七里怕維人は揺らがない
新美、夕夏、思礼がケーブルカーから脱出した後、
残った3人は大男と向かい合っていた。
「大丈夫、いつも通りだから。」
そこへ背中を向けながらの怕維人の声が響く。
その声は二人の不安を払い、通常通りのパフォーマンスへと導く。
「「.........はい、先生。」」
ふつうこんな頼りになる先生がいるだろうか?
生徒の危機的状況にしれっと声をかける、これだけで生徒は救われるのだ。
「........待て、先生?........はっ、お前が七里かっ!」
先生という言葉に勘づいたのか、大男は口をあんぐりと開けながら
怕維人を指さし動きを止める。
「...........なんか知ってる感じ?」
「あぁ、当たり前だ!俺らの業界だと有名だからな。」
「へぇ~世の中には変な業界があるんだね?」
その変な業界に興味を示しつつ、怕維人は銃の弾を込める。
大男は怕維人が弾を込め終わるのをわざわざ待つと、
懐から今度はスマートフォンを取り出した。
「なぁ、七里さんよぉ。ちょっとばかし協力してくれよ?」
そう言いつつも何の許可を怕維人に取らずに、スマホの画面を見せる。
その画面の中央には動画の再生マークが映っている。
何か始まるのかもしれない、そう賢雄と晋也が身構えていると......
「.....ぽちっとな。」
大男の指が再生マークに触れる。
すると、ある動画が流れ始めた。
[ミャ~!........ミャン!]
生まれたての猫の音声が流れ始めた。
そのかわいらしい声は一瞬だけ場の空気を和ませたが、
直ぐにピリついた空気が元の場所へと帰還する。
「.........一体何がしたいんだ?」
「何って?........確認だ......」
しらを切らした賢雄が大男に問うが、大男も概要はしゃべらない。
それが作り出す不気味な、そしてあべこべな状態。
動画には犬の映像が映っているのに猫の音声が流れているのだ。
何一つ意味を見いだせない賢雄と晋也は、
少しずつではあるがじりじりと大男との距離を詰める。
それに気づいたのか大男も片手でスマホを持ちながら、
もう片方で二丁の斧を握る。
まるで西部劇のガンマンのようににらみ合いが続く中、
ある男の声がこの場にさらなる衝撃を生み出す。
「...........かわいい子猫ちゃんじゃん!どうしたの、猫好きだった?」
......................はっ?..........
賢雄と晋也の動きが止まる。
大男に向けた銃口もプルプルと震え始めてしまう。
「.......せ、..........先生?」
賢雄が絶句する。
なんで、なんで犬なのに子猫なんだ――――
「あれ?..........もしかしてやっちゃったかな?」
「........!!.....おまえ、まさか........」
晋也は怕維人のその姿に何か心当たりがあるのか、怕維人の顔を訝しむように見る。
いや、よく見たら顔じゃない.........目を見ている。
その状況を見て楽しそうにしゃべりだす大男。
彼の口から信じたくない現実が放たれる。
「.........はは!.....やっぱりだ、お前目見えてねぇじゃん!!」
場が冷え切り、固まる。
大男は終始手を目に置いて、腹を抱え笑っている。
それに対して怕維人はじっと待っているばかり……
「まさか、現パケット最強が、盲目だとは……全米が笑っちまうぜっ‼︎
その眼帯で隠してない目も形は整ってるが機能してないんだろぉ?」
狭い電車内に大男のゲラゲラという笑い声が怕維人を嘲笑するかのように響く。
やがて大男が笑い終えると、怕維人はそれを待っていたかのように喋り出す。
「.........十分笑えた?」
「くくっ、あぁ、十分どころか一生分笑えたぞ。」
「..........そうか。」
怕維人が俯きながら口に出した言葉は、
何かをあきらめたような、後味が悪い感じを場に残す。
そして、怕維人は顔を上げる。
その顔は絶望ではなく―――
「......じゃあ、死んでも後悔はねぇーな?」
「あっ?」
興奮という異常イレギュラーに包まれていた。
「はっ、生徒の前で痩せ我慢か?.......だせぇなぁ、俺なら――」
「.....へぇ~、この斧って案外重いね?......何で作られてんの?」
「「「!!」」」
車内にいる三人の視線が怕維人が持っている斧に集まる。
それは、分かりやすくも大男が先ほどまで持っていた斧だ。
大男が遅れて反応して、自分の左手を見る。
そこに、斧は存在しなかった。
「て、てめ”ぇ‼.......いったい何しやがった⁉」
「......えっ?........奪うジャックしただけだけど?」
「そうじゃねぇ!どうして目の見えねぇお前が俺の斧を持っているんだ!!」
大男が腕を広げながら叫び散らかしているのを、
怕維人は首をかしげながら聞いている。
「それ.........話す必要ある?」
恐怖感に襲われた大男は反射的に懐から再度鉄球と取り出す。
握りしめられた鉄球は怕維人に向かって投げられる。
だが、
刹那、ダンッと音がして電車が揺れる。
最初は地震かと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
そして賢雄は目視する。
鉄球を弾き飛ばし、大男の喉元に銃口を押し付けている人物を.......
「.....ぱっ!.......イッツア、フィニッシュ.......」
◇◇◇◇◇
七里怕維人はパケット高校の推薦入学者であった。
そもそも、パケット高校の推薦入学基準は二つあり、
一つ目は『五法』のうち最低で一家からの推薦があること、
二つ目は――
何かしらの『圧倒的に群を抜いた特殊能力』があること。
怕維人の家は『五法』と関係がなく、推薦入学の理由は前者ではない。
つまり、七里怕維人には何かしらの特殊能力がある。
蜂が話していた通り、五感のどれかが欠落をした人は
ほかの感覚が常人より鋭くなる。[ep18]
怕維人の場合、聴覚が常人より鋭かった。
彼は自身から半径250メートル離れた音はノイズがなく聞き取ることができる。
そのため、怕維人は耳を目の代わりにする方法を自身の中で定着させた。
だから、わざわざ大げさな行動をとることで音を発し、
物体から反響された音を聞き取って距離を測っていた。
その精度は反響された音の大きさと戻ってくる時間が短ければ短いほど上がる。
つまり、耳を物体に近づければ近づけるほどその精度は上がっていく。
しかし、戦闘中にそんなことをしている余裕はない。
そのため、怕維人には発砲音が大きい銃と音を発する弾が提供されている。
このおかげで戦闘中でも、難なく行動することができる。
否、難なくどころではないだろう。
体にもともと備わっていたたぐいまれな反射神経と運動神経。
彼はこれらを最大限に活用し、自分の力へと昇華させた。
そう、これらの方程式が導き出されることは――
圧倒的空間認識能力による半径250m内からの攻撃の絶対回避である。
そして、知っているだろうか?
音は室内のほうが圧倒的に響きやすいことを..........
◇◇◇◇◇
天井に穴が開いていても、ガラスが割られていようと、
この車内は音が響く環境を失っていなかった。
否、失っていても外はトンネルだ。
たとえこの列車が全部壊されようと、
怕維人の独壇場であることには変わらないだろう。
何もできずに固まっている大男からは随時、冷汗が頬を伝っている。
そんな大男に向かって怕維人は銃口を突き付けながら言い放つ。
「で.......あんた誰?」
圧倒的視覚×反射神経×運動神経=空間認識能力
怕維人は音で物体を判断しているため、音さえ発してよければブラックボックスゲームは無双できます。
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