行き先確認
女性でも有るからか、三人の中で一番背が低くて、身体もスッキリと細いアイシャは何の苦労もなく、余裕でフェンスの下の穴を潜り抜けた。
「……よいしょっと!」
「よし、次は俺だ! 良いよな、カレン?」
「うん、構わないよ」
一番手のアイシャが無事にフェンスを通り抜け、身体を立ち上がらせた所を見計って、ロロは早く此処から出たいのか、次は自分達の番が来たから、『次は自分が出るから』とカレンにお願いするように聞き尋ねた。
自分が最後にしろ、どうせ出られる事は確かなのだから、特に断る理由は無いのでカレンは二番目を快く譲った。
「いや~~~すまんな、カレン!」
謝罪の言葉を送った後、ロロはカレンに感謝しつつ、地面に全身を乗せ、アイシャと同じ様に匍匐前進でフェンスの下を通り抜け、フェンスの外側へ辿り着いた。
「おおし! 出られた!」
「後は、僕だけか」
ロロが抜け道を出て、身体を立ち上がらせた所までを見届け、カレンは最後に自分の番が来たので、二人の後を追い掛けるように素早く身体を地面に乗せ、ホフク前進で抜け道を通ろうとした……が。
「!?」
「「?」」
頭がフェンスを通り抜けようとした時、背中に背負っていた魔装器もとい大剣が頭上のフェンスに引っ掛かって、カレンは前に進むと思っても進む事が出来ず、それを見て訳を知らずに何故カレンはフェンスを越えようとしないのか、アイシャとロロはどうしたのかと不審そうに思った。
「そこで何をしているの、カレン?」
「……剣が引っ掛かって、通れないんだ」
アイシャの問い掛けにカレンは一旦後ろに下がって、もう一度前進し、フェンスを越えようとした……だがまたしても大剣が引っ掛かり、カレンは原因を見せ付けるように答えた。
「もう一度……」
そしてカレンは諦めずにもう一度試みようと後退した、そんな姿を見てロロは。
「おいおい、だったらその剣をしまい込めば良い話だろ?」
「あ……そ、そうだね」
何度も前に進もうとやり直しても、大剣が必ずフェンスに引っ掛かってしまうので、どうしてもフェンスを越える事が出来ずにいたが、抜け道を通りきれない一番の原因である大剣を〝しまい込めば〟済む話ななのに、持ち主であるカレン自身が気付いていない事にロロは、呆れて頭を掻きながら大剣について指摘した。
そしてカレンは言われて初めてその事に気付き、急いで背中に在る大剣に手を伸ばそうとした。
「待って、カレン!」
「! 何?」
突然アイシャに呼び止められ、カレンはピタッと手を止めた。
「フェンスの網には高圧電流が流れているんだ。もし網に触れたら、高圧電流が身体に流れて、前にみたいに身体が痺れしまうかもしれないから、気を付けて」
「う! わ、分かった」
フェンスの網に触れれば、高圧電流が身体に流れて、痺れてしまうかもしれないというアイシャの知らせについてカレンは、何も知らないまま、〝しまい込む〟時に何かの弾みで網に触れていたかも知れないと肝を冷やした。
「よ……っと」
カレンはアイシャの言う通り、地下水道での戦いの時みたいに身体が痺れるのは御免だと思い、慎重に核でもあるストライクを大剣の剣格から取り外した。
『REGI・OUT』
声と共に剣格の上から刀身までが消えて無くなり、ストライクはカレンの手から飛び離れ、残った『ガジェッター』を腰に掛けて、カレンはそのままホフク前進してフェンスを通り抜け、やっと抜け道の近くに居るロロとアイシャの元へ辿り着いた。
「よし! 全員フェンスを超えたとこで、ここからはこれからのお互いの行動或いは目的地について話合うぞ!」
三人全員がフェンスを無事に越えた事を確認したロロは、お互いのこれからの行動や目的地についての話を持ち掛けた。
「急にどうしたの、ロロ?」
抜け道から出て、立ち上がったカレンはフェンスを越えて早々にこれからの話を振り出した事について、ロロを尋ねた。
「俺達は三人もとめて『トロイカ』軍に追われているから一応共犯者って事になるんだぞ! 『レイチィム』には戻れないし、アイシャの言う通り『レイチィム』の近辺にある町村に俺達の手配書が配布されているかもしれないだ。迂闊にこの辺りの町村にも行けない、もっと『レイチィム』から離れた所に行かなきゃならない!」
急に話題を持ち掛けた訳をカレンに分かるように説明を開始するロロ。
「おまけに魔物もここ等辺には沢山居るんだ! 夜にでもなれば更に危険を増すし、だからこれから自分は何処へ行きたいのか、お互い話合って、もし目的地が一緒ならば、その目的地まで一緒に行動した方がより良いだろ?」
「成る程……一理あるね」
お互いが行きたいと思っている、目的地が一致するならそこに着くまで共に行動した方がより安全だというロロの意見に納得したのか、アイシャは頷いた。
「そういえば、カレンは探している人が居たんだよね?」
「えっ……あ! そうだった、ロロ! 『レイチィム』で僕が探している女の子を見掛けた話を聴いたって言っていたよね!」
「あ、ああ、その話か」
まずはカレンの話を聞きたかったのか、アイシャはカレンが探している人物についての話を振り、色々な事があって、うっかり忘れていたカレンはアイシャに言われて思い出したようで、ロロが〝聴いた〟と言う、自分が探しているペンダントを落とした金髪の少女の情報を早速、聴いた本人のロロに尋ねた。
「くれ……あっいや、親切な〝偶然出会ったある人物〟の話によると、その女は『白霧山脈』に向かったそうだぜ」
「『白霧山脈』? それは何処に在るの?」
行き先を教えてくれた人物の名を伏せたロロは、カレンに金髪の少女が『白霧山脈』と言う所に向かったと伝え、もちろんそれが何処に在るのか分からないカレンは、場所の在り処も尋ねた。
「えっと……確か……」
「ちょうど、此処から東に行った所だよ」
尋ねられ、どの方向に向かえば目的地に着くかを考えるロロの代わりにアイシャが考える素振りも無く、東に指を指してあっさりと答える。
「此処から東か……」
「なぁカレン、お前は知らないとは思うが、『白霧山脈』に行く気なら、止めといた方が良いぞ」
「……どうして?」
目的地の在り処が分かった所で、ロロはカレンに『白霧山脈』に行かない方が良いと、警告する。
「あそこは『白霧山脈』はこの『バムボア』大陸で、〝三番目〟に有名で危険な場所なんだ!」
「三番目?」
「『白霧山脈』はその名の通り、白い霧が架かった山脈なんだ。一旦山の奥に行けば忽ち白き濃い霧が周りを包み込み、周辺一体を白い霧が視界を遮ってしまってそこに入って迷い込んで一生山から降りられなくなった人や、目の前が見えなくて誤って崖から落ちて命を落としてしまう人達が過去に多く居るんだよ」
何も知らないカレンにロロは『白霧山脈』が『バムボア』大陸で〝三番目〟に有名で危険な場所で有る事を教え、そして何故、危険と呼ばれているのかの主な理由をアイシャが一緒に説明するように挙げた。
「それだけじゃない! 霧に隠れて、人に襲い掛かる魔物も居て、襲われて亡くなった人達も沢山居るんだ!」
「主にこれらが『白霧山脈』が人々から〝三番目〟に有名で恐れられている、理由なんだ」
「……そうなんだ」
「だから……止めといた方が良いぞ、本当に」
「(……それならあの子はそんな所に行って大丈夫なんだろうか?)」
付け加えられたロロの説明とアイシャが述べる『白霧山脈』が危険で恐れられている理由が分かったカレンは、ロロの忠告を余所に金髪の少女の身の危険を心の中で心配した。
「でも……彼女は何で、そんな危険な場所に行ったんだろ?」
「んな事、知る訳が―――」
「恐らく考えられるのは、その子は首都『リア・カンス』への近道として、『白霧山脈』に向かったんだと思うよ」
「首都『リア・カンス』?」
何故金髪の少女はわざわざ危険な『白霧山脈』に向かったのか、不思議に思ったカレンは、ロロとアイシャに聴いてみると、ロロはまったく見当が付かないようだったが、アイシャは金髪の少女が首都『リア・カンス』へ向かう為に近道として向かったと自身の推測を述べた。
「ちょ、ちょっと待てよアイシャ! まさかその女……首都への近道として『白霧山脈』に向かったって言うのか!?」
「考えられない事かな?」
「ま……まぁ、確かに地理的に考えれば、真っ直ぐ『白霧山脈』を越えれば、首都『リア・カンス』に直ぐ着くけど……!」
アイシャが淡々と語る推測は確かに一理あるが、どうやらロロにとっては納得できない部分が在るらしい。
「危険を冒さなくても、首都には行けるだろうに」
「私もそう思うけど、でも考えられる事と言えば、これしか無いよ」
少女の危険を冒してまでの行動にロロは理解不能らしく、それには同感だがアイシャは考えられる可能性はさっきも言った通り、首都へ向かう為だと語る。
「僕、『白霧山脈』に行くよ!」
「なっ!? か、カレン!?」
いきなり堂々と自身の意思表明を言い出したカレンにロロは驚く。
「話を聞いていなかったのか? 『白霧山脈』は危険―――」
「危険な場所なのは分かったよ! でも、彼女がそこに行ったのなら僕もそこに行けば運良く会えるかもしれないし。彼女が危険な目に合っていれば助けなきゃいけないし。彼女が無事に『白霧山脈』を越えたのなら僕も早く追い付く為に『白霧山脈』を越えて、超えた先に居る彼女にペンダントを渡さなきゃ、もう追い付けないかもしれないんだ! だからこそ僕は『白霧山脈』を通らなきゃいけないんだ!」
同じ道を辿れば、幸運にも金髪の少女に会えるかもしれない。少女に危険が及んでいるなら助けなければならないし。もし別な道を選べば、少女に追い付けなくなってしまうと考えたカレンは、頑なに『白霧山脈』を通ると主張する。
「そりゃあ……そうだけどよ……」
一理あるカレンの雄々しい言い分に、気押しされたのかロロは歯切れが悪くなる。
「……本気なのか?」
「本気も何も、僕は最初から行く気だったよ」
「『水底の洞窟』の時とは違うんだぞ」
「分かってる……此処からは僕だけの問題で、僕一人だけで行く事だからロロとアイシャに迷惑を掛けるつまりは無いよ」
「カレン……」
迷惑を掛けさせまいとカレンは、自分一人で『白霧山脈』に向かう事を伝え、ロロは心配そうにカレンの名前を呟いた。
「なら……私も一緒に行くよ」
「えっ?」
「はっ!?」
湿っぽい雰囲気をぶち壊すように、アイシャがカレンに『一緒に行く』と乗り出し、耳を疑ったカレンとロロは揃って、アイシャに視線を移した。
「あ、あ、あ、アイシャさん? ど、どうして、あなたまでも?」
「私も、首都『リア・カンス』に用が有るからだよ」
突如の申し出にロロは何故か酷く動揺し、その所為か、声が震えつつ丁寧な口調になりながらもロロは、予想外にカレンと共に『白霧山脈』への同行を申し出たアイシャに同行の理由を問い掛けると、自身も首都『リア・カンス』に用事が有るとアイシャは説明を開始する。
「用事って?」
「二日後に人と会う約束なんだけど、今の状況を分析して考えると、会う筈の日に間に合わなくなるんだ」
「間に合わない? どうして?」
カレンも同じく意表を突かれるが、ロロとは対照的に動揺はせず、落ち着いた態度で『リア・カンス』での用事が何なのかを聴くと、アイシャはある人物と会う約束がある事、そしてこのままでは、その人物と会う約束日に遅れてしまうと話し。何故間に合わないのか、カレンは詳しい事情を要求した。
「本来なら、二日程度で済む通常の地上ルートで『リア・カンス』に行くつもりだったんだけど、今日から『トロイカ』軍に追われる身になって、首都に向かう途中で泊まる筈の『レイチィム』近辺の町村には訪れる事が出来なくなってしまったから、『レイチィム』からもっと離れた町村に泊まらなきゃいけなくなったけど、でも此処からそのもっと離れた町村に行くとなると、歩いて最低でも一日は掛るんだ」
「一日……か」
一日という単位にカレンは、『レイチィム』からもっと離れた町村という所は、それ程遠い距離に在ると悟った。
「もし、通常ルートでの訪れる筈だった町村じゃない方を選んで、首都「リア・カンス」に向かうとすれば、分析すると最低三日は費やしてしまう、それじゃあ約束の日には、当然間に合わないんだ!」
「じゃ……じゃあ『白霧山脈』を越えれば、ちゃんと間に合うって言うのかよ?」
本来使う筈だったルートが使えない以上、約束の日には間に合わないとアイシャの解説を聴いたロロは、先程カレンに『一緒に行く』と言い出した口ぶりから、『白霧山脈』を越えたら、本当に間に合うのかと思い、半信半疑で言ってみた。
「通常ルートなら『リア・カンス』への道のりは最低二日掛る、けど『白霧山脈』を真っ直ぐ超える事が出来れば、たった半日で到着出来るんだ」
「半日で? 本当かそれ?」
さすがのロロもこの事は知らなかったようで、アイシャの言う『たった半日で着く』という情報が本当なのかどうか、真偽を確かめるべく尋ねた。
「これは数少ない、『白霧山脈』を通り超えた人の証言だから、間違い無いよ」
『白霧山脈』を越えたという本人から聴いたのか、アイシャは嘘を付いている様子も無く、キチンと説明した。
「とにかく、『白霧山脈』は確かに危険な場所だけど、超える事出来れば、より早く首都『リア・カンス』に着く事が出来る筈だよ」
要約すると、約束事で首都『リア・カンス』に向かう途中、訪れるつもりだった『レイチィム』近辺の町村については自身が軍に追われる身になってしまったから泊まる事は断念せざる終えず、更には、もっと離れた町村に向かうとなると、最低一日は費やす事になる。しかし、危険ではあるが『白霧山脈』を真っ直ぐに越えれば、たった半日で首都に着けるとアイシャは自身の予定に在った事項と現在自身が置かれている現状と遠い町村に向かう場合の掛る時間、そして、『白霧山脈』を越えた時のアドバンテージも語った。