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ユニヴァース  作者: クモガミ
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返答

……数時間。

たった一晩で怪我が治ったカレン・ロロ・ブルーの三人は本人達の意向により、完治の後処理とある程度の手続きを済まして病院から退院した。

そして今、退院した三人と見舞いに来たミツルギ・アイシャ、計五人は病院から少し離れた飲食店で朝食を取っていた。

横に伸びた二つの椅子の間にテーブルを挟んだ席で、片方の椅子には窓際からカレン・ブルー、もう片方の椅子にはミツルギ・ロロ・アイシャと言った並びで座っており、五人は朝食が来るまで暫く待っていた。

「三人とも、退院おめでとう……と言いたいところだけど、君達の身体って一体どうなってるの?」

素直に退院を祝いたいところなのだが、たった一晩という短い時間で怪我が完治した三人の異常なまでの回復力の方が気になったアイシャが、朝食が来る前にその話しを振ってきた。

「……話す必要がある?」

始めに答えたのはブルーだった。

答えたくないことなのか、顔を横に反らし、素っ気ない返答を出す。

その反応を見て、言っちゃいけないことだったのかとアイシャは自分の迂闊さを悔いる。

「僕はよく分からないよ、気付いたらもう治ってたんだ」

ブルーの返答の仕方とは対照的にカレンは快く答えたが、自身の異常な回復力については分かっていない様子。

だが、何がどうあれ二人が問いに答えたことによって順番的に最後になったロロに視線が注目が集まる。

不意に己に視線が集まったことに少したじろぐロロだったが、一旦咳払いすると、

「実はな、俺は獣人としての回復力が色濃く残っている方なんだ」

ロロがそう述べるとカレンは頭の上に?を浮かべ、それ以外は眼を見開く。

「成る程、だから一晩で傷が塞がったと言うわけか」

今の話しを聞いて、ミツルギは頷いて納得する。

片やアイシャやブルーも納得した表情を浮かべる。

しかし、今のを聞いて分からなかった記憶喪失兼常識知らずのカレンはいつもの如く、

「えっと……つまり、どういうことなのかな?」

頬を指で掻きながらロロが述べた言葉の意味を訊ねる。

カレンの問いにロロとアイシャは『来たか』とジト目になり、片やミツルギは何のリアクションも無く、自然な流れのように説明しようを開始する。

「カレン、前に獣人は後世であるほど動物度や獣人ならではの身体能力も薄いと話したのは覚えているな?」

「うん」

「獣人の後世は身体能力の恩恵や動物的な部分が少ないだけでは無く、獣人のとしての治癒力も薄れているんだ」

「治癒力? 治癒力って身体の怪我を時間と共に自然と治っていく機能のことだよね?」

何処で知ったかは知らないが、カレンが治癒力という難しい言葉の意味を知っていたことに顔には出していないが心の中で驚くロロとアイシャ。

「そうだ。本来獣人は優れた身体能力だけでは無く、脅威的な治癒力も備えていて、その回復力は例え重傷を負ってもたった一晩で殆ど治ってしまうと言われている」

「へぇ、凄いんだね獣人の人達って!」

『いや、その獣人と同じぐらいの回復力を持ったお前が言ってもな………』という台詞が喉から出そうになったが、ぐっと堪えて説明を続けさようとするロロとアイシャ。

「だが、二世や三世となるとその治癒力も低下し、現在では殆どの三世の獣人の治癒力は人間の"それ,,と大して変わらない。勿論、三世の獣人であるロロも普通なら治癒力は低い筈なのだが……」

そこまで言うとミツルギは視線をロロに向け、あとは本人の口から説明するよう促す。

「さっきも言ったが、俺は獣人ならではの治癒力が色濃く残っているんだ。だから俺の怪我は一晩で治ったって訳だ」

自分の怪我が一晩で治ったのは獣人としての治癒力が三世でありながらも色濃く残っているのだと説明するロロ。

それを聞いてカレンは『カムーシャ』でロロと戦った時のことを思い浮かべ、

「そういえば、自分の爆弾を喰らって気絶したのに、『水底の洞窟』まで追い掛ける元気が有ったのはそれのお陰だったんだね」

「む? 何の話だ?」

「どぅわ! 止めろ!! その時のことを話すな!」

自分の爆弾で自滅したという恥ずかしい話をミツルギ達に聞かれたくなかったロロは慌ててテーブルの上に上半身を乗り上げ、カレンがそれ以上話さないよう手を伸ばして制止した。

ロロによってその時の話が止められ、結局何の話だったのが分からずじまいになったミツルギ・アイシャ・ブルーだったが、不意にアイシャはロロにこんなことを訊ねる。

「まぁそれはともかくとして、ロロが三世の中でも例外的に獣人としての治癒力が残っているってことはロロのお父さんかお母さんも治癒力が強く残っているだよね?」

「へっ? あ、あぁ………母さんが獣人だったから多分そうなんだろうな」

多分と自信が無さそうに言ったということは、ロロは母親の治癒力が強いところをその眼で見たことが無いのだろう。

しかし、母親が獣人ということはロロの治癒力の高さは母親譲りだと見て間違いない。

するとその時、店の定員が全員分の朝食を運んで来て、それぞれが頼んだ朝食がテーブルの上に並べられる。

五人は朝食が来ると軽く食事の合図を済ませ、フォークやスプーンで朝食を口へと運ぶ。


やがて数分後………

五人はほぼ同時刻で朝食を食べ終え、定員に食器を片付けて貰っていた。

そしてそう経たない内に定員が食器を全て持ち帰り、テーブルの上が何も無くなった直後、

「ブルー」

「……何よ?」

不意打ちの如く、何時になく真剣な声で呼ばれたブルーは若干動揺しながらもカレンの方に顔を向ける。

「あの時の返答を聞いても良いかな? 君の旅に付いて行って良いのかを」

顔はいつも通り穏やかな物だが声は名前を呼んだ時と同様、真剣な声色で昨日の広場で聞けなかった返答を改めて訊ねるカレン。

ブルーはカレンのその覚悟を見極めるかのようにカレンの瞳をしっかりと見詰めながら口をゆっくりと開く。

「もう一度聞くけど、本気なの? 私と一緒に居ればまた"アイツ等"が襲ってくるよ、何度も何度もね」

再確認させるようにブルーはそう警告する。

"アイツ等"とは恐らく昨日、広場でカレン達を襲った黒尽くめ達のことを言っているのだろうとカレンは容易に察すると自身も相手の瞳を見詰めながら答える。

「構わないよ、彼等がまた襲って来るのが分かっていても僕の気持ちは変わらない」

真っ直ぐな回答にブルーは眼を細める。

「本気で言っているの? 昨日あんな目に遭ったのに……アイツ等がまた何時何処で襲って来るか分からない、私と旅をするといつも身の危険が大きいのよ!」

「それなら尚更、一緒に旅をしようよ。二人で協力し合えばその身の危険もいくらか小さくなるでしょ?」

迷いも曇りも無い返答に加え、協力し合えば危険が少なくなるという希望的観測を口にカレンにブルーは思わずカレンから視線を逸らし、顔を俯かせ、

「……今度は死ぬかもしれないのよ?」

何処か震えた声で言うと、重ねて言葉を紡ぐ。

「アイツ等は相手が誰であろうと関係ない! 相手が何人居ても、相手が子供でも、相手がなんの罪も無い人達でも容赦無く殺す!! ……アイツ等は、アイツ等は、人の命なんて何とも思っていない!! そんな奴等に何度も襲われるのよ! それでもアンタは私と一緒に旅が出来るの!?」

悲鳴に近い声で黒尽くめ達の冷酷さと非道さを語るブルー。

どうやら彼女は彼等に対してトラウマを持っているようで、彼等のことを語っている途中、表情に恐怖が所々に出ていた。

カレンは悟った、今の語りの中に彼女の心の声が混じっていたことを。

そしてブルーが黒尽くめ達にどういう感情を抱いているのかも悟ったカレンは、

「出来る」

躊躇なく、ただハッキリとそう告げる。

その言葉を聞いてブルーはバッと顔を上げ、カレンを睨む。

「……分からないの? 次に会えば今度は本当に殺されるかもしれないのよ! そんな目に遭ってまで私と旅がしたいって言うの!? 死んでも良いって言うの!?」

「死なないさ」

カレンがそう呟いただけでブルーは眼を丸くし、口も止まる。

重ねてカレンはこう言う。

「僕は自分ことや世界のことをまだ全然知らない、何も知らないまま死ぬなんて絶対にやだ。だから僕は死なない、自分のことを思い出すまで僕は絶対に死なない! 約束するよ、〝君の記憶〟と〝僕の記憶〟が戻るまで絶対に死んだりしない……何が遭っても君を一人にしない、これじゃあ駄目かな?」

意思表明の後、お互いの記憶を取り戻すまで絶対に死なないと言う事と一人にしないと言う約束を提示して、旅への同行を求めるカレン。

さっきまでの穏やかな表情が戦っている時のように真剣な物へと変わっていた。

そんなカレンの意思を眼にしたブルーは言葉が出てこないのか、放心状態となる。

だがすぐにハッと我に戻り、すぐさま顔を隠すように身体を振り向かせ、カレンに背を向けてこう言い放つ。

「馬鹿じゃないの? どんな自信が有れば"絶対に死なない"とか言えるのよ? 頭沸いているんじゃないの?」

何の自信が有って、絶対に死なないと言う大口を叩いたカレンを小馬鹿にするブルー。

しかし―――

「……まぁ、そこまで言うなら勝手に付いてくれば?」

ぶっきらぼうだがその一言にカレンだけでは無く、ロロ達も眼を大きく開く。

「良いの? 本当に良いの、ブルー?」

聞き間違いでは無いことを確認する為にカレンは思わず聞き返す。

「良いって言ってるでしょ、何度も言わせないでよ!」

ブルーは顔だけを振り向かせて、その通りだと肯定する。

そして心の無しか、振り向いた際にブルーの頬が赤らめているように見える。

しかし、何がどうであれ、ブルーはカレンに旅への同行を了承した。

願いが叶って無性に嬉しくなったのか、カレンは笑みを浮かべ、

「やったぁ! ありがとうブルー!」

万歳するように両手の握り拳を上げて、喜びを表現すると共に同行を了承してくれたことに感謝するカレン。

その感謝に対し、ブルーは再び顔を背けて『ふん』と鼻を鳴らす。

すると直後にブルーは同位置線上且つ向かい側の椅子に居るミツルギの視線を感じ、向かい側の方に顔を向けてジロリとミツルギを睨む。

「何よ?」

「いや、何も」

何を見たのか、気を遣いつつも笑いを堪えながらそう答えるミツルギ。

その反応を見てブルーは勘に障ったのか、ミツルギを睨む眼がジト眼に変わり、表情もしかめ面に変わる。

「でさ、ブルー?」

「?」

するとそこでカレンがブルーに声を掛け、呼ばれたブルーは再び身体ごとカレンの方へ振り向かせる。

「この後、何処へ行くの? 行きたい場所とか有る?」

晴れて一緒に旅をすることになったことで、早速この店を出た後の次の行き先を聞いてみるカレン。

次の行き先を訊ねられたブルーはすぐ隣にある壁に面した大きな窓ガラスから見える景色チラッと横目で一瞥した後、次の行き先を口にする。

「トロイカ共和国の第二都市『サムイング』よ」


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