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魔守の森 名無しの龍 5

雫とランスロットはスーちゃんの案内で『うれいのみずうみ』にやってきた。



ドラゴンがいた銀色の鱗に太陽の光が当たってきらきら輝いていたが傷だらけだった。



身体のあちこちが刃物で傷つけられて、まだ日が浅いのだろうか翼の根に近い背中の怪我が痛々しかった…。



傷ついた龍は瞼を閉じていたが二人と一匹の気配に気付いていた。




《何しに来た、人間》



《あなたが魔王の子供ですか?》



ぴよ、ぴよぴよ。


《こんにちは、あたちスー。しずくに名前もらったの、よろしく》



龍は人間の子供がスライムと一緒に魔族語を話しているのに驚いたようだ。



《人間、私がそうだととしたらどうする》



《あなたのお母さんが魔王なら、あたしはあなたに名前を伝えなきゃいけない》



龍は黄金の瞳を大きく見開いた。



故郷の山を追われてからは周りの魔族からは名無しの龍と蔑まれ、人間達からは怖がられて命すら狙われた。



今まで人間と言葉を交わしたのが初めてであり、ずっと探し問いかけてきた答えをこの小さな人間が知っている。




だが、信じられる訳がない。




雫は龍に近付き傷跡が残り鱗が剥がれている所にそっと触れた、龍はヒヤッとしていて冷く硬い感触がした。





《人間、何をしている?》




龍は小さな人間に傷跡を触れられて困惑した…。



この小さな人間は何者なのだろう。





《ノアールは今までこんなに傷付いて、痛い思いしてきたんだね》



雫は手に触っている傷の深さに心がえぐられるように痛む。




《…何故、目から水がでるのだ?》




雫は龍に言われて自分が今、泣いていることに気付いた。




「大丈夫ですか、シズク?」




心配したランスロットが雫に言う。




「…わ、からな…いです」



「はい」




ランスロットは雫を見守るようにきく。




「龍の傷を癒してあげたいのでしょう。これを使いましょう。あなたの姉上が作った傷薬です」




ランスロットは雫を追いかける前に雫の姉の静華からもらった薬袋を開き『傷薬』と書かれた塗り薬を雫の前に差し出した。




「…ランス、ロット様」



雫はランスロットの手から傷薬を受け取った。



《ノアール、怪我の手当てさせてもらえる》



《…勝手にしろ、人間》



《ありがとう》




雫は泣き止んで小さく微笑んだ。




雫は龍の背中に塗り薬を塗った。




龍は今までに感じたことのない感情にどうしたらいいのか困惑していた。




今まで傷を癒そうとしたものがいただろうか。私を『ノアール』と呼び、小さな手で私に触れて目から水を流す不思議な人間。




小さな人間に触れられるあたたかい温もりに龍の心は暖かい気持ちになっていた。




この気持ちが安心するという言葉なのだか、この龍は故郷を離れて以来、初めての経験だった。




《ノアール、もう大丈夫。あたし達と一緒に行こう》




雫は龍の顔に近付いてそっと抱き締めた。





《ええ、行く》




龍は知らない内に見えなくなり、銀色の輝く髪に黄金の瞳の17、8歳位の美少女が雫に抱き締められていた。




雫はびっくりしたが美少女のお姉さんが雫をぎゅっと抱き返した。



《もう一度、私の名前を呼んで》




《…ノアール》





雫はそのお姉さんの声が先ほど龍と同じ少し低めの心地よい声で同一人物だとわかった。



私の名前は、ノアール。




母上が名付けたかった私の名前。




でも、それよりもずっと大事な―――





人間の子が名前を呼んで一緒に行こうといってくれた。





もう、一人じゃない。




それだけで私は幸せだ。






《ノアール、涙が…》



ノアールは顔が濡れているのに気が付いた。



《私も、目から水が…》




すると、



ぷに、ぷに、ぷにぷに。



スーちゃんがノアールに近付いて顔をぺろぺろ舐めた。



ぴよ。


《しょっぱいでし》



スーちゃんはノアールの膝に座った。



《それは、涙だよ》



雫はノアールを見ていった。



《…涙?》



《うん、うれしい時や悲しい時に、涙が出るの》



《そうか》




ノアールは雫を見て二人は一緒に笑った。






**





魔守の森を出た三人と一匹。




孤児院から黒髪の少女が目の下に見事なくまをつくって駆け寄ってきた。




「雫ー!!」



「お姉ちゃん!」




「雫のバカバカ!

1週間も帰って来ないで、すっごく心配したんだから」



「…い、1週間…もごめんなさい」



素直に謝る雫。




「でも、無事良かった」



静華は雫を思いっ切り抱き締めて頭を撫でた。



「お姉ちゃん、くっるしいよ」



「あ、ごめん!」



静華は腕の中にいる妹を愛しそうに見つめていたがあるものに気がつく。



「雫、あの黒いスライムと銀髪の美少女は?」



「うん、友達だよ」



「そっか」




静華はそういうとするすると力を無くす様に雫に倒れこんだ。




「お、お姉ちゃん」



妹の無事を確認した静華はここ数日、眠れてなく妹の帰りに安堵して眠ってしまったようだ。




「シズカ様をお運びますが」



ランスロットの問いかけ雫は、



「結構で……おね、がいします」



雫はしゃーと逆毛を立てた猫のようにランスロットを警戒したが、自分では姉を運べない…。



姉に触れて欲しくないと思いながらも仕方なく、今回はランスロットに頼んだ。




その後、姉は3日間こんこんと眠り続けた。




**





後日、城に着いた聖女一行のニュースでブラックスライムが一匹いたことで城中、大騒ぎとなったが、




愛らしい容貌とぴよぴよと鳴く可愛い声にくりっとした濡れた黒真珠のようにきらきらした瞳を見てしまった人々を虜にするスーちゃん。




ある意味、魔族だ。




スーちゃんの城での人気を聞きつけた新聞社がやってきてスーちゃんのことを紹介したいといってきた。



「是非、我が『週間新聞アディストリア』にスー殿のことを記事にしたいのですか?」



新聞記者がアラジン国王陛下に謁見していた。



「陛下、私にその記事に描かせて下さい」



そっと、様子を見にきていた聖女が名乗り挙げた。



「その、私が記事を……」



何だか言いにくい新聞記者。



「良かろう」



王が一言で許可した。



「ありがとうございます、陛下」



静華はにっこり笑顔で応えた。




こうして、聖女の静華は週間新聞で魔族のスーちゃんを記事に書くことになった。




新聞が発刊され、聖女が書いた話題性たっぷりの記事を読もうしていた国民に驚愕きょうがくが押し寄せた。



作者 シズカ・スズキ


1コマ目 ぷるぷる震えいるスーちゃん。



2コマ目 ぷにぷに飛んでいる?(注 歩いてる)スーちゃん。



3コマ目 ぴよぴよ鳴いているスーちゃん。



4コマ目 瞳がうるうるしているスーちゃん。






なんじゃ、こりゃあーーー!!





4コマ漫画です。






スーちゃんの魅力を充分かつ無駄なく引き出しているぞ!






これは新聞には必ずなくてはならないものだ。




それがこの世界の新聞には一つもないのだ。




静華の予想は大当たり!




『週間新聞アディストリア』は静華の描く4コマ漫画を目的に新聞を買う人が増えて新聞社は黒字となった。




そして、スーちゃんを題にしているせいか、国内の魔族に対する風当たりや偏見が国内ではかなり薄れていった。






**




「シズク、ここにいたのですわね」



「ノアがあなたを探していましたよ」



「エヴァ先生…」



《ノアール》は魔族語で皆が発音出来ないために『ノア』と近い名で呼んでいた。



ノアールは最初、雫とスーちゃんだけしか心を開かなかったが雫の姉の静華とは親しくなっていた。



「エヴァ先生、どうしてあたしだけ魔族語が話せるのでしょうか?」



「そうですわね、シズク、この水晶にまたあなたを見てみましょう」


雫はエヴァンナに言われてもう一度、属性見て職業の所に新しく追加されているものがあった。




職業 児童小学5年


体育会系魔族言語術魔女っ子



あたしはアッコちゃん的…



いや、変人する。



変換間違えた…


変身はしない。




サリーちゃん的だろうと雫は頭の中で考えた。




「シズク、これから先はどうしたいと思いますか?」




「あたしは魔族に優しい世界にしたいです」




雫はずっと考えてた気持ちをエヴァンナに話した。



「シズク、それではこれから魔法を学ぶための学園に入ってみませんか?」



「はい!」


雫は迷わず返事をした。



あたしはこの世界のことをもっと知りたい。



《ノアール》や他の魔族達の役に立ちたいそう思った雫だった。





そして、雫はその翌日から『マラウィ魔法学園』に入学したのだった。





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