にも人が死に掛けたというのにそっちの方は気にせず、『古代獣』』の岩が金属類の攻撃も曲げさせた事に興味がいっている同性の二人にロロは怒りをぶつけるようにツッコミ。
そしてすかさずアイシャを睨みつけ。
「あとアイシャ! 何でわざわざあんな物騒な物をぶっ放すんだよ!? 危うく俺、死ぬところだったぞ!!」
「……間違いない」
「無視かよ!?」
今さっきの攻撃についてロロは文句を言ったが華麗にスルーされ、今さっきの自身の攻撃でアイシャは宙に浮かぶ岩の正体を完全に確信し、その正体を明かす。
「あれは『磁力石』だ!」
「「!」」
「?」
岩の正体を知らされたロロとミツルギの顔に衝撃が走る。
しかし、予想通りカレンは何の事か分からず、いつものように首を傾げる。
「成る程、通りで」
「俺達の攻撃が曲がるのはそういう訳か!」
冷静に納得するミツルギとさっきまでの怒りの感情が何処かへ行ってしまう程、納得するロロにカレンはいつものように説明を求める。
「ねぇ『磁力石』ってなに?」
「出たよ! お決まりのパターンが!」
「……『磁力石』というのは名前通り、磁力を発する石つまり磁石なんだ」
「だが普通の磁石では無いんだ。『磁力石』もまたバムボア大陸でしか取れない原産品の『奇石類』で、しかも滅多に取れない珍しい石でもあるんだ」
「そして何より発する磁力が普通の磁石よりも強力なんだよ。小石程度の大きさでも並みの銃弾を曲げさせる程の磁力を持っているんだよ、あれは」
「で、あいつは恐らく『磁力石』の磁力に因る反発を使って、アイシャの『ロケット・ランチャー』の弾丸の軌道を強引に曲げさせたってことなんだろうな」
「ああ、成る程!」
「………ん?」
分かり易い様にロロはカレンに『磁力石』の強力な磁力によってアイシャの攻撃が曲げられたことを教えた途端、あることに気付き、それを確かめるように呟く。
「ちょっと待てよ。あいつが宙に浮かばせて、操っているのが『磁力石』ってことは、つまり、あれ全部……」
「………『磁力石』ってこと?」
「そういうことになるね」
「つまりあの『古代獣』は岩を操る『古代獣』では無く、『磁力石』を操る『古代獣』という事だな!」
「っておいおい! それってありかよ!? あの岩全部『磁力石』ってことは、あいつがあれに守られている限り、俺達の金属類やビーム類の攻撃は全部、『磁力石』の磁力で曲げられちまうぞ!!」
『古代獣』が操っている岩全てが『磁力石』だと判明するとロロは絶望感溢れるような声で、自分達の攻撃から二種類の性質攻撃が曲げられると解説するように述べる。
と、そこでカレンはある疑問が思い浮かび、その疑問を投げ掛ける。
「あれ? 確か磁力って金属類にしか干渉できないんだよね? じゃあ何であの『磁力石』はビームとか光線まで曲げられるの?」
「……それが、『磁力石』が『奇石類』に分類される最大の要因なんだ」
「? どういう意味?」
『磁力石』が『奇石類』に分類されるのは理由が有るらしく、アイシャ達がその最大の要因を説明する。
「強い磁力を持つ磁石なら、現代の技術でも作れるんだけど………『磁力石』の磁力は現代の技術を持ってしても再現できない特別製なの」
「特別製?」
「そう、特別製なんだ。各国々でも未だに解明されない程のな」
「原理は分からねぇが……とにかく『磁力石』の特別な磁力が干渉できるのは金属類だけじゃなく、熱量を持った物質にも干渉できるんだよ。つまり『磁力石』を操っているあいつの前ではビーム類や電気類さえもあいつの思いのままってことだ」
「思いのままか……」
『磁力石』の磁力の力を大体理解したカレンは、『古代獣』の周りを囲んでいるように浮ぶ、『磁力石』の姿を改めて見直した。
力の内容だけを聞いていれば『磁力石』の磁力はかなり便利そうな力だが、それは自分達が使えたらの話で、実際にその力を今使っているのは『古代獣』の方で。
つまり四人は現在、金属類の攻撃と熱量を持った物質の攻撃が迂闊に攻撃できない状況に立たされているということになる。
その事に関してどのように対処しようかと、頭の中で考えようとカレンにアイシャが『磁力石』について補足説明を加え出す。
「まだまだ謎は多い磁力だけれど、世界中の科学者の間では『磁力石』の特別な磁力を『SA磁力』って呼んでいるんだ」
「S・A?」
「Soft・Armorの略さ」
「ごめん……それも分からない」
『Soft・Armor』の意味も分からないカレンにロロは溜息を吐きながらも、ちゃんと『Soft・Armor』を人語に訳して教える。
「……〝柔軟な装甲〟って意味なんだよ」
「『磁力石』の磁力はあの『古代獣』の戦い方を見ているから分かると思うけど、攻撃にも防御にも展開でき、もっと工夫して使えば幅広い応用力を発揮し、その柔軟性が高さから『SA磁力』という名が付けられたといった訳なの」
「柔軟性が高いということは、奴にはまだ『磁力石』の力を使った攻撃パターンをまだ残している可能性が高い! カレン気を付けて掛れ!」
「うん、気をつけ………ッ!?」
カレンが返事を返そうとした瞬間、不意にカレンの身体が足を使って歩いてもいないのに『古代獣』の方へ、ひとりでに向かって行くのだ。
同時にその不可解な現象は他の三人にも降り掛り、まるで見えない何かに引っ張られているかのように四人の身体は自分の意思とは正反対に『古代獣』の方へジリジリと近付いて行った。