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ユニヴァース  作者: クモガミ
二人の再会
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最悪の事態

頭上から落ちて来る金色の回転式外歯にミツルギは咄嗟に右手を掲げて、チェーンソーを掌で掴んだ。

するとミツルギの手とボスのチェーンソーが接触したその瞬間、接触箇所から火花が飛び散ると共に今までに無いぐらいの激しい金属音が鳴り響いた。

「!!?」

屋上に居るミツルギとボス以外の全員はその非常に五月蝿い金属音に驚き怯むが、間近でその音を聞いているボスが眼を見開いて驚く。

別に余りにもやかましい金属音に驚いた訳じゃない。

ボスは目の前の出来事に驚いているのだ。

それは何かと言うと。

「(す、素手でーーーーーッ!!?)」

ミツルギが素手でチェーンソーの外歯を掴み、そのまま高速回転する外歯を掌で受け止め続けているからだった。

その光景にボスは眼を疑う。

「(い、いくら"金"属性の能力で身体を硬化させているとはいえ、鋼も両断するこのチェーンソーを受け止めるとは…………や、野郎、一体どんな硬さしてやがる!?)」

能力を使っているとはいえ、鋼をも切り裂く程の切れ味を持っているチェーンソーの外歯を素手だけ耐えるミツルギの身体の硬度に心の中で驚愕の声を出すボス。

しかし、ボスのその反応は次の瞬間、すぐに一変する。

「!」

チェーンソーを無傷で受け止めていたミツルギの掌が僅かだが切れたのだ。

その変化にボスは眉を吊り上げ。

対してミツルギは掌から痛みを感じて若干苦悶の表情を浮かべる。

どうやら鉄壁と思えたミツルギの身体の硬さでも切れ味抜群のボスのチェーンソーの前では無傷で済む訳にはいかないようだ。

そして少しずつだが、チェーンソーが徐々に削り取りながら沈んでいき、同時にミツルギの掌の傷が広がっていく。

「―――ッ!」

傷口が次第に広がって、膨張するようにジワリジワリと痛みが鋭く且つ強くなっていき、流石のミツルギも苦痛の声を洩らす。

その様子を見て、ボスは今までどんな攻撃も無傷で済ましていたミツルギの身体にようやく傷を負わせたことが出来たことに唇を緩め、

「(イケる! 与えるダメージは少ないが、このまま傷口を広げてやれば、いずれコイツの右手を使えなくしてやる上に身体を硬化する能力の使用で『マナ』をガンガン削れる!! 一石二鳥ってやつだぁ! )」

と、心の中で歓喜の声を出すボス。

確かにこのまま右掌の傷口を深く且つ広くしていけば、右手は使い物にならなくなるだろう。

更に魔装器(まそうぎ)の能力で身を守らなければ、右腕が両断されかねんのでチェーンソーが身体に付いている限り、能力を継続的使用し続けなければならない為、ミツルギは『マナ』の消費を止める訳にはいかないのだ。

「(幸いにもコイツの腕力じゃ俺の腕力には勝てねぇ。チャンスだ、これはチャンスだぁ!)」

しかも腕力だけではボスの方が上なので、ミツルギはボスの手を振りほどくことが出来ない。

つまりボスは逃げられる心配もなく、好きなだけ攻撃を当てられるということになる。

素手でチェーンソーを受け止められた時はどうしたものかとさっきまで戸惑っていたボスだったが、掌の傷を切っ掛けに勝機が見えてきたようだ。

「(このままコイツをしっかりと捕まえていれば、俺の勝ち――)」

と、ボスがそう思い込んだ瞬間、不意に言葉が途切れる。

何故かと言うとボスは一つ思い過ごしていたことがあったからだ。

腕を掴んでいるお陰でミツルギに逃げられる心配は無いが、攻撃される心配があるかどうかを。

ボスの左手は刀を持った左腕を掴んでいるので、ミツルギは刀を振るうことは出来ない。

が、ミツルギが扱う刀は普通の刀ではなく、魔装器(まそうぎ)だ。

ボスは咄嗟に顔だけを振り向かせる。

すると案の定、刀の形をした魔装器(まそうぎ)の刀身が元々の長さを大きく越えて伸びており、そして布のように刀身が逆方向に折り曲がって、ミツルギの所へ戻るように刀身の切っ先がボスの無防備な背中へ伸びる。

しかし、その攻撃に対してもボスは即座にミツルギの左腕から手を離し、同時に地面を蹴って雷と同等な速度で右方へ10m程転がり込む。

その直後に刀身の切っ先がミツルギの頭上を通り越し、ボスは己の魔装器(まそうぎ)の能力のお陰で間一髪、串刺しにならずに済んだ。

………だが。

「その左腕はもう使えんな」

右方へ跳んだボスの方に振り向いて、静かにそう呟くミツルギ。

「…………ちっ!!」

起き上がってボスは忌々しそうに舌打ちをする。

そんなボスの左腕の肩に近い部分に大きな切り傷が出来ており、そこから大量の赤黒い血が流れて出ていた。

恐らくその傷は背後から迫った刀の切っ先をかわす際に出来た物と思われる。

胴体への直撃は避けたものの、左腕には当たっていたようで、相当傷が深いのか、ボスの左腕はブラーンと力無く垂れ下がっている。

ボスはミツルギの言う通り左腕が本当に使えないのか、試しに左腕に力を入れると直後に激痛が走り、苦悶の表情を浮かべて一瞬悶えそうになったが、隙を見せない為、なんとか激痛に耐えたボスはその痛みを以て左腕が使えないことを確認する。

「(畜生がっ!! まさか伸縮以外にも折り曲がりが出来るとはよ! 迂闊だった…………相手が持っているのも魔装器(まそうぎ)、常識外れの性能を持っているのは当たり前だ!!)」

知らなかったとはいえ、伸縮の他に折り曲がりが出来るミツルギの刀の性能に驚く共に、相手の魔装器(まそうぎ)の性能を考慮せず、その結果左腕が使えなくなってしまった己の迂闊さに苛立ちを覚えるボス。

そしてボスは前よりももっと強い焦りを感じ始める。

戦闘において腕が片方使えなくなるのはかなりの痛手だからだ。

しかも相手の実力が自分と同等、或いはそれ以上なら尚のこと。

追い詰めたつもりが逆に追い詰められている状況に早変わりし、ボスの額から腕の痛みによる汗とは別に焦りの汗が流れる。

するとボスはおもむろに溜め息を吐き出し、両目を瞑って。

「……仕方ねぇ」

歯痒そうにボソッとそう呟く。

その様子はまるで何かを飽きられ、惜しむように見える。

ミツルギのその様子を見て、また何かを企んでいるのかと警戒し、刀の刀身を元の長さに戻して何時でも動ける態勢に移ろうとした。


――――その時、

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

雄叫び共にボスの『雷の衣』体から閃光のような眩い光が発し、

そして次の瞬間、『雷の衣』から複数のジグザグ型な金色の電気光線達が縦横無尽に迸った。

「「「「!!!」」」」

ボスから電気光線が放出され、それ等が自分達のすぐ脇や正面を横切り、カレン・アイシャ・ミツルギ・金髪の少女の四人は突然の出来事に眼を細めて驚く。

だが、驚くべきことは更に続くのだった。

宙を走る電気光線達が屋上を飛び出し、アジトを囲むように聳え立つ鉱山の至る所に衝突する。

電撃により鉱山の至る所が削られ、それによって鉱山内に在るまだ取り出されていない無数の『爆弾石(ばくだんせき)』達が露出し、そして電撃の中に含まれていた強力な電磁波を浴びた『爆弾石(ばくだんせき)』達は呼応するかのように色濃く発光し始めた。

それを見てカレン達は背筋が凍り付くと同時に言葉を失う。

眼に見える全ての『爆弾石(ばくだんせき)』が爆発へのカウントダウンを始めたのだ。

あれだけの数が一斉に起爆すれば、このアジトを一瞬で吹き飛ぶ程の爆発が起こるとそこに居る誰もが分かった。

このような事態に危機感を覚えるのは当然なのだが、このような事態を引き起こした張本人のボスはしてやったみたいな、ニヤリ顔を浮かべている。

すると四人が唖然とする中、アイシャが一早く我を取り戻し、すかさずボスに向かって、

「な、何をするんだ!! あんな大量の『爆弾石(ばくだんせき)』を刺激されるなんて、此処で私達と心中する気っ!!?」

露出した全ての『爆弾石(ばくだんせき)』が起爆すれば、此処に居る全員の命は例外なく無くなるので、まさか自分達もろとも心中する気なのかと叫び掛けるアイシャ。

だがその問い掛けに対し、ボスは勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべ、

「心中だぁ? ハッ! 誰がテメェ等と一緒に心中する気なんてねぇよ!! 此処で死ぬのは………テメェ等だけだ!!!」

ボスがそう叫ぶとチェーンソーを空に向けて、大きく掲げる。

そうするとチェーンソーから大量の電気光線が飛び出し、電気光線達は瞬く間に鉱山全域に居る全ての盗賊達と三人組の盗賊達に拘束されている中年の男性に着弾した。

しかし、電撃を浴びた者達には怪我は無く、それどころか全ての盗賊達の身体と三人組の盗賊達に拘束されている中年の男性の身体にボスが身に纏っている『雷の衣』と同じ電気の衣が出現し、全員の身体を包み込む。

「な、なんだこれはっ!?」

突然、電気の衣が身体を包み、動揺する中年の男性。

この衣が何を意味するのか? 中年の男性には分からなかったが、ミツルギはその意味を見抜く。

「〝転移〟するつもりか!?」

「その通りだよ貴族様よぉ!! 俺達はあの〝ジジィを連れて〟〝本当のアジト〟へ戻る、テメェ等は大人しくこの鉱山と共に消し飛んでおけっ!!」

今のボスの台詞からはアジト内に残っている人質は連れて行かないと察した少女はボスに向けてこう問い掛ける。

「なっ、待ちなさないよ! 自分達だけ逃げる気!? 下に居る他の人質達はどうするつもり!?」

「知ったことか!! 俺達はあのジジィに用が有るんだ、他はどうでもいい!」

カレン達を葬り去る為に人質達の命も犠牲にするボスのその台詞には狂気が満ちていた。

それを聞いたミツルギとカレンは迫真の表情で。

「正気か!? この国もどうなっても良いと言うのか!?」

「もし鉱山(ここ)の『爆弾石(ばくだんせき)』が全部爆発したら、この大陸中の地盤が崩れて多く人が死んじゃうかもしれないんだよ!! こんなことして何とも思わないの!!?」

もし全ての『爆弾石』が起爆すれば、この国やこの大陸中に住む大勢の人達に多大な被害をもたらすかもしれないことに対して、思うところは無いのかと問われるとボスは落ち着いた表情に切り替え、カレン達に向けてこう言い返す。

「………何とも思わないねぇな、滅ぶなら滅んじまえば良い! こんな国!!!」

真顔でそう言い切ったボスにカレン達は口を開いて絶句する。

するとボスの『雷の衣』と中年の男性と盗賊達達の身体を包む電気の衣の輝きが一段と強くなり、

「じゃあな」

そしてボスがそんな別れの言葉を告げた直後、ボス達はまるで雷のように空へ駆け昇り、瞬く間に空の彼方へ消えて行った。


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