花街の悪夢 2
時刻は夕方。
辺りは暗くなり始めて周りの建物に明かりが灯る。
昼は太陽の光が街を照らし花の香りが広がる緑豊かな街だったが、夜になるとまた違った情景になっていた。
現在、勇者一行は花街の街広場にいた。
広場には噴水や花時計があり時計の針は夕方6時近くを指していた、季節柄まだ日が沈みきっていない。
この世界には月が13ヶ月あり、1月が28日で構成されている。
地球の一年間とほぼ近い日数だ。
勇者一行は広場で情報を獲ようと変装して着たわけだが、
よりにもよって、
何で俺が娼婦をやんなきゃなんねーんだよっ!!
あと、キールさんも。
俺が…娼婦だなんて、
さ、最悪だ。
しかも今着ている服にも問題が…。
何故、和服?
全体が空色の生地に柄は上から下の裾にかけて舞い散る薄紅の桜が広がり、帯は萠色だ。
薄化粧をキールにしてもらい、髪は黒のお下げのカツラを被った。
もう一人のキールに至っては見事に娼婦に化けている…。
紅いドレスに胸元はあいてないが、背中が大きくあいている。
スカートは長いが太ももから大きくスリットが入って、そこから覗く黒いストッキングを履きチラリと見えるガーターベルトが艶かしい。
化粧も上手く、元々妖艶なキールだったがそれに拍車がかかったようだ。
紫がった金の長い髪は腰までかかり、今まで簪で髪をアップに纏めていたので、髪を下ろした姿は新鮮でどう見ても女にしか見えない。
肝心の女性を表す部分にはパッドを詰めて誤魔化した。
静也は宣言する、俺は今まで女性の下着を着たことなどない。
今回の襦袢を除いては、
結局、身に付けているではないか…。
**
「こんばんは、お嬢ちゃん。今夜はわしと一緒に食事でもどうかね?」
60代位の初老の男が声をかけてきた。
「…えっ、あ、あの…」
「お嬢ちゃん、もしかして初めてなのかい?」
こくりと首を縦に頷く黒髪のお下げの少女がそのまま顔を下に伏せる。
「そうか、じゃあ今夜は食事だけでも、すぐそこの店でもどうだい?」
初老の男はそう言い、女装した勇者の静也はまた、頷いて後を着いていった。
店の中はこじんまりとした上品でゆったりとした酒場だった。
初老の男は女装した静也を席に座らせると向かいの席に座り、注文表を静也の前に差し出した。
「さあ、好きな物を選びなさい」
「…お、水で」
ウラ声でやっと喋る静也に対して初老の男はニヤリッ( ̄ー ̄)と気持ち悪く笑ってきた。
静也は鳥肌を立てたのは言うまでもない。
「初めてで緊張しているんだね。わしが代わり注文を頼もう」
そう言って初老の男はミートスパゲッティを2つ頼んだ。
「さて、お嬢ちゃんはどこから来たんだい」
「お、わっ私は遠くから…です」
男の問いかけに答える静也。
チリン、チリン。
店の中に客が来たことを知らせるベルが鳴り響く。
赤毛の男と紫がかった金の長い髪の女。
静也がよく知る知人が店に入ってきたのだった。