呼び捨てで呼んで
ご覧いただきありがとうございます!
本作は、付き合って半年なのに未だに敬語で素っ気ない彼氏と、少しずつ距離を縮めていく甘酸っぱい高校生の日常を描いた短編小説です。
※本作はnoteにて先行公開した作品です。
『カンナ!』
私は彼にそう呼ばれてハッと目を覚ました。
夢か……。
時間はまだ朝の5時を回るところだった。
(二度寝しよう……彼はもう一度、夢で名前呼んでくれるかな……。)
なんて、淡い期待を持って二度寝した。
数時間後、起床し、朝の身支度を終え、高校へ登校していると彼が目の前を歩いていた。
彼の背中を目掛けて走り、辿り着いた時に話しかけた。
「おはよう!蓮君!」
「おはようございます……。」
彼のテンションはいつも低い。
「今日も元気ないねー。まあ、いつもか。」
私は笑いかけて彼のテンションを上げさせるように試みるがいつも上手く行かない。
今日は家庭科の授業で調理実習がある。
作る料理は煮込みハンバーグとオムレツの洋食セットだ。
そのために今日、弁当は持ってこなかった。
森本蓮とは今年から同じクラスになった。
去年は違うクラスだったので、去年の蓮は知らないが、今年に入って私から告白して蓮とは付き合うことになった。付き合ってから半年が過ぎようとしている。なのに……。
「ねえねえ、蓮君、今日の家庭科、調理実習ってこと覚えていた?友達からのLINEで思い出してもう少しでエプロンとか忘れるところだったよ。」
私は偶然、後ろの席になった蓮に話しかけた。
「あんまり、クラスでは話かけないでくれますか?」
「え?なんで?」
「クラス中にバレるじゃないですか。」
蓮はいつものように敬語で話しかけてくる。
半年経っても出会った時の距離感から縮めてくれなかった。
3時間目になり、家庭科の授業は始まった。
私は班でハンバーグをこねる係になり、人数分、こねていた。
「熊崎さん、ハンバーグの形、作るの綺麗だね。」
同じ班の男子が褒めてくれた。
当の蓮は何をやっているのかと見てみると調理実習で使った調理器具を洗っていた。
片付けが最後まで出来なくて放課後に残るのが嫌だという。
(家でも食器洗いしているのかな……。)
なんて思いを馳せる。
「熊崎さん、ハートの形とか作ろうよ!森本君のために特別に作れば?」
私と蓮が付き合っていることを知っている友達は耳打ちをして言ってきた。
私は小さな声で、
「そういうのは森本君、嫌がるから……。」
と答えると、
「えーー。」
と、つまらなそうにしていた。
次々にハンバーグは焼かれ、中まで火をしっかり通すようにと各班を回りながら忠告していた。
私達の班も薄めにハンバーグを形成したので中までしっかり火を通すことが出来た。
オムレツに取り組んでいるときも蓮は調理には参加せずに洗い物が出るのを待っていた。
これでは調理実習にならないのにな、と思っていた。
蓮の様子に気を取られていると私は卵を割るときにボールの外で割ってしまった。
「熊崎さん、何やっているのー。」
友達は大爆笑していた。私はどうすればいいか、あたふたしていると蓮は布巾を先生に貰って、サッと片付けてくれた。
私はこういう蓮の優しさが好きだった。
私の心は温かくなって、思わず、
「蓮、ありがとう。」
と、呼び捨てで呼んでしまった。
「は、はい。」
蓮は相変わらずぶっきらぼうだったが、明らかに動揺していた。
その後、オムレツを焼いているときにも私のドジな部分が出てしまった。
私はさっきの卵を片付ける蓮の姿を思い出していると、不注意で肘の部分がオムレツを焼いている熱々のフライパンについてしまった。
私は思わず、
「熱っ!」
と、声を上げた。
友達は大丈夫?とすぐに駆け寄ってくれた。
蓮は班の男子に
「先生に言って氷、貰ってきて。」
と言い、私を水で肘を冷やすように調理台の水道に導いてくれた。
蓮の冷静で迅速な対応で火傷の跡にならずに済んだ。
帰り道、蓮が朝のように前を歩いていた。
「森本君、今日は色々ごめんね。」
「はい。」
相変わらず蓮は無口だった。
「あの!」
私と蓮の声が一致した。
「あっ!熊崎さんから言ってください。」
「うん、今日はありがとう。火傷の跡も出来なかったし、卵も片付けてくれたし。」
「いえいえ。」
「次、森本君の番!どうぞ。」
と、バトンを渡すと、
「今日の熊崎さん、エプロン姿似合っていて、ずっと目で追っていました。だから……。」
「ん?だから?」
「だから、すぐに対処出来たんです。」
そうだったのか。私が蓮のことを目で追っていたように、蓮も私のことを気にかけてくれていたんだ。
「あの!」
次は蓮が大きな声で声を上げた。
「何?」
私は尋ねた。
「今度からは気を付けてください。環奈さん……。」
その日、出会ってから初めて名前で呼んでくれた。
私は思った。本当は呼び捨てで呼んでほしいのに。
でも、一歩距離が縮まった気がして嬉しかった。
しかし、彼はこの後も敬語で話を続けた。
(了)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
不器用で素直になれない蓮の隠された優しさと、初めて名前を呼ばれて喜ぶ環奈のキュンとする距離感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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【お知らせ】
10月14日(水)12:00より、連載小説『売れないっ!』(全51話)の毎日3回更新連載がスタートします!ぜひそちらもお楽しみに!
【注釈・補足】
※本作はnoteにて公開した原稿をベースに投稿しております。
※本作はAKB48の楽曲『呼び捨てファンタジー』の世界観からインスピレーションを受けて執筆したフィクションです。
(とても素敵な楽曲ですので、気になった方はぜひ検索して聴いてみてください!)




