花街の悪夢 6
「困りましたね、この方だけは身元も判らずに言葉も通じないとなれば…!」
ルイズラムははっと思い付いた。
「魔族?」
キールがルイズラムの言葉を紡ぐ。
「そういえばその人、水以外口にしてないよ。大丈夫かな?」
((ああ、そういわれれば))
静也の素朴な疑問に二人は気付いた。
昨日の騒動から一夜明けた今日、誘拐されて捕まっていた少女や男達を保護し、それぞれ捜索願いが出ていた人がほとんどであったがこの美しい青年だけ別であった。
言葉が通じない。
更に食事も水しか飲まず、どうしたらよいのか困ってしまう。
彼は常に無意識で魂がない人形のようだ。
しかし、話をかけると言葉を返してくれる。魔族語で。
彼は人間の言葉を理解しているが、喋れずに魔族語で話しているようだった。
「アタシの名前はキールよ。キ、イ、ル」
「…きぃる?」
「そうそう!すごいじゃない。こっちの赤毛はズラよ、ズ」
「おい!待ちたまえ、ヅラじゃない、地毛だ!じ、げ」
「キールさんもルイズラムさんも何か話がズレてきてますよ。」
「地毛だからズレたりしたりは」
「ルイよ。ル、イ」
「…るい」
「「始めからちゃんと教えろ!」」
キールに突っ込む二人だった。
「最後にシズヤよ。シ、ズ、ヤ」
「シズヤ」
彼は三人の名前だと理解し、もう一度三人の名前を順に呼び、最後に自分自身に指を向けた。
「アダム」
彼は自分の名前を告げた。初めて会話が成立した気がした。
**
「ところでアダム、君は、何を食べるんだい?」
ルイズラムはアダムに聞いているが、
「××××」
やっぱり魔族語である。
アダムは一体何を食するのか!?
すると、アダムはキールに近づいて、ちゅうっと音をたてて口を吸った!
まさに吸うと言うのが正しいだろう。
静也とルイズラムはぎょっとしてアダムから離れた場所に移動した。
アダムはアレなのか!
二人は身の危険を感じながらもキールはアダムからの口吸いが終わり、ガクッと膝をついた。
「残念だけど、アダムは淫魔か夢魔ってとこかしら?」
キールはアダムの正体が判ったようだ。
「「……」」
静也とルイズラムはキールの言葉に少し安堵した。
キールは女性と間違えられたらしい…。
その証拠にアダムは初めて表情を崩して眉間に皺を寄せて蒸せ返していた。
先程の光景をあの色物好きの長女と巫女姫が見ていたとしたら…、
いひひ、と笑いながら鼻血を放つ鈴木家の長女と、あらまあ、どうしましょうと手で顔を覆いながらも、指のすき間からちゃっかりその光景を堪能しているアディストア王家の長女が、容易に想像出来てしまう……。
………!?
静也は妹のことを思い出して薬袋の中に絶対に使わないと思っていた薬を思い出した!
静也はごそごそと薬を探して薬瓶に書かれた内容をみた。
『性命欲協力増幅液』
効用:性欲と生命力を高め増幅させる
備考:一滴で効果抜群
二滴で中毒者爆発
三滴で限界致死量注意
こ、これだ!
今、これが必要としている魔族がすぐ目の前にいるではないか。
静也はアダムに一滴だけ、その秘薬という名の媚薬を飲ませた。
アダムはかつてないほどべろんべろんになって千鳥足になった。
…ヒック?!
一滴で効果は抜群に違いないようだ。
結局、アダムはそのまま次の日の昼までぐっすり眠っていた。起きた時は血行が良くなり頬に赤みが差していた。
アダムは今まで緊張仕切っていて疲れきっていたので、一気に緊張が緩んだと思って下さい。
ちなみにどんな口吸いだったかは読者様のご想像にお任せします。