百聞は一見にしかず
「大丈夫か?」
「は、はい!あ、ありがとうございます!!」
そう言って、新美はわきに抱えていた運転手を駅のホームで放す。
「ここに安全な場所はありません。
ですから、この場にいるお客さんと避難してもらいたい。」
「わ、分かりました!」
運転手はもたついた足で新美達から離れていく。
今さっきまでケーブルカーの中にいたが、
敵襲来により運転席にいた運転手を保護して
ケーブルカー乗り場まで戻ってきたのだ。
「は、速いですよ.......」
「速いじゃない、お前たちが合わせろ。」
「そういわれたって......」
ようやく駅のホームについた夕夏が思わず愚痴を漏らす。
一緒に走っていたかと思えば、気が付けば差を離されていた。
自分の得物と人を抱えていてもあの速さ――
まさに、常軌を逸していた。
「先生って.......サポート役じゃないほうがいいですよ。」
「そうか?......私は結構気に入っているのだがな。」
そんなことを話している二人の間に思礼が入り込む。
「二人とも.......兄から通信が......」
「わかった、早く繋げろ。」
新美は素早くそう告げ、自身のイヤホンに耳を当てる。
【後衛の皆さん、聞こえますか?】
「あぁ、聞こえている。要件を離せ。」
【はい、今皆さんはどこにいますか?】
「私たちは、今駅のホームです。」
【ホームですか.......では、夕夏さんと思礼は
そのまま一般人の保護と避難誘導をお願いします。】
「私は?」
【新美さんはケーブルカーに戻って怕維人さんと合流をしてください。】
「.......?......なぜまた戻るんだ?」
新美が良治の言葉に頭をかしげる。
それに加えて新美は二人に良治の指示に従うように目配せをする。
2人が行ったことを確認し、イヤホンからの声に耳をすませる。
今、敵のことでわかってることは、大男しかいない。
そのほかの4人がどこにいるかもわからない状況で戻るのは、
あまり得策ではない。
もし、このフロアに仲間がいたら夕夏と思礼で倒せるだろうか?
あまりにもそれは無謀だろう。
【えっと、ですね......怕維人さんのカメラをチェックしたところ、
今敵二人がケーブルカーにいる状況で、生徒二人を守りながら戦っています。
しかし、その二人ももう一人の敵に人質にされて、
ケーブルカーから外に出されている..........このままだと誘拐される状態です。】
「そうか.........で、私は怕維人のところへ行けと.....
残り3人は?3人の居場所はわかっているのか?」
【それが.........】
「分かっていないんだな?」
【はい.......】
「........判断しろ私はお前に従う。」
新美から言われたその言葉に良治はハッとする。
今まで場数を踏んできたから分かる、指示の重大さ。
一つ違えば、任務の難易度や成功度に天地の差が出てしまう。
しかも、今回は生徒を連れての任務。
生徒の生死を天秤にかける必要がある。
そして、5人という敵の人数。
そう、それを良治は理解している。
「........良治。」
良治に向けて再度、新美が声をかける。
決して急かしたわけではないが、その言葉は明らかに良治の迷いを生む。
【............】
「良治。」
【分かりました....。】
良治は結論を出す。
それは――
【新美さん........そのまま下で待機してください。
上は.....怕維人さんたちに任せます。】
「........それが、答えか。」
新美はそう言いながら大鎌を右手に構え、夕夏と思礼の後に続いて歩きだす。
その足取りはとてもしっかりとしたものであり、
決して引き返すことはないという、絶対的な信頼を表していた。
彼女は歩き出す、後ろを振り向かずに――
ピッ!!
「【!?】」
新美が歩き出し、良治が通信を切ろうとしていた時に、
その音が鳴り響いた。
誰かが通信に入ってくる音........
【あ~あ~........おっ、聞こえてる?
みんなのアイドルである、怕維人だよ~ん。
俺さぁ、今動けないからそっちに頼みたいことがあるんだけど.......いい?】
「怕維人ッ!?」【怕維人さんッ!?】
2人の行動が止まる。
なぜ?どうして?
2人の頭に疑問という物質が駆け回る。
【は、怕維人さん?い、今は戦闘中では.......?】
「あれ?俺のグラサン見てない?
......今落ち着いてるから通信できてるって感じ。」
【怕維人ッ!!】
新美が怒る。
その声は重く、冷たく、鋭い。
それを聞いても怕維人はまだへらへらしている。
【んっ?どうした、新美?】
「どうした、ではない!!お前、生徒が連れていかれようとしているんだぞ!?
早く追えッ!早く倒せッ!早く救えッ!!
それが教師私たちに与えられた義務だッ!!」
イヤホンから聞こえてくる音が無くなる。
無音。
あたりがそれに包まれる。
しかし、数秒たった後に怕維人は再度話し出す。
【.........新美。】
「......なんだ?」
【......俺のこと舐めてる?】
「はっ?」
新美自身別に舐めてるつもりで言ったわけではない。
しかし、
それをこの男は舐めていると言った。
この危機的状況でそんな言葉を言える余裕があるのだろうか?
否、一切ないだろう。
「いったい何を――」
【...........120メートル。】
【「えっ?」】
「........120メートルだ、俺から賢雄たちの場所までがな。」
【「!!」】
怕維人の補足可能距離が250メートル。
若干ノイズが入るが限界は、300メートル。
それのほとんど半分のところまで来ているのだ。
【怕維人さんッ!今すぐ追ってください!!】
【やだぁ~。だって大男逃がしたらやばいも~ん。】
「怕維人ッ!」
【待て待て、そんな焦りなさんな。】
【ですが.......】
あきらめているのか?
新美がそう思っていると――
【.......?........!!...あぁ!そういうこと?
違うよ、俺この状態のまま追うから。】
「は?」【へ?】
この状態?
怕維人の行ったことが本当なら、大男とともに賢雄たちを追うことになる。
つまり、大男を捕縛した........?
それなら、今までの話と辻褄が合わなくなるが……
「.........はぁ、そうなら最初からそう言え。」
【......?........どういうこと?】
「捕縛したんだろ、大男を――」
【いや、してないよ?】
「.........?いやだってお前......」
【新美さん、怕維人さんのカメラを確認しましたが、
怕維人さんが言っていることは本当です。
今は大男に銃を突き付けている状態ですね。】
「はっ!?」
本当にこの怕維人は何を言っているのか?
新美がそう疑問に思っていると......
【あのさ~、本題を言いたいんだけど?】
「【本題?】」
【うん、最初通信かけたときに言ったじゃん。
頼みたいことがあるって.......】
「【!?】」
そういえばそうだった。
【二人とも、サポートも含めて生徒連れて上行ってくれない?】
「【上?】」
【そうそう、具体的にはダムに行ってほしいんだけど.......
できるだけ早くね、賢雄たちが250を抜ける前に――】
【け、けど、なぜですか?下に敵がいる可能性があるでしょう?】
確かに、それが一番懸念している問題だ。
もしかしたら、上からと下からとで挟み撃ちにされる可能性がある。
そんなことされたら――
【大丈夫!!絶対上にいるから。】
「.........根拠は?」
【ん~、勘ってやつ?】
「【...........】」
【いや、たぶん大丈夫だよ!?.......たぶん。】
いったいなぜこいつはたぶんで生徒の命を懸けられるんだろうか?
【新美さん、怕維人さんに賭けましょう。】
「良治っ!本気か!?」
【.......今はこうするしかありません。】
【おっ、サンキュー良治!】
「........あ”あ”ぁ!!......分かった......が、なぜダムに行くんだ言え。」
新美は頭を搔きむしりながらそう言い放つが、
怕維人から帰ってきた言葉は至極シンプルであった。
そう、シンプルな7文字
【行けばわかるよ。】
怕維人は一言そう言い、通信を切った。
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