傘の音
夏のホラーです。
雨が降る。
僕はビニール傘をさす。
僕のビニール傘は不思議だ。
何がどう不思議なのかというと、台風でも壊れず、落としたり失くしたりしても僕の元に戻ってくるからだ。
そして、最近は傘をさすと着信音が聞こえてくるようになった。
着信音を聞いて、僕は付き合っていた彼女を思い出した。
「あ、もしもし元気?今なにしてるのー?」
傘から声が聞こえる。幻聴だ。
幻聴は正確には傘からではなく、雨が傘に当たって聞こえるようだ。
傘はイヤホン、雨は音楽みたいで、2つセットじゃないと幻聴は聞こえないみたいだ。
彼女は1年前に行方不明になった。
突然の出来事で僕は混乱し、落ち込んだり、悩んだり、イライラしたり、情緒不安定になった。
時間はその出来事を薄めていった。
傘をさすと彼女のことを思い出して何故か苦しい。
雨の日は憂鬱だ。
傘をさすと着信音と彼女の声。
「久しぶり〜元気?相合傘して帰った時のこと覚えてる?海に行ったよね」
あの日の記憶は曖昧だ。
相合傘で帰ったはずなのに僕は、びしょ濡れで3日ほど高熱で学校を休んだ。
そして、彼女が行方不明になった話を聞いた。
雨の日、傘を通じて彼女の声がする。
「海に来てほしいの」と幻聴。
僕の足は海へ向かった。
僕の体は海に吸い込まれるように波にのまれた。
傘から彼女の声がする。
「また相合傘しようね」と。
夕方の海の中。
曖昧な記憶が蘇る。
「雨の日の海がみたい」と彼女は言った。
僕も一緒に行った。
そして彼女は海にのまれた。
お盆の海には近づかないようにと言われていたのに。
何かに連れて行かれるから危ないからって言われてたのに。
彼女は好奇心旺盛で、お盆の海を怖がらなかった。
あの日、僕は怖くて助けを呼ぼうとして、慌てて転んで気を失って…
知らない人に助けてもらい家に帰った。
高熱で学校を3日休んだ。
今日はお盆。
あの日ように雨なのは偶然なのか?
彼女も僕も海の中。
傘がないから着信音も彼女の声ももう聞こえない。




