みんなが知らないところで
朝風が教室の窓と窓を通り抜けている早い時間帯。
賢雄は教室で本を読んでいた。
元々朝に強く、朝早くから新聞紙配達ができるほどだった。
いつもは鈴や、アルバイトのためこんなに自分に時間はさけないが、
この学校に入ってから自分と向き合えるようになった。
金銭面ではサポートされ、お小遣いもまぁまぁ高い。
今読んでいる本はそれで買った本だ。
そんな好待遇の賢雄だが細かいことを言うと少し疑問があった。
それがこの学校には図書室を含む娯楽が全くないこと。
確かにこの学校はパケットになるためのカリキュラムが
詰めに詰め込まれているため、娯楽に費やす時間がないのだ。
そのため賢雄はこの本を五周くらいしている。
別に外に行って買ってきてもよかったが、
国会議事堂の近くの本屋は政治本しか置いていないため不便なのである。
なので少し歩かないといけない。
そんなことを考えていたら、教室後ろのドアから音がする。
「ねぇ、賢雄何してるの?」
その声の主は夕夏のものだった。
昨日の放課後くらいには名前の呼び捨てであり、ギャルの恐ろしさが知れる。
「本読んでる。」
「えっ、タイトルは?」
「『名取は天下を取りに行け!』だよ。」
それを言った瞬間、夕夏は自分のバックを机に投げこちらに向かって走ってくる。
「読んでる?読んでるよね⁉いや~その本いいよね。
ウチその著者の人のやつ何冊か持ってるから読む?」
「あっ、それは興味ある。」
「でしょ~!!じゃあ今日の放課後私の自室来てね。」
「できたらな。」
「うわ~。それ絶対来ないやつじゃん。」
夕夏が俺を見ながらけらけらと笑う。
しかしこんなにも夕夏が本が好きだと知らなかった賢雄は
面白くなり話を続ける。
「えっ、じゃあ『この実がなる木で、君とまた会いたい』は?」
「そんなの読んでるにきまってるじゃん。めっちゃ感動するよあれ。」
さっきまで静かだった教室に活気が宿る。
やはり本が好きな奴に悪い奴はいない。
そう確信できる。
「......悪い長部智。ちょっとお前のこと勘違いしてた。」
「えっいきなり?......てか、私そんな悪い印象持たれてたの?」
夕夏が疑うようにこちらの顔をうかがってくる。
「ううん、さらに良くなったよ。」
「え?」
「人の話に合った話題、そこから発展させる内容、話のテンポ。
全部気を付けないとできない芸当だよ。」
「えっ、え~。そ、それほどでも~..........」
「この学校最初の友達が長部智でよかったよ。」
「............」
そう言われて夕夏は赤面してしまう。
だれでも異性から褒められると恥ずかしくなるものだ。
「えっ、ちょ、もういいよ.......そ、そうだ。話題、話題を変えよう。」
「そう?じゃあ長部智の推薦入学の理由は?」
唐突に賢雄はそう問う。
「.....これまた急だね........まぁ、いいけど。賢雄ほどすごくないからね?」
「うん。」
「ウチの家はね、特殊で家族全員が何かしらの隊に入ってるの。
ほら、埼玉って大和田に基地持ってるじゃん?そこに両親がいるんだけどね。
そのせいで幼少期から戦い方っていうか、護身術を教わってて.........」
「教わってて?」
「大・体・な・ん・で・も・武・器・に・で・き・る・ようになったの。」
「いや、流石にやりにくいものとかあるけど.......」
賢雄の頭が疑問に埋め尽くされる。
多分今自分の顔を見たらとんでもない顔をしているだろう。
「あぁ、いってもあんまし分かんないよね?
...........そんじゃあ、この教室にあるもので適当なもの選んで。」
そういわれた賢雄。
適当に周りを見渡す。
「えっ?.........じゃあ......」
賢雄はそのもののところへ行き、それを手に取る。
「黒板消し?」
「そう、黒板消し。」
「...........分かった。ちょっと貸して。」
そう言われたまま賢雄は夕夏に黒板消しを投げる。
渡された夕夏はそれをじっと見つめている。
黒板消しは角がなく、投げてもたたいても攻撃力があまりない。
全部を武器にできると言った夕夏でもこれなら無理だろう。
賢雄はそう思考する。
しかし、その思考はあてにならないことを知る。
「.....いいよ。勝負ね。どっちが先に一発入れるか。」
「こっちは護身術みたいのやったことないんだけど........」
そう言いつつ、賢雄はこぶしを構える。
「......ふふ。相手は女の子だよ?先に構えちゃうの?」
「殴るためじゃないよ。自己防衛のため。」
「それって言い訳じゃない?」
夕夏はそう言って黒板消しを構える。
両者に静寂が流れる。
「........賢雄こないの?」
「レディーファーストってやつだよ。」
「そうなの?じゃあ.........」
その瞬間夕夏の目が変わる。
ガチの目だ。
そんな夕夏は膝を曲げると、ダッ!!という音が鳴り響く
「⁉」
足を延ばすとともに賢雄の視界から消える。
「は、やっ⁉」
後ろからみょうな風が流れる。
それに気づいた賢雄は後ろを振り向く。
だが、
「遅いよ。」
いきなり白い煙が目の前に現れる。
夕夏が黒板消しを叩いたのだ。
視界が奪われ、千鳥足になる賢雄は何かを踏んでしまう。
「あれ⁉」
そのままバランスを崩し、後ろに倒れる。
受け身を取ることには成功したが、
賢雄が立ち上がるのを防ぐためそこに馬乗りになる夕夏。
間髪入れずに賢雄の顔にこぶしを振るうが、
そのこぶしは目の前で止まる。
寸止めだ。
「どう?叩いて終わりじゃないんだよ?転ばせることにも使えるの。」
圧巻だった。
それしか出てこない。
夕夏の動きには無駄が一つもなく完璧に等しかった。
「す、すごいな?」
「でしょ?」
「黒板消しであそこまで戦えるなんて........」
「けどあれだよ、何も物なしでやったらたぶん負けちゃう。」
そう言う夕夏に、賢雄は言い放つ。
「それでもたぶん無理だよ。」
賢雄がそう言っている通り、たぶん勝つことはできない。
幼少期から積み重ねてきた技術、経験には勝てないのだ。
「怕・維・人・先・生・がお前を推薦する理由がわかった気がする。」
「そう?」
そういって立ち上がろうとする賢雄。
それをある一つの言葉で夕夏は打ち砕く。
「けどさ、男の子が女の子にあっさり負けるって駄目なんじゃない?」
「..............」
ぐうの音も出ない。まさにその通りである。
男子のプライドをそのままへし折られた、賢雄は立ち上がる気力を失う。
「もう俺ダメかも........」
腕を目の前に持ってきて上を見上げる。
まさに無気力。
その姿を見て夕夏は焦る。
「あ、いや、ご、ごめん!そんなつもりじゃ.........」
ガタッ!
「「⁉」」
悪魔の音が賢雄は前方から、夕夏は後方から聞こえる。
「は、はべち...........」
賢雄が真っ青な顔で夕夏の後ろを指さす。
かつてない焦っている賢雄の顔を見て、夕夏は恐る恐る振り向くと.........
そこにはスマホをこっちに向けた怕維人の姿があった。
「あぁ~ごめん。続けて続けて。」
時が止まる。
夕夏も真っ青になりつつ、恐る恐る聞く。
「えっ、先生、それ撮って.......ていうか何でここに........?」
「あ~、いや、生徒に呼ばれた気がしてね。つい来ちゃった。」
夕夏はそれで思い出す。
賢雄が言っていたことを思い出し、つい賢雄をにらみつける。
後ろから「えっ?俺なの?」という声が聞こえるが気にしない。
ていうか気にできない。
「大丈夫さ、僕の大事な生徒たち。
そんなこともあろうと、不純異性交遊はこのクラス内だけオッケーさ。
さぁ、そのSMプレイの続きを先生に見せておくれ。」
◇◇◇◇◇
二日目だというのに、このクラスに異常な雰囲気が流れている。
それは耳が聞こえない蜂も気づくことが可能なくらいだった。
賢雄はやつれていて髪の毛がところどころ白っぽくなり、
奥にいるの長部智という人がうつむいて、机に突っ伏しながら小さな声で泣いていた。
そして担任はというと........
「みなさん......おはよーございます.......」
体中が傷だらけで、特に手には包帯が何重にも巻かれている。
「はい、今日の僕はとっても機嫌が悪いので、
一度しか言わないからよく聞いてください。」
そう言い、たんこぶで目がほとんど隠れて前も見ずらいだろうと
言わざるおえない頭を動かし、黒板に何かを書いていく。
「えっと今日は、簡単なことしかしません。
前半座学の後半は得物配布です。ではホームルーム終了、解散。」
そう言い切り、怕維人はよろよろしながら教室を出て行った。
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