魔装器『アグル』
少女から警戒心が消えたせいか、何処となく良い雰囲気になった二人だったが、
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!とその二人の間に水を差すように先程のとは違う鉱山の一角から爆音と共に爆発が起こった。
「「「「!!」」」」
一度目の爆発で抵抗力が付いたのか、四人は二度目の爆発には差ほど驚かず。
二度目の爆発から発生した突風と粉塵に対して、冷静に一度目の時と同じやり方で対処する。
やがて突風と粉塵が収まると四人は片腕を退け、視界を確保した。
―――と、その時だった。
突如、辺りが薄暗くなったのだ。
時刻は既に夕暮れ前だが、暗くなる程の時間にはまだ到達しておらず。
ましてや太陽はまだ沈んでいなければ、太陽に雲も掛かっていない。
すると四人は気付く。
薄暗くなったのは今自分達が居る屋上全体だけなのだと。
そして屋上を薄暗くしているのは巨大な影が屋上全体を覆っているからだと言うことも。
四人は咄嗟に上空に顔を向ける。
「「「「…………っ!」」」」
上を向いた途端、四人は絶句した。
四人が見た物、それは四人の40m上空に直径約30m程の巨大な岩が在ったからだ。
恐らくあの岩も『爆弾石』の爆発で吹き飛んだ鉱山の一部なのだろうが、大きさが今までの物よりも比較に成らない程の大きさだった。
それを見た直後、すぐさまカレンは担いでいた岩を無造作に投げ捨て、自身の魔装器に『Safety・Mode』から『Detroit・Mode』に移行させよと命じるように念じ、
それに応えるように大剣の形をした魔装器の鞘に無数の切れ目のような物が浮かび上がり、同時に剣格部分に在る甲虫型の『ガジェッター』の背中が左右に開き、その開いた背中の中に淡いピンク色の光を放つ、珠のような物が姿を見せる。
カレンはそれが顔を出すと即座にその珠を奥に押し込むように親指で押す。
『Purge・On!』
魔装器からそう発せられた直後、切れ目が浮かび上がっていた魔装器の鞘が弾け飛び、鞘が外れたことで中から鋭い両刃を持ったスリムな刀身が姿を現す。
『コード・ゼオラル』
スリムな大剣の刀身が露になったのと同時に魔装器が自身の名前を発する。
「………ゼオラル?」
カレンの魔装器の名前を聞いた瞬間、金髪の少女は耳を疑ったかのように眼を見開いて、視線を魔装器『ゼオラル』に移す。
「ミツルギ!」
そんな少女の視線など、知らずにカレンは前へ進みながらミツルギを呼び掛ける。
名前を呼ばれただけだが、たったそれだけでその呼び掛けの意図を読み取ったミツルギは頷いて、刀を構え直す。
ミツルギが自分の呼び掛けの意図を理解したのを確認したカレンは少女を通り越したところで止まり、上空から落ちて来る巨大な岩を向かい打つように大剣を両手で構え直し、
「『剛魔』!!」
「『断ち風』!!」
二人がそう叫ぶと同時に上空の岩に向けて剣を振り上げる。
カレンの大剣の方から巨大な風の塊が飛び出し、ミツルギの刀の方からには1本の線の風の刃が飛び出す。
次の瞬間。
風の塊と風の刃と衝突した巨大な岩は握り潰した果物のように粉々に砕け散り、粉塵と化した。
だが粉塵に成るまで粉々に砕けたと思った岩から直径3m前後ぐらいの大きさの欠片が零れ落ち、それが打ち砕いた一人であるカレンの所へ降下する。
あの程度の大きさなら打ち砕く必要は無いだろうと判断したカレンは、ここは無難に移動して避けようとした。
―――――しかし、
「あ………れ?」
移動しようとした途端、カレンの片膝が床に落ちる。
「「カレン!?」」
その姿を見てアイシャとミツルギが叫ぶ。
二人はその時察した、カレンが膝ま付いたのは今に為ってさっきのペンダントの上に落ちて来た岩を受け止めた時のダメージが原因で、身体に力が入らないことを。
そして刻々と巨大な岩の欠片がカレンの元へ近付いていき、対するカレンは起き上がろうとするが身体に力が入らず、自力では起き上がれなかった。
このままではカレンが岩の下敷きになると思った二人はカレンの元へ駆け出そうとした瞬間、金髪の少女がオール型の魔装器の『ガジェッター』の輪状部分に差し込まれた三本の金色の角を持った表裏一体の蒼いクワガタ虫型『核』の片面を時計の針を動かすように斜めに傾けた。
すると少女のオール型の魔装器の水掻き部分の両方に無数の切れ目のような物が浮かび上がる。
切れ目が浮かんだということはそこが彼女の魔装器の鞘に当たる部分ということになる。
「purge・on」
少女はそう呟くと傾けた『核』の片面をそのまま下方に傾ける。
『purge・on!』
オール型の魔装器もそう発した直後、切れ目が浮かんだオールの水掻き部分の両方が弾け飛び、水掻き部分もとい鞘が弾け飛んだことで、オールの両端それぞれから現れたのは前方・右方・左方に伸びた三本の金の矛であり、両端合わせて六本の矛が出たことによって少女の魔装器はオール型から槍と鎌が合体したような姿に豹変した。
『コード・アグル』
そして最後に魔装器が自身の名前を告げる。
直後に少女はその槍鎌を両手で大きく振り被り、
「『ウォーター・カッター』!!」
少女がそう言うと槍鎌三本の前方の矛の片方から一直線に伸びる5m程の高圧水流が放出され、その状態で少女は槍鎌を振り下ろし、放出し続ける高圧水流でカレンの頭上から迫る岩を果物のように両断する。
両断されたことによって二つとなった岩は落下軌道をズラされ、二つの岩はカレンの隣の床に着弾し、床を突き破って下の階へと消えて行った。
それを見計らって少女はカレンの元まで駆け寄り、辿り着くと左手をカレンに向けて翳す。
「慈愛の心に天は見放さず、汝の癒しに偽りなど無く、その想いは決して揺らぐことはない!」
少女がそう唱え出すと少女の周りから無数の白い光と左掌から白い魔法陣が出現し、
「ハイヒール!」
最後に魔法の名前を唱えると魔法陣が眩い光を発する。
光が収まるとカレンが岩を受け止めた際に負った頭の怪我が治っており、更に身体に受けたダメージも消えていることに気付くカレン。
「ありがとう」
ダメージが綺麗サッパリに無くなったのですぐさま起き上がってカレンは少女に礼を述べる。
「貸しを返しただけよ」
素っ気なく返したが、何故かプイッと顔を逸らす少女。
すると少女は突拍子しも無く、アイシャに人差し指を指し、
「そこのアンタ!」
「……私こと?」
突然、指を指されて指名されてもアイシャは特に動じず、冷静に聞き返す。
「アンタは氷の魔法を扱えるのよね、なら此処等一帯の『爆弾石』を凍らせる程の範囲魔法を扱える?」
「一応扱えるけど………でも扱えても此処等一帯の全ての『爆弾石』を凍らせるには状況が悪過ぎる! 雨でも降れば話は別だけど……」
「だったら問題ないわ」
周りの鉱山を『爆弾石』ごと、凍らせるには雨でも降らない限り不可能に近いと推測するアイシャに少女は何か策でも有るのか、『問題ない』と答えると槍鎌を垂直に立たせ、祈るように両眼を閉じた。
するとその直後………
「っ!? 空が!」
カレンは空の異変に気付き、空を見上げる。
それに釣られてアイシャもミツルギも空を見上げると雲など一つも無かった鉱山の空にいつの間にか、大きな黒い雲が現れ、その雲から一粒の水滴が降り、次第に水滴は数を増やしていき、あっという間に大雨と成った。
「……これなら!」
本当に雨が降ったことに対して若干呆気を取られなながらも周囲の鉱山から露出した『爆弾石』達が雨で水浸しになり、この状況ならイケると判断したアイシャは『力のマナ』を 練り始める。
「風は冷たく、大地は凍え、空は冷気に包まれ」
続いて呪文を唱え出すとアイシャの周りから無数の銀色の光が溢れ出す。
しかも、その銀色の光の溢れ出す規模が今までの比ではなく、アイシャを中心に光が半径10mまで溢れ出ている。
「気候も心も全ては氷が支配し、やがて世界は白く染まる!」
遂に呪文を唱え終わるとアイシャの足元から直径20m程の銀色の魔法陣が出現し、
「『氷の世界』!!!」
そして魔法名を唱えた瞬間、鉱山は眩い閃光に包まれた。