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ユニヴァース  作者: クモガミ
始まりの一日
2/125

空から落ちてきた少年と湖に居た少女

朝日が昇り新しい日を教えてくれる日差し、空は晴れ模様で雲はあるが太陽の全てを包み込む大きさは無く、日光が雲によって出たり隠れたりする程度であった。

そして、鳥たちは空へ羽ばたき雲の下まで飛び上がった。その鳥たちの上の雲よりさらに上から一人の〝少年〟が落ちてきた。

少年は重力に沿ってどんどん下に進み、雲の中を突き破り更に下へ落ちて行き、やがて鳥達すらも通り過ぎるとその落ちている〝少年〟がやっと目を覚ます。

「………………」

目を覚ましたばかりの少年はまだ寝惚けたような顔で周りを見渡した。

「……………」

寝惚けで頭が回らない少年は今自分が置かれている状況をまだ理解しておらず、落下していく中で自分が今何処に居るのか、よ~~く考えてみると。

「!」

ハッと少年はやっと自分の置かれている状況を把握し、慌てて周りを見回りだした。一方少年の遥か下にある湖に人影があった。その人影は水浴びをしている一人の少女でした。

「~~~~♪」

鼻歌を歌いながら少女は上機嫌に水を体に浴びさせていた。

そして、少女はもう十分だと思い、大きな岩場の上が小さな滝になっている岩場の溝の中に昇り上がり、中に置いた服を取って着替えをしようとした。

「…………! ……………………!!」

一方少年の方は慌てるも虚しくみるみると地上に近付き、下にある湖がハッキリ見えてきてあと数十秒で湖に叩きたけられる事は目に見えていて少年は咄嗟に手を前に出し、腕をクロスさせて身を固めて目を固く閉じた。

「!!!」

ついに少年は湖に激突し、落下の衝撃で大きな爆音と共に大きな水柱が立ち、岩場の溝の中に居た少女は突然の出来事に驚く。

「! なっ、何!?」

困惑する少女を余所に少年は湖の深い処まで入り込み、湖に激突した衝撃のせいで意識が朦朧となり、意識を放しそうになるが息が出来ない事に我を取り戻し、上を見上げ、日差しが差し込む水面を発見して無我夢中に上を目指して泳ぎ、数秒経たない内に湖から顔を出した。

「プハッ!」

息が出来る事を確認したちょうどその時、太陽に雲が掛り日差しが途切れ、湖一帯が薄暗くなった。

顔を出したばかりの少年はそんな事も気付かず、何度も呼吸が出来ることを確認した後にようやく周りを見渡した。

「………………」

視界が悪い薄暗い中を少年はとりあえず前へ進み、目の前にある小さい滝がある岩場の方まで近づこうとしたその時、雲は太陽から離れ日差しが戻り、湖は再び照らされ辺りが瞬時に明るくなった。

「「!」」

視界がハッキリして少年は岩場の溝の中に誰か居る事に気付く、一方少女も湖の中に誰かが居ることに気付いた。

「「……………」」

二人はやっとお互いの存在に気付き、目と目が合い、見詰め合った。

しかし、ここで一つの問題があった…………それは少女がまだ服を着る前であり、未だに下着を手に持ったままで言わば少女は全裸の状態であり、その事に気付いた少年は目のやり場に困り、目を背ける。

「「……………」」

気まずい空気が流れ、長い様な短い沈黙が続き。そして。

「イヤァーーーーーーーーーっ!!!」 

叫び声と共に、魔法陣が現れ、魔法陣から大きな水の塊が少年に向かって飛び勢い良く飛び出し、少年は避ける余裕も無く。

「!!!」

爆音と共に水柱が立ち、少年はまともに少女の魔法を喰らい、再び水の中に入り込む。

一方、少女は慌てて服を取って、少年の事など見向きもしないで、その場を急いで離れ。

そして、少女の渾身の重い一撃を喰らった少年は朦朧とする意識に中で、ついに意識を手放した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


いつしか時が経ち、少年はいつも間にか陸に上がり、小さな岩を背にして眠っていた。

そして、少年は目を覚まし、辺りを見渡す。

左の方を見るとさっきまで居た湖がすぐ傍に見える。

すると右の方から足音が聞こえ、足音がする方に顔を向けるとそこにはやや太った髭の生えた男性が歩いてきて、男性の方も少年の事に気付いた。

「おお、起きたか! どうだ、何処か痛い所は無いか?」

と、男性は、心配そうに声を掛け、傍に寄ってくる。

「やぁ、驚いたぞ! 水を汲みに此処の湖に寄ったら、急に馬鹿デカイ音が響いてな! ビックリしたら、そう経たない内にまた同じぐらいのデカイ音がしてな!」

男性は自分が此処まで来た経緯を話し出した。

「何事かと思ってやって来たらそこの湖の真ん中で、お前さんがプカ~~っと水の中に浮かんで居たもんだからたまげたよ! もうビックリの連続だ」

と男性は淡々と話を進めて行く。

「急いでお前さんを引き上げて容体を調べて診たら気絶してるみたいだったんでなぁ、だからお前さんが目を覚ますまで介抱していた訳だ。」

どうやら少年は湖の上で気を失っていたところをこの男性に救われたようで、おまけに当然湖に落っこちたのでずぶ濡れだった身体を拭いてくれたのか、カーキ色の髪と身体は少しばかし潤んでいたが水分は無く、くしゃみや寒気等は来なかった。

そして全ての経緯を話した男性はゆっくり腰を下ろして少年の横に座り、手に持っていた水筒を少年に差出した。

「飲むか?」

少年は男性の心遣いに感謝し、水筒を手にした。

「ありがとう」

お礼を述べて水筒を口に含み、中の水を口に流して喉を2、3回鳴らし、乾きを潤いだ。

もういいと飲み終えた少年は水筒を男性に返し、男性はそのまま水筒を口に含み、喉を鳴らす。

そして、水を飲み終えると男性は少年に尋ねた。

「所でお前さん、湖で何があったんだ?」

少年は男性の質問に対して湖での出来事を振り返った。

目を開けたら空の上で何が分からず、そのまま湖に落ちて水面から顔を出して、そして前を向いたら。

「女の子が………」

ボソッと少年が呟く。

「女の子が?」

反応して、男性も言い返す。

「女の子が………」

遠く見るように少年は湖で遇った女の子をゆっくりと思い浮かべる。

つらりとした綺麗な肌に腰の辺りまで下ろした長くて美しい金髪、濁りの無い水のように蒼く透き通った瞳、それに見合った気品さを感じる顔、そして豊かな―――…………。

邪的な事を思い出そうとしてしまうところだった少年はそれ以上、思い出すのを止めて邪念を振り払うように頭を左右に振る。

「お、おい、どうした? 女の子が一体どうしたんだ?」

男性は少年の行動に困惑する。

「い、いや!何でもない……何でも……」

何かを隠そうとしている少年の言動を察した男性は。

「じゅあ、質問を変えるが、お前さん何処から来たんたんだ? 此処から近い村から来たのか?」

この質問に少年は。

「何処から……?」 

顔を俯き始め、また遠くを見詰めるように考え込む少年。

「何処から……来たんだろう? 僕は……一体何処から来たんだろう?」

何も思い出せない少年の発言に『まさか』と言葉を無くす男性。そして。

「僕は……誰なんだろう?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 思いも由らない言葉を口にした少年はその後、男性に自分の身元が確認できる物を持っていないかどうか、少年に確認させる。

「身元がわかる様な物無し、所持金も無し、見慣れない服以外何も無し。困ったなぁ~~、これじゃあ~~お前さんが何処から来たか、さっぱりわからんよ~」

ハァっと溜息を吐く男性。

「本当に何も思い出せないのか?」

この問いに少年は首を縦に振って答える。男性は再び溜息を吐く。

「しかし、本当に困ったなこりゃ~~~……ん?」

男性は少年の肌色の瞳と中性的顔立ちを眺めながら、視線を下へ持っていくと左腕の手首に止まる。

「お前さん……その左手首に付いているのは………」

「えっ?」

少年は男性に指摘された左手首を見ると、手首にリング状のような物が付いていた。それに触れて、何なのか確かめた男性が。

「ほう………木製のブレスレットかぁ、良く出来てるなぁ~~」

ブレスレットの出来まいに関心したのか。興味深そうに少年の手を取り、手の平の方まで見る。すると。

「おっ、文字が刻み込んであるぞ! えっとなになに……」

そこには、 KAREN と刻み込んであり。

「カ・レ・ン ?」

その名前に聞き覚えを感じた少年は。

「きっとこれがお前さんの名前だよ。ブレスレットに名前が刻んである。ということは、お前さんの物であり、同時にお前さんの名前でもあるんだよ。」 

確信したのか男性は安堵の息を漏らす。少年の方もこの名前を何度も呟く。

「カレン……カレン……」

少年は自分が口に出している名前を言う度、強い確信に近い物を感じ。それを察した男性は。

「で、それがお前さんの名前だよな」

期待に満ちたような目で少年の心境を窺う男性、そして。

「うん……これが僕の名前だと思う……」

少年は自分の名前がわかった様で笑顔で答える。

「よし! これは大きな一歩だぞ~~。名前さえわかれば、少しはお前さんの身元が分かるかもしれん。最もお前さんの事を知っている人に出会えばの話だが………まぁなんとかなるだろう。あっ、そうだ!」

何か思い出したのか、男性は自分の胸に手を当てた。

「ワシはコルト。世界を旅して渡る商人だ」

「商……人……?」

「そうだ。もっとも世界中の国々を周っている訳じゃ無いけどな」

頭をポリポリ掻きながら、照れ臭そうに言うコルト。

「ああ、そういえば、これから近くの村に行こうと思うんだがお前さん――いや、カレンも一緒に来るか? 乗せて行ってやるぞ」

その発言に首傾げるカレン。

「乗せる?」

「おおそうだ。ほれ、あそこに馬車が見えるだろう? あれがワシの馬車だ」

指を指す方に木岐を越えた先に馬車が止まっていた。

「………………」

その提案について考え込むカレン、そんなカレンの様子を見たコルトは気を遣って。

「まぁ、突然の出来事で、そう簡単に決められる事じゃないよな………。じゃあ~~少し時間をやるから、決心したら馬車の方まで来てくれ」

「ありがとう……………………」

カレンは礼を言い、コルトは『じゃあな』と手を上げ、振り返って馬車の方に向かう。一人になったカレンは湖の近くを歩きながら頭の中を整理しながら考える。

「(僕は何で空から落ちて来たんだろう……? なんで記憶を失ったんだろう………? そしてこのブレスレット以外、何で何も持っていないんだろう……………?)

しかしどんなに思い出そうとしても何も浮かぶ事は無かった。

「(だめだ! 考えても全然思い出せない! どうして何だ!!)」

頭を左右に振って、行き場の無い不安や焦りに取り払おうとした。

「本当に………どうしてこうなったんだろう…………?」

ブレスレットを見詰めながらボソッと呟いているとあの時の少女が立っていた小さな滝が掛った岩場の溝に近付いていた。

「ん……?」

視界にあの少女が居た岩場の溝の中に何か光る物を見つけ、カレンはそれに近付き、手を伸ばして拾い上げる。

「これは………ペンダント?」

拾い上げた物は綺麗な金色のペンダントで中央に小さな宝石みたいな物が埋め込んである。何となくカレンはペンダントの上の部分を押してみるとペンダントの前部分が開いた。

「これは…………」

そこには破れた小さな写真があり、その写真の中にあの時の少女と小さな男の子が居た。

しかし、写真に写っている少女はあの時の少女に比べて幼く、これは昔の写真と思ったカレンはそのペンダントを見詰め、ゆっくりフタを閉じた。

「あれ? このペンダントにも裏に文字が刻んである」

今度もなんとなくペンダントをひっくり返して見るとそこにはカレンのブレスレットと同じく、文字が刻み込まれてあった。

ペンダントには『BLUE―――』とそれ以上は磨り削られたのか、よく読むことが出来なかった。

「ブルー? これがあの子の名前?」

あの少女がブルーという名前かどうかは分らないがこのペンダントがあの少女の物という可能性は高かった。

「(これは…………あの子にとって、大切なもの………?)」

何故かそう思ったカレンは再びペンダントを見詰める。

「…………………」

そして数秒間の沈黙が続き、カレンは何か決心したかの様に強く頷いてペンダントを胸ポケットにしまい込み、コルトの馬車の方に向かって走り出す。

来た道に戻って湖を囲む木岐を抜けた先に馬車の席で待っているコルトを見つけて。

「コルトさん!」

名前を呼ばれてコルトは振り向き。

「おお来たか! で、決心したか?」

待っていたのか、返事を早速聞き始める。

「はい、とりあえず。その近くにある村に行ってみたいと思います。だから連れて行ってください!」

「よし! そうと決まれば、お安い御用さ! さっ、早く乗んな!」

「はい!」

了解したカレンは馬車に昇り上がり、トルコの隣の席に座る。

「ちゃんと乗ったな? よし! 出発だ!」

ハイィッ! と馬に出発の掛け声を出し、馬車を前進させる。

「その村って、此処からどれ位掛るんですか?」

「なーに、此処からだとほんの十分程度で済む。あっという間さ」

そう言いながらコルトは馬車の速度を上げ、限りなく続く青い空の下で土の大地を駆け抜けた。

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