日常とは儚く、脆い
全員が着替え終わってホテルの外に出ると、怕維人が誰かに電話をし始めた。
その十数分後になり、黒いワゴン車がやってきた。
そのワゴン車のステップに足をかけながら良治は言う。
『サポート役の4人はこちらですよ。』
そう言われて、1人、また1人と乗っていく。
賢雄はそれを見ていると、誰かに肩を叩かれる。
「………えっ……なんだ、びっくりした。」
「……だめなの?」
銀色の髪を後ろに束ねた蜂だった。
「……だいじょうぶ?」
「当たり前だ、任せとけ。」
賢雄は蜂に向けて軽くガッツポーズをとる。
それを見た蜂は安心したのか、ワゴン車に乗り込む。
良治と生徒4人を乗せた車にエンジンがかかった。
賢雄が手でも振ろうかと考えていたとき、車の窓ガラスが下げられ蜂が顔を出す。
「…………頑張るぞっ‼︎」
「あっ………あ、あぁ!!」
賢雄はワゴン車が見えなくなるまで、手を振っていた。
◇◇◇◇◇
別行動になった賢雄達は、怕維人と新美の引率により
バスやロープウェイなどを乗り継いで、黒部ダム手前の黒部平に来ていた。
近づくにつれて4人の体は緊張でこわばっていたが、
怕維人の一発ギャグのおかげなのか心のほうには余裕があった。
さっきまで乗ってきたロープウェイに別れを告げると、
一同は黒部ケーブルカーの乗り場へと向かう。
しかし、大人2人の後を同じ服装をした高校生たちが追う様子は、
平日の少ない人通りの中でもとても目立って見える。
「……………」
見られるという恥ずかしさに賢雄が黙り込みながら、
一番目立っているであろう人物へと視線を向ける。
「……ねぇ、賢雄あれなんだと思う?」
夕夏も同じことを考えたのか、前を歩いている新美を指さす。
いや、どちらかというと新美のバックをさしているのだろう。
それは大きなピザのような形のバックを肩にかけて、後ろに背負っていた。
新美とほぼ同じ大きさのそれを見て、みんなが気になる。
何が入っているのかと.......
「武器とか入ってんじゃないの?」
「いや、たぶん元々サポート役だから通信機器とか入ってるんじゃない?」
そんなことを賢雄と夕夏は話していると、すぐにケーブルカーの乗り場についてしまう。
ほとんど洞窟のようなところで、線路が奥まで伸びているのが確認できた。
数分待ったのち、暗闇の中から時刻通りにケーブルカーがやってくる。
赤と黄色を用いたこれによって、賢雄たちは黒部ダムにつくのだろう。
「じゃっ、乗ろうか。」
怕維人がみんなにそう言いながらケーブルカーに乗り込む。
ケーブルカーの横には駅員さんが立っていて、人数を数取器を使って数えていた。
カチッ!カチッ!という音が洞窟に響く。
そして、全員が乗り終えると駅員さんが運転席に行き、操作を始める。
運転席を除いて車内には賢雄たちのみ、つまり作戦会議ができるというわけだ。
「.....ん”ん。.........この先が黒部ダムだけど、着いた瞬間ばったり会うとかは
たぶんないと思うけど一様もう一回言うよ。」
怕維人は座りながら前かがみになる。
「まず、今日のポジションは前衛は俺、賢雄、
そして昨日じゃんけんで勝った晋也の3人。
後衛は新美、思礼、夕夏の3人ね。」
ケーブルカーは動き出したが、怕維人は話を続ける。
「あっちでイヤホンとサングラスは着けんのは遅いと思うから、ここでもう着けて。」
怕維人にそう言われ、賢雄たちはすぐさま着用する。
サングラスはサングラスと言っているが、
サングラス特有の黄色がかった視界ではなく、
伊達メガネのように通常通りに見えるためあまり違和感はなかった。
イヤホンも周りの音がよく聞き取れ、ケーブルカーが揺れる音なども聞こえた。
そのため、隣からの夕夏の声もくっきり聞きとれる。
「すごいね........国立って.....」
「まったくもって同感です。」
一般の企業などではこんな製品はまずもって作れないだろう。
これぞお国の力ってやつである。
「みんな着けた?」
みんなに怕維人が呼びかける。
その言葉に全員が首を縦に振ってこたえる。
怕維人は全員がつけ終わっているのを確認すると、新美に声をかける。
「そろそろ半分でしょ?..........新美つなげて。」
「........分かった。」
そう言われた新美はあのピザのバックからタブレットを取り出し、
画面を何やらいじり始める。
「........終わったぞ。」
新美がそう言った瞬間、賢雄のイヤホンからピッ!という音が聞こえた。
それは賢雄だけじゃないのか、賢雄以外も同様に全員がイヤホンに耳を当てる。
数秒立ったのちイヤホンから声が通る。
【.....てすてす..........あぁ~、皆さん聞こえます?】
その声の主は良治のものだった。
「あぁ、くっきり聞こえてるぞ良治。」
怕維人は良治に返答する。
【それは良かった.........では生徒の皆さん、
これからそれぞれのサポートと繋げますので少々お待ちください。】
一方的に告げた良治の声は一度消え、またピッ!という音が鳴る。
【.......賢雄..............OK?】
「うわっ、びっくりした!.....蜂か.....」
【なんかひどい。】
「ご、ごめん......そういうつもりじゃなくて......」
【ううん.......平気。】
突如聞こえた蜂の声に驚きつつも、賢雄は耳を傾ける。
【.......少し変わる。】
「えっ?」
少し変わると聞こえた言葉、それに続けてガタガタという音が鳴り.......
【.........賢雄君、少し失礼します。】
「良治さんっ⁉」
蜂から良治に変わった。
【いきなりすいません.......蜂さんとの通信前に少しお伝えしたいことがあります。】
「な、なんでしょう?」
【まず、賢雄君が喋っている言葉は振動に変換されて、
ちゃんと蜂さんに伝わっていますのでご安心を.......】
「そ、そうなんですね。」
【はい........そして賢雄さんのご存じの通り、蜂さんは一度に6字しか喋れません。
なので、蜂さんはこれから簡略化してしゃべります。】
「か、簡略化?」
簡略化って言うんだから何か縮めるのだろうか?
そんなことを考えている賢雄に、良治は話かけていく。
【まず覚えてほしいことが、3つあります。】
「えっ、3つもですか?」
【はい、しかし覚えるといってもアルファベットですよ。】
「へ?アルファベット?」
【攻撃の『K』、防御の『B』、避けるの『Y』です。
『K』は相手の体の部位を指し、『B』は自分『Y』は場所や方向になります。
まぁ、これは後々増えると思いますが今はこんな感じです。】
「..........待ってください.......ちょっとついていけません。」
【.....そうですね......例えば『K左上』と言われた際は、
敵の左上を攻撃すればいいんです。】
良治の分かりやすい例えに納得をする賢雄。
「えっ、それじゃあ『B左足』とかは自分の左足を守ればいいんですか?」
【はい、吞み込みが早くて助かります。
では、理解したようなので蜂さんに変わります。】
「はい、ありがとうございます!」
良治との通信が切れた後、すぐに蜂との通信が始まる。
【.......分かった?】
「あぁ、うん.......たぶん。」
【......心配かも。】
「まぁ、けどどうにかなると思う。」
【.......分かった....】
少し心配された賢雄だったが、何とかなると信じて蜂の話を聞く。
【.......周り見て。】
「えっ、周り?」
突如言われた言葉に疑問を持ちながらも、賢雄は周りを見渡す。
たぶん、このサングラスのことだろう。
サングラスから見える視界しかサポート側に送れないため、
周りを見渡さないと見えないのだろう。
【........うん、ありがと。】
ある程度周りを見渡し終えたとき、蜂から感謝を言われる。
「大丈夫、これやっぱ見づらいの?」
【うん、少し。】
あっち側からこれがどういう風に見えているかわからない賢雄だったが、
とりあえず見づらいということだけが分かり、
ちょくちょく周りを見渡すようにしようと心の中で決める。
.......ちょうど電車が走ってきて半分ぐらい経ったころだろうか。
ピロピロピロリン~!
いきなり車内に電話の音が鳴り響く。
「あっ、ごめん俺だ。」
怕維人のスマホに電話がかかってくる。
「あれほど、電源は切っておけと.......」
「ごめんな裁判官。」
「............相手は?」
「えっ、それ無視するの?........凩だよ。」
「それならたぶん大事な話だ、スピーカーにしろ。」
「えぇ~、お前って本当に凩にあまあまだよな......」
新美の言葉に文句を言いつつも、スマホのスピーカーボタンを押して電話し始める。
「はいはい、しもしも。」
〖先輩ッ!急にごめん、聞こえてるっ⁉〗
「お、おう......どうした急に焦って.......」
〖その車内から早く出てッ!!......全員死んじゃうよ!!〗
賢雄はその言葉にを聞き、とてつもない不安感に襲われる。
だが、怕維人はゆっくりとしゃべりだす。
「バカか、お前?......そんなんに俺が気付かないとでも?」
「えっ.......」
「全ては俺の手中だ。」
そう言って怕維人は電話を切る。
待って!という声も聞こえたが、怕維人は揺るがない。
ゆっくりと立ち上がると、それに合わせて新美も立ち上がる。
「お前ら、今すぐ拳銃出せ。」
怕維人自身も自身の得物を出しながら、生徒に言う。
並々ならぬ雰囲気に圧倒されつつ、賢雄達は素早く拳銃を構える。
........規則的に揺れる車内。
怕維人がゆっくりと上を見上げる。
「...........ずいぶんデカいな。」
その瞬間、ケーブルカーの天井からドゴッ!という鈍い音が鳴る。
そして、訪れる来客。
「ヒャハ!来てやったぜ国の犬ども!」
ケーブルカーの天井をぶっ壊し入ってくる大男。
両手には普通のより一回り大きい斧が二つ握られている。
「敵遭遇、戦闘を開始する。」
怕維人から到底出ないであろう冷たい声で報告される。
.........そして戦いは始まった。
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