和解
つい先程まで大勢の盗賊達が居た鉱山内であったが、ボスが転移と言う力を使用したことで、盗賊達は一瞬の間に鉱山から消え去り。
鉱山にはカレン・アイシャ・ミツルギ ・ロロ・金髪の少女の五人とアジトの牢屋で留まっている人質達だけが取り残され。
しかも、カレン達は盗賊団のボスの策略によって鉱山から出て来た数多の『爆弾石』が今にも爆発しそうな最悪の状況に立たされていた。
そして次の瞬間。
ドォォォォォォォォォォン!!!!とアジトの周辺に在る鉱山の山の一角が爆音と閃光と共に超巨大な火柱を立てて吹き飛ぶ。
どうやらそこ鉱山の山の一角の『爆弾石』が到頭起爆し、更にそれによってまだ奥に埋まっていた『爆弾石』達も連鎖するように誘爆して、今のような爆発を起こしたのだろう。
「「「「ッ!!!」」」」
すぐ近くでとても大きな爆発が起こって、呆然としていた(気を失っているロロを除いて)カレン達は爆発時に発生した爆音と閃光に不意を突かれて、たじろいでしまうが爆発後に生じた突風や土煙に対しては咄嗟に反応し、片腕で顔を覆い隠してそれ等を防ぐ。
やがてそれ等が収まると四人は片腕を退け、次の爆発を警戒する。
するとカレンはあることに気付く。
『爆弾石』の爆発で吹き飛んだ鉱山の一部達が粉々に成らず、大きな岩として空高く上空に舞っていることを。
そしてその岩の一つが丁度、金髪の少女の上に落ちてくるのだ。
しかも当の本人は頭上に岩が落ちて来ている等、気付いていないようであり、カレンは声を掛けるよりも先に少女の元へ駆け出す。
4秒も掛からない内に岩が少女の真上5mの距離まで差し掛かった時、カレンは地面を蹴って大きく跳躍し、直径4mの岩の中央に拳が届く間合いまで詰める。
「『光輝く鉄拳』!!」
と叫ぶと同時に光を纏った左拳で岩の中央を突いた。
岩はその一撃で粉々に砕け、塵と化し、風に流され飛散した。
「きゃ!」
カレンが岩を砕いた瞬間に岩の存在に気付いた少女は頭上に在った岩が粉々に砕かれたことに驚いて思わず、両眼を瞑り身を屈めて可愛らしい悲鳴を上げる。
そして何とか少女に届く前に岩の駆除に成功したカレンは自由落下で少女の目の前に着地し、両眼を閉じて身を屈めている少女の姿を見て、もしや怪我でもしたのかと思い、
「大丈夫? 怪我でもしたの!?」
身の安否を確かめようと手を伸ばして声を掛ける。
それに対して少女はハッと我を取り戻したかのように顔を上げて、
「さ、触らないで!!」
反射的にオールを振って、カレンを追い払おうとした。
「ぬっわぉ!?」
カレンは奇声を発しつつも、少女が大振りでオールを振ったお陰で避ける余裕が有ったので脚を曲げて上半身を後ろに倒したことで、真横から来たオールはカレンの胸板の上を通り過ぎる。
「「あ」」
と二人の声が重なる。
偶然にもカレンの胸板の上を通り過ぎたオールがカレンの胸ポケットにカスッた程度だが当たり、その拍子で胸ポケットに入っていたペンダントがポロッと抜け落ちてしまった。
そのままペンダントは床に落ちると滑り転がるように屋上の端まで移動した。
「ペンダント!」
少女はペンダントを追い掛けて屋上の端まで移動しようとする。
だがその時、少女とカレンは気付く。
先程の岩と同様、爆発の影響で吹き飛んだ鉱山の一部が今度はペンダントの上に落ちようとしていることに。
岩はペンダントの約10m上空に在り、岩の大きなは直径約1m前後、先程の岩よりも小さいがそれでもペンダントを壊すには十分な落下高度と大きさだった。
そしてカレン・少女と屋上の端に在るペンダントの距離は10m程度、その距離からでは走っても約1秒で屋上の端に落ちる岩から接触前にペンダントを回収することは不可能に近い。
それはカレンも金髪の少女も頭の中では悟った。
…………しかし、それでも少女は。
「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
無理でも分かっていても少女は叫びながらもペンダントに向かって走り出す。
するとその叫びに応じて、カレンの瞳が一瞬……………
…………銀色に変色する。
次の瞬間、ズン!!!と何か重い物が落ちたような音が屋上に響いた。
その音に釣られて、アイシャとミツルギは音がした方に顔を向ける。
音がした方には膝まづいて前に手を伸ばす金髪の少女の姿と少女の前に聳え立つ1m前後の大きさの岩が在った。
そして前に手を伸ばす少女の手には何も無かった…………
………少女は間に合わなかったのだ。
「あ……………あ…………………」
震えた声で少女は岩の下を見据える。
目の前で起こったが信じられないと言った表情で眼を丸くし、声を振り絞って少女は、
「あ………んた」
そう呟く。
〝目の前に居る人物〟に対して。
「「!!!」」
一方で少し離れた所から金髪の少女と岩を眺めていたアイシャとミツルギはようやくその人物に気付き、眼を見開いて驚く。
少女の目の前に居る人物とは頭から血を流し、しゃがんだ状態で直径1mの岩を背中の辺りで担ぐように両手で支え、片足だけを床に膝ま付かせたカレンだった。
「良かっ……た、間に合った………みたいだね」
途切れ途切れな弱々しい声でカレンは自分の開いた股の間を見詰めながらそう告げる。
その股の間の床には金髪の少女のペンダントが在り、ペンダントには何処にも破損箇所は見当たらなかった。
どうやらカレンは先に駆け出した少女よりも速く、約1秒後にペンダントと接触する岩を10m離れた所から何らかの方法を使って一瞬で岩の落下地点に移動し、岩を受け止め、身を呈してペンダントを守ったようだ。
だが、かなり高い所から落ちてきた直径1m前後の岩を受け止めたせいか、身体に相当なダメージをようで、岩を担いでいるカレンの身体は震えていた。
そんな状態でもカレンは岩から片手を離し、震える手でペンダントを拾い、少女に差し出す。
「はい」
「あっ………」
優しい声と共にペンダントと差し出された少女は戸惑いながらもそっと手を伸ばし、ペンダントを受け取った。
ペンダントを受け取ると少女はすかさず、ペンダントを握った手を自分の胸元に持って来て、カレンにこう問い掛ける。
「どうして? どうしてこれを守ってくれたの? アンタにこれを守る理由なんか………」
「あるさ」
「えっ?」
少女が『ペンダントを守る理由なんか無い筈』だと言う前にカレンが『守る理由はある』と即答し、少女は眼を再び丸くする。
「そのペンダントは………君に取って、とても大切な物。それが理由さ、誰だって…………大切な物を失いたくないでしょ?」
「だ、だからって……他人の私の為にそこまで」
「……おかしいかな?」
カレンがそう言い返すと少女は口籠る。
重ねてカレンは言う。
「何故かは…………分からないけど、あの湖で君のペンダントを拾った時………君がそのペンダントを大切にしていたって事が……………強く伝わったんだ。だからそれを無くした君は………きっと悲しんでいると思ったから、僕は君を探していたんだ」
「……………」
その言葉に少女は驚いて言葉が出ないのか、瞬きもせず、眼を大きく開いてカレンを見詰める。
そして我を取り戻したかのように顔をハッとさせると、すぐに立ち上がり、
「ふ、ふん! 赤の他人の為にこんな所までやって来るなんて、とんだお人好しね!」
顔を隠すように振り返って、呆れた物言いでペンダントを届ける為に此処まで追い掛けて来たカレンをお人好しだと評する少女。
しかしその後、すぐに振り向き直ると、
「―――でも………………ありがとう」
小さな笑みと共に小さくお礼を呟く。
綺麗な笑みだなとカレンは思わず、見とれてしまう。
今までこちらを警戒して、険しい表情しか見せなかった彼女が初めて見せてくれた笑みに対し、カレンは同じく笑顔で応えた。