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ユニヴァース  作者: クモガミ
二人の再会
104/125

交渉成立

するとものの数秒で妙案を思い付くカレン。

「じゃあ、どうすれば手伝わせてくれる?」

「…………は?」

予想外の問いに少女は眼を丸くする。

カレンはもう一度少女に問う。

「どうすれば僕達は君を鉱山から脱出させる手伝いを出来るのかな?」

このストレートな問い掛けに少女は意表を突かれたかのように呆気を取られる。

「ど、どうすれば良いって、あんた何を言ってるの?」

「僕達はただ単に君を助けたいだけなんだ。でも君が僕達を信用していないのは分かっているつもりだよ。だから君から僕達に手助けの条件を出して欲しいんだ、君を助ける為なら何でも呑むよ」

「じょ、条件って………本気なの?」

「勿論、本気だよ。それに『相手と交渉する時は相手に有利な条件を出すのも手の内だ』って本に書いていたしね」

にこやか顔で首都『リア・カンス』の書店の本で学んだことを試みたと自白するカレン。

それを聞いて傍に居るアイシャはやれやれと言った感じに顔の半分を片手で覆い被せ、ミツルギは上品にクスッと笑う。

少女は再び呆気を取られる。

自分を助ける為に自ら手助けの条件を要求して来たカレンに戸惑いを隠せなかった。

やがて少女は呆気で開いていた口を閉じて、考え込むように眼を細めると程なくして、閉じた口をもう一度開く。


………数分後。

「よっこいしょっと!」

交渉が無事に済んだカレンは金髪の少女をおんぶする。

「……落としたら承知しないわよ」

「落とさないって!」

おんぶした直後に釘を刺されたカレンは大丈夫だと少女に言い聞かす。

少女はカレン達に幾つかの条件を出し、カレン達はその条件を呑み、鉱山から出る手伝いを了承した。

そしてカレンが少女をおんぶするのも条件の一つ。

疲れ果てて動けない彼女を運ぶ為もあるが、一番の理由はもしカレン達が少女に何か危害を加えようとした時にカレンを人質又は盾に出来るからだと推測される。

その証拠に少女の右手には魔装器(まそうぎ)が握られていた。

更にカレンの首にはロロの鞄が下がっており、しかもその鞄の中にはカレン達の武器が仕舞われていた。

これも少女が出した条件の一つで、恐らく襲う気が無いことを確かめると同時にカレン達の戦闘力を下げることが目的であると考えられる。

ちなみにカレンとミツルギの魔装器(まそうぎ)は一旦『Rezi(レジ)Out(アウト)』し、『ガジェッター』だけをロロの鞄に仕舞い、『(コア)』は持ち主の腕や脚に張り付いていた。

「俺が気絶していた間にそんな一大事が起こっていたとはな~」

そして交渉が終わった直後に眼を覚ましたロロは気絶していた間に起こった出来事を聞かされたのだが、実際に見た訳では無いからか、凍った鉱山を眺めながらイマイチ信じられないと言った表情でこれまでの経緯と現状を把握する。

「ところで何で俺って気絶してたんだっけ?」

「気にするな。それより今は彼女を連れて一刻も早く鉱山(ここ)から出る事を優先しよう」

「お、おう」

ミツルギはさりげなくロロが気絶した原因の話をはぐらかすと屋内に通じている屋上の扉を開けて一足先に屋内に入り、アイシャもロロもすぐにその後に続き、遅れてカレンも少女をしっかり背負って三人の後を追った。

とその途中、

「………………久し振りかな」

「ん? 何か言った?」

「な、何も言っていないわよ」

少女がボソッと呟いたのでカレンはつい顔だけを振り向かせて聞き返したが、少女は何も言っていないと嘘を付き。

そう言われたのでカレンは『空耳かな?』と思い込み、顔を向き直す。

カレンの様子を見て少女は安心したのか、ふぅと吐息を溢すと頭をカレンの背中に預ける。

少女が上半身を前に倒したことで、カレンは背中に大きくて柔らかい二つの感触が伝わったが、平常心を保って歩き続けた。

すると少女は両眼を閉じて今度は誰にも聞かれないように心の中でこう囁く。

「(本当に久し振り、こうやって人の温もりを感じるのは…………)」


◇◆◇◆◇◆◇


一時間後。

少女が聞いた通り、盗賊団のアジトの地下に長い坑道が有り、五人はその何処かに繋がっている坑道の中を歩いていた。

坑道の中は三人程が並んで歩けるぐらいの幅で、所々に小さな点灯が坑道内を照らし、地面は綺麗に平坦となっており、歩くには何の問題も無かった。

その坑道内でカレンは金髪の少女を背負いながらミツルギ・アイシャ・ロロの三人の5m後ろで歩いていた。

別に少女をおんぶしているから歩くスピードが遅くなって、どうしても三人の後ろに付いてしまう訳ではない。

三人から距離が離れているのは少女が出した手助けの条件が要因しているのだ。

その条件とはカレン以外の全員は5m前でカレンを先導するというもの。

この指示の真意は恐らく、カレンを三人の5m後ろに歩かせることでおんぶしているカレン以外の全員が一斉に襲い掛かっても距離のお陰で十分に対処出来るようにする為の配置であると考えられる。

更に三人の後ろに居ることで三人が何かしようとしても、すぐに分かるので監視としても有効な達位置でもある。

現に少女は過労状態で心身共に疲れ切っているのにも関わらず、一時間ずっと前の三人を見張っていた。

「ねぇ、少し聞いて良いかな?」

すると突拍子しも無く、カレンが顔だけを振り向かせて話を掛けてきた。

密着しているからお互いの顔が近いせいも有って、少女は少し驚いたがすぐに眉を潜ませ、

「……何?」

と素っ気なく聞き返す。

「君は旅をしているの?」

「………それがどうしたのよ?」

少女は意表を突かれたかのように戸惑う。

己の素っ気ない態度等、全く気にしていないところでは無く、質問の内容に対してだ。

「いや、何で旅をしているかな~って。しかもたった一人で、何か探しているの?」

「…………」

カレンが旅をしている理由は何か?と問い掛けた途端、少女は口を閉ざし、黙り込み始めた。

その反応を見たカレンは自分が無神経に相手の事情を詮索してしまったことに気付く。

「ご、ごめん! 言いたくないなら言わなくて良いよ、変なこと聞いてごめんね」

慌てて謝るとカレンは顔を前に向き直し、質問するのは止めて今は歩くことに専念しようした。

その時、後方から、

「………探しているのよ」

ボソりと少女がそう呟き、カレンは『えっ?』ともう一度顔だけを振り向かせる。

「探しているのよ、自分は何者なのか? 自分は何処で生まれたのかを」

「もしかして、君………」

少女が打ち明けた、たった一人で旅を行う理由を聞いたカレンはもしやと思い、確信は無いがゆっくりと言葉を紡ぐ。

「君も記憶喪失なの?」

「そうよ、もう一年前から自分探しをしているわ」

「一年も前から? じゃあ、見付かった? 自分についての何かを?」

「まだ何も………この大陸を一年も渡って探しても、私は自分が何者か分からないわ」

小さく顔を左右に振って愚痴を洩らすようにそう告げた少女は溜め息を溢した。

すると次の瞬間、『ん?』と少女の眉間に皺が寄る。

「ちょっと待って、アンタさっき〝君も〟言ったわよね?」

「うん、言ったけど」

「つまりそれって………アンタも記憶喪失な訳?」

「そうだよ。僕も君と同じ、自分は何者なのか? 何処で生まれたか忘れてしまったんだ」

自分も記憶喪失なんだと隠すことなく、打ち明けたカレンに対して少女は眼を丸くして驚愕を露にする。

そして動揺しながらも少女は、

「ほ、ホントに? 本当に私と同じ昔の自分のことも覚えていないの?」

「うん、これっぽっちも覚えていないよ。自分の名前すらね」

嘘偽りなく、正直にそう答えるカレンに心なしか、少女の口元が一瞬緩んだ。

そして少女は何となく、こんな質問を投げ掛ける

「ふ、ふ~ん、そうなんだ。アンタも記憶喪失だったんだ………で、何時からそうなったの?」

「2日前だよ」

「……………はぁ?」

何となく聞いてみたら、記憶喪失に成ったのは2日前だと聞いて今度は耳を疑う少女。

どうやら想像以上の返答だったらしい。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。2日前って、私とアンタが出会った日のことよね?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

「と言うことはアンタ、記憶喪失に成ったばかりなのに赤の他人の私の為にペンダントを届けに来たの!?」

「うん、記憶を失ったせいで分からない事が山のように沢山有ったし。君を追い掛けている途中、盗賊の人達や『古代獣(こだいじゅう)』って言うデカくて強い生き物と戦うことや他にも結構大変な事が一杯遭ったけど………ロロやアイシャ、ミツルギのお陰で何とか此処まで来れたんだ」

ミツルギ達が居てくれたお陰で自分は君に追い付く事が出来たと感謝を述べるようにカレンは前方に居る三人に顔を向けて、微笑む。

反対に2日前というごく最近で記憶喪失に成ったばかりなのに、自分探しよりも先にペンダントを届ける事を優先したカレンの度が過ぎているお人好しさに呆れ返る少女。

だが、次第にその呆れ顔が笑みに変わっていき、やがて『プッ』と可愛らしい声で吹く。

「アハハハッ!」

カレンのお人好しさに呆れを通り越してツボに入ったのか、少女は堪らず笑い始めた。

急に少女が笑い始め、何故笑うのかが分からないカレンはキョトンと呆ける。

すると少女は笑って出て来た涙を拭いながら、

「あ、アンタって、記憶喪失以前に変わっているのね」

少女にそう言われて、カレンは首を傾げ、

「そうかな?」

「そうよ」

少女が笑ったのを切っ掛けに二人は自然と会話が弾んで行き、そのまま延々と話し続けた。


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