お尋ね者確定!
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一方その頃、カレン達は外へ続いている坂道の通路を渡りきり、まだ日差しが残っている地上に舞い戻っていた。
「はぁ……まさか、一日二回も地上の太陽が懐かしく思うなんて」
『水底の洞窟』に続いて、日差しが差し込まない地下水道から出て、もう夕暮れになっている地上の景色にロロは、二度目の感動を体感していた。
「やっぱり、地上が一番だね」
「ああ、ホントそう思うぜ」
どうやらカレンも同じよう感想を抱いているようで、暗い所で二回もヒドイ目にあった二人だからこそ、二人はまたもや共感し合う。
「感動に浸るのは良いけど、まずは今の状況を打開する事も考えた方が良いよ」
「「………」」
共感し合う二人に水を差すようにアイシャは今現在の状況について言い、指摘された二人は口を閉じて、辺りを見渡した。
「考えろって、言われてもな……」
「どうすれば……良いだろう?」
地上に舞い戻った三人に待ち受けていた物は、遥か彼方から地下水道の中まで伸びている川に檻のような網状のフェンスが川を囲っており、今カレン達はその檻のようなフェンスの中に閉じ込められている状況だった。
「はぁ……地上に出られたと思ったら、次は〝これ(フェンス)〟だもんなぁ」
「東南側地下水道の水は海から陸に流れる川を使っているから、地下水道内に敵や不審者が入り込めないように〝こうゆう〟防御を備えていて、当然だと思うよ」
果てしなく続いている川と同様、川を囲んでいるフェンスも果てしなく続いており、ロロはその中に居ると思うと、地上に戻れた感動は何処かに行ってしまい、代わりに溜息と愚痴が零れ、そしてアイシャは『トロイカ』軍が〝このような物〟を作っていて当然だと説明混じりに忠告する。
「〝そんな事〟ぐらい知っているよ、一応俺様はこの大陸の出身者なんだぜ? ちょっと言ってみただけだよ……まぁ、こいつは多分、〝この事〟は知らないと思うけどな」
「?」
「……どうやら、そうみたいだね」
自分としては常識だったのか、アイシャに指摘されて、言い返したロロは、同時にカレンは〝この事〟については知らない筈だと視線を向けながら述べ、一方カレンは一体何の話なのか分からない様子であり、アイシャはカレンの反応を見て悟り、常識の無さを認識した。
「さてと、こいつをどう潜り抜けようか?」
アイシャの言う通り、今度はこのフェンスに囲まれた川からの脱出方法を真剣に考えようと切り出したロロは、気持ちを切り替えて、網状のフェンスに向き合った。
「そうだね、まずは――――」
「じゃあ、壊して通ろう!」
一先ず自身の意見を言おうとしたアイシャに横入りするようにカレンが、フェンスの破壊を提案し、背中に背負っている魔装器でもある大剣に手を伸ばした。
「まてまて! ちょい待てカレン!!」
のっけから破壊という物騒な提案したカレンを制止するロロ。
「どうして? これが邪魔なら、壊して進んだ方が……」
「これは壊しちゃ駄目なんだ! 軍の物なんだぞ!」
「軍の?」
『軍の物』というキーワードにカレンは首を傾げ、ロロはまたいつもの説明パターンに入る事を承知でカレンに分かる様、話を続ける。
「いいか、俺達のような部外者、つまり一般人である人間が、軍の所有物を勝手に使ったり、壊したりすると重い刑罰が与えられるんだ!」
「刑罰が?」
「そうだ! 今目の前に在るフェンスは『トロイカ』軍の所有物だ。と言う事はこのフェンスをもし、壊してしまったら、俺達にまた新たな罪状が付けられる!」
記憶喪失のカレンは刑罰の意味がどうゆう物なのかはまだ良く分からないが、アイシャが教えてくれた牢獄の意味は分かっているので、それと何らかの形で繋がっている事は何となく分かっていた。
「しかも、このフェンスは『レイチィム』の地下水道の水路を守る為に〝国〟が作った、防衛システムだ! 〝軍〟だけの物とは違って、国が作った物を壊せば、国内で済む普通の犯罪じゃ済まないんだよ!」
「〝国〟が作った?」
「兵器は〝軍〟だけの所有物だけど、〝国〟が作った軍の所有物と言う事のは、言わば国の所有物でも有るんだ。そして今此処でこのフェンスを破壊したら、私達は国家破壊工作と言う重い罪を着せられる事になって、同時に国際指名犯にさせてしまうんだ!」
『レイチィム』の地下水道まで伸びている水路を守る為に作られたと説明するロロに続いて、軍の物でもあり、国の物でも有るフェンスを破壊すればどんな結果を招くか、アイシャはカレンに警告を伝えると同時に破壊してしまった時の罪状についても教える。
「少なくとも私達は此処に来るまで、法を破って、罪を犯してしまった。恐らく私達はもうお尋ね者になってしまったと思う……だから、これ以上罪を重くする事は避けた方が良いんだ!」
「そうそうアイシャの言う通りだカレン、つまり俺達は今着せられている罪状以上にイタズラに罪を重ねるマネは極力しない方が身の為なんだ!」
これから先の為、無駄に罪を重ねる事は避けるようにとアイシャとロロに説明混じりで注意させるカレン。
「ともかく、フェンスを破壊しないで通り抜ける方法を考えよう」
「分かったな、カレン?」
「……うん、分かった」
ロロとアイシャの共同説明のお陰で、フェンスの破壊厳禁の事情を大筋理解したカレンは素直に了解し、大剣から手を離した。
「まぁ俺達の罪と言っても、まだ軽い方だ。軍が躍起になって探す程のレベルじゃねぇ! 例えお尋ね者になったとしても一カ月間ぐらい捕まらなきゃ、自然と俺達の事なんて存在と罪状と一緒に忘れられちまうだろうな!」
「確かに私達は、大きな罪を犯した訳じゃないから、例え手配書を作られても多分『レイチィム』の近辺に在る、町村に配布されるだけだと思うから、『レイチィム』から遠く離れた場所に身を隠せば、問題無いと思うよ」
今、自分達が着せられている罪のレベルでは、頭を抱えて心配するような大きな物では無いとカレンを安心させるかのように話し合うロロとアイシャ。
「手配書か……あの『バトル・マシーン』の監視カメラが壊れたから、どうせ似顔絵の手配書を作るんだろうなぁ」
「でも、そっちの方が助かるよ。監視カメラが写した記録より、似顔絵の方が信憑性はかなり低いからね……けど、やっぱり用心して、『レイチィム』近辺の町村には入らない方が良いと思うよ」
「分かってるって! 正体がバレて、また追っかけられるようじゃ敵わないからな!」
そして、この何気ない会話を聞いて、カレンはフとある事に気が付いた。
「ねぇ」
「ん?」
「今、思い出したんだけど、さっき地下水道で戦ったあの『バトル・マシーン』って言う物は、あれも軍の物だったんじゃないの?」
「あっ……」
ついさっき戦って倒した相手を忘れた訳では無いが、カレンが地下水道で戦った『バトル・マシーン=タイプ〝タイラント〟』は軍の物ではないのかと言う指摘にロロはその事を思い出したようなに口を開いた。
「そ、そ、そうだった! や、や、や、や、やべぇぞ! お、お、お、俺達、罪が重くなる事確定……」
「それなら、心配はいらないよ」
「えっ?」
軍の物である兵器『バトル・マシーン=タイプ〝タイラント〟』を破壊してしまった事について自分達の罪が今より重くなってしまうと思い、焦り出したロロを鎮めるかのようにアイシャは『心配無い』と言った。
「ど、どうして、そんな事が分かるんだよ?」
「私達は『レイチィム』都市内で戦闘を起こした容疑者とは言え、軍は民間人でも有る私達に対して戦闘用大型の『バトル・マシーン』を使用し、挙句、その『バトル・マシーン』を破壊され、逃げられたと言う〝負い目〟が有る」
「〝負い目〟?」
「……人が人に触れて欲しく無い不都合な事って意味さ」
怪訝そうにロロは、『心配無い』と言い張るアイシャにその訳を問い、アイシャは淡々と自分達の罪が重くならない根拠を説明し始め、そして開始直後にいつも分かりやすい反応を示すカレンに〝負い目〟の意味も一緒に説明した。
「成る程……で、その〝負い目〟が何なの?」
「そんな軍の威信や評判に影響する〝不名誉〟な事を表沙汰にして、私達の罪を重くする事は誇り高い『トロイカ』軍と言っても、自分達の威信と評判を下げない為にこの事は世間には公表しない、つまり……」
「その〝不名誉〟な事を隠す為に、俺達の罪も重くしない……って訳か?」
「まぁ、可能性の話だけど、十分にあり得る事だよ」
「……いや、確かにその線は限りなく高いな」
推測ではあるがアイシャの軍が自身達の不利益に成り得る事実を表沙汰して、自分達の罪を重くする事は無いと言う現実感溢れる話にロロは何処か神妙そうな顔付きで納得した。
「う~~んと……つまり、どうゆう事?」
一人だけ話しに付いて来れないカレンが居た。
「つまり、地下水道で戦って倒したあの『バトル・マシーン』について、俺達の罪が重くなる事は恐らく無いって話だ」
「これも気にする事は無いって事だよ、カレン」
いちいち説明するのが面倒臭くなったのか、簡単に言えば、特に気に悩む程では無いと二人はカレンに省いて教えた。
「ほんじゃあま、気を取り直して、此処から脱け出す方法を探そうか」
話が長引いたので、そろそろ真面目に自分達を取り囲っているフェンスから脱け出す方法を考えながら探そうとロロはとりあえず、足を前に運んだ。
「「「!」」」
すると、フェンスの近辺に在る大きく伸びている草むらが、ガサガサと音を立てながら揺れ始め、ロロは足を止め、三人は一斉に草むらに視線を移した。
「ルル! ルルル!」
「! ルモン!」
草むらの中から一匹の4本脚の生物が出て来て、ロロはその生物を知っているようで、名前を口にした。
「ルモン?」
「あの魔物の名前だよ」
「えっ……魔物?」
出て来た生物が魔物だとアイシャに教えられたカレンは、少し信じられないと言いたいそう顔になった。何故なら『水底の洞窟』に居た魔物達とは違い、目の前に現れた魔物はこちらに襲い掛かる様子も無ければ、警戒する事や殺気を出していない事、そして何処か大人しそうな雰囲気を持っており、その全身紫色の身体の所々に黒い点が在る生物にカレンは身の危険を微塵も感じられないからだった。
「なんか……魔物には、見えないね」
「そりゃあ無理はねぇよ、何たってルモンは、性格は臆病で大人しい魔物だからな! 人対しては友好的で襲い掛かったりはしない、優しくて懐き易い魔物なんだよ」
「へぇ~~~~~、そうなんだ」
ロロの説明で魔物にも色々な魔物が居るんだとカレンは、川にゆっくりと歩いて近付いているルモンを興味深そうに観察しながらそう思った。
「ルル!」
「あっ! 川に中に入った!」
川の水辺まで近付いたルモンは、突如川の中へダイブし、淵の所に入ったのか姿を水の中に消してしまい、カレンはルモンの行動に疑問を抱いた。
「普段ルモンは、山に住んで居るんだが、たまに餌を求めて山から降りて、近くの川まで来て、今みたい川で餌を取る為に水の中へ入る事が有るんだ」
ルモンの行動にカレンが疑問を抱いた事を察したロロは、タイミング良くルモンの生活リズムの一部を説明した。
「ふぅん……ロロって、何でも知っているんだね!」
「へっ、常識だっつうの!」
「………」
物知りだと褒め称えるように言うカレンにロロは『常識』だと言い返すも、顔は嬉しそうに微笑んでいた。そんな二人を余所にアイシャは一人で歩いて、ルモンが先程潜んでいた草むらに近付いた。
「? アイシャ、どうかしたの?」
アイシャが自分達を置いといて、歩きだしたのでカレンは声を掛けた。
「……二人とも、何故ルモンが此処まで来れたか、分かる?」
「あ? どうゆう意味だよ?」
しゃがみ込んで草むらの中を掻き分けながら、意味深な発言をしたアイシャにロロはその意図が分からず、尋ね返す。
「どうして山に住んでいるルモンが、このフェンスの檻の中に入って来れた事について、疑問は感じないの?」
「「!」」
何故ルモンは、壊す事以外で入る事も出る事も不可能と思えるフェンスの中に入れたのか、アイシャに指摘されて、カレンとロロは『あっ』と呟いて、その事に気が付く。
「そ、そういやそうだな」
「……穴でも、掘ったのかな?」
どうやってルモンはフェンスを越えて来たのか、ロロは考え始め、一方カレンは何となく思い付いた事を発言した。
「ある意味、正解だよカレン」
「ふぇ、本当?」
ある意味だけれど、アイシャに正解を貰った当人のカレンは予想外だったので、素っ頓狂な声を上げた。
「ロロ、ルモンの普段の食事はどうしているか、知っているよね?」
「え? あ、ああ……普段の食事は地面を掘って、土の中に居る、虫を食っているんだよな、確か?」
唐突にルモンの普段の食事はどうしているのかとアイシャに話を振られたロロは不意を取られて、戸惑いながらも答えた。
「だったら、どうゆう方法でルモンがこの中に入れたか、大体想像付かない?」
まるで試すように意地悪そうに小さく微笑むアイシャは首だけを振り向かせて、掻き分けていた草むらを大きく広げ、カレンとロロに見えるようにした。
「!」
「そいつは!」
アイシャによって大きく広げられた草むらの奥には、フェンスの下の地面が掻き掘られた光景があり、その地面はフェンスの外側と中に出入りする為に作られたかのように掘られており、視界に入って来た光景にカレンとロロは目を見開いて、颯爽とアイシャが掻き分けている草むらに駆け寄った。
「多分ルモン達が作った、川への通り道なんだよ」
「そうか! ルモンは地面を掘って、フェンスを通り抜けたのか!」
ルモンがフェンスの下の地面を掘って、川へ行き来する抜け道を作ったとアイシャは推測して述べ、ロロは悩み考えていたルモンのフェンス越えのトリックが判明した事に歓喜を覚える。
「これで、ようやく外に出られるね!」
もう既に太陽の灯が当たる地上に戻っては居るのだが、カレン達は自分達を取り囲んでいるフェンスを脱け出さない限り、本当の意味で地上に出られた事にはならない。だからカレンの言った事はあながち間違ってはいない。
「ちょうど、一人がギリギリに通れるぐらい……か」
人間より小さいルモン達が作った割には、掘られた道は差ほど小さくは無いが、自分達の身体の大きさを考えれば、ギリギリで通れる広さと深さだと、ロロは観測する。
「で、誰が先に通る?」
まずは、抜け道を一番目に通るのは誰にするか、アイシャは二人の意見を聞く。
「アイシャが先に見つけたんだから、アイシャが先で良いよ」
「レディファーストって奴だな」
抜け道を見つけたのはアイシャなのだから、手柄を取った人間が先に出るのは当然みたいな感じでカレンはアイシャに一番目を譲り、ロロも文句は無い様で、『レディファースト』と言う形で譲った。
「じゃあ、お言葉に甘えて………」
二人に一番最初を譲ずられ、アイシャはそのご厚意を特に嫌がる様子も無く受け取り、早速地面に全身を乗せ、ホフク前進で抜け道を進み、フェンスを下から通り抜け、フェンスの外へ出て行った。