軍用都市『レイチィム』
そして、膨大な高原の中にある、野道を数十分話しながら歩き続けた二人の目に大きな影が映る。
「此処が………『レイチィム』」
「何年振りだろうな………此処に来るのは……」
二人の眼の先には山と思えるような長くて大きい建物、ビルという物が聳え立っていた。
「何年振りって………前にも来た事があるの?」
「ああ…一回だけな……」
「ロロ?」
何処か遠目で何かに浸っているような感じのロロにカレンは心配そうに声を掛ける。
声を掛けられ、ロロはハッと目が覚めたように眼を見開く。
「どうしたの?」
「いや………何でもねぇよ、さっさと入ろうぜ………」
いつもとは何か違う感じがしたロロにカレンは不審に思うが、ロロは誤魔化すように『レイチィム』に入る為に足を進める。
「しかし……やっぱり大きいよな~~~」
「そうだね………」
見上げて改めてビルの高さを確認するロロとカレンはそのビルたちを囲むように円状の高くて厚い壁が都市全体を包み込んでおり、その壁に出入り口と思われる大きな門のような物が二人の目に入り、カレン達はその門の前で立ち止まる。
「これが、入口かな?」
「そうだよ………あっ、そうだ、カレン!」
「? 何?」
門の中に入る前に何かを思い出したかのようにカレンを呼び掛けるロロ。
「入る前にその剣………魔装器を閉まっとけ」
「えっ……何で?」
突然カレンが背負っている、大剣の形をしている魔装器を元に戻せと言い出すロロ。
「此処は民間人の武器の持ち込みは、厳しく規制されているんだ、もしそんな物を背負って都市の中をうろついて、怪しく思われたら軍の警備兵に事情聴取されるぞ!」
「事情聴取?」
門の左右の端に居る警備兵とロロが呼ぶ人物二人に指を指して、怪しく思われると事情聴取されるとカレンに注意するが、カレンは事情聴取という意味が分からないようである。
「事情聴取って言うのは……あれだ……あの………」
事情聴取という意味をカレンに説明しようとするロロであったが、詳しい事を言葉にして説明するのが難しいみたいで、どうも歯切れが悪い。
「と、とにかく! 面倒な事は極力避けたいから、入る前にそれをしまい込め!」
「う…うん、わかった」
よく分からないが血相を変えて警告するロロに押され、カレンは背中に背負っている魔装器を取り出し、剣格辺りに収まっている核であるストライクを取り外す。
「REGI・OUT」
声と共にカレンの魔装器は剣先が消え、ガジェッタ―だけが残り、外して手に持っていたストライクが手から飛び離れ、カレンの肩に止まる。
「よし……それじゃあ中に入るか」
「うん」
ガジェッタ―を腰に掛けて、カレンの準備が整った事を確認したロロは、門の先にある都市の中に入ろうと足を進め、カレンのその後に付いて行く。
「「………」」
「……」
二人とも無言で都市の中に入って行き、同じく無言で門の端に居る警備兵の視線の感じながらも、カレンとロロは特に怪しい点が無いため声も掛けられずに何事も無く門を通過し、二人は無事に『レイチィム』に入る事が出来た。
「怪しまれずに済んだね」
「当たり前だよ! 俺達は何にも悪い事はしてねぇし、怪しい所なんて一切無いわ!」
まるで自分たちが怪しい人物だと思われているような発言したカレンにロロは呆れながらも素早い突っ込みをかます。
「まぁあ…お前の服はここら辺じゃ、見掛けない格好だが……それ以外は何も怪しい所なんて、見当たらないぞ」
「そうなの?」
山吹色のジーンズに黒い線が縦と横に入った白いパーカーのような上着を着ているカレンの服は、黒いズボンに茶色と緑のセーターのような上着のロロとは対照的にかなりかけ離れてはいるが、外見年齢はロロと大して変わらない為、この辺りでは見掛けない服装だとしてもロロと一緒に居る御かげで特に気になる感じを起させない。
「もし怪しかったら、門の前で捕まってるだろ?」
「言われてみれば、そうだね」
的確な指摘にカレンは納得したかのように気付き、そんなカレンにロロはやれやれと呟く。
「そんな事により……先に進むぞ」
「あ……うん」
再び足を進めたロロにカレンは隣に付いて、都市の中を探索し始めた。
「うわぁ……すごい! これ全部ビルって言う建物なの?」
「ああ、そうだ」
山のように高くて見上げるほどの長さではないが、都市中にあらゆる長さのビルが沢山在り、都市全体を覆い尽くしているようで。カレンは都市の中を並び立つビルの数とその風景に興味心が湧き、すかさずロロに尋ねる。
「この『レイチィム』って、どうしてこんなにビルが多いの?」
「それりゃあ、人が多く住む為に土地の幅を無駄に使わない為に、ああゆう縦長の建物が必要なんだよ」
人混みの中を掻い潜りながら、都市の中のビルの在り方を解説するロロは、カレンと共にこの広い都市の中心と思われる噴水の在る広場に行き着く。
「へぇ~~………なんだか『カム―シャ』とは全然違うね」
「比べんなよ、あそことは人口も設備もまったく次元が違う!」
都市と村ではまったく比較にはならないのに自分の村の『カム―シャ』と比較されて、ロロはやや怒った素振りでカレンに反論する。
「ご、ごめん………『カム―シャ』ではこんなに人も居ないし、建物の大きさや数も全然違うから、何だか凄く意外で、つい……」
この『レイチィム』に入ってからそうだが、この広場に来るまで、『カム―シャ』では比べ物にならない程の人だかりやビルという建物や設備に圧倒されたカレンは、無意識に比較してしまい、悪い事を言ってしまったと思って、ロロに謝罪する。
「まぁ…いいけどよ、俺の村が田舎だって事は、この大陸に住む皆が知っている事だからな………」
どうやら自分の村が田舎だって事は自覚しているようだが、それを口にするロロの顔は何だが何食わぬ表情をして、何処か不満そうだった。
「だがな………お前の育った所がどんな所かは知らないが、魔物も魔法も知らない常識知らずのド田舎の場所よりは、断然マシだ!」
開き直ったようにカレンの育った所が、自分の所よりド田舎でカレンの常識知らずに繋がっていると勘違いしているロロは、勝ち誇ったかのように仁王立ちの姿勢になる。
「(あっ……そういえば、僕は記憶が無いって事をまだ言ってなかったんだっけ………)
記憶喪失である事をまだロロに伝えていなかったと思い出したカレンは、このまま何も知らせないままにはしてはいけないと思って、告白しよう口を開く。
「ロロ、僕は―――」
「そういえば、カレンはこの後どうするんだ?」
言う前に割って入るようにロロが、急に話を振る。
「どうするって……何を?」
「決まってるだろ? お前の探しているペンダントの持ち主をどうするかって話だよ」
「えっ……ああ、その事?」
何を言い出すのかと思いきや、ロロはカレンが探している金髪の少女の事が今になって気になり、興味心で行方をどうやって探るのかを聞いて来た。
「そうだね、やっぱり……此処に住んでいる人や僕達みたいに外から来た人たちに聞き回ろうと思っているんだ」
探している人物が此処に来ているならば、この都市に居る人々に聞いて回れば、必ず誰かが見掛けていると悟ったカレンは、手当たり次第に尋ねようと考えていた。
「成る程な……でもカレン、そんなチマチマした方法より、宿屋で情報収集した方がいいぞ?」
提案を出すようにカレンにアドバイスを贈るロロ。
「宿屋? ……何で?」
何故宿屋なのかと疑問に思い、聞き返すカレン。
「宿屋では、色んな所から来た外の連中が泊まりに来る場所だ、もしかしたらお前の探しているその女が泊まっているかもしれないぞ!」
「本当!?」
この発言にカレンの眼に希望の光が宿り、ロロのアドバイスを一言も聞き逃さないように耳を傾ける。
「例えその女が宿屋に泊まって居なくても、宿屋には色んな情報が入って来る! 情報収集には売って付けの場所だ!」
記憶喪失で世間にも常識のも疎い今のカレンにとっては、少女の行方の情報が欲しい状況で、この情報はとても嬉しい物であった。
「宿屋か……ロロ! 此処に在る、その宿屋は一体何処に在るの!?」
「宿屋だったら、俺も泊まりに行こうと思っていた所だからな! 付いて来いよ!」
「うん!」
自分も宿屋に泊まるついでにカレンも案内してやろうと思ったロロはカレンを引きつれて、二人は宿屋へ向かった。