それぞれの退院
……翌日。
無事、憲兵隊に捕まらず、近くの病院に辿り着いたカレンとブルーは急患としてすぐに治療と手術を受け、そのまま入院した。
これが昨日、黒尽くめ達の襲撃を退け、広場から離れたカレン達の概要だ。
そして今、昨日二人を病院に運び終えた後、宿屋で一晩を過ごし、カレン・ロロ・ブルーの様子を見に来たミツルギとアイシャは三人が入院した病院の診察室で担当の医師が来るのを待っていた。
「私の知らない所でそんなことが起こっていたんだね」
「ああ。偶然通りかかった道で負傷したロロを見付け、この病院に運んだ後、ロロからカレンの事を聞いてすぐさまあの広場に駆け着けたんだ」
医師が来る間、二人は昨日のお互いの広場に来るまでの一連の流れを話し合っていた。
するとミツルギが不可解そうに眉間に皺を寄せ、
「しかし…その途中、不可解なことが起こった」
「不可解なこと?」
オウム返しのようにアイシャがそう聞き返すとミツルギはその事について説明する。
「実は広場に到着する前に突然『ブレイヴ』の『ガジェッター』のランプが発光し始めたんだ」
「ランプが発光を? ランプって魔装器の中の『メインマナ』の残量を示すことや文字を浮かび出す以外にそんな機能が有ったの?」
「いや、詳しいことは俺にも分からない」
だがミツルギはそこで『ただ』と付け足し、
「ランプが発光した途端、俺の力が僅かずつだが減っていくのを感じた」
「力が減る? もしかして『マナ』が減ったの?」
「そうだ。そして広場に辿り着き、チラッと確認しただけだがカレンやあの金髪の彼女の魔装器も俺のと同じようにランプが発光していた」
「断定は出来ないけれど、カレンや彼女の魔装器も同じ現象が起こっていたのなら二人にも何らかの影響が有ったかもしれないね」
二人がそうこう話し合っていると担当の医師が診察室に入って来た。
担当の医師が視界に映ると二人の眼が丸くなる。
その担当の医師が昨日の朝、瀕死のカレンの治療及び担当の医師だったからである。
実はこの病院、昨日カレンが輸血と『再生石』による治療を受けた病院で、黒尽くめ達と戦ったあの広場から一番近かったのが偶然にもこの病院であったのだ。
無精髭を生やした医師は二人の顔を見て営業スマイルを浮かべる。
「また会いましたね、お二人とも」
「ああ、昨日はお世話になったドクター」
「まさか、カレン達の担当の医師があなただったなんて」
「私もビックリしましたよ。昨日一時的に入院してすぐ退院した方が昨日の夜にまた入院して来るなんて、思いもしませんでした」
医師がそう言うと二人は愛想笑いのように苦笑した。
すると話題を変えようとミツルギは入院した三人について訊ねようとする。
「それよりもドクター、三人の容態は?」
「あっはい、まずカレン様とロロ様についてですが、お二人とも刃物で胴体を刺されていましたが不幸中の幸い、お二人とも内臓には刺さっておらず、失血も少なかったので命に別状はありません。輸血と傷口を数針縫う程度で済みました」
ミツルギとアイシャは『命に別状は無い』という言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべてホッと溜め息を溢す。
そして今度はアイシャがブルーの容態を訊ねようとする。
「あの、金髪の子は?」
「ブルー様は身体的疲労が強く、しかも身体全体に高圧電流でも流されたのでしょうか? 電気による火傷や痺れが目立ちますが、こちらも特に命に別状はありません」
「……そうですか」
「これで三人とも、心配は無いな」
ブルーの方も命に別状は無いと聞くと、ミツルギはもう心配することはないと気分が晴れたかのように囁く。
それに対し、アイシャは頷いて相槌を打つ。
するとそこで医師が『ですが』と付け加える。
「三人とも重傷には変わりませんので、数週間は安静にしなければーー」
『ーーーーーッ!!』
医師がそう言い掛けた時、遮るように診察室の外から何やら騒がしい声が聞こえ始めた。
『何事だ?』と気になったミツルギ・アイシャ・医師は話を中断し、診察室から出る。
廊下に出ると騒ぎの声は廊下に出て右側の方から聞こえ、三人はそこに振り向くと真っ直ぐに伸びた廊下の突き当たりに………
「だ、駄目ですよ! あなたは安静にしていなきゃいけないんですよ!」
「大丈夫よ! この程度で休んでいられないわ!」
「お、お部屋に戻ってください!」
「ごめんなさい、ブルーが心配だから僕も戻りません!」
「き、傷口に雑菌が入ったら大変なんですよ!」
「俺は病院が大っ嫌いなんだ! いつまでもこんなところに要られるか!!」
看護婦や他の医師達に囲まれ、部屋に戻って安静にしてくださいと促されている患者服を着たブルー・カレン・ロロの三人の姿があった。
「私の服と荷物は何処? 私は今すぐにでも此処を出たいのよ!」
「あれ? ブルー、もう出ちゃうの? じゃあ僕も出るよー!」
「とにかく此処から出してくれ! 此処は辛気臭くて堪らねぇ!」
是はにでも病院から出たいと訴える三人に対応に困って、困惑する看護婦と医師達。
その様子を少し離れた診察室の前でポカーンと眺めていたミツルギ・アイシャ・医師だったが、いち早く我を取り戻した医師は慌ててカレン達の元へ駆け寄る。
「な、何をなさっているんですか! あなた達三人は安静にしていなきゃいけないんですよ!!」
「あっ、医師! 昨日はどうもお世話になりました」
「いえいえ、お仕事ですから……って、そうじゃありません!!」
カレンからお礼の言葉を述べられ、ノリツッコミのようについ畏まった後、ハッと我に戻って厳重注意を再開する。
「三人とも、速やかにお部屋へお戻りください! あなた達の怪我はまだ治った訳じゃーー」
「何言ってるのよ? 私はもう治っているわよ」
「………えっ?」
遮るように言われた予想外の発言に医師は口が開いたまま、停止した。
すると更にカレンとロロがブルーに続くように、
「あっ、僕も治りました~」
「あぁ、俺も俺も~」
「えっ? えっ?」
入院してからまだ一日も経っていないのに、『もう治った』と言う三人に医師は耳を疑ったのか、首を左右に振りながら三人の顔を見合う。
三人の発言に医師はそんなばかなと言いたげに疑念の表情を浮かべ、実はからかっているにでは無いかと疑うが。
そんな淡い疑いを打ち砕くように三人はおもむろに服の袖や上着を捲り、
「「「ほら」」」
と怪我を負った所に巻いてある包帯を解く。
包帯を解き、三人の怪我を負った部分が露になると医師は眼を見開いて、
「な、治ってる ………!」
医師は眼を疑う。
電流を浴びたことによって火傷を負い、焦げ痕が在った箇所が綺麗な肌色を取り戻しており、カレンもロロも短剣で刺された箇所が塞がっていた。
一日も経たずに怪我が既に治っていることに他の医師達や看護婦達、そして少し離れた場所でその様子を眺めていたミツルギもアイシャも言葉を失うぐらい驚愕を露にする。
すると周りが唖然としていることなど知らず、ブルーは服の袖を元に戻して担当の医師にこう言う。
「で、退院して良いかしら?」
その言葉に医師は唖然としつつも、頷くのであった。