一日の終わり
そして、三人がその二つ玉を目撃した瞬間、今度は玉の下から鋭い何かが現れ、背後から襲い掛る様にロロの後頭部に近付いた。
「! ロロ伏せて!!」
「はっ!?」
直感的に危険だと悟ったカレンはロロに避けるように叫ぶが、当人のロロは自身に振り掛ろうとしている事態に全く気付いておらず、すぐに身体を動かせないまま、鋭い何かは無防備なロロの後頭部に接触しようとしていた。
「!!!」
「「!」」
鋭い何かがロロに差し掛かかった時、刃物が突き刺さった音と一発の銃声が鳴り響いた。
「間一髪だったな、ロロ!」
「怪我はない?」
一瞬の出来事にカレンとロロは眼を見開き、そしてすぐに銃声が鳴った方向に視線を移すと、そこにはにこやかな表情で剣の刀身を伸ばして、ロロに声を掛けるミツルギの姿と腰のホルダーに締まっていた銃を取り出して、身体の安否を尋ねるアイシャの姿だった。
「ミツルギ! アイシャ!」
いつの間にかロロの頭上にはミツルギの剣の刀身が通り過ぎており、そして先程の銃声は無論アイシャの銃に因るもので、その証拠に銃口から一筋の煙が昇っていた。
「な、なにすんだ! いきなり!!」
突然の自分目掛けて剣の刀身を放たれたり、発砲されたりと、未だに状況を理解していないロロは当然の如く非難の声を上げた。
「ロロ、後ろだよ」
「あぁん? 後ろがどうしたって……っ!?」
「………」
後ろを振り向いてみるとそこには喉に剣の刀身が突き刺さり、額に鉛弾を撃ち込まれて絶命している『ガーゴイル』が立って居た。
「ひひっ! こ、こいつは確か……」
「『ガーゴイル』だよね? 山道で襲って来た」
「身体を岩の色に変色させて、壁に偽装していたのか!?」
振り向いたらそこに『ガーゴイル』のゴツイ顔が在ったので、大いに驚いたロロは後ろに大きく飛び跳ねて距離を取り、『ガーゴイル』の存在と能力を再度認識した。
「待てよ……まさか俺って、また喰われそうなったのか?」
「うん」
「これで二回だね」
「……何で俺ばっかり……」
「不運だな」
前に襲って来たのとは別の『ガーゴイル』が岩に偽装して、自分を喰おうとしていた事をようやく気付いたロロは顔を抱えて、自身の不運さに救い難い悲しみを覚えた。
「しかし……見事な早撃ちだったなアイシャ。さすが『フレイク傭兵団』に勤めているだけのことはある!」
「ミツルギこそ、私が撃つ前にもう『ガーゴイル』を刺し終えていたから、驚いたよ。ミツルギの剣の抜く速さは私以上だね」
「なぁに、僅かな差さ」
「それでも戦場ではその僅かな差が勝敗を決める……剣なのに銃よりも早いなんて、凄過ぎるよ。ミツルギの早業は」
「俺だけの力ではない。コイツの力のお陰さ」
二人はお互いの早業を褒め合う中、攻撃の速さは銃よりも剣の方が僅かに早いミツルギの早業にアイシャは『凄過ぎる』と評価するが、対してミツルギは『ガーゴイル』から刀身を引っこ抜き、元通りの長さに戻して自身の魔装器を翳しながら『自分だけの力ではない』と謙遜っぽく返した。
そして眉間に銃弾を撃ち込まれ、即死した『ガーゴイル』はやっと喉から刀身を抜かれて、支え柱が無くなった模型のようにドサッとうつ伏せに倒れた。
「何で俺はコイツ等に二度も狙われなきゃいけないんだよ…」
「う~~ん……ロロがおいしそうに見えたから?」
「そうゆう問題かよ! ったく……油断も隙も無ぇなコイツ等はホント!」
今日一日、こう何度も狙われ続ければさすがのロロも『ガーゴイル』に対しての警戒度を高めずにいられなかった。
「心配するな、どの生物も何か行動を起こす時、必ず気配を表に出す。気配を読み取る事が出来る俺の近くに居れば、一先ず安全だ」
「気配ぃ? 〝気配〟ってそんな物が分かるのかよ、お前?」
「もちろんだ。俺は〝気〟属性の〝極意〟を極めた者だからな」
「〝気〟属性の〝極意〟ぃ?」
「〝気〟属性の〝極意〟…?」
何の前触れも無く出て来た言葉にロロは眉間にシワを寄せながら首を傾げて、分かり易く知らないという反応を見せ、反対にアイシャは虚空を見詰めるような表情に変わり、何かを知っているような反応を見せる。
「(ん? 待てよ……昔、何処かで聞いた事があるような……?)」
「〝気〟属性の〝極意〟って、〝気〟属性の〝心体術〟の事?」
「知っているのか、アイシャ?」
「(駄目だ……思い出せねぇ)」
「お父さんから少し聞いただけだけどね」
急に思い出したのかロロの方も聞き覚えがある様だったが、遠い過去の事なのかイマイチ思い出せず。一方アイシャは自身の父親から聞いた事とあると語る。
「昔、お父さんは戦場で〝気〟属性の〝極意〟に精通している人と一緒に戦った事があるって言っていたんだ。何でもその人は遠く離れた敵兵士の居場所や人数を的確に把握するだけじゃなく、戦闘においてもとても頼りになる味方だってお父さんは言ってた」
「おお、その話が本当ならその者はまさしく〝気〟属性の〝極意〟を極めた者に違いない! 一度会ってみたいものだ」
自分以外にも〝気〟属性の〝極意〟を極めた者が居た事にミツルギは感激と共に親近感が湧き、その人と一度だけでも会いたいと願う。
「僕も使えるかな? 〝気〟属性の〝極意〟」
「それは正式な訓練をしてみなければ、分からない。〝気〟属性の〝極意〟を極められる者はハッキリ言って才能がなければ、得られない代物なんだ」
「才能か……僕にも在るかな?」
カレンも〝気〟属性の〝極意〟を極めたくなったようで、ミツルギの話に因れば才能が無ければ無理だと忠告され。
自分にはその才能が在るか無いか、カレンは確かめるように自身の胸に手を当てた。
「その〝気〟属性の〝極意〟とやらは置いといて、とにかくお前の傍に居れさえすれば、安全圏って事で良いんだよな?」
「もちろんだ…と言いたいが、魔物の中には気配を隠して獲物を待ち構えている魔物も居るから、例え俺でも、ある程度その魔物に近付かなければ、気配を感じ取る事が出来ない」
「じゃあ、さっき足を止めたのは『ガーゴイル』の気配を感じたから?」
話の方向を変えたロロはとりあえず、ミツルギの近くは安全なのかと確認を取ると気配の隠す魔物については近付かないと分からないらしい。
岩の壁に偽装した『ガーゴイル』に遭遇する前にミツルギが足を止めたのは、ミツルギが『ガーゴイル』の気配を感じ取ったからだとカレンは推測した。
「その通りだ。『ガーゴイル』は他の魔物と違って特に気配を隠すのが上手いからな。もしそいつが行動を起こす時に気配を大きく表に出してくれなかったら……」
「ロロの頭半分は……今頃胃袋の中だね。きっと」
「そこ! 真顔で恐ろしいこと言うなっ!!」
あのまま助けが間に合わなかったら今頃ロロの頭は無くなっていたとアイシャはさらっと恐ろしい発言を呟き、しかも相変わらずの無表情が余計に不吉さを増した。
そんな自分を想像してしまい、急激に顔が青ざめたロロは不吉な発言を言ったアイシャに向かって人差し指を突き立てて、怒鳴る様に突っ込んだ。
「!」
するとカレンは『ガーゴイル』が立って居た所にあるものを見つける。
「皆、ちょっとあれ!」
「「「?」」」
見つけた物を他の三人も見てもらおうと呼び掛け、カレンはそのあるものに人指し指で指して、存在を示した。
「! 穴の先に空洞が……」
人差し指で示された場所には刀で刺したような小さい穴とその穴の先に空洞に近い空間が存在していた。
「あの穴ってまさか……ミツルギが『ガーゴイル』を刺した時に出来た物か?」
「…のようだな」
その小さい穴はミツルギが『ガーゴイル』からロロを助ける為に剣を『ガーゴイル』の喉に刺した時に出来た物らしく、刃先が喉を貫通して、そのまま後ろの壁にも突き刺さって空けてしまった穴らしい。
「! お、おい見ろよ、マッチが!」
今度はマッチの火に何か変化が起こった様で、ロロはそれを皆に知らせ、ロロを含めて四人がマッチに視線を移すと。
「「「っ!」」」
ロロの以外の三人が太陽を直視したかのように慌ただしく深く目蓋を閉じた。
「あっ……うっかり忘れてた。今のお前らにはマッチの火の光は眩しいんだったよな? 大丈夫か?」
「大丈夫。気にしなくて良いよ、僕も忘れていたから」
「うむ、俺もだ」
「……それでロロ、マッチの火がどうかしたの?」
光の無い暗黒の世界の洞窟内を見通す為、『暗通薬』を服用しているカレン・ミツルギ・アイシャの今の状態は少しの光でも過敏眩しく見えてしまう状態だという事を思い出したロロはうっかり忘れていたと苦笑いを浮かべる。
逆に三人の内二人もその事は忘れていたようで、残り一人はどうだったかは答えようとはしなかったが、代わりに本題のマッチの方に話を戻した。
「お、おう、マッチの火がさっきよりも急に大きく傾きだしたんだよ!」
「火が急に? どうして?」
「分からん。突然変わり出したから俺にもさっぱり……」
マッチの変化というのは前触れも無く、マッチの火が急に大きく傾きだした事だとロロは簡潔的に説明した。
「……ロロ、マッチを今さっきカレンが見つけた小さな穴に近付けてみて」
「え? あ、ああ」
原因が分かったのか、アイシャの言われた通りにロロは空洞の中が見え隠れしている小さな穴の前にマッチを翳した。
「!」
「どう、ロロ?」
「アイシャ……マッチの火が急に大きく傾きだした理由が今、分かったぜ!」
マッチを言われた通りに小さな穴に近付けたら、何故火が突然大きく傾いたのか、その原因をロロは解明したようだ。
「この穴の先からも風が吹いている! しかも火が大きく傾いた原因はこの穴から吹いている風の所為だったんだ!」
「やっぱり」
「それって、つまり……えっと…」
「つまり、そこから吹いている風は今の道の風よりも強い風ということだな?」
「正解! ……ということはどうゆう事だ、カレン?」
小さい穴からも風が吹いているらしく、更にその風は今まで四人が歩いて来た道から吹いている風よりも強い物のようで、つまりそれは具体的に何を指しているのか、ロロはその答えをカレンに振り直す。
「えっと…今の道の風よりも強い風ということは……その穴の奥の方が出口に近い可能性が高いってこと?」
「大正解!」
「ロロ、クイズ大会じゃないんだから」
簡潔的に言うと強い風が吹いている小さな穴の方が外へ続いている出口に近い可能性があるとカレンは頭の中を振り絞って答えたら、考えた末に導き出した結論はどうやら当たっていたようで、ロロから大の正解を貰う。
そして、クイズ感覚で正解と唱えているロロに珍しくもアイシャが突っ込みを入れる。
「ノリだよ、ノリ! まぁそんな事よりもこの穴の先が今の道よりも外に近いかもしれないから、確認の為にこの壁を壊せねぇといけないな」
「カレン、お願い出来るかな?」
「うん、分かった」
風が吹いている穴の奥を確認する為、壁の壊し役をアイシャから頼まれたカレンはミツルギも居るのに何故自分がという疑問を思い浮かべる事なく、早速壁を壊そうと背中に背負っていた大剣を抜き、小さな穴が空いている壁の前に立って、大剣を槍のように自身の背中の方に引き寄せた。
「せいっ!」
そして、大剣を槍のように突き上げて壁を突き刺し、その一刺しに壁は脆くも打ち砕かれ、小さい穴から見えた空洞の中へ渡れる大きな穴が出来上がった。
「ほぉ~~、この空間も結構広いな」
四人は大きな穴を順番に掻い潜って、空洞の中に入り込み、一番最初に入り込んだロロが空洞内を隈なく見渡した。
「!!」
「? ロロ、何か見つけたの?」
「あ…あれ……」
空洞内で何かを発見したロロは何故か震えた声と震えている人差し指で場所を示すとそこには壁に寄り掛っている二つの人影と地面に伏せている四つの人影、合計六つの動く気配の無い人影が在った。
「人?」
「いや、違うな……これは…」
「あっ、ちょ、ちょ、ちょい待て! ミツルギ!」
ピクリとも動かない不気味な正体不明の人影に恐れも無しに近寄るミツルギに迂闊に近付かないよう、制止しようとロロはその後を追い掛け、他の二人もロロに付いて行くように四人は壁に寄り掛っている二つの内、一つの人影の傍まで足を運んだ。
「っ! これは……」
「人骨だ。 恐らくこの者達はこの山脈で遭難した登山家達だったんだろう」
その人影達の正体は肉片等一欠片も無い、完璧に白骨化した人の遺体であり、更に遺体達の服装と装備から見て、全員登山家であるとミツルギは断定した。
「お、俺達以外にもこの洞窟に迷い込んだ人が居るとわな……死んでるけど」
「そのようだけど……遺体がここまで白骨化しているという事は死後からかなりの時間が経っている事になるから、この人達が此処に来たのは随分前になる」
「ふむ、骨の腐食具合から見て……死んだのは約100年前以上。死亡原因は骨に外傷は無い為、餓死によるものだと断定していいな。そして齢は顔の骨格から見て……40代前半と言ったところだろう」
人骨にビビりながらも遭難者のなれの果てを見て、ロロは不安を一層に深めてしまい。反対にアイシャはまるで見慣れているかのように遺体を調べ。更にミツルギは白骨化した遺体をじっくりと観察し、死亡推定時刻と死亡原因とその人の年齢を推定した。
「という事はこの人たちは100年前から洞窟に来ていたってことなんだね」
「ていうかミツルギ、お前って医学でも習っていたのか?」
「大した程じゃない、齧った程度ぐらいさ」
「皆…この人たちを見て、色々と思う所があるからもしれないけど……洞窟に長居すれば、私達もこうならないとは限らない……一刻も早く外に出よう!」
今は余計な事を考えず、自分達もこうならない為にもアイシャは皆を促して、先に進もうと立ち上がった瞬間、何処からか豪快な腹の音が空間内に鳴り響いた。
「「「「………」」」」
カレン・アイシャ・ミツルギがロロに視線を移す、腹の音の発生源はロロからだった。
「ロロ、お腹すいたの?」
「まぁな……でも、大丈夫! これぐらい何ともな――……」
赤面になりながらもロロは強情を張って、前に歩こうとしたがその身体は地面に引っ張られるかのように体勢を崩した。
「ロロ!」
「無理をするなロロ。君はもう限界なんだろう?」
「………」
体勢を崩して膝を抱えているロロに駆け寄ったカレンは、顔を覗きこむと瞳はどんよりと虚無感に満ちた膜を帯びており、誰から見ても明らかに疲れが溜まり切っていて、精神的にも肉体的にも限界に達しているようだった。
それをミツルギに見抜かれたロロは図星を突かれたようで、途端に無言になる。
「どうしよう、アイシャ?」
「………」
このような状態ではロクに先へ進めないとカレンはアイシャにどうするべきか尋ねるとアイシャは少し黙って考え込み、そしてすぐに口を開いた。
「しょうがない……休憩を兼ねて此処で一夜を過ごす事にしよう」
「えっ……良いの、アイシャ?」
「良いも悪いも、休憩することも睡眠を取る事も生きる上ではとても大切ことだよ。……そうゆうことだから、良いよね。ミツルギ?」
「ん、俺は別に構わないぞ」
意外な提案にカレンは呆気を取られるが、反対にミツルギは特に気にしてはなさそうに、その提案を呑んだ。
「すまねぇな、俺の為に」
「気にしなくていいよ。それよりもまずは食事だね……」
こうして明日に備えて、まずは腹ごしらえをしようとアイシャはこれから皆で食べる物について決める為、皆の手持ちを確認すると、なんとシチューを作る事になった。
具と牛乳はカレンがコルトから貰った袋の中に入っており、肝心なシチューの元はロロが持っていて、何故持っているのかというと最近買っておきながらもうっかりと忘れて、鞄の中に入れっ放しにしていたそうだ。
そして、シチューを作るのはアイシャに任され、ロロはこの空間内に魔物が来ないように自分達が来た道と空間内に在った、奥に続いていると思われる通路に酷い悪臭が漂うロロ特製スライム接着剤を散布して、魔物避けを施した。
一方、残ったカレンとミツルギは此処で死んでしまった登山家達を弔おうと六人分の墓を造り、その墓の中に遺体の骨と遺品を共に埋葬し、安らかに眠れるよう静かに祈った。
「みんな~~! 出来たよ!」
「待ってました!」
そして何分もの時間が経過して、ついにシチューが完成し、完成の声が上がった途端、四人の中で一番腹ペコだったロロは感激の声を上げながら、一目散にアイシャもといシチューの元へ駆け寄った。
「僕達も行こう。ミツルギ」
「うむ……と、その前に魔装器を『REGI・OUT』しないか? 今日はもう魔装器を使う事は無いと思うからな。明日になるまで休ませた方がいい」
「あっ、そうだね」
食事の前にお互いの魔装器は閉まった方が良いと同意を求めるミツルギにカレンはその意見に賛同し、二人は『ガジェッタ―』から『核』を抜き取った。
『『REGI・OUT』』
声と共に二人の剣の形をした魔装器は刀身が消え去り、残った『ガジェッタ―』はそれぞれの掛けていた所にしまい込まれ、そしてもう一つ残った『核』は持ち主の手から勝手に離れて、二つの『核』はお互いに引き寄せられるように飛び交い、まるで再会を楽しんでいるかの如く、その場でじゃれ合い始めた。
「『ストライク』……ミツルギの『核』と遊んでいるのかな?」
「いいや。昔の仲間と再会したから、お互い嬉しくてじゃれ合っているのだろう」
「仲間?」
「俺の魔装器『ブレイヴ』の最初に選ばれた人間が勇者『トラル』と共に戦った初代『ルーレイ』でな。勇者『トラル』と初代『ルーレイ』が仲間だったようにカレンの『ゼオラル』も俺の『ブレイヴ』も昔、パートナーと一緒に共に戦った仲間なのさ」
「だから『ストライク』は君の『核』と……』
カレンの『核』の『ストライク』とミツルギの『核』の『ソード』は勇者『トラル』が居た時代から知り合いだったようで、お互いの『核』の関係を知ったカレンは『核』同士が何故じゃれ合うのか、その訳を納得した。
「おーーい! 二人共、何そこで突っ立ってんだよ!? 早くこっちに来いって!」
「あっ、ごめん!」
「すまん、直ぐ行く!」
お互いの『核』の馴れ合いを眺めていた二人は食事ついて頭から離れていたみたいで、ロロの呼び掛けによってその事を思い出し、待っている二人の元へ急いで駆けつけた。
そして、三人がアイシャの元へ到着するとそれぞれの手に鍋から汲んで入れられたシチュー入りの器を渡され、器が四人全員に行き届くと、四人は焚火を囲むように円となって、その場に座り込む。
ちなみに『暗通薬』を服用したカレン・アイシャ・ミツルギは薬の効力がついさっき切れたので、焚火の光が目に映っても何の問題も無かった。
「「「「いただきます」」」」
食事の挨拶を交わすとそれぞれはそれぞれのスプーンでシチューを汲み取り、口の中へ運んだ。
ちなみに鍋も食器もロロの所持品で、食器に関しては五人分も在ったので、これもシチューを作る事になった要因でもあった。
「皆、口に合うかな?」
「うっはーー! 生き返るっ!」
「おいしい!」
「うむ、絶品だな!」
「ふっ…良かった」
料理当番のアイシャは男子全員から大好評を受けて嬉しいのか、そっと微笑んだ。
「アイシャ、今度僕に料理を教えてよ!」
「…良いよ。時間が在ったら」
料理に興味を持ったカレンはおいしいシチューを作れるアイシャに料理の手解きをお願いするとアイシャは暇な時間帯さえ有れば、引き受けると微笑んだまま了承した。
「「「「ごちそうさま」」」」
そして、食事開始からたった数分で鍋の中に在ったシチューはあっという間に無くなり、四人は終わりの挨拶を交わすと食器と鍋を片付け、次は寝る準備を始めた。
「お借りします」
登山家達の所持品だと思われる寝袋を一言断って拝借したカレン達はそれを使って、アイシャの提案通り、今日一晩この洞窟内で寝泊まりするのであった。
「あっ、ロロ」
「ん?」
「何か、書く物持ってない?」
ずっと置きっ放しだった寝袋は相当埃が溜まっていて、四人はその溜まった埃を払っていると、突然カレンがロロに何か書く物を要求して来た。
「在るけどよ、どうすんだ?」
「日記を書こうと思って…」
「日記?」
恩人コルトから貰った日記帳を使って、カレンは記憶残しを早速今日から始めようと思ったみたいで、要求通りロロからペンを受け取り、今日一日の出来事と思い出を全て、書き映そうとした。
「ふぁあ……じゃあ、カレン。お先にお休み」
「先に寝ているぞ。カレン」
「何か遭ったら、すぐ呼んでね」
「おやすみ、ロロ、ミツルギ、アイシャ」
カレンが日記を書いている内に三人は埃を全て落とし終えたようで、寝る前の挨拶を交わしながら先に寝袋に入り込み、一足早く眠りに着いた。
「よし……こんなもんかな」
そして、ようやく日記を書き終えたカレンは日記を袋の中にしまい。
寝袋に付いている残りの埃を落として、自身も眠りに着こうと寝袋の中へ入り、入ったまま仰向けになると間も無く、睡魔が襲って来た。
「(…なんだろう……こうやって眠りに着くは、懐かしい感じがする……)」
睡魔が襲って眠りに着く途中、カレンは懐かしさを感じていた。
「(いや……それだけじゃない。今日体感した全ての事が懐かしく感じる……景色を見る事も……誰かと話す事も……食べる事も……誰かと触れ合う事も…)」
今日一日で体感した事を思い返してみると、何故か全てに懐かしさを感じるカレンは不思議と嬉しさが湧き、唇が緩む。
「(ああ………僕って、本当に………)」
その次の言葉が出る前にカレンは睡魔に意識を完全に呑まれ、先に眠りに着いた三人同様、ゆっくりと眠りに着いた。