兄は聖女(女装)を演じる 前編
兄、静也視点です。
エレベーターから異世界へきて、3日目の昼間の出来事だった。
ことの始まりは、静華の一言から始まった。
静華は今夜、開かれる舞踏会にアディストリア公国の騎士団長にエスコートされていく予定だったのだが……
「私、出ない。それよりお兄ちゃん代わりにでて」
「嫌だ」
俺は何だか身の危険を感じて一歩後ずさる。
「私、いつ誰かに命狙われて、襲われるか判んないし、お兄ちゃん私に代わってがんばってくれるよね?」
静華にそこまで言われるといかん。流されてはいかん。
俺は負けない。ここで頷いたら俺の男としての尊厳が無くなる。
「静華その為にこの国一番の騎士団長がエスコートしてくれるんだぞ。」
俺は祈る想い、いや神にすがる想いだ!
神様、仏様、雫様
この憐れな勇者、静也を助けたえ、いや助けて下さい。
ヘルプ・ミーッ!
「だからじゃ、ないの騎士団長でしょ?
もう、萌えまくちゃって本番で鼻血放出しちゃいそうで怖いのよ。
それに、お兄ちゃんには初めから拒否することは出来ませんので。」
静華はゆっくりと俺に近付き…
俺の意識は強制終了させられた。
ふと、気が付けば静華に似た女性がいた。
いや、違う。
これは、俺だよ。
またしても、俺は負けたのだな。
これで何度目だろうか……
中学高校とあいつ(静華)のせいで、女装癖だのオカマだなんだと噂がたったり、俺を題材にしてBLマンガ書くし、恐ろしくて読めない。
「綺麗になったでしょう。これなら簡単にバレないでしょう。」
静華はにっこり笑って俺を見た。
「見た目、だけならな声はどうするんだ。」
「喋らなくていいよ。雫みたいに、言葉解らない設定でって、月の巫女姫様に伝えてあるから、お兄ちゃんは扇子で顔隠して適当に相づち打って置けばいいから。」
「勇者としての俺の出席は?」
「今日は出番なし。お腹こわして休みます。」
最悪だ異世界でも妹に敵わないなんて…
まぁ、ゲリしました休みますじゃあなかっただけましか……
こん、こんっ、
ドアを叩く音がする。
これは、俺にとって戦いのゴングがなる音だった。