魔装器と人探し
三人の盗賊をたった一人で倒したカレンは、戦いで疲れた様子は全く見当たらず、しゃんしゃんとコルトの傍にたどり着いて、起き上がらせようと手を伸ばす。
「大丈夫ですか? どこか怪我とかありませんか?」
「あ、ああ大丈夫だ。よっこいしょっと!」
カレンの手を借りて地面から起き上がったコルトはカレンが持っている謎の物体によって出来た大きなライトピンク色の剣に視線を外さなかった。その視線に気が付いたカレンは。
「あのコルトさん、これの事を知っているんですか?」
剣を自分とコルトの正面に運んでカレンはコルトにこれが一体何なのか問いかける。
「ああ、これはたぶんあの古びて錆付いた剣の取っ手と虫の置物だ」
「? 何ですかそれ?」
言っていることが理解できず、カレンはコルトに言葉に首を傾げると剣の取っ手に差し込まれた謎の物体が勝手に剣格部分から飛び出した。
「REGI・OUT」
続いて、声と共に取っ手から剣の刀身が花びらが散るように消え、謎の物体は取っ手から飛び離れた次にはまたカレンの周りを飛び回る。
「ああ~~、そうだな~~、詳しい事はまず『カム―シャ』に着いてから話そう」
その提案に頷いたカレン。二人は馬車に乗り、『カム―シャ』に再び向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、馬車を走らせてそう経たない内に目的地の村に着いた。
「お~~、着いたぞ。此処が『カム―シャ』だ」
「……………」
『カム―シャ』に着いたカレン達は、馬車を村の出入り口の近くに止め。馬車から降りる。
「ちいさな村だか………どうだ? 見覚えあるか?」
「…………………」
村を見渡すと丘の上に家と思われる建物が幾つもあり、そしてこの村の中央ら辺に井戸がポツリとあり、その他には野菜畑が村の至る所に在るだけだった。
「…………………」
村を見渡しただけで何かを思い出すという都合の良い展開は訪れず、コルトの問いにカレンは首を横に振る。コルトは溜息を吐き、目の前を通り過ぎる鍬を持った村の男性を呼び止める。
「すまないがあんた」
「はい?」
外見からにして60代後半の村の男性はコルトに呼び止まれ、カレン達の方に振り向く。
「この子に、見覚えはないか?」
コルトはカレンに指を指して村の男性に尋ねる、男性はヨタヨタと歩いてカレンに近付き、目が悪いのか目蓋を大きく開いて顔を覗かせる。そしてじっくりと観察した後、男性は。
「いいや~、見掛けない子だな~。この子が一体どうしたんだ?」
村の男性はカレンのことを存じないと答え、次はコルトの方に窺う。
「いいや! 知らないならいいんだ! すまないな、呼び止めてしまって」
知らないと分ったらコルトはすぐさま一言謝って、カレンを連れてその場を離れる。
「ん~~~~、どうやら此処の住民じゃないようだな、お前さんは?」
此処の住民じゃない事に再び溜息を吐くコルト。そんなコルトの顔を眺めていたカレンから。
「(グウゥ~~~~~~~)」
「?」
気が抜けるような腹の音がカレンの方から聞こえ、それを聞いたコルトは。
「なんだ腹が減ったのか? しょうがないな~~~、じゃあ~~」
コルトは辺りをキョロキョロと見渡し、扉に『宿屋』と書かれた小さな看板をぶら下げたある一軒屋に目が止まる。
「あの宿屋で、腹ごしらえをするか」
そう提案したコルトは『宿屋』の扉を開けて家の中へ入り込み、カレンもコルトの背中に付いて行き。カランコロンとベルの音と共に室内に入った二人は中に在った、テーブルの傍に置いてある椅子に適当に座り、宿屋の受付にオニギリを注文した。
そして間もなく注文の品を持ってきた店員が現れ、テーブルの上にオニギリが置かれ、二人はオニギリを手に取り。
「いただきます」
手と手を合わせて礼儀正しくカレンは一言挨拶を言い、コルトと一緒にオニギリを口に運ぶ。そして幾つかあったオニギリを食べ終わると、コルトの方から口が開く。
「お前さんには、助けられたな。お前さんが居なかったら、ワシはどうなっていた事やら」
『カム―シャ』に着く前に襲われた盗賊の件でお礼を述べるコルト。それに対してカレンは。
「僕の方こそ、色々と助けて貰ってありがとうございます」
自分も助けられたとお礼を言い返すカレン。お互い相手を心から感謝し、優しい笑みを浮かべ合う。
そんな二人の周りを飛び回る物体が居た、それは馬車から飛び出したあの山吹色の謎の物体であった。
謎の物体はまたカレンの周りをグルグルと回り、ピタッと肩に着地した。
「ところで………、これは一体何ですか?」
自分の肩に止まった謎の物体に指を指してコルトに尋ねるカレン。
「ああ、それはな――――――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、カム―シャの外で。
「いてててて、おい! いつまで寝てんだ! ラジリカ! さっさと退け!」
大男の下敷きになっていたスキンヘッドの盗賊は目を覚まし、自分の上でまだ気絶してる、大男に退けるように大声で起こす。
「むぅ~~~~、もう食えないよ~~~~~」
耳元で呼ばれて大男は目を覚ましが起き上がろうとはせず、まだ眠そうに呟く。
「何寝惚けてんだ!! しっかりしろ! くそ! せっかくの獲物が!」
寝惚けている大男にスキンヘッドの盗賊は目を覚ませようと喝を入れる。それに続いて同じく気絶していたロン毛の盗賊も目を覚ます。
「痛っつ~~~~~!! くそあのガキ!」
ロン毛の盗賊は起き上がって打たれた箇所を撫でながら恨めしそうにカレンの事を呟く。
「逃がしゃーしねーぞ~! 今度会ったら…………」
「ところであの剣、何処かで似たような物を見たような………」
スキンヘッドの盗賊はやっと大男の下敷きに解放され、カレンの持っていた剣に見覚えのような物を感じていた。
「ああ~~~、オデも~~~、どっかで見た事ある~~~~」
「そういえばそうだな…………、確か何処かで……………?」
盗賊達は首を傾げ、思い出そうとする。するとスキンヘッドの盗賊が思い出したような素振りを見せた。
「思い出した! あれは――――――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、『カムーシャ』の宿屋に戻る。
「魔装器?」
カレンは聞いた事が無いような言葉に首を傾げる。
「そうだ。今お前さんの肩に乗っている奴が〝核〟という物で、お前さんがその手に持っている剣の取っ手の様な物が〝ガジェッタ―〟ていう物さ」
コルトはカレンの肩の上に居る謎の物体と手に持っている、剣の取っ手のような物の通称を、指を指して語り、魔装器についての説明を淡々とし始めた。
「ガジェッタ―は言わば、ツールの様な物さ、そこにその核をはめ込む事で形を形成して、武器の様な形になり、この二つで一つに成った姿を魔装器と言うんだ」
コルトはカレンにわかり安いように、丁寧に説明を続ける。
「核のほとんどが虫の形をしているそうでな、その核の体の何処かに名称が書かれている筈だ。調べてみろ」
カレンはコルトの言われた通りに肩に乗っていた謎の物体もとい核を抵抗などはされずに掴み取り、体の何処かに在るという名称を調べてみた。
全体を大まかに見渡すと背中の辺りに小さいが文字が刻まれており、カレンは眼を凝らし。
「STRIKE……BEETLE?」
そう書かれており、カレンは手に持っている核の全体をもう一度、よく見てみると確かにカブトムシの様な形をしていた。
そして、カレンが核の名称を判明したところでコルトから溜まった気苦労を吐き出すような溜息が漏れた。
「まさか……そいつが、魔装器だったとは………」
コルトは意味深く呟き、カレンはその言葉に疑問を抱く。
「どうゆう意味ですか?」
カレンはコルトの言葉の意味を尋ねる。
「それを見つけたのは2年前の話だ。ある人気のない海岸に打ち上げられていてなぁ、見つけた時、当時は古ぼけた錆付いたガラクタだと思っていたんだがどうしてか……拾っちまってな。でも使い道が無かったから馬車の中にずっと置きっ放しにしてたんだ」
コルトは当時の経緯を語った。そしてカレンにはまた新たな疑問が浮かぶ。
「えっ? それじゃあ何でこれはこんなに……新品同様な姿をしているんですか? 古ぼけて錆付いていたんですよね?」
核とガジェッタ―を両手でそれぞれ持ち、コルトに見せ付け、当時と今が矛盾していることを指摘するカレン。この問いにコルトはその矛盾の訳を話す。
「それはたぶん、魔装器が持ち主を選び見つけ、自己再生を行なったからだろう。」
「魔装器が持ち主を選ぶ……?」
『魔装器が持ち主を選ぶ』というキーワードに反応したカレンは、それは一体どうゆう事なのか再び首を傾げる。だがその疑問を打ち払うようにコルトはその事についても説明をする。
「魔装器は誰でも使えるって訳じゃない。嘘か本当かは知らないが魔装器には意思と心が在って、魔装器自身が持ち主を選び、持ち主が死なない限り一生付き従うらしい」
「(僕が……選ばれた? ……何故?)」
魔装器には意思と心が在って、その魔装器を使うためにはその魔装器に選ばれなければ使えないというが判明するとカレンは何故自分が選ばれたのか、フと頭の中で思う。
「つまり、あの時、お前さんがあの盗賊にワシを庇って斬られそうになった時、馬車の中から強い光が出ていたろう? あの時あの中で、魔装器がお前さんを持ち主に選び。自己再生を行なっていたからあんなに光っていたんだろう」
「それで綺麗になったと」
馬車の中が光っていた時の光景を思い浮かべながらカレンはあの時の光は自己再生による物で、その自己再生によって錆びついていたという核とガジェッターが綺麗なったと納得する。
「そして自己再生が完了し、光が消えた共にお前さんの所にやって来たという訳だろう」
「ん……そういうことですか」
自分なりにコルトはあの時の出来事を納得いくように推測し、カレンはその推測を何となくだが理解し、以上を以ってコルトの説明が終わる。
「まぁ、ワシが分かる事はこれだけだ。他については何もわからん」
コルトはお手上げのように手を上げ、会話も終了し、カレンは魔装器についての情報をある程度得て、二人は一息を着いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一息ついてから少しの時が経過し、またコルトの口が先に開いた。
「ところで、カレンはこれから一体どうするんだ?」
「え?」
突然の問いに反応が遅れるカレン。
「お前さんが『カム―シャ』の住民じゃないって事がわかった時点で、お前さんの帰る場所はわからない事に振り出しだ。このままわからないって訳にはいかないだろ?」
「………………………」
コルトはカレンがこれからどうするかを尋ね、その問いにカレンは考え込む様に黙った。そして少しの間が経ち、口を開いた。
「人を…………探しに行きます」
やっと開いたカレンの口から、予想外の言葉が出てきた。
「探すって………、誰を?」
コルトは少し驚いた顔をした。そしてカレンの言う探しに出す人物について聞いた。その問いに対し、カレンは胸ポケットからあるペンダントを取りだした。
「それは…………?」
「ある一人の女の子が落として行った、ペンダントです。僕はこのペンダントを届けるために、その女の子を探しに行きます」
カレンの答えに戸惑うコルト。
「おいおい、おまえさん。自分が記録喪失だって事を――――」
「確かに、今の僕は自分が何処から来たのかも、帰る場所も分かりません。でもこのまま此処に居たって何も解決しない事は変わりません。だから、今は自分が何をすべきかを考えたんです」
カレンはコルトに自分の答えを聞かせ続けた。
「だからまずは、このペンダントを届けに行くんです。」
「い、いや~~、しかしだねぇ―――」
「それに―――――」
「?」
コルトは自分の意見を言う前にカレンの言葉に口が止まる。
「それにこれは彼女にとって、とても大切な物だと思うから………」
「……………………………」
「だからこれを届けたい。届けてあげたいんです」
揺るぎないカレンの真っ直ぐな思いと眼を正面から見たコルトは。
「やれやれ……記憶を失って、どうなることやらと思っていたがここまで物事をハッキリと決められる物とはね…………いやいや大したもんだよ」
記憶喪失なんて関係ないようなカレンの固い決意に感心したのか、はたまた呆れたのか、コルトは苦笑いを浮かべた。
「そこまで決心しているなら、ワシがとやかく言うのはおかしいよな」
「いえ、そこまで、言ってくれるのは僕を心配してくれたからなんですよね。ありがとうございます」
カレンはニコっと笑い、コルトは図星を突かれたかのように照れ臭そうに目を背けた。カレンは椅子から立ち、宿屋から出ようとした。
「お、おい。何処に行く気だ?」
急に動き出したのでコルトはカレンに行き先を尋ねる。
「その子が一体何処に行ったのか、村の人達に聞いてみたいと思います」
「え? 何処に行ったか分らないのか!?」
「はい、だからこれから聴きに行きます! それじゃあまた後で!」
別れの挨拶と共に外へ出て行くカレン。一方コルトはその背中を見て。
「やれやれ……一度決めたら止まらない。意外と頑固かもしれないなぁ……」
そう呟いたコルトは溜息を吐き、一人椅子に座り呆けた。