聖女付き侍女見習いと騎士団長の攻防 中編
金髪碧眼の美少女が麗しく本を読んでいる…。
タイトルは、
『月影の蜜事~いけない恋のはじまり』
作者 ジュリエット・シャーロック
「……まあっ!、素敵でしたわ。お兄様は受け身、ランスロット様…違いましたねオスカー様がまた情熱的に自然と攻め行くところ…月明かりの下、二人が交わす秘密の口付け…
萌えっとはこのことなのですね!生まれて初めて味わう感情なのでまだどきどき致しますわ。」
これが読み終えた感想だ。
彼女こそこのアディストリア公国の王女にして月の精霊に愛されし巫女姫なのだが…、
今読んでいた物は、自分の実の兄と許婚がモデルになっている…。
すでに腐王女になりつつあるエヴァンナだ。
「ところで、シズクはこの原稿をいつもどうするのですか?」
「コピーしてました。」
エヴァンナの教え子の雫は言う。
「コーヒーとは?」
飲み物になってます。
「はい。コピーとは、同じものを写します。」
「それは、この呪文でどうでしょうか?」
【υτυσε】
呪文を唱える、エヴァンナ。
すると、近くにあった紙が浮き上がり、一枚目の扉絵と重なって絵が浮かび上がる。
「すごいっ!エヴァ先生」
「これは複写の呪文です。これでコピーと同じ作用ができると思うのですが?」
「はい、出来ます。」
「では早速、いくらでもつくりましょうね。シズク」
エヴァンナの瞳の奥がメラメラ萌えていた。
「…100から200部くらいでいいです。……エヴァ先生。」
エヴァ先生は完全に腐女子だと雫は思った。
**
複写の呪文で完成した200冊のマンガ本を自分の住まう部屋に運び込んだ雫とそれを手伝わされた兄の静也。
こん、こんっ。
また…、あのランスロット騎士団長だろうか。
今は部屋に入れたら非常によろしくない状態だ。
兄の静也はあの出来事をまだ引きずっているのか、
「俺は居ないことにしてくれ……」
と言い、顔色が真っ青になっている…。
兄はあの魔法のカラクリ壁に可哀想なので隠して置いく雫。
息をのんで扉を開けた雫。
「こんにちは、騎士様、ただいま、聖女様はお休みです。お帰り、くだされ。」
かなり異世界の言葉が堪能になった雫。
「こんにちは、お嬢さん。聖女殿はお休みですか…。」
残念そうな顔するランスロット。
女の子だったら、その整った顔に憂い帯びた表情は乙女たちの心をグッと掴むのだが、雫は乙女だが、今は腹と背にかえられない状況にいて必死だ。
「それでは、勇者殿はいらっしゃい」
「勇者様は居留っ……いっ居ませんっ!今洗濯中です。」
「……勇者殿は自分で洗濯を?」
「してません。あたちが洗ってまする。」
何だか会話がずれてきている。
「お嬢さんは一体」
「あたちはお世話をします!」
「…ああ、侍女なのですね」
「は、はいっ!」
この場を上手く収まりそうだと安堵する雫。
「…それでは、お嬢さんこれを」
「聖女様に忘れます。失礼します。」
とランスロットの手から花束を奪うようにとる、一刻も早くこの場を終わらせ離れたい雫だ。
「お待ち下さい。お嬢さん、これをどうぞ」
引き止めの言葉に戸惑うがランスロットの手には沢山の飴が入った瓶を手にしている。
「これをあたちに?」
「ええ、昨日喜んでいたので、食べませんか?」
「たべるー」
「どうぞ。」
ランスロットは雫に飴の入った瓶も渡すと、また、雫の頭に手を置いて頭を優しく撫でると、その場を去っていった。
今日も危なかった!
でも、何で毎日来るんだろうと思う雫だった。