古代獣の実力
今度は『古代獣』という魔物の上位に当たる存在と戦う羽目になったカレン・ロロ・アイシャ・ミツルギの四人は自分達の身長を合わせても遥かに大きい、直径30m以上は誇る相手にどう仕掛けようか考えていた。
そして、悩んでも仕方ないと結論付けたロロが一番手に動いた。
「先手必勝だ!」
他の三人よりも一歩手前に出たロロは弓に矢を一本セットして、すかさず矢に『力のマナ』を流し込むと矢の刃の部分が赤いオーラを纏い、ロロは弓矢の標準を『古代獣』の顔面に定め、矢を放したと同時に〝魔術〟名も言い放った。
「『彗星』!!」
放たれた赤い矢は通常の3倍の速度で『古代獣』の顔面に向かい、四人と怪獣との距離はザッと見積もって約80m、その距離の間を空中で赤い線を描きながらあっという間に古代獣の顔面直前に迫った矢だったが。
途中、何かに当たったのか矢は怪獣の顔面の手前で爆発した。
「!?」
ロロは眼を疑った。迫り来る爆弾の矢を防ぐ素振りもなければ、避ける様子もなかった『古代獣』がどうやって爆弾の矢を防いだのかを。
そして爆発の影響で巻き上がっていた粉塵が引くと、『古代獣』の顔面の前にある一つの物体が在った。
「岩?」
そこに在ったのは『古代獣』が全身に身に纏っている岩の鎧と同じ色をした宙に浮かぶ巨大な岩だった。
爆発を喰らったのにヒビ一つも負っていない宙に浮かぶ岩はユラリとそこから離れ、『古代獣』の顔の横辺りに止まり、まるで主人を守る様にすぐにまた顔面を守れるような配置に着いた。
すると今度は『古代獣』の身体全体から爆弾の矢を防いだ宙に浮かぶ巨大な岩と同じ岩が続々と怪獣の身体全体から剥がれて宙に浮かび、新たに出現した宙に浮く合計23個の岩達は『古代獣』を囲むように並んだ。
どうやらあの岩達は『古代獣』に因って操られているようであり、さっきのロロの攻撃を妨害した宙に浮かぶ岩は『古代獣』が自身の身体にくっ付いた岩の一つのようで、ロロの矢が顔面に届く前に岩を剥がして操り、岩を盾に使い、爆弾の矢を防いだらしい。
「あの岩達を従えているのか?」
「成る程、岩を操る『古代獣』か」
「ロロのあの攻撃を防いだのに岩の方は無傷だということは、あの岩は普通の岩よりも遥かに硬いみたいだね」
『古代獣』は自身の身体にくっ付いている巨大な岩を操る事ができ、しかもその岩は普通の岩よりも何倍も頑丈だということを確認した四人はさすがに一筋縄ではいかないと悟った。
しかし、ここでカレンが素朴な疑問を投げ掛ける。
「でも、どうやったらあんな風に岩を操れるんだろうね?」
「………そういえば、不思議だよな?」
「うむ、さすが我が友カレンだ。的確な所を突いて来る」
「……仕掛けは分からないけど、あれが相手の能力だということは確かだよ」
『古代獣』がどうやって岩を操っているのか、それを真剣に考え込もうとする男子三人に今、考えるべきところはそこじゃないと言いたげにアイシャは三人が考え込む前に話を締め括った。
「ゴギギィ!!」
『俺を無視するんじゃねぇ!!』と言いたげに吼えた『古代獣』は自分を囲むように浮かせて配置させていた23個の巨大な岩達から4個だけ引き抜き、呑気に話している四人の元にその4個の岩を砲弾のように一斉に放った。
しかし、降り注いで来た岩の砲弾たちを素早く反応した四人はバラバラに展開して、岩の下敷きから回避した。
岩の砲弾は当たらず、攻撃は失敗したが『古代獣』は四人の方へ飛ばした4個の岩達をもう一度操り、その干渉を受けた岩達は再び四人を踏み潰せるチャンスを窺うように四人の頭上へ舞い上がった。
「この距離からでも操れるのか!」
「おい、どうすんだ!? 数を増やされたら、逃げ込める場所が少なくなるぞ!」
「慌てないで! 敵は多分、自分自身の身を守れるためにあれ以上岩の数を減らすとは思えない。ここは距離と取って相手の動きを良く見ながら、こっちも遠距離攻撃でダメージを与えないと!」
「いや、ちょっと待てよ! 俺の『彗星』じゃ、あの岩に傷一つ付かなかったんだぞ! 矢で攻撃したって、ましてやお前の銃でも………」
「銃と矢が駄目ならビームだ! カレン!」
「うん!」
合図を送る様にミツルギが呼び掛けると最初から打ち合わせしたかのようにその呼び掛けの意図を読み取ったカレンは大剣の刃先を『古代獣』に向け、狙いを合わせると取っ手部分に在る凸型のトリガーを五回程押した。
「BEAM・CANNON!!」
声と共に大剣の刃の部分の中央が左右に別れ、その刃と刃の隙間からライトピンク色の光の矢が五本飛び出し、怪獣の方へ飛んで行った。
最初の爆弾の矢とは何倍も速度が違う光の矢に『古代獣』は何の表情も表わさず、黙って自身を囲っている岩達を操って、また岩を盾にしようと岩達を己の前へバラバラに展開してビームから身を防ごうとした。
だが実際、そうでは無かった。
光の矢が岩に接触する直前に『古代獣』を守ろうと身を乗り出した岩達から眼に見えない透明な波の波が漏れ出すと、真っ直ぐに飛んでいた光の矢は岩を避けるように屈折した。
そして光の矢は岩から岩を軸にして次々と屈折していき、その結果、五本の光の矢全ては180度Uターンし、主人の所へ戻る犬のように四人の方へ戻って行った。
「ッ!」
「おわったたたっ!!?」
「なんとっ!?」
「ぐっ!!」
思いもしない展開に四人は驚愕しながらもそれぞれの方法でビームを防いだ。
まずアイシャは胴体の辺りに来たビームを身体の軸をズラして避け、次にロロは上空から頭の辺りに降って来たビームを地面に伏せてタイミングギリギリに避け、更に続いてミツルギは足元ら辺に来たビームを飛び跳ねて避け、最後にカレンは胸の辺りに来たビーム、しかも二本を大剣の側面を盾にして防いだ。
ビームを回避し終えると未だに地面に伏せているロロを除いて、カレン達は『古代獣』の方に居るビームを屈折させた岩達を見詰め直した。
「び、ビームがっ……」
「曲がる!?」
「あの岩にはそんな機能も?」
『古代獣』に操られている事以外は頑丈な岩だとばかり思っていたが、まさかビームを屈折させる力を持っていたとはと、三人は予想外の脅威に眼を見開いて驚きを露わにした。
そんな三人を余所にロロは身体を勢いよく起き上がらせ、何やら怒った表情でカレンの事をキッと睨んで叫んだ。
「おい、カレン!! 俺達を殺す気か!?」
「い、いや、今のは僕がやった訳じゃ………」
確かにビームを放ったのはカレンだが、ビームを曲げさせてこちらへ戻させたのは『古代獣』が操っている岩であって、その事をどう説明したら良いのやらカレンはロロの勘違いの言い掛かりに困惑する。
「ゴギャアァァァァァァァァァァァァ!!!」
カレンが何とか誤解を解く前に話している余裕など与えぬように『古代獣』は再び殺意溢れる雄叫びと共に大きな口から破壊力満点の『ステンジウム光線』を放った。
しかし、怪獣自身の雄叫びのお陰で四人は怪獣の口から『ステンジウム光線』が来ると予測出来た為、咄嗟にその場から離れた四人に『ステンジウム光線』は虚しくも四人の横を通り過ぎた。
が、物事はそれほどうまくいかなかった。
「なっ……!」
「にぃ……!?」
ある変化にカレンとミツルギは眼を疑った。
四人の横を通り過ぎた『ステンジウム光線』はそのまま、行き止まりの壁に激突すると思いきや、四人の頭上に浮んでいた『古代獣』の岩の一つがいつの間にか光線の着弾地点に先回りしていた。
デジャブを感じる光景だった、『古代獣』自身が放った破壊力抜群の光線も岩に因って屈折させられ、斜め上に方向転換し、更に他の三つの岩にも着弾地点を次々と先回りされており、光線はカレンが放ったビームと同様、岩を軸にして屈折し続けた結果、『ステンジウム光線』は四人の頭上から襲い掛かる形となった。
「「「「!!!!」」」」
まるで複数の鏡を利用して光を反射させ、真っ直ぐ伸びる光では届かない目標地点を鏡で光を屈折させて届かせるような攻撃に四人は地面に転がり込み、頭上から滝のように降り注いだ光線を紙一重で避け、なんとか寿命を先延ばす事が出来た。
そして『ステンジウム光線』はまた四人の横を通り過ぎるも、地面に突き刺さったまま地面の中を削りながら垂直に走り続け、とてつもない大きな剣が地面を切り裂いたような爪痕を残した。
『古代獣』の光線の照射が一旦終わり、攻撃が止むと四人はすぐさま立ち上がり、お互いに状況確認を行う。
「みんな、無事!?」
「あ……ああ、大丈夫だ……」
「ん、問題無い」
「こっちも大丈夫だよ」
カレンが呼び掛けると引き攣った表情と身体も声も震えた状態で返事を返すロロ。
手首を一つずつ上下に動かしてコキコキと音を鳴らして身体の調子を確かめながら返事を返すミツルギ。
そして特に顔色を変えず、いつも通り冷静な態度で返事を返すアイシャ。
三人の五体満足の姿にカレンは安堵のため息を零す。
「良かった……誰も喰らっていなかったみたいで、僕はあと一歩逃げるのが遅かったら片足一本持って行かれるところだったよ」
「うむ、俺もあと一歩遅かったら、このお気に入りの靴が消し炭なるところだった」
「馬鹿言え、俺なんて危うく身体全部が消し炭になるとこだったんだぞ!」
「それはそうとして……」
緊張感の無い話が始まって、緊張が無くなる前にアイシャは話題を変えるように『ステンジウム光線』が地面を削って作った爪痕に視線を移すと男子三人も釣られて視線が爪痕に向く。
屈折に因って不規則な軌道が変わった光線は線を描くように地面を抉り、上空から垂直に地面を走る様に四人の側面から襲い掛かった『ステンジウム光線』の姿は地面の上を走る巨大な柱のようだった。
「……よもや、自分の光線も曲げられるなんてね」
「ビームだけじゃなかったってことか」
「すてんなんとか光線も厄介なのに、あの岩はもっと厄介だよ」
「うむ、これが『古代獣』の力か……噂以上だな」
「いや、あれだけで『古代獣』の力を見定めない方が良いよミツルギ………『古代獣』の力はまだまだこんなものじゃない」
まるで『古代獣』の真の実力を見透かしているような発言に男子三人の視線はアイシャの方へ変わり、その三人の中でロロは他の二人よりも早く、初陣を切る様に冗談交じりで尋ねてみた。
「何だよ、随分知った様な口を利くな? まさかあの『古代獣』と戦ったのは、これが一度目じゃなかったりしてか?」
「……実はその通りなんだ」
「「「!」」」
まさかロロの冗談交じりの発言が核心を突いていたようで、隠すことなく打ち明けたアイシャに男子三人は眼を丸くする。
「アイシャ、それ本当?」
「何時の話だ?」
「つい最近だよ。もっとも戦ったのはあれとは全く異なるタイプだったけど………その時のそいつの〝力〟は軍の一個師団体以上の〝力〟だったよ」
今、眼の前に居る『古代獣』とは違うタイプだったらしいが、アイシャはつい最近他の『古代獣』と一度だけ一戦交えた事がある様で、その時の経験から『古代獣』の力は一体で軍隊と渡り合える程の力だと知ったようだ。
力のスケールの大きさにミツルギは感心そうな表情で了承し、ロロはあまりのスケールの大きさに顔が青ざめた。
そして常識知らずのカレンはそもそも軍の一個師団体の力というのがどれ程物か分からないで、良く分からないという表情で首を傾げた。
すると四人の頭上に在った宙に浮かぶ4個の岩達が『古代獣』の所へ戻り、主人の顔の正面まである程度近付くと、そこで自分達の身体を重ね合わせ、宙に浮かぶ四角形のトンネルのような物を作り上げた。
四つの岩で作ったトンネルに四人は怪訝そうな表情で『なんだあれは?』と思っていると『古代獣』は再び『ステンジウム光線』を撃つ気のようで、口を大きく開けながら口の中で光線のエネルギーを蓄えていた。
何故、『古代獣』はあのような物を作ったのか、その意味を直感的に察したアイシャはハッと眼を見開いた。
「みんな! あの岩のトンネルの後ろへ急いで逃げて!!」
「えっ? 一体どうして?」
「じょ、冗談言うなよ! 何でわざわざあいつの近くに行かなきゃならないんだよ!?」
「……もしや、あれの意味が分かったのか?」
「説明する時間が無いんだ! 良いから早く!!」
訳を話す余裕なんて無いとアイシャは早急に行動を起こすよう、珍しく必死に言い伝える。
どうして全員にそんな事を催促するのか、それはアイシャが岩のトンネルの意味を理解したと同時に『古代獣』が操る宙に浮かぶ岩の正体を見破ったからだった。