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ユニヴァース  作者: クモガミ
始まりの一日
12/125

休憩

顔色は正常だったが表情は如何にも苦しそうで、額から数本の汗が垂れ流れ、口と鼻の息は荒れて呼吸が随分と乱れていた。

「ハァ…ハァ…緊張が解けたせいで、疲れが一気に出たみたいだ……」

思いもしない出来事が立て続けで起こったせいで、精神的にも身体的にも過労したようで、体に限界が来たロロはもう走る事は出来なかった。

「本当に大丈夫?」

「心配すんな、歩きながら体力を戻すさ」

強情を張ってロロは体勢を立て直し、歩きながら体力を戻そうと再び前へ進み。明らかに強情を張っているのが余計に心配になったカレンはロロの歩くペースに合わせながら隣を付いて行った。

「しかし………お前、見掛けによらず結構戦い慣れてんだなぁ」

「えっ?」

不意にロロがカレンに話を振り掛ける。

「だってよ、俺様と戦った時も、魔物達と戦った時も、妙に戦い慣れた動きだったぞ」

「そ、そう?」

「ああ」

「そっか……」

そう言われてみると確かに思い当たる所があったカレンは顎に手を当てる。

「所でお前の技って………」

「………」

話を続けるロロをよそにカレンは指摘されて初めて、自分の動きが戦い慣れている事に気付かされ、その事に疑問を浮かべ、何故自分が戦い慣れているのか考え始めた。

「(そういえば、何でなんだろう? あの盗賊の人達と戦った時も体が勝手に動いて………さっきの戦いもそうだ!)」

頭の中で今までの戦いの光景を思い出し、自分が使っていた技の事を思い浮かべる。

「(あの技はやっぱり、僕が記憶を失う前に使っていた技なのかな?)」

自分の失った記憶の中で体だけは戦いの動きを覚えている事に知ったカレンであったが。

「おい! 聞いてんのか!?」

「あっ……」

考え事に周りの声が耳に届いていなかったカレンはやっとロロの声に気付く。

「な~~~に、ボーーーーっとしてんだ?」

「ご、ごめん、ちょっと考え事があって…………」

「しょうがねぇな…………もう一回言うぞ」

軽く息を吐いたロロは、再び口を開く。

「お前の技にも俺の技にも『マナ』を使っている事は知ってるか?」

「僕の技に『マナ』を使っている?」

意味が分かるようで分からないカレンは目を細める。

「前にも言った通り、どんな事をする時も体内の『マナ』を消費しているんだ。技も例外じゃねぇ」

「それって、君が言っていた『力のマナ』の事?」

「まぁそうだ、どうやって使っているか、分かりやすく言うとな………」

考え込むように口を閉じるロロ。そして少しの間の後、再び口を開ける。

「つまりだな、さっきの戦いで俺が使った『彗星』っていう技は、俺が矢の刃に『力のマナ』を流し込んで、その矢は『マナ』のお陰で通常の何倍のスピードで飛ぶ事が出来るんだ。しかも、射抜いた標的の体の中に『マナ』を残して、その残った『マナ』は風船みたいに膨れ上がって、ボン! っと爆発するって訳だ!」

説明を分かり安くするように両手をグーにして、パッと手を開いて爆発を表現するロロ。

「そんな事ができるんだ……」

『マナ』に隠された力がある事に驚くカレンは、自分の技の事を思い出す。

「じゃあ………僕が使った技も?」

「だから言ったろ? お前の使った技にも『マナ』を使ってるって!」

今更になってやっと気付いたカレンに呆れそうになったロロは、溜息が喉から出てきそうなところで辞め、話を続ける。

「つまり、どんな技にも『マナ』を使ってるって事だ!」

「どんな技にもか………」

『マナ』について新しく知識を得たカレンは、ロロの方に視線を向けると、ロロの鞄から少しはみ出ている弓に目が止まる。

「そういえば、君は爆弾以外にも弓が使えたんだね」

「な、なんだよ、いきなり」


「だって、『カム―シャ』で戦った時はそんなの使ってなかったよね?」

鞄からはみ出ている弓に指を指して唐突に話題を変えたカレンにロロは戸惑うように猫のような耳をピコピコと動かしながら目を丸くする。

「でもすごいな…………弓矢で魔物に一回も外さず倒せるなんて」

「ま、まぁな! 物作りは得意だが、射撃はもっと得意だぞ!」

尊敬の眼差しで純粋に褒めてくるカレンに自慢げに人指し指で鼻の下を擦るロロは、自分の特技を明かす。

「何で、使わなかったの?」

「あ?」

「だから、何で、村で戦った時に弓矢を使わなかったの?」

どうやらカレンは『カム―シャ』でのあの時の戦いで、どうして弓矢を使わなかったのかという素朴な疑問を抱いたようだ。

「あ~~~……それはだな」

「それは?」

「それは……」

「………」

何故か焦らすように躊躇って口を開かないロロにカレンは何の違和感を感じず、ロロの口から答えが出るのを待っている。そしてロロはその固く閉ざした口をようやく開く。

「く、苦労して作った自信作の爆弾を自慢したくて、誰でもいいからその爆弾の威力を見せ付けてやりたかったんだ、ついでに実戦結果も………」

「うんうん」

「お前に戦いを申し込んだのはお前を偶然近くで見掛けたからで、弓矢を使わなかったのは爆弾が完成したから、つい忘れていたからで……」

「それで?」

「まぁつまりだな………要約すると」

そして、ロロは空気が重くなったその場で、勇気を出して告白する。

「つまり……全部、勢いなんだ」

「………なるほど」

「…………」

「………」

「?」

理由が分かったカレンだったがそれ以上何も言わず、ロロはカレンの反応にキョトンとする。

「お、怒っていないのか?」

「え、何が?」

まるで何も感じては、いないようにカレンはロロの問いの意味を理解してはいなかった。

「いや、だから……俺の勢いだけの行動を怒っていないのか!?」

「怒る? 何で?」

「何でって、おまえ……」

呆れて物を言えないロロはカレンの態度に心底呆れ、今までの中で最大の溜息を出す。

「そんなに怒って欲しいの?」

自分のせいで呆れられている事に気付かず、カレンはロロの大きい溜息が気になり、上目遣いで尋ねる。

「もういいよ………」

「?」

結局カレンはロロの溜息の理由が分からず、歩きながらの会話が終わった矢先に、二人の目に微かな光が映る。

「あれ? 何か先に光が見えるね?」

その光は白く輝き、光はカレン達が進んでいる通路の先にから見え、同時に水が流れる音が聞こえてくる。

「出口かな?」

「とにかく行ってみようぜ!」

期待を胸に抱いて、白い光が指す方に駆け込むカレンとロロは、その光の先に入り込む。

「ここは…………」

光が発する所まで来たカレン達の目に入って来たのは、前に見た円状の壁だけの空間と同じような形状の空間に入っていた。

「また似たような所が………」

愚痴を零しながらも辺り一帯を見渡すロロとカレン。この空間は前の空間とは違い、カレン達から見て、まっすぐ行った先の奥に通路と思わしき穴が在り、そしてこの円状の空間の片隅に泉のような大きな水の溜まり場が在り、その上から滝のように大量の水が流れていた。

「この光は……」

その空間内を明かり代わりに照らす白い光に空間内の壁や地面から至る所から放ち、その光は大小とそれぞれ大きさが異なっていた。

「浄化石か……!」

フっと呟いたロロの発言に気付いたカレンは、首を傾げながらロロに視線を移す。

「浄化石?」

奇石きせき類の浄化石だよ! 知らないのか?」

首を縦に振って頷くカレンに対し、ロロは顔にシワを寄せながら、気が抜けた様な目でカレンを睨む。

「奇石も知らないって、お前………どんだけ田舎者だよ!?」

「?」

今更だがカレンの常識知らずに呆れを通り超えて、怒りに成った感情を露わにするロロであったが、何を怒っているのか分からないカレンに対しては虚しくも空振りに終わってしまう。

「はぁ~~~~もう疲れた! 此処で休憩するぞ!」

疲れて半分やけくそになったロロは、泉のような水の溜まり場の近くまで歩き、その場でしゃがみ込み、胡坐を掻きながら休憩を宣言する。

「此処で立ち止まっていいの?」

休憩体形に入ったロロに近付くカレンは、自分達の置かれた状況に対して、此処で休憩する事に疑問を感じた。

「このまま、休憩しないで先に進んでいたら、俺がくたばっちまう!」

カラ元気な声で自分には休憩が必要だと訴えるロロ。

「どんな生物でも適度な休憩が必要なんだよ!」

体力や精神にもピークが来ている今のロロにとって、休憩はとても魅力的で必然的に求めている物だった。

「………」

休憩は確かに今のロロには必要だと思ったカレンの気持ちに対し、一刻も早く目的の少女にペンダントを渡さなければならないという元々在った気持ちが、今の気持ちと葛藤し合い、カレンは眉を下げながら顔を堅くして悩んだ。それを察したのかロロは。

「何もそんなに焦らなくていいだろ? ちょっと時間が経ったぐらいでその女に追い付けないって訳にはならねーーーぜ、きっと」

悩むカレンに助言を言うロロ。そのカレンは意外そうな顔でロロの言葉に耳を傾ける。

「要はそいつに追い付けば、良い話だろ? そんなに悩むなよ!」

「………そうだね」

助言のおかげか、さっきまでの堅くなっていた顔が、柔らかい笑顔になり、カレンもロロと一緒に地面にしゃがみ込み、ロロの隣で休憩を取る。

カレン「此処で休憩するよ」

その言葉を聞いたロロは、安心したかのように顔に笑みを浮かべ、地面に大の字になって寝っ転がる。

「(ぐぅぅぅ~~~~~~~~~~)」

「?」

「………」

直後に何処かで聞いたような気が抜ける音が聞こえ、カレンはその音が聞こえた方向、隣に居るロロの方に顔を向けると、ロロは頬を少し赤くして何食わぬ顔をしていた。

「そういえば……昼に何も食ってなかったな………」

自分のお腹を擦って、空腹を自白するロロ。

「でも今は、食材なんて物は一切持っていないんだよな~~~」

「………」

空腹に悩まされているロロを見て、カレンは自分の腰にぶら下げている、商人のコルトから貰った、本と食材と赤い色のゼリーのような物が入った布の袋の事を思い出し、それを手に取り。

「これ………商人のコルトさんって言う人から貰ったんだけど」

寝っ転がっているロロに見えるように、袋の口を出来る限り広げ、ロロに差出す。

「おお!? これは!」

目を見開き、上半身だけを起こして、袋に手を突っ込んで中身を確認する。

「何だよ!? こういう物を持ってるなら早く言えよ!」

瞳を輝かせ、ヨダレが垂れそうなニヤけ顔で袋の中の食材を見詰めるロロ。

「この先、何かの役に立つかもしれないから持って行けって、その人に貰ったんだ」

この発言にロロの体はピタリと止まり、さっきまでニヤけ顔が消え、神妙な表情でカレンの顔を見る。

「いいのか? これ………お前の為にあげた物だろ?」

例え貰った物でもカレンの為にあげた物なら、それを他人である自分が使っていいのかをカレンに問いただすロロ。

「良いよ、君がお腹を空かせているなら使っていいよ」

と何の躊躇も無く、ロロに使用を勧めるカレン。

「本当にいいのか?」

「良いんだよ。コルトさんは何かの役に立たせるために僕にあげたなら、まず君の空腹を無くすために役に立たせたいんだ」

自分の為だけでは無く、誰かの為に役に立たせる事も含まれていると思ったカレンは、ロロの為に使っても何の問題も無いと判断し、快くロロにあげる事を選んだ。


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