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絶望は光と共に


薄暗く、静か。

頼りになるのはトンネル左右についている蛍光灯のみ。

耳を澄ますと歩く音の反射音が聞こえる。


「う”ぅ!!んっん”ん!!」


賢雄は力の限り叫ぶ。

しかし、その声は口を覆う布によって阻害されてしまう。


「ケヒッ!お前なんかい言ったら分かるんだ?

 もうお前らの助けは来ないんだよ。」


マスクをかぶった男が賢雄と晋也を見下ろす。

マスク越しで見えるはずもない顔は、とても愉快に笑っているように見えてしまう。


ちょうど車内から出て20分くらいたっただろうか?

それでも登ってきた道を見下ろすと、遠くにケーブルカーの明かりが見えていた。

なにせ、この線は平均勾配役24度。

急っていうレベルではない。

これを高校生二人を引きずって上っているのだ。

進むのがこんなにも遅いのもうなずける。


「......すぅ、ケヒッ.......」


マスクに隠されていない首は汗が垂れ落て、

どれほど辛いのかを物語っている。


「......お、お前らぁ....無駄なことは考えようとするなよ?」


男はとぎれとぎれの声で2人に忠告をする。


しかし、男はイヤホンの存在に気づいておらず、

イヤホン自体も喋っている声が小さくても音を拾ってくれるので、

静かに通信を取ることは可能だった。


が、


「ん”ぅっ.....んん“っっ!!」


唯一、この口元の布が厄介だった。

これが外されない限り会話をするということが不可になる。


賢雄がちらりと隣を見ると、

般若のような顔で布を嚙み切ろうとする晋也の姿があった。


「ん”っ…!! んがっ…でぇっ!! .....ん”な、んで…ぎれ…ね”ぇんだよっ…!! 」


口元を動かしすぎたおかげか少し声が漏れたが、

嚙み切れない様子だった。


「ケヒヒッ!俺が特殊発注した合金を練りこんだ布だ。

 お前が恐竜にでもならない限り噛み切れんぞ。」

「んはぁっ⁉ あ”っ…たま、わるすぎ…ん”だろっ!! 」

「ケヒッ、お褒めいただき光栄だ。」


マスク男は晋也からの罵声を物ともせず歩みを進める。


だんだん遠くなる車両の光。

それを見ていると無力感、焦燥感、緊迫感に包みこまれる。


銃は奪われ、手元にない。

そのため手足と口元の拘束が外れたとしても、

完全に戦える状況でもない。

武道でも心得ておけばよかったと賢雄は自分の過去に後悔する。


しかし、過去のことをちんたら振り返ってられないので、

賢雄は冷静に周りを見渡して、どうにか晋也とコミュニケーションを図ろうとする。


するとそこへ――



ピッ‼


((!!))



賢雄の耳元であの電子音が響く。

隣を見ると、晋也も驚いた表情を浮かべているので、

多分晋也も聞こえたのだろう。


【.......聞こえる?】


イヤホンから聞こえたのは賢雄のパートナー、石鳥蜂の声であった。


「はっ――!!」

【しー。静かに........】


思わず蜂の名を叫びそうになった賢雄は口を即座に閉じる。

しかし、賢雄がゆっくり横を見ると、

やはり晋也がジト目でこちらを見つめているのが分かった。


【今は、3人.........すぅ、ふぅ......だけだから。】


一言で六文字しか喋れない少女は、一呼吸置きながら会話を続ける。

そのことからも彼女の必死さと限界差が感じてとれる。


言葉の意味的には、これは賢雄、晋也、蜂の三人だけでの通信なのだろうか?

確認を取りたいが、取れる状況ではないのでそう思い込むことにする。


【状況は......すぅ、ふぅ.......厳しそうだ。】


先ほどから続いている蜂の通信。

何気ない今の言葉だが、ここで2人は違和感に気づく。


[な、なんで状況が分かるんだ?]

[ま、まさか......蜂、近くにいるんじゃ......]


2人は今の状況をマスク男に悟られないようにゆっくりと首を動かすが、

蜂の姿を確認するどころか、見えるのはトンネルの冷たいコンクリートだけ。

そんな殺風景だった。


【.......?.....!!......あぁ、グラサン。】

[[?]]


唐突なグラサン発言に2人が首を傾げていると、

まるでそれを読み取ったかのように蜂が二人に語りだす。


【腰、腰見て。】


そう言われた2人は自分たちの腰を見るが、

コンクリートを引きずられて、ズボンが白くなったこと以外何も変化が見れない。


【違うよ、前。】


そして、2人は顔を上げる――


[あっ、.....][そういう......]


2人の目線の先には黒く輝く、サングラスがあった。

その場所とは――


「ケヒッ、さて、どうしたものか.......」


マスク男の腰に掛けてあった。

おそらく、2人から奪ったサングラスを適当に掛けたのだろう。


マスク男は今、前を向きながら登っているため、

賢雄たちには背を向けている状態。

大きな音を出さない限りバレることはないだろう。

また、サングラスで通信を取っているなんて考えられないだろう。


【.......2人、聞いて。】


そこまで考えると、蜂が再度二人に語りかける。

その声はいつもより、重く、低い。


【......今、作戦……すぅ、ふぅ......中だぎゃら......】


蜂が最後に軽く噛んでしまう。

相当無理をしているのだろう。


「はっ?」


小さな声で晋也が疑問を漏らす。

それは噛むだけでは到底出てこない言葉。

しかし、蜂の喋り方や態度から反射的に出てきてしまう。

当たり前だ、彼自身は蜂が耳が聞こえないことを知らない。

それに、賢雄だって蜂の語形が崩れたのを聞いたのは初めてだ。


【あぁ、ごめん.......すぅ、げほぉっ!......初めてだね?】

「.........!」

【.......あっ、気づいた......?】


晋也の顔が驚きと唖然で歪んでいく。

話せないので確認できないが、たぶん理解しているという確証が賢雄には見えた。


【さて、どうする......?】

「?」「?」

【あぁ....すぅ、ふぅー.........会話だよ。】


蜂の言葉で話は論点に戻る。

確かにイヤホンがあっても、サングラスで状況が知れても、

これでは何も始まらない。

発声は当然できず、筆談、手話、読唇も論外である。

自己紹介時の怕維人のようにモールス信号を使うという手があったが、

あいにく賢雄と晋也、2人ともできそうにない。


[どうする....?.....このままだと完璧に詰みだ....

チッ!.....この口か手足が自由になれば......]


賢雄はチラッとマスク男を見るが、彼は疲れたのかのんきに水を飲んでいる。

明らかに大胆な行動をするなら今。


が、


[いや.........一回バレたら絶対警戒される.......]

[つまり、チ・ャ・ン・ス・は・一・回・き・り・かっ!!]


2人が考えている通り、人質を取っている人間の思考回路は至極単純である。

それは――


「ケヒッ!......お前ら動いたら殺すからな?」

「........チッ。」


[えっ?舌打ちした?]


2人はとにかくマスク男を刺激してはいけないのだ。

そうすれば、絶対いつかチャンスはやってくる。



しかし、それは立てこもりなど「時間があるとき」だけである。



2人はほぼ同時にいままで登ってきた道を見下ろす。

そこには――


「「はっ?」」


先ほどの光は存在しなかった。


よかったら評価よろしく。


不明点やアドバイス、感想、アンチコメも受け付けてます。

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