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ユニヴァース  作者: クモガミ
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リリーナ

ロロが姉と再会してから約10分程の時が経過し、ロロを含めた五人は応接室という個室に招かれていた。

その応接室の中央に四つのソファーが丸いテーブルを挟んで北・南・西・東の位置で並んでおり、その南側のソファーにカレン・ロロ・アイシャが座り、西側はミツルギ、東側はブルー、そして北側にはロロの姉が座っていた。

するとロロの姉はソファーに座って腕を組んだ状態でゆっくりと口を開く。

「……つまり、お前は成り行きで盗賊団に追われる事態に陥り、その盗賊団から逃れる為に私の元まで来た。そういう訳か?」

「あぁうん、大体そんな感じ」

今まで経緯をある程度話したようで、姉の口からこの『サムイング』まで来た理由を簡潔的に述べられて頷くロロ。

本当は軍にも追われる羽目になったのが一番の要因なのだが、そんなことを馬鹿正直、しかもその軍に所属している軍人の姉に言える訳がなく、仕方なくそのことは伏せたようだ(経緯を話している途中、カレンが本当のことを言いそうになったがロロの肘撃ちでそれを防いだ)。

「そして彼等はお前が盗賊団に襲われている所を助けてくれた、と?」

「そうそう! そうなんだ」

ちなみにカレン達の事は盗賊団から助けてくれた恩人という設定し、四人は空気を読んでその通りだとロロの話に合わせて頷く。

一通りロロの話を聞いた姉は溜め息を溢すと共に肩を落とす。

「お前は昔っからホラ吹きだったが、彼等がお前の証言を肯定するのならば信じるしかないか」

"彼等,,と称したカレン達四人の顔を見渡しながら姉はロロの言葉を信じた。

そしておもむろにソファーから立ち上がり、カレン達面々に向けて頭を下げる。

「見ず知らずの他人とは言え、弟を助けてくれてありがとう。君達は私にとっても恩人だ、本当にありがとう」

弟のロロの話を信じた姉は弟を救ってくれた恩人達に感謝の言葉を送る。

極一般な感謝の仕方だが、真剣な雰囲気を纏った姉から発せられた優しい声色はとても感謝しているという気持ちが伝わってくるようだった。

ロロが事実を少し改変した作り話だが、それを知らずに姉に深く感謝されたカレン達は深い感謝の意を示されたことで照れ臭くなったのか、それとも嘘をついていることに罪悪感を覚えたのか、お互いの顔を見合った後、姉にこう促す。

「顔を上げてください姉君、そう畏まれたら照れ臭くなってしまう」

「そうですよ。助けたと言っても私達はそれぞれの都合でロロを助けたに過ぎませんし、お礼を言われる程では……」

「まぁ私の場合は結果的にそうなっただけしね」

「僕達もロロに助けて貰ったこともありますし、お会い子ですよ」

と四人はロロの姉は頭を下げた状態で首を左右に振り、

「いや、そうだとしても君達がロロを救ってくれたのは変わりない。この馬鹿の為に身体を張ってくれたことに心から感謝する」

そう言って頑なに頭を上げようとしなかった。

目立ちたがりなロロとは正反対な生真面目な姉にカレン達は困り果てたような表情を浮かべる。

「(なんか……とてもロロのお姉さんとは思えないね)」

「(うん、ロロと違ってしっかりしてるし)」

「(ほっとけ)」

一緒のソファーに座っているカレン・アイシャ・ロロは小声でそう話し合う。

そして未だに頭を上げようとしない姉にカレンはこう切り出す。

「えっとロロのお姉さん、良かったらお名前を聞かせてくれませんか?」

「私の名前?」

「はい。お姉さんって呼ぶよりも名前で呼んだ方が良いと思いまして」

「……確かにまだ自己紹介をしていなかったな」

名前を尋ねられたことで己の自己紹介をすべきだと思ったのか、ロロの姉はやっと頭を上げてコホンと咳払いをすると、

「私はリリーナ・グライビィ。見ての通りトロイカ軍の軍人だ、階級は少尉」

トロイカ軍人であるロロの姉もといリリーナが軽く自己紹介をする。

ロロやイミナと同じく頭に猫の耳が生えているが二人とは違って栗色の髪と金色の瞳を持ち、尚且つキリッとした真面目そうな態度はまさに軍人という感じであった。

しかも顔立ちは整っており、髪もロロとは違って綺麗に伸びていて改めて見ると『美人だな』とカレンは内心思った。

相手が自己紹介してくれたので続くようにカレン達も礼儀として自分達も軽く自己紹介を始める。

「リリーナさんですね、僕はカレンって言います」

「私はアイシャ・フレイクです」

「……ブルー・E」

「俺はミツルギ・カグーー」

と最後にミツルギがフルネームを言おうとした時。

室内が揺れ始めた。

突然の揺れに全員は眼を見開き、その揺れによって口を止めるミツルギ。

テーブルの上に置いてあるお茶や室内の隅っこに在る観賞用植物がブルブルと震えるが、そこまで強い揺れではなく、全員取り乱すことはなかった。

そしてすぐさま全員はこの揺れは地震だと察する。

やがて地震は次第に弱まっていき、揺れ始めてから30秒程度で地震は収まった。

地震が収まるとカレンが第一声を上げる。

「そこまで強い揺れじゃなかったね」

「だな、震度3,4ぐらいってところか?」

「ホント地震の多い所よね、この大陸って」

世界で地震が多く発生するこの『バルボア』大陸に住んでいるグライビィ姉弟もブルーの発言に『まったくだな』と頷いて同意する。

そして地震のせいでミツルギの姓までは聞けなかったがとりあえずカレン達四人の名前を聞いたリリーナは観察するように改めてカレン達の顔を眺める。

「しかし、君達全員若いな。最初見たときはロロの友達かと思ったよ」

「友達って……まぁ似たようなもんかな」

友達ではないがそれに近いものだとロロは言う。

「それで君達は何の用で市役所(ここ)に来たんだ?」

「遺伝子検索って言う物を受けに来たんです」

「遺伝子検索を?」

カレンがそう答えるとやはり意外だったか、リリーナは目蓋を大きく開く。

フォローするようにロロは遺伝子検索する訳を姉に説明する。

「姉ちゃん、この二人は記憶喪失なんだよ」

「記憶…喪失だと?」

ロロがカレンとブルーが記憶喪失なのだと伝えるとリリーナは眉を吊り上げる。

記憶喪失の人間、そういう人と接するのは初めてのようでしかもそれが二人も居るという状況にどう対応すれば良いのか分からないのか。

表情に戸惑いを表すリリーナ。

だがすぐにそんな表情を引っ込ませ、落ち着いてカレンとブルーに問い掛ける。

「本当なのか二人とも?」

「あっはい」

「そうだけど」

二人の肯定にリリーナは二人の状態に同情したのか、下唇に手を添えて『それは……大変だな』と重そうに呟く。

「二人はこの国の出身者かもしれねぇからさ、だから姉ちゃんに会うついでに此処へ連れて来たんだ。ってなわけでこの二人に遺伝子検索を受けさせてやりたいだけど……」

「…分かった、案内しよう」

事情をある程度理解したリリーナは遺伝子検索の受け付け窓口に案内しようと応接室の扉に移動する。

そして五人は導かれるままにリリーナの後へ付いて行くのだった。

ロロの姉、リリーナの案内によって遺伝子検索が受けられる窓口に着いた五人は早速遺伝子検索の手続きを行った。

とは言っても受けるのはカレンとブルーだけなので、他の三人は手続きのやり方が分からない二人に手続きのやり方を教えながら二人の遺伝子検索に付き添う。

遺伝子検索を受ける人がカレン達しか居なかった為、手続きはスムーズに終わり、五人は役員に遺伝子検索を行う専用の部屋に案内された。

中には遺伝子検索の為の血を採取する軍医が居て、そこで当人達の遺伝子情報を知る為に血を一定量採取することになったのだが………

「……………」

「? ブルー?」

カレンは横からブルーの顔を覗き込むように見る。

今の部屋に入ってきてからブルーの様子がおかしいのだ。

その様子は身体を硬直させ、眼が据わっていた。

カレンはその据わった眼の目線を辿ってみると、目線は自分達の目の前に居る軍医に向けられていた。

いや、より正確に言えばその軍医が手に持っている血を採取する為の注射器が入っていると思われるボックス型の鞄に。

しかも良く見れば、身体が微かに震えていた。

何故、そんな風に鞄を凝視するのかは分からないがカレンは思ったことを口にする。

「怖いのブルー?」

「は、はぁ? 何を言い出すのよアンタは?」

「だってさっきからあの鞄の事をずぅっと見詰めながら震えているよ」

「ふ、震えてなんかーー」

いないと否定しようとしたが、そこへ割り込むように今の話を二人の後ろで聞いていたロロは意地悪そうなニヤリ顔を浮かべて、

「なんだよ~ブルー、お前まさか注射が怖いのか~?」

「こ、怖くなんかっ!!」

と声を大きくして否定しようするが、その後は声も何も発せず、顔を俯かせて黙り込んでしまうブルー。

そして次第に顔が青ざめていき、微かだった身体の震えがハッキリと分かるぐらい大きなものになり始めた。

「お、おい、そんなに怖いのか?」

ロロはそう聞いてみたがブルーはうんともすんとも言わない。

だがここまで露骨な反応を見る限り、ブルーは注射を強く嫌っているのが分かる。

軽くからかったつもりが、予想外の反応を見せたブルーにロロだけではなく、カレンもミツルギもアイシャも戸惑う。

最早ブルーの表情は誰の眼から見ても恐れを色濃く映し出しており、カレン達はどう対応すれば良いのか、分からずにいた。

「……怖いのなら無理をしなくて良い、今回の遺伝子検索は中断してまた別の機会にやってみないか?」

カレン達と同様、ブルーの反応に困惑したリリーナだったが助け船を出すように遺伝子検索は次の機会にしないかと忠告した。

しかし、ブルーは首を横に振る。

「大……丈夫、このまま受けさせて…」

顔が青ざめたままでもブルーは震えた声でこのまま遺伝子検索を受けることを望んだ。

自分の中の何かと戦いながら逃げない姿勢を示したブルーにリリーナは『そうか』とブルーの意思を汲み取ると軍医に血の採取をするように指示する。

血の採取を指示された軍医は早速鞄から注射器を取り出す。

注射器が取り出された瞬間、ブルーの表情が怪訝そう変わる。

それはブルーだけではロロも同じ表情を浮かべた。

何故かと言うと二人はその注射器に違和感を覚えたからだ。

鞄から取り出された注射器は大人の親指ぐらいの大きさか、外見は円筒形のような形でその注射器の片方の端には赤い円状の物が付いており、そしてもう片方の端には小さな瓶のような透明なガラス製の筒が埋まっていた。

「なんだそれ? 見たことねぇ形だけど注射器なのか?」

どうやら従来の注射器とは形状が異なるようで、本当に注射器なのかと疑うロロに姉のリリーナが軍医に変わって答える。

「これは今年から配備された最新の注射器らしくてな。通称"カプセル型注射器,,と言われる痛みを感じない注射器らしい」

「痛みを感じないって?」

「そうだ、従来の注射器は十代前半ぐらいになったら耐えられるようになるが、それに満たないまだ小さな子供には耐えられず泣いてしまう子供が多いらしく、それを解消すべくそのカプセル型注射器、略してカプセル注射が作られたって訳だ」

とリリーナはその注射器が作られた経緯と名前を話した。

確かにカプセル型という名の通り、カプセルに似ていなくもない形状をしている。

今の話を聞いたブルーは恐る恐る口を開く。

「い、痛くないって……ほ、本当なの?」

「悪いがそう聞いただけで実際のところは分からない。だが物は試しだ、まずは君から先にやってみないか?」

痛くないと聞いた最新の注射器が痛くないことを証明するようにリリーナは最初の採取をカレンに勧めた。

カレンから先に採取を勧めたのは恐らくカプセル注射が痛くないことを証明すると共に注射を怖がっているブルーにカプセル型注射器なら大丈夫だと安心付ける為でもあると思われる。

その意図を察したカレンは快くその役を引き受け、軍医の眼前に移動する。

「えっと、両腕のどちらかの肘の裏側を出すんだっけ?」

「はい、どちらか好きな方をお選びくださない」

軍医からそう促されたカレンは『じゃあ…』と言って右腕の袖を捲り、肘の裏側を差し出す。

そうすると軍医はカレンの肘の裏側にカプセル注射の赤い部分を押し当てる。

直後に注射器からカチッという音が鳴った。

同時に注射器のガラスの筒に血がいつの間にか入っていた。

「はい、終わりです」

注射器に血が入ったことを確認すると軍医は注射器を退け、手際良く肘の裏側に絆創膏を張った。

驚いたのか、カレンは眼を丸くして絆創膏が張られた右腕の肘の裏側を見る。

様子から見て全く痛くなかったようだ。

カチっと言う音が鳴ったと思ったらいつの間にか血を抜き取られていたという心境なのだろう。

「ホントだ、全然痛くなかったよブルー!」

「そ、そう……良かったわね……」

痛くないとカレンの言葉を聞いて少しは安心したのか、顔色が僅かだが良くなる。

「さっ、次の方どうぞ」

と鞄からもう1つカプセル注射を取り出した軍医がブルーを手招きする。

とうとう自分の番が訪れたブルーは数秒間硬直するが覚悟を決めたのか、震える身体を前へと動かし、ゆっくりとゆっくりと軍医の眼前まで歩き、右腕の肘の裏側を差し出す。

そして注射器を肘の裏側に押し当てられたその瞬間、ブルーは眼を瞑り、身体を強張らせた。

カチッとカレンの時と同じ音が鳴る。

その音が聞こえるとブルーは閉じた眼を恐る恐る開く。

案の定、注射器のガラス製の筒に血が入っていた。

どうやらブルーも全く痛みを感じなかったようだ。

すると軍医はそこまら素早く注射器を離し、カレンの時と同じように手際良く肘の裏側に絆創膏を張る。

「これで血を採取は終了です、お二人の遺伝子の検索が完了するまで少し時間が掛かるので暫くお待ちしてください」

二人の血を採取し終わると軍医はそう説明し、鞄と注射器を持って部屋の出入り口に向かう。

そして出て行く前にリリーナに敬礼してから部屋を後にした。

軍医が部屋から出るのを見届けるとブルーは血の採取が終わったことに安堵したのか、胸元に手を添えて大きく息を吐くのだった。


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