助ける理由
一方その頃、今日一日で不幸な出来事が度々起こり、そしてついに年貢の納め時のようにまんまと盗賊達に捕まってしまったロロはというと。
「あ~~~~~~~! カレン!! 早く、早く! へ、ヘルツ・ミー!!」
「〝ヘルプ・ミー〟な」
盗賊の一人に突っ込みを貰いながら宿屋の人気の無い片隅で追い掛けて来た盗賊4人組みに拘束され、連れて来られたロロは大声で何処かに居るカレンに救援を必死そうに求めていた。
「ハン達の奴、遅いな?」
「ああ、何でも在る物を取りに行くって言っていたが……?」
「で……それを取って来るまでこの獣人のガキを見張って、もう一人のガキがコイツを助けに来るのを待ってろ! って事だとさ」
スキンヘッドの盗賊達の合流が遅いから雑談を始めた盗賊達の話によると、ロロを囮にしてカレンを誘き出し、在る物という物を取り出すまで、待っていろという指示であった。
「でもよ~~~そのもう一人のガキっていう奴は本当に来るのか?」
つまらなそうに溜息を零す盗賊の一人は、どうやらカレンがロロを助けに来るのを疑っていた。
「さぁな? でもハンが言うからには本当に来るんじゃないか?」
「でもよ、自分からわざわざ身を危険に晒してまで他人を助けに来るとは思えないぜ? 俺は」
「そうだな~~~……案外もう一人でトンズラしてんじゃね?」
「!」
ギクッと盗賊達の会話を聞いて、体が跳ねると同時に心が動じるロロ。
「(そ、そうだ……俺とアイツは一緒に行動していた中だが、良く考えりゃ今日初めて会った他人だ! アイツが必ず俺を助けに来るとは考え難い!)
「だよな~~~! 俺でも迷わずにトンズラしてるぜ!」
心の中で、カレンが自分を本当に助けに来るのかと不安が出て来たロロに、追い打ちを掛けるように盗賊達はロロの不安を更に煽るみたいに会話を続ける。
「まっ、他人の為に命を投げ出すような馬鹿はいないよな!」
「言えてる言えてる!」
「残念だった! ボウズ!」
そう言ってロロに哀れみの言葉を盗賊の一人が言ったのを切っ掛けに、盗賊達の中で笑いが飛び交う。
「………」
何も言い返せないロロは悔しそうに歯を食いしばり、込み上げる怒りと不安を必死に抑えようとした。
「(確かにアイツ…カレンは俺よりも田舎者で、世間知らずの常識知らずで、何かこう……変な奴だけど……)」
心の中で、カレンの事を思い浮かべ出したロロは、今日初めて会って間も無いが、行動を共にして、カレンという人物を少しだけ知った。
「(でも……悪い奴じゃない、どっちかと言えば良い奴だ)」
そう思っていると何故か心の底から少しだけ希望と期待が溢れて来るロロ。
「(そう、『ド』が付く程の………)」
「ロロ!!」
「!」
心の文章を遮るように突如、今頭の中で思っていたカレンの声だけが耳に響き渡る。
「なっ、何だ!?」
「声? ど、何処から!?」
突然、聞き慣れない聞こえた声に、驚いて辺りを見渡す盗賊達、だが、盗賊達は上には目を向けてはおらず、その上から声の主、カレンが落ちて来た。
「「「「「!!」」」」」
持った剣の剣先を前に出して、逆立ちのような落下態勢で地面に剣を深く刺して着地したカレン、地面に刺さった剣は上から落ちて来た勢いで、大地を割り、辺り一帯に在る物全てを揺るがした。
「「「「な、な、なっ、何ぃ!??」」」」
「……!」
大胆かつ無謀な登場に、度肝を抜かれた盗賊達とロロは唖然とし、言葉を失う。
「助けに来たよ、ロロ!」
逆立ち状態を、踏ん反り返るように体を半回転し、今度は自分の足で地面に着地して、その回転した勢いで地に深く刺さった剣を抜き取り、すかさず剣を構え戦闘態勢に切り替えるカレン。
「こ、このぉ!!」
「野郎!」
予想外の参上の御かげでうわの空だった盗賊達であったが、間も無く我を取り戻し、慌てながらも腰に掛けて合った剣を取り出し、二人の盗賊がカレンに向かって斬りかかろうと突進して来た。
「ふん!!」
しかし、行動の早さはカレンの方が上で、向かい打つように素早く盗賊二人の懐に入り込み、二人の体を正確に捉え、剣を力一杯、横に流す感じで振るった。
「!!!」
二人の盗賊が剣を振るう前にカレンの攻撃がやって来て、二人まとめて薙ぎ払われる。
「がっ?!」
「ぐふぅ!?」
剣の剣背部分が当たって、大事には至らなかったが、振るった剣に体ごと吹き飛ばされ、かなり距離が有った後ろの壁に激突し、二人は体を小刻みに震えながら気絶した。
「こ、このぉ!!」
「っ!」
戦闘開始僅かで残り二人になった盗賊の一人がカレンの後ろに回って、背後から斬りかかろうとしていた。
「カレン!」
「!」
剣を振り下ろした盗賊であったがそこにはカレンが居ず、代わりに地面に突き刺さったカレンの大剣があり、振り下ろされた剣は大剣に受け止められ、一方そこに居た筈のカレンは、剣を地面に突き刺した状態でまた逆立ちみたいに体を浮かせ、攻撃を避けていた。
「たぁ!」
逆立ちの状態を剣の取っ手を片手だけ掴みながら体を支え、そして体を前に傾け、盗賊の頭上に片足を振り下ろす。
「ごっ!!」
脳天に勢いが付いた蹴りを喰らわされた盗賊は顔から地面に激突し、そのまま大地に体を預けるように何も言わず、痙攣する事も無く、静かに気絶する。
「く、くそっ!」
「げっ!?」
残りに一人になってしまった最後の盗賊は、自分が不利になったと思い、咄嗟に近くに居る拘束状態のロロに剣を突き付ける。
「動くな! コイツがどうなっても良いのか!?」
「!」
3人目の盗賊を倒して地面に着地したカレンに、最後の一人の盗賊はロロを盾にして脅しを掛けた。
「まずは、その武器を捨てろ!」
「か……カレン……」
「……」
動けないロロを人質にして武器を捨てろと呼び掛ける盗賊に、カレンは無言のまま、大地に刺さった大剣を抜き取り、大人しく剣を捨てようとしたその時。
「!!!」
刹那……突然、ロロを人質してカレンを脅していた盗賊の顔にカレンの魔装器、大剣が目にも止まらぬ速さで顔面に向かって、そのままモロに直撃していた。
「なっ!」
「ぶはっ………!」
何が何だかよく分からずに剣の剣背部分が直撃した盗賊は、ゆっくりと地面の方に傾き、重力に従って、疑問を考える間も無く、大地が揺れるような音を出して倒れて行った。
「ロロ! 大丈夫!?」
「あ……ああ」
何が起こったか分からない盗賊とは裏腹に人質だったロロの目は全てを見ていた、カレンが大人しく剣を捨てようとした時、そう思い込ませてカレンは、剣を素早く持ち変え、一瞬で盗賊に向けて投げ飛ばした所を一部始終の全貌をロロはその目で捉えていた。
「……おい、カレン」
「ん、何?」
心配そうに駆け寄って来たカレンにロロは何処か不満そうな顔でカレンを睨み、声を低くして名前を呼ぶ。
「お前な……俺にも当たったらどうすんだよ!?」
「え?」
何を言い出すのかと思いきや、ロロはカレンの助け方に文句を言い出して来た。
「もっとまともな助け方は無かったのかよ?」
「ごめん……ロロを傷付かないで、この人を倒すのはこれしか思い浮かばなかったんだ」
大剣を顔の上に乗せながら気絶している盗賊に目を向けて、歩きながら自分の考えを伝えたカレンは、ロロの背後に近付き、体を縛っている縄を解こうとしゃがみ込んだ。
「……何で、助けに来たんだ?」
「何でって……助けてって、叫んでいたじゃない?」
「そ、そりゃあそうだけどよ……でも……」
自分が助けを求めていたくせに、カレンが何で自分を助けに来たのかをロロは恥ずかしくようで顔を少し赤くしながら話を続ける。
「でも、俺達は今日初めて会って、知り合った仲……ハッキリ言えば赤の他人だ、そんな知り合って間も無い俺を何で助けたんだ? 身の危険を晒してまで?」
バツが悪そうに顔を背けながらも、カレンがどうして今日会ったばかりの他人である自分を助けに来たのか、その訳を問い掛けるロロ。
「僕がロロを助けるのに今日初めて会ったとかは関係ないよ」
「えっ?」
何の迷いも考える素振りも無く、すぐさまカレンの口から出て来た言葉は、真っ直ぐ前を見詰める瞳と同じくロロの心に響く。
「僕はロロを助けたいと思ったから、助けたんだ。だからそれ以外、何の理由も無いんだ……たったそれだけだよ」
「………」
大義とか信念とか、そうゆう大層な物ではなく、ただ純粋に自分を助けたいという理由で助けに来たカレンにロロはカレンの優しさ触れ、心が温かい気持ちになり、ロロは目を丸くして声を出せず、大人しくなってしまう。
「それに、君の言う通り僕達が今日初めて知り合った他人だったとしても、僕は多分理由が無くたってロロを助けていたと思うよ」
喋りながらロロを縛っていた縄を解こうしていたカレンは、ようやく縄を解き、ロロを解放し、静かに立ち上がる。
「………カレン」
「何?」
やっと自由になれたロロはカレンが先に立ち上がったのを続くかのように起き上がり、立ち上がった後に、呼び掛けるロロをカレンは笑顔で聞き返す。
「はっ……お前って、結構クサイ奴なんだな」
「くさい? えっ、何処が?」
クサイと言われ、自分の体の匂いを嗅ぎ出すカレン。
「そういう意味じゃねーよ」
大体予想が付いていたのか、カレンのボケに苦笑いしながら、さらっと突っ込むロロ。
「そうだな、簡単に言うば、お前が『ド』付く程のお人好しなんかじゃない……」
頭の後ろに腕を組んで、歩き出してカレンから少し離れたロロは、足を止めて、顔だけを振り向かせてカレンに目を移す。
「お前は『超』が付く程のお人好しだって事だ!」
「?」
馬鹿みたいにお人好しにちょうど良いと思ったロロは『ド』を『超』に変えて伝える。その違いの意味が分からないカレンは、頭の上に?マークが付いたかのように首を傾げ、そんなカレンを見て、ロロの顔に微笑みと失笑が零れる。
「まぁ、そんな事はどうでもいいか! 後さ……カレン」
笑みを浮かべたまま、ロロはカレンを真っ直ぐ見詰めて、口を再び開く。
「助けてくれて………ありがとな」
「……うん」
随分な前置きのような言い回しだったが、照れ臭さはあるが最後は素直に感謝の気持ちを、ちゃんと面と向かって伝えて来たロロにカレンは、ニコッと笑って頷く。
「さ、さて、他の盗賊達が来る前にさっさと此処から逃げようぜ」
礼を言った後に恥ずかしさも加わったのか、それを隠すようにもっとも理由を言って誤魔化し、この場から逃げようとしたロロであったが。
「まだ、帰るには早すぎるぜ! ボウズ共!!」
「「!」」
急に何処から音波のような大きい声が聞こえ、カレンとロロはその聞き覚えのある声に反応する。
「この声って………!」
「ロロ、あれ!」
声の持ち主を探そうと辺りを見渡たそうとしたロロにカレンは空に指を指して、ロロに何かを見つけたかを教える。
「あ、あれは!?」
指を指して方向に釣られて顔を空に向けると、そこには、空高く太陽を背にしてよく見えないが謎の黒い影の物体が複数と浮かんでいて、その黒い物体達はゆっくりとカレンの達の前に降りて来る。
「な、何、あれ?」
降りて来た謎の物体達の姿を間近で目に捉えたカレンは、目を細くし眉を吊り上げて、その物体の外見に驚きを隠せなかった。
「魔物じゃない……これは?」
その降りて来た複数の物体は、明らかに魔物とは違い、今までに見た事が無い、3メートル位の丸い形をした鉄で出来ているような硬そうなイエロー色の体に、棒状みえる両腕と両脚に長い四角形のような手とまるでお餅のような円状の足、そして丸い体の中央より上の部分に、大きな六角形のガラスが張っていて、その姿はまさに機械的な感じであった。
「BATTLE・MACHINE?」
「その通り!」
「!」
この物体の正体を知っているのか、「BATTLE・MACHINE」と呟いたロロに応えるように、物体の一体からさっき聞こえた、聞き覚えのある声を発した。
「迎えに来たぜ! お前達を葬る為に持って来た、『BATTLE・MACHINE〝TYPE=HUMAN〟』だ!!」
「「!!」」
全身殆どイエローに染まった物体の複数の中からある一体が前に出て来て、その丸い形をした物体もといバトル・マシーンと自ら紹介し、球体に見える体の中央より上の部分に張り付いていたガラスが起き上がるように開き、中にあのスキンヘッドの盗賊が入っていた。