勇者の旅立つ日まで
「くっ…やあ!」
カキンッ。
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。
「もう少し刀の流れを汲み取るように」
ランスロットが言う。
「はい!」
再び剣を交える二人。
異世界にやって来てあっという間に20日が過ぎていた。
ここ5日ばかり勇者の剣を用いて騎士達の中に混じって実戦的な訓練をしていた。
**
「痛ってぇ…」
「ちょっと、ガマンしてよ。お兄ちゃん」
「お兄ちゃんの手にまめ出来てるね」
手に出来たまめが潰れて、妹の静華に手当てしてもらっている兄の静也とその様子を見ている末っ子の雫。
「お兄ちゃん、結構十手とかすぐ落としたりしてない?」
「………」
図星のようだ。
「お兄ちゃんにこれ、プレゼント」
末っ子の雫がそう言って、静也の前にポケット中からあるものを取り出した。
ぷらーん。
ぷらーん。
紐ですよね?
細い丈夫な紐みたいですが雫さん…。
「この紐は?」
静也は末っ子の雫に聞く。
「手貫尾だよ。お兄ちゃん、十手かして」
末っ子の雫はそういうと静也から十手を借りて何やら紐を十手の柄にしっかり結んだ。
そのまま雫は紐を手に通して十手を持つ。
「お兄ちゃん、ちょっと立って」
「あっ、うん?」
言われるまま、立ち上がる静也。
「いくよ」
「えっ、な」
バシッ。
「ι☆#£?◇≒ζд?!」
あまりの痛さに声にならない悲鳴をあげる静也。
兄である静也の尻を十手で叩く末っ子の雫。
何かのお仕置きみたいにみえると思ってしまう静華。
兄はプレゼントとは尻を叩かれることなのか?
おにーちゃん、何か悪いことでもしましたか?
11歳の時に一緒に寝ておにーちゃんが火事の夢を見て雫さんのお布団を洪水にしてしまったことをまだ根にもって足りとか…。
痛さのショックのあまりぐるぐると混乱している静也。
「これ、つけると短くても長い刀と同じくらいの打撃の威力が増すの。
あと手から離しても簡単に落とす心配しなくてもいいんだよ!」
雫の話に上の兄妹は納得した…。
身を持つて体験させられたんだと。
ただ喋るより実際に叩かれると現実味が違ってくる。
だが、雫は手加減なく子供の力でも十分に威力を発揮していることを教えてくれた。
しかし、静也の尻は猿のようになってしまったため、また薬を塗るはめになってしまった。
**
次の日の朝。
王族三兄妹と鈴木三兄妹、第一騎士団長のランスロットが勇者ご一行の旅立ちに立ち会った。
「あの、妹達のことくれぐれもよろしくお願いします」
勇者である静也は旅立たなければならない。
「ご安心して下さい。シズカ様とシズクのことは御守り致しますわ。(悪い虫が付かないよう)」
エヴァンナが言う。
「お兄ちゃん、これ薬とお金」
静華が袋を渡した。
「ありがとう」
静也は袋を確認した。あのBLマンガ本の印税のお金と薬がいくつか入っていた。
「お兄ちゃん、チョーク半分こ!
何かあったら書いて、絶対会いにいくから!」
雫は白いチョークをぱきんっと折って静也に渡した。
「ああ、元気でな!いってくる」
静也はそういい、黒馬に乗ってルイズラム宰相とキール副団長を率いて旅立った。
その日はいい天気で太陽がきらきらと輝いていた。
これでお城の生活編が終わり、勇者が旅立ちました。