魔守の森 名無しの龍 1
新章突入です。
勇者が旅立ってから1週間が過ぎていた。
今日は静華と雫とおまけに護衛のランスロット騎士団長が公式に孤児院の訪問に馬車に乗って移動していた。
「お姉ちゃん、今日行く孤児院は近くに大きな森があるんだってね」
「うん、なんでも国の天然保護国立指定地域に指定された『魔守の森』ていうんだよ」
「いってみること出来るかな?」
「いけません、シズク。そこは魔族がいてあなた一人では危険ですし、何より一度入った人間は二度と出れないと云われている位に別名『迷宮の森』とも云われているので気を付けて下さいね」
「は〜い」
三人がそんな会話がされていた。
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鬱蒼と生い茂る木々の中で一匹の魔族がいた。
その魔族には産まれた時から名前が無く『名無しの龍』として呼ばれ、産まれた山を降りてからは皆から蔑まれ孤独だった。
《ナゼ、ワタシニハ ナマエガ ナイノ?》
その魔族はいつもその答えを探して『魔守の森』へ来ていた。
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孤児院に着いた静華達。
子供達の様子を見ることや一緒に遊んだりしていた。
静華はその時丁度、孤児院で一番幼い赤ちゃんをあやしていた。
静華は意外と子守が得意だった。
腕の中にいる赤ん坊を上手にあやしている。
すると、雫が近くにやって来た。
「お姉ちゃん、赤ちゃんあやすの上手だね」
「うん、雫の小さい時よくお兄ちゃんとで雫の子守してたからね」
「へえ〜、そうなんだ」
「雫がよく夜泣きして泣いてた時はやっぱりお母さんの子守唄で泣き止んでたけど」
「サイレントナイトだよね?」
「うん、12月25日は雫のお誕生日だからね♪」
「クリスマスと誕生日が一緒なのはちょっと損した気分だけど…」
「まあ、いいじゃない。それよりこの子にも歌ってあげたら?
この間、合唱部でソロで歌って市の大会優勝したんでしょう。
お姉ちゃんにも聴かせて?」
「えっと、サイレントナイトでいい?」
「ええっ」
雫は歌いだした。
ーーー♪、〜〜〜〜♪
その歌声は優しく柔らかいがしっかりと辺りまで響き空気に溶け込んでいった。
ランスロットは別の部屋にいて子供達と遊んでいた。
聖女殿の歌声が聴こえる。
ランスロットはその歌声に惹かれるよう静華と雫のいる部屋へと足を運んだ。
すると、ふっとまたしても歌が終わってしまったようだ。
しかし、ランスロットは赤子を抱いて、優しく微笑む静華の姿を見付けて確認した。
聖女殿の歌をもう一度、聴くことが出来た。
ランスロットは嬉しげに優しく赤子を抱く静華の姿をそっと見つめていた。
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歌を歌っていた瞬間。
《ナゼ、ワタシニハ ナマエガ ナイノ?》
微かに聞こえた、問いかけの声。
「お姉ちゃん、ちょっと散歩いってくるね」
「あっ、雫。気を付けてね」
初めてこの世界に来た時と同じ、頭の中に届く声。
教えてあげなくちゃ!
雫は知らず知らずの内に『魔守の森』へと足を運んでいった…。
別名 迷宮の森へとも。
先王の遺産でもう察していた方も多いと思いますが声を聞くができたのは雫でした。