分かれ道
ロロがくれた『暗通薬』のお陰で外の光が届かない真っ暗な洞窟内がハッキリと見える為、何の苦労もなくカレンは先に走って行ったロロの背中にすぐ追いついた。
「ねぇ………この洞窟はあとどれくらい進めば出られるの?」
後ろ姿を発見するとカレンはロロの隣に並んで出口までの掛かる時間を問いかけた。
「そうだな、俺の村の話によるとこの洞窟を脱け出すのに最低でも二時間掛るって、言ってなぁ」
「そんなに?」
そこまで時間が掛るとは思わなかったカレンはロロの言葉に耳を疑う。
「まぁこの洞窟は上に在る運河や山々の下を通り抜けているからなぁ、そんなに時間が掛っても別に不思議じゃない」
「そうなんだ」
走りながらこの洞窟の構造をあやふやに想像するカレンにロロはカレンの顔を見てニヤニヤ笑う。
「? どうしたの?」
「いや……………まさか俺様よりも田舎者が居ると思うと…………」
口を押さえ、笑いを堪えるロロ、カレンは何故、ロロが笑うのかを理解する事など出来なかった。
「まぁ、田舎者だから仕方ねぇか!」
「?」
急に機嫌が良くなったロロはカレンより前に出る。
「ねぇ、此処って魔物が沢山居るって聞いたんだけど、その割にはさっきの魔物たち以外、全然姿を現わせないね?」
「今の時間帯だと大抵の魔物は餌を求めて狩りに行く頃合いだから、十中八九魔物の殆んどは餌を取りに外へ出かけたんだろうな」
「食べ物を探しに行った………だから、居ないんだ」
「さっきの魔物も狩りに行くために外へ向かう途中だったじゃないか? まぁ俺たちにとっては好都合だがな」
「だね」
魔物の事を思い出してから魔物とは此処に居る限り、沢山戦う事になると思っていたがロロから魔物たちの内情を聞いて、カレンは『幸運だな』とささやかに思った。
「しっかし、お前………いや、そういえばお前の名前を聞いていなかったなぁ?」
今になってロロはカレンの名前を聞いていなかった事についてようやくに気付き。走る速度を下げ、カレンの方に顔を向ける。
「お前、名前は?」
「カレン」
「『カレン』? なんか女っぽい名前だな」
「女っぽい?」
走る速度を下げたロロと同じく速度を下げたカレンは、自分の名前が『女っぽい』という言葉の意味に首を傾げる。
「『カレン』っていう名前は、そんなに女の子っぽいの?」
「そりゃあ、そうだろ! 『カレン』なんて女の名前か花の名前だぞ」
「花?」
花という単語に反応するカレン。
「何て言ったけなぁ、確か名前が……………なんちゃらカレンだったような…………?」
「『なんちゃらカレン』って言う名前なの?」
「いや違う! その『カレン』って言う先の名前が思い出せねぇんだよ!」
カレンの天然ボケに素早く突っ込むロロ。
「そうなんだ……」
「そうなんだって……お前、自分の名前がどうやって付けられたのか分からないのか?」
記憶喪失なので、ブレスレットに刻まれた名前を自分のだと思っているカレンは自分の名前が何を元に付けられたのか分からないので、ロロの問いには答えられる訳が無く。
「それは………分からない」
「…………?」
口に出したカレンの答えは何処か重くて暗いような感じで、ロロは何か聞いてはいけない事だと悟り。
「まぁ……名前なんて人それぞれだもんな! はっはっはっは」
笑ってカレンを励まそうとするロロはカレンが落ち込んでいると勘違いをしていた。
「あ! そうだ! 俺様の名前はロロ・グライヴィー! 前にも言ったが『カム―シャ』のバンチョ―だ!」
その場をはぐらかそうとロロは自身の自己紹介を始めた。
「ああ、知っているよ。イミナちゃんから聞いたよ」
「何! イミナから!?」
自身の自己紹介をした途端、カレンは自分の事を妹から教えられ知った事に驚くロロ。
「イミナちゃんから僕の事を聞いていないの?」
「聞いてる訳ないだろ! 俺が目を覚まして妹にお前が何処に行ったか聞いてだけで、それ以外は何も聞かず、急いで準備して出て行ったんだからな!」
「どうしてそこまで?」
「お前との決着を付けるためって、言ったろう!!」
忘れていた訳じゃないがロロの突っ込みで確かそんな事を言っていたなとカレンは思い出す。
「そういえば、そうだったね」
「ハァ……お前が盗賊に追われている事が分かっていたら、わざわざこんな所まで追っかけて来なかったのに………」
溜息を吐いて、自らの行いを後悔するロロをよそにカレンはある事について尋ねる。
「ところで、魔法って僕でも使えるの?」
「ああ? 何だよ急に?」
唐突に話題を変えて来たカレンにロロは眉を吊り上げる。
「いや、僕も使えるかなぁ~~~って」
「確かにお前にも使えるかも知れないが、簡単に使える物じゃないんだぞ! 特に魔法に使う『マナ』をうまくコントロール出来ない奴はな!」
「(『マナ』? これも聞き覚えがあるような?)」
「やっぱりこれも?」
「知らない」
「……『マナ』も知らないのか……」
溜息混じりにロロは呆れかえる。
「『マナ』って言うのは、全ての生物に宿る命の源の事だよ!」
「命の源?」
「そうだ! 俺たちがこうやって生きているのも、俺たちと言う生物が生まれたのも、この世界が出来たのも、全て『マナ』の御陰なんだ!」
両手を広げ、『マナ』の偉大さをアピールするロロ。
「その『マナ』って言うのは、僕にも在るの?」
「当たり前だろ! 俺にもお前にも体の中に『マナ』が在るんだ」
「体の中に?」
体の中に在ると聞いて胸に手を当てるカレン。
「俺達の体の中に『マナ』が在るから、俺達は今こうやって生きていられるんだ。その『マナ』を消費して、魔法が使えるんだよ」
「『マナ』を消費?」
「もっと詳しく言えば、何かをする時も何かを生み出す時も生きている事すらもあらゆる事に『マナ』を消費しているんだ」
走りながら淡々と説明を続けていたロロは、自分の足に指を指す。
「俺とお前が今こうやって、走っていられる体力も『マナ』に関係しているんだ」
「体力も『マナ』に?」
「体力だけじゃない、気力も精神力も『マナ』に関係しているんだ」
説明を少しずつ理解しつつあったカレンは、ロロの話を聞き続ける。
「そしてこれらを司る『マナ』を『力のマナ』って言うだ」
「『力のマナ』………?」
「その『力のマナ』を消費して、魔法が使えるって訳だ」
「…………」
「どうだ? わかったか?」
魔法やマナについての説明が終わって考え込むカレンに、ロロは心配そうに顔をのぞみ込む。
「うん……何となく分かったよ」
「! そうか! やっぱり俺様の説明は分かり易かったか~~~!」
「?」
言葉の割には何処か安心した表情を見せるロロにカレンはその表情の意味を理解する事はできなかった。
「あっ!」
「ん?」
走りながら続けていた話が終わった矢先にカレン達の前に左右に道が分かれた、分かれ道が視界に入って来て、反射的に二人はその道の前に足を止める。
「分かれ道かよ………」
厄介な物に出会ったみたいに眉が下がるロロ。
「どっちに進む?」
「う~~ん……そうだな~~~」
顎に手を当てて、分かれ道を観察するロロ。
「お前ならどっちにする?」
「僕? ……そうだな~~?」
ロロに振られたカレンは同じく顎に手を当てて、分かれ道をじっくり見詰める。
「う~~~ん………右かな?」
悩んだ末、右の道を選ぶカレン。
「おお、右か!? 俺もちょうど右かな~~~~っと、思った所だ!」
どうやらロロも同じ道を考え付いた様で、意見が重なったのが少し嬉しかったのか。ロロは妙にテンションが上がった。
「じゃあ、お互い右って事で、右の道を行くぞ~~~!」
「うん」
特に異論は無く、テンションが上がったロロに相槌を打つカレンはロロと共に右の道へ足を運んだ。
「お?」
右の道を歩いて、そう経たない内に今まで見て来た狭い通路とは違う、少し広がった空間の中に入っていた。
「此処は何だろう?」
その空間は円状形に成っていて、見渡す限りでは来た道以外、全て壁に覆われていた。
「なんだなんだ? 行き止まりかよ?」
たどり着いた円状の空間は行き止まりだと見定めたロロは落胆する。
「どうする?」
「戻るに決まってるだろ! さっき選ばなかった左の道に行くんだよ!」
振り向いて来た道を戻ろうとするロロだったが。
不意を突くように空間内に何かが鈍く軋む音が響く
「!」
突然、耳に聞こえた不吉な音に足を止めるロロ、その音が響いた後に続いてか洞窟内が激しく揺れ始めた。
「ッ!」
「な、何だよ!?」
激しく地面が揺れる事に動揺するカレンとロロに追い打ちするかのように、カレン達の来た道が揺れによって空間の壁が崩れ落ちて塞がってしまう。
「なっ!?」
「げげっ!?」
洞窟内の激しい揺れはまだ続き、カレンとロロの動揺を更に大きくしていく、すると揺れの音に混じって何か別の音がカレン達の耳に入った。