逃亡
自分の何十倍の体重を持っている相手にカレンは光り輝く拳でバトル・マシーンを吹き飛ばし、通常のパンチとは桁違いのパンチに殴り飛ばされたスキンヘッドの盗賊を乗せたバトル・マシーンは着地地点の宿屋の壁に衝突し、激突した衝撃で壁に深くめり込んだ。
「すげぇ……!」
自分の矢では貫けなかったコクピットの強化ガラスをいとも簡単に突き破り、更には中に居るスキンヘッドの盗賊ごとバトル・マシーンを吹き飛ばしたカレンにロロは歓声の声を出す。
「あ、アイツでもう終わりだよな?」
「見る限りでは、もう戦える相手は見当たらないよ」
最後のバトル・マシーンがカレンによって破壊され、残った盗賊はもう居らず、盗賊全員が戦闘不能になった事をアイシャに聴いて、あえて確認するロロ。
「これで…片は付いたか……」
「……!」
辺りを見渡して敵がもう動けないと再確認するアイシャとスキンヘッドの盗賊を殴った光り輝いた左手を開いては閉じて見詰めるカレン。
「(また…体が勝手に動いた! しかも剣を使った技じゃなくて、今回は拳を使った技が出て来た!)」
また体が勝手に動いて新しい技を使った事に心の中で驚くカレンは自身の力に謎めいた物を感じる。
「やったな、カレン!」
「…! ロロ!」
ボーーーっと考えているせいでロロの接近に気付かず、ロロに肩を軽く叩かれてカレンはやっと気付く。
「怪我は無いの?」
「それはこっちのセリフだ……まぁ見て通り、大した怪我は無いぜ!」
「……そっか、僕もそれといって無いよ」
お互いに身の安全を確認し合ったカレンとロロは、お互い笑顔を浮かべて答える。そしてロロの後からアイシャが辺りを見渡しながら一人でカレンの方に歩いて来た。
「あ……アイシャ! 君も何処か怪我は無い?」
「特に……それらしい物は無いよ」
自分の所に近付いてきたアイシャにも怪我は無いかと尋ねるカレンに、アイシャは相変わらず顔色一つ変えぬまま、サラッと答える。
「それは良かった! 後、それと……」
「?」
「助けてくれて、本当にありがとう!」
「……」
何を言い出すかと思いきやカレンの真っ直ぐな眼差しで向けられた感謝の言葉に、アイシャは面を喰らったかのように自身のその鋭い眼差しが柔らかくなる。
「これは私が、勝手にやったことだよ……君が礼を言う必要は……」
「でも、僕達を助けてくれた事には、変わりは無いよ」
「そうだぜ、お前がバトル・マシーンの関節部分の事を教えてくれなかったら、お前の力が無かったら、俺達だけであいつ等を倒す事なんて出来なかったかもしれないんだ」
「だから、君が力を貸してくれた御かげで、僕とロロはこうやって無事でいられたんだ」
「その通りだ」
感謝の言葉は必要ないとアイシャは言うが、カレンはアイシャがどんな理由であれ、自分達を助けてくれた事は変わり無いと述べ、ロロもそれに賛同するよう自身も助けられたと語り、カレンとロロは二人揃って全面的にアイシャの行動を賛美する。
「私は、そんな立派な事はしていないよ。私は私の考えがあって君達を………」
「それでも……ありがとう」
「ああ……ありがとうな」
「………」
こちらの言い分をお構い無しに感謝するカレンとロロにアイシャは少し戸惑ったように眼が泳ぎ、何て言えば良いのか分からない、そんなさっきまでの無表情な鋭い視線の顔とは大違いな、困った顔を見せる。
「ふぅ……わかった、そこまで言うなら礼を受け取らないって言うのも失礼かもしれないね……どういたしまして」
うまい言葉が見つからないような困った表情は観念したような表情に変わり、そして直後にアイシャは宿屋の部屋でカレンに見せた、少し笑って顔を和らげた温かい微笑みに変え、アイシャは快くカレンとロロの感謝の言葉を受け取った。
「おーーーいハーーーン! 大丈夫かーーー!?」
「「「!」」」
すると何処からかまた聞き覚えのある声が響き、それに伴って大人数の足音がカレン達の居る所に歩いて来る音が聞こえて来た。
「ああ!! なんじゃこりゃ!!?」
宿屋の壁の影から20人くらいの人影が現れ、その人影の中からさっき聞こえた声の主と思われる人物がカレン達に倒された盗賊達の倒れている光景に驚く。
「ま……まさか、これもあいつ等がやったのか!??」
現れた複数の人影は前に宿屋の出入り口越しに見た旅人のマントを着た盗賊達で、そしてその盗賊達の先頭に聞き覚えのある声の主が居て、その声の持ち主があのスキンヘッドの盗賊の仲間の一人、ロン毛の盗賊であった。
「あっ! お前らは!?」
「「あっ」」
ロン毛の盗賊は目の前の光景の中にカレン達の存在に気付き、カレンとロロもロン毛の盗賊の声だったと姿を見てやっと分かった。
「ケビー! 置いて行かないでよ~~~~!!」
「あっ、あいつは確か……」
「ラジリカだっけ?」
更に宿屋の壁の影から、また20人くらいの人影が現れ、その中から聞き覚えのある、なまった声とどう見ても仲間外れに見える2メートル以上は有る人影の姿を在った。
「ラジリカ、遅いんだよ! お前!」
「は……走るのはオイラ、苦手だよ~~~~~!」
続いて現れた2メートル以上も有る人影は同じくスキンヘッドの盗賊の仲間の大男とその他の仲間の盗賊達であった。
「あれ! 皆やられちゃったの!?」
「ああ……やっぱりあのガキ共には勝てなかったみたいだな!」
「ええっ!!?」
「くそっ! だから止めとけって、言ったんだ!!」
「………」
心の何処かでこのような結果を予想付いていたのかロン毛の盗賊は畏怖の眼差しをカレン達に向けながら大男に事情を教え、そして、警告を真に受けず敗れて、気を失って倒れている仲間達に対して不条理な怒りを覚えた。
一方大男は教えられた事実に驚愕しながらもカレン達に視線を移し、何処か申し訳なさそうな眼差しでカレン達を見詰めた。
「?」
何故、大男がそんな眼差しでこちらを見るのか分からないカレンであったが答えに気付く前に突然、この『レイチィム』都市全体に響く程の大きな音が鳴り響いた。
「「「「「「!」」」」」」
何か危険が迫っているような、何かを警告するような、そんな事を伝えようとしているかのようなその音は寝ている者なら、驚いて飛び上がってしまう程の音量であった。
「な、何、この音!?」
「警報か!」
「!」
何の音だが分からないカレンに教えるように『警報』と呟くロロ。
「け、ケビー! この警報って!」
「くそ! 思ったよりも早いな!!」
どうやら盗賊達はこの鳴り響く『警報』と言う物がどうゆう物か知っているようだった。
「ロロちゃん~~~~~~~!!」
「「?」」
「!?」
都市全体に鳴り響く音に混じって、何処からか奇声に近いような声がロロの名前を呼び、その声に心当たりがあるようなに反応したロロはギクッと身体を震わした。
「あっ! あそこだ!」
「………」
辺りを見渡して声の主を探したカレンは非常階段に人影を見つけ、その非常階段に居る人物が声の主だと分かったカレンは指を指して周りに伝え。
嫌な予感がプンプンするがロロは勇気を振り絞って恐る恐るゆっくりと振り返り、カレンが指した方向に眼を向ける。
「ロロちゃん~~~~! また会えて嬉しいわ~~~~!」
「げげっ!! く、クレオさん!!!」
『やっぱりあんたか!』と言いたげ引きつった顔で、身も引くロロは自分が逃げ込んだ宿屋の部屋で出会ったクレオが非常階段の4階辺りで自分に手を振って、再会を喜んでいる姿に必然的に拒絶反応が体の中を暴れ回るように駆け巡った。
「い、い、い、一体何の用ですかーーーーー!!?」
身の危険を感じさせた相手に理性を何とか保ちながら、震えた口調でロロは非常階段の4階辺りに居るクレオが自分に呼び掛けた理由を大声で尋ねる。
「あっ! そうそう、忘れる所だったわ! ロロちゃん、早く逃げた方が良いわよ!」
「えっ!? 何でですか!!?」
『俺が早く逃げたいとしたら、俺は早くあんたから逃げたい!』っと心の中でそう叫びながらロロは、クレオに話を続けさせる。
「実はね~~~~~あなた達が盗賊達と戦っている所をこの宿屋の従業員が目撃して、『トロイカ』軍に通報しちゃったのよ~~~~~~~~~!」
「ええぇ!!??」
あれだけ騒がしく派手に戦えば、例え宿屋の人気のない片隅の場所だとしてもいやでも誰かが気付いて目撃するのは明白であり、クレオもカレン達の戦いを目撃した一人のようだった。
同じくそれを目撃した従業員がこの軍用都市『レイチィム』に居る、『トロイカ』軍に通報したとクレオは語り、ロロはその情報に驚き、耳を疑う。
「じゃ、じゃあ、この警報ってまさか!?」
「そのまさかなのよ~~~軍があともう少しで此処にやって来るから、早く逃げた方が良いわよ~~~~って伝えに来たの!」
「な、なんだって~~~!!?」
「!」
「?」
警報が鳴る訳を知ったロロは、顔が極限に戸惑っている顔付きになり、一方アイシャは再び顔付きが険しくなり、微笑んだ顔は何処かに消え、鋭く氷のように冷たい眼に戻り、そしてカレンは一人だけ状況が読めない感じであった。
「「「「「「!」」」」」
未だに鳴り響く警報に混じって、また新たな足音が聞こえ来て、その足音はかなり大人数であり、自分達の所に近付いて来るとその場に居た全員が気付いた。
「け、ケビー……!」
「どうやら……お出ましのようだ!」
「もう来たのかよ!?」
「そうみたい」
「(軍って言う人達が来るってだけで、皆何でそんな緊迫した顔をするんだろう?)」
約一名だけ危機的状況を理解していないのをよそに宿屋の壁の影から足音の主達が、ゾロゾロと湧いて出て来るように姿を現した。
「動くな!! お前達を暴動兼器物破損及び殺人未遂の疑いによりお前達全員を確保する!!!」
大勢の人数の中からリーダーらしき人物が大人数の先頭に出て、カレン達と盗賊達に向かって警告及び罪状と確保宣言を伝える。
今度現れたこの人物達は『レイチィム』に入る前に見掛けた警備兵と同じ全身緑に染まった軍服を来ており、尚且つ服の胸の辺りには盗賊達が操縦していたバトル・マシーンの身体に付いていた『トロイカ』軍と示す同じマークが張り付いていた。
「誰?」
「『トロイカ』軍って言う兵士だよ」
「そして今私達に呼び掛けた兵士は大体予想は付くけど、指揮官だね」
いきなり大人数で登場しては、自分達に警告する人物達にカレンは誰なのかロロに小声で聴くと、ロロは彼らを『トロイカ』軍の兵士だと答え、そこにアイシャは付け加えるように話しに加わり、先頭に出て、こちらに呼び掛けて来た一人の兵士は、指揮官だと教える。
「武器を捨てて、大人しく両膝を地面に着いて、両手を頭の後ろに置くんだ! そうすれば危害は加えない」
そう言うと『トロイカ』軍の指揮官は後ろに居る。ザッと見ただけでも50人はくだらない程の大人数の兵士達に手で合図を出し、銃と思われる武器をカレン達と盗賊達に突き向けて構えさせた。
「「!」」
「………」
大勢の兵士達に銃口を向けられて身構えてしまうカレンとロロ。それに比べてアイシャは落ち着いた態度を取っていた。
「こんな所で捕まって堪るかよ!!」
「!」
不意にロン毛の盗賊は懐から黒い球体を取り出し、『トロイカ』軍の兵士達に投げ付けた。
「「「「「!!!」」」」」
黒い球体は『トロイカ』軍の兵士達の前で破裂し、中から黒い煙が大量に漏れ出し、『トロイカ』軍の兵士達を黒い煙が包み込んだ。
「今の内だ! 倒れている仲間を連れて、逃げるぞ!!」
「う、うん!」
「「「「「「おう!!!」」」」」」
黒い煙の御かげで『トロイカ』軍の兵士達が見えなくなり、その隙に気を失って倒れている仲間を担いで逃げるぞと大男と連れて来た仲間に指示を出したロン毛盗賊は自身も仲間を担ぎ、それに従って大男と仲間の盗賊達も急いで、動けない仲間を担ぎ出した。
「今の内に私達も逃げよう!」
予想外だが逃げるチャンスが出来たと思ったアイシャはカレン達に逃げようと言い、宿屋の片隅であるこの場から離れようと駆け出した。
「えっ、あっ! そ、そうだな、逃げよう!!」
前振りも無く、突然逃げようと言い出して駆け出したアイシャにロロは少し呆然としたが、自身もこれはチャンスだと思い、アイシャに付いて行くように駆け出した。
「ロロ、アイシャ!! 何で逃げるの!? あっ、持ってよ!!」
何故二人が逃げるのか分からないカレンであったがこのままでは自分だけが置き去りになると思い、急いで二人の後を追いかけた。
「ゴホッ、くそっ! 煙幕か!? ゴホッゴホッ!」
咽ながら黒い煙の正体が煙幕だとわかった『トロイカ』軍の指揮官兵は煙幕の所為で視界が遮られ、カレン達と盗賊達を目視する事も迂闊に動く事も出来ず、煙幕が消えるまで同じく咽る仲間の兵士達と一緒にその場を待機せざるに負えなかった。
「!」
やがて。煙幕が薄れて引いて行き、視界が元に戻って来ると、さっきまでそこに居たカレン達と盗賊達の姿は無く、しかも気を失って倒れていた盗賊達までもが一人残らずその場から消えていた。
「くそッ! 逃げたか!? まだそんな遠くには逃げていないはずだ! 探せ!!」
「「「「「「はっ!!!」」」」」」
逃げたカレン達と盗賊達を探せと『トロイカ』軍の指揮官兵は仲間の兵士達に命令し、それに従って兵士達は追い掛ける為にそれぞれに人数を分けて捜索を開始し始めた。
「ロロちゃん…大丈夫かしら……?」
非常階段から下の出来事を眺めていたクレオは、ロロ達が逃げる所を見送った後、心配そうにロロの名前を呟いた
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして一方、『トロイカ』軍の兵士達から逃走しているカレン達は宿屋から離れて都市のある人気の少ない狭い路地の中を走っていた。
「ねぇってば、何で僕達も逃げなきゃいけないの? 僕達何も悪い事はしていないはずなのに………」
走りながらアイシャの後を追いけているロロの後を追いかけながらカレンは何故自分達も逃げないといけないのか、その訳を尋ねた。
「お前はこんな状況になっても、何も分からないのか!!?」
一人だけ状況を読めていないカレンにロロは溜息代わりに怒鳴りつけるように突っ込む。
「此処に入る前にも言ったと思うが、此処は規制が極めて厳しい所なんだよ!」
「そして此処は秩序も乱すものは、例え軽い罪を犯した者であっても、重い刑罰が与えられる所なの!」
フォローするようにアイシャも話に加わる。
「もし此処で騒ぎや暴動を起こして捕まったら、例え被害者であっても最悪牢獄行きって事も有るんだ!」
「牢獄?」
「何週間も檻の中に閉じ込められるって事」
二人共走りながら後ろの位置に居るカレンに『レイチィム』の規制の厳しさと例え被害者であっても捕まる訳と牢獄の意味を簡易的に教える。
「ええっ? そんなに長く待ってられないよ!」
ペンダントを目的の少女に届ける為に早く追い付かなければならないカレンにとって、何週間も閉じ込められるというのはとても受け入れられない物であった。
「だろ! しかも此処では、喧嘩や暴動がご法度だ! どんな理由が有ったって此処では喧嘩両成敗でお互いに捕まっちまう!」
例え相手が悪くても、此処レイチィムでは秩序を乱す者は被害者でも情け容赦ないとロロは大雑把と思えるような説明をカレンに淡々と語る。
「それに俺達がいくら正当防衛で戦った相手が無法者の盗賊だったとはいえ、俺達は最低限の規律を破ったんだ! 捕まって事情を聞いてくれたとしても直ぐに釈放される訳が無い!!」
きっぱりと決めつけるようにロロは言い切った。
「だからこうやって捕まらない為に逃げているんだよ。……君もこんな所で捕まって閉じ込められる程、そんな暇は無いんでしょう?」
狭い路地をあっちやこっちに曲がって進みながらカレンの目的を知っているアイシャは窘めるようにカレンに聞き返す。
「……そうだね! 僕も此処で大人しく捕まっている訳にはいかないよ!」
事情を理解したカレンは、素直に逃げる事を受け入れ、捕まらないようにこのままロロ達に付いて行く事にした。
「げっ!? 行き止まりだ!!」
そうこう話しながら走っていると、曲がった道の先が路地の壁によって遮られた行き止まりに遭い、これ以上先には進む事ができなかった。
「どうすんだ? やっぱ引き返すか?」
道案内のように先頭を走っていたアイシャの後を付いて来たロロは、行き止まりに遭遇して、引き返すかとアイシャに問い掛ける。
「問題無いよ、此処で良いから」
そう言うとアイシャは行き止まりの壁に近付き、しゃがんで壁の手前に在る、地面に埋まっている丸い鉄板のような物を両手で引っこ抜いた。
「それって、マンホール……成る程! 地下水道に逃げるのか!?」
「地下水道?」
引っこ抜かれた丸い鉄板のような物の下には、その丸い鉄板と同じ形と大きさの穴が在り、ロロはその穴を見て、マンホールと呟き、続いて何か納得したかのように地下水道と音量を上げて呼び始め、カレンはロロの言う地下水道と言う言葉に首を傾げる。
「そう、この地下水道なら人目に付かずに『レイチィム』から出る事が出来る」
「成る程……だからこんな人目の無い所のマンホールを選んだ訳か!」
どうしてアイシャはこの狭くて人気の少ない路地に逃げ込んだ理由は『トロイカ』軍から逃げるだけじゃなく、地下水道から逃げる所を目撃されない為でもあった。
「そうゆう事! さっ、早く中に入ろう!」
マンホールという穴の中にアイシャはお先に体を入れて、昇り降りを行なう為の手摺りに手と足を掛け、体が半分以上入った時にカレンが在る事を思い出す。
「あっ! そうだ、僕此処でペンダントの女の子の情報を集めなきゃいけなかったんだ!!」
「!」
盗賊達の事で、その事をすっかり忘れていたカレンは今になってやっと思い出して大声を出してしまい。急に大声で喋り出したカレンに驚いたのか。ピタリと穴の中へ降るのを止めてしまうアイシャ。
そして、ロロもこのカレンの発言にある事を思い出した。
「ああ、そういえばお前の言うそのペンダントの女が何処に行ったか、俺聴いたぞ」
「えっ! それ本当、ロロ!?」
今頃思い出して戸惑ったカレンに救いの手を差し伸べるようにロロは、ペンダントを落として行った金髪の少女の情報を聴いたとカレンに告げる。
「本当に本当!? ロロ!」
「こんな時に嘘なんか言うかよ! いいからさっさとお前も降りろ! 後で話してやるから!」
「分かった! 必ずだよロロ!!」
少女の情報を得られぬまま『レイチィム』を出てしまうのかと希望が削がれるような気持ちになろうとしたカレンは、ロロの意外な発言により、心に希望が咲き直し、嬉しさを満面なく顔に出し、ロロに感謝しながら期待を胸に、自分が降りられる番を待つカレン。
「………」
何故か考え込むように眼を細めて黙り込んだアイシャはピタリと止まっていた体を動かして降りるのを再開し、無言のまま穴の下に潜って行った。
「お前の番だぞ」
「うん、お先に行っているよロロ!」
自分が入って降りても大丈夫な距離になったカレンは2番目として穴の下に潜って行った。
「さて、ここで俺様の力の見せ所だな!」
得意げな顔で周りに誰も居なくなった状況で謎めいた独り言を呟いたロロは自身もマンホールという穴の中に入り、穴のすぐ横に置いといた鉄の蓋を取ってマンホールを閉じり、三人とも地上から地下へ消えて行った。
「……よっと!」
マンホールの手摺りに従って『レイチィム』の下に位置する、地上から数十メートルも離れた地下水道にあまり時間は取られず辿り着いたカレンは手摺りから離れて地面に着陸する。
「此処が地下水道……?」
マンホールの手摺りに従って降っていた時は、周囲は暗くて狭く、息苦しさも感じたがいざ降り終えて地下水道内を覗いてみると空間内は円状型で錆び臭さもあるが意外と広く、何よりも十分明るかった。
「意外と広いな………それに明るい」
空間の中央に水路が伸びていて、その水路の中に円状の白い光を放つ大きな物体が幾つもある一定の距離を置きながら点々と在って空間内を照らしており、これなら『暗通薬』は必要ないとカレンは断定した。
「降りて来たみたいだね」
「あっ、アイシャ!」
一番最初にマンホールを降って地下水道に辿り着いたアイシャはカレン達が着くのを持っていたらしく、次に降りて来たカレンに声を掛ける。
「地下水道って、意外と広くて明るいんだね!」
「そうだね、3人で歩いて何も問題はなさそうだし」
実際今カレンとアイシャが立っている所は空間の中央に在る水路の両端に人が歩く為の通路であり、三人で歩いても問題ない広いスペースだった。
「そういえば……彼はまだなの?」
上を向いてマンホールの中を降っている筈のロロについてアイシャはカレンに聴いた。
「そういえばそうだね…? ロローーー! まだなのーーーー!?」
もう降り終えてもおかしくないのに、何故かまだ降りて来ないロロにカレンは不審に思い、未だにマンホールの中に居るロロを呼び掛けた。
「あーーーーーーちょっと待ってくれ! あともう少しで終わるから!!」
「あともう少し?」
謎めいたロロの発言にカレンは首を傾げ、そしてそう経たない内にロロがマンホールの中から降りて来た。
「……っと、遅くなってごめんな!」
手摺りから手と足を離して、地面に足を着いたロロはさかさずカレン達に遅れて来た事について軽く謝る。
カレン「何をしたの?」
降りて来たロロにカレンは早速、マンホールの中で何をしていたのか尋ねる。
「そうだな………それは歩きながら話そうぜ! お前もそれで良いだろ………えっと………アイシャって言ったっけ?」
降りてそうそう尋ねて来たカレンにロロは話なら歩きながら済まそうと提案し、そしてカレンの後方に居るアイシャに眼を向け、提案の賛否を伺いながら名前も確認する。
「そういえば君には自己紹介をしてはいなかったね、私はアイシャ・フレイク。アイシャって呼んで良いよ」
自分にも話を振られて、それと名前の確認をされた為、アイシャはロロとはまだ名前を教えていなかったと気付き、自身から自己紹介を始めた。
「アイシャ・フレイクね………おうわかった! 俺様の名前はロロ・グライヴィー! 『カム―シャ』村のバンチョーだ、よろしくな!!」
「そう、よろしくね」
「………」
自分の自己紹介をサラッと返された事にロロは、一人だけ空振った気持ちなった。
「それじゃあ、先に進もう」
お互い自己紹介が終わった所で、アイシャは振り返って地下水道の先に進もうと足を運び出した。
「僕達も行こう! ロロ」
「あ、ああ……そうだな!」
何時までも立ち止まっている訳にはいかないので、カレンはロロに自分達も先に進もうと促すように声を掛けて、カレンとロロは何処まで行けば外に出られるか分からない錆びの匂いがする地下水道の通路に足を踏み込んで、一緒にアイシャに付いて行った。