習うより慣れよ
「オラァ、⚪︎ねぇ!!」
「アンタが⚪︎ねぇ!!」
ホテルの卓球場にそんな事件性マシマシの会話が響く。
ボールはラケットに強くひっぱたかれ、今にもへこみそうだった。
たまに入り口を通る人たちがこちらを見た瞬間に
小走りで走り抜けていくのを見ると申し訳なくなってくる。
そんな恐怖をみんなに与えている、二人。
それは.............
「何が、ビッチよ!.......こっの、クソ童貞!」
「お前に言われたくはねぇわ!」
夕夏と晋也だった。
二人の怒りが卓球場に立ち込め、殺伐とした空気に作り変えていく。
それにしても、得点係の怕維人を除いて全員が寒い視線を向けているのに全然収まらない。
そのとき、賢雄はちらっとその怕維人を見る。
目の前の試合を楽しんでいるのか目を輝かせて観戦していた。
先生なのに止めないのかと思う賢雄だったが、
彼は知らない。
この怕維人こそが、この戦いを始めさせた張本人であることを……
◆◆◆◆◆
ホテルに着いた賢雄たちは新美の指示ですぐ風呂に入る。
ここでは何かイベントが起こったわけでもなく平和だったが、
賢雄にはしゃべれる相手がいなかったのでただひたすらに気まずかった。
湯船から上がった賢雄は自室へ行き、ホテル支給の部屋着に着替える。
「あぁ~、..........疲れた。」
部屋着を着た瞬間に突発的な眠気が襲ってきて、ベットにダイブする。
滑らかな肌触り、優しく包み込むような毛布、そしてベットの適度な反発感。
この3つが賢雄をいやすとともに、眠気を加速させる。
「.......あ~、たしかこの後、会議あったよな?.......あ~本当に眠たい。」
賢雄はそんなことを思い出して、片手を全力で伸ばしてスマホをつかむ。
そしてアラームをセットすると、毛布をかぶり本格的に睡眠へ.........
「俺は悪くない.......この環境が悪いんだ。」
そう言いながら、賢雄は両眼を閉じていった。
◆◆◆◆◆
遠くでスマホが鳴る音が聞こえる。
重たいまぶたを開けた賢雄がアラームを消すと、時刻が目に入る。
『19:30』
あれ?おかしい幻覚だろうか?
確か賢雄は集合時刻の19時より10分早い18:50にセットしたはずだ。
「えっ、待って、それじゃあ…………」
賢雄はベットから飛び跳ねて、会議場所のホールへ向かう。
多分会議は始まっているが、行かないよりかはましだろう。
そんな思いで行くと.............
◆◆◆◆◆
と、今の状況に至る。
「今は4対6ね。」
そう言いながら怕維人は得点票をペラリとめくる。
やはり、全てのものを武器として扱える夕夏が一歩リードしているらしい。
晋也は力任せにひっぱたいているが、夕夏は回転をかけてしっかりボールを落としている。
男子は不器用で女子は器用だという教訓はこういうところから生まれたんだろう。
そんなことを賢雄が考えていると、夕夏が台の隅を打ち抜きまた1点を獲得する。
「やったぁ~!」
「お、お”....まぇ”.......調子乗りやがって......」
晋也がギリギリと歯ぎしりをし、対照的に夕夏は晋也に誇ったような顔を向けている。
観戦をしていた賢雄もとうとう気になって、
晋也の後ろで静かに見ていた鳳翔悠馬に話しかける。
「ねぇ、鳳翔君。」
「ん?........どうしたの賢雄?.......あと、悠馬でいいよ。」
「そ、そうだな。........遅れてきた俺が言うのもなんだけど......この二人は何してるの?」
「いや~それがね..........明日の任務のポジションで2人がもめちゃって。」
「ポジション?」
「うん、行動役だったら例えば前でガンガン行く前衛と、
後ろで支援する後衛とかね。」
ここで賢雄に不安が走る。
そう、自分のポジションが決まっているのではないかということだ。
賢雄自身そんなにガンガン行きたくなく、後方で前衛を支える場所にいたいが......
「あの~、悠馬?...........俺のポジションって?」
「あぁ、それなら賢雄がいない間に決まったよ。.........たしか....」
悠馬は顎に手を置いていると、思い出してしゃべりだす。
「.......前衛だった気がするよ。」
「おわったぁぁ~!」
賢雄は膝から崩れ落ちてしまう。
「なんで俺がそんな危険なところに⁉」
「えっ、だって訓練一位じゃん。」
「いやいやいや!!.....あんなんまぐれに決まってるじゃん⁉」
賢雄は手を振り全力で否定をするが、
悠馬は疑問を抱きつつ尊敬のまなざしを向ける。
「あれのどこがまぐれなの?
最初は僕も君のことをなめてはいたけど、
あの時あの場所での君の結果は明らかに君の実力だよ。
君は努力ですべてを変えたんだ。」
「..........ありがと。」
褒められると恥ずかしくなってしまう賢雄だったが、
そんな風に思われていたことへの驚きも相まって何とも言えない感情になる。
「.......それでさ、結局あの二人は何でけんかしてるの?」
「あぁ、それは二人とも前衛になりたかったからだよ。」
「えっ、それって人数決まってるもんなの?」
「まぁ、基本はね。今回はスタンダード隊形で前衛3人の後衛3人になってて、
今は前衛に七里先生、賢雄。
後衛に小早川先生、穀瑠さんが入るから、1人ー1人かな?」
悠馬が賢雄にそう伝えると、賢雄はある疑問がわいてくる。
「あれ、小早川先生ってサポート役だったよね?
自分の専門のとこにじゃなくて行動役に出ちゃっていいの?」
賢雄は悠馬にそう聞くと、悠馬はけわしい顔になり考え込んでしまう。
「いや、う~ん。僕自身もそれは分からないよ。」
両手を上へ向け、肩をすくめる悠馬。
その姿を見て『五法』でも分からないのかと疑問がさらに深まる。
賢雄はチラッと新美を見る。
誰も言わなかったら、出張でこのホテルに泊まっているOLとほとんど遜色ない。
そんな感じに見えるが、本当に戦えるのだろうか?
別になめているわけじゃないが、心配になる賢雄。
しかし、そんなことを考えた賢雄にバチが当たる。
晋也が全力で打った球が、台でワンバウンドしてから賢雄に向かう。
「やべ.....」「あっ.......」
晋也と夕夏はボールを目で追うことしかできない。
そして、そのままボールは賢雄のおでこへ.......
「い”ったぁぁ!!」
当たってしまった
しかもものすごいスピードで。
早くも赤い晴れが出てきてしまった賢雄。
とてもじゃないが痛いものは痛い。
しかし、その姿を見ていた晋也はすぐに切り替える。
「もう、あれは2ポイントじゃね~の?」
「はぁ~⁉......なんでそうなるのよ⁉」
賢雄への心配もよそに話は進んでいく。
当の賢雄はハンカチでボールが当たったところを押さえている。
本当は氷とかのほうがいい気がするが、
明日のためにできるだけ負傷は治しておきたい。
そう考えていた賢雄の後方から手が回され、おでこに氷のうが当てられる。
「.......賢雄君.......大丈夫ですか?」
後ろから投げかけられる鈴を転がしたような声。
賢雄はその声の正体に気づき、後ろを振り返る。
「...........ありがとう、夜蝶さん。」
「いえいえ、ご気になさらず。
あと、私も悠馬君と同様に名前呼びで結構ですよ。」
今感じている痛みを忘れてしまうほど、可憐な笑顔。
そして、それに重ねての清楚感。
The女の子に心配されておでこだけでなく、顔までも赤く染まる賢雄。
そんな賢雄を見た雛は、おでこだけでなく顔全体にペタペタと当てていく。
「だ、大丈夫ですか?……………ちょ、ちょっと顔熱くないですか!?
これ、私の使ったやつなんですけど.......匂い大丈夫ですかね?」
雛は賢雄に桃色の花が刺繍された白色のハンカチを顔に当てる。
「い、いや!.......だ、大丈夫だから!うん、大丈夫だから!!」
そう言って早口になりながら言う賢雄。
その時、卓球場に怕維人の声が響く。
「え~と、カウント『デュース』!」
そのコールにより全員が中央の晋也と夕夏の試合に目を向ける。
二人とも息が荒く、必死さがひしひしと伝わってきた。
しかし、このままでは明日の任務に支障が出てしまう。
全員がそう思っていた時、賢雄が思わず口を開いた。
「......あのさ、2人とも.....俺後衛行くから二人前衛でいいよ。」
賢雄の突然の発言に晋也と夕夏が目を丸くする。
しかし、2人は顔を合わせると賢雄に向かって言い放つ。
「なんでだよ。」「なんでそうなるの?」
「え、なんでぇ~?」
[いや、お前ら前衛やりたかったんじゃないのかよ⁉]
急な手のひら返しに驚きつつ、賢雄は混乱し頭をかく。
そこへ、追い打ちをかけるように夕夏が言う。
「別に、前衛をしたくないってわけじゃないけど......
あんた今のところウチたちの中で一番強いんだから行ったほうがいいって。」
「けどさ、俺後衛がいいし......」
賢雄は自分で言ったものの、こっぱずかしくなりながら答える。
その様子を見かねて怕維人は賢雄の後ろへまわり......
「バゴーンッ!!」
「イッテっ!」
背中を得点板でぶったたいた。
あまりに強くたたいたため、賢雄は背中を抑えながら床に倒れこむ。
「な、何するんですか⁉」
いきなりぶったたいてきた怕維人を賢雄は涙目で見上げる。
「あのさ~、賢雄。謙遜はいいと思うけど、自身は持ってこうぜ!」
「この業界は後衛に行くだけで自信がないとみなされるんですか?」
「いや~、そういう意味じゃないけど、
ただ単に強い奴を前に固めたほうがいいかなって思っただけ。」
「............僕ってそれほどじゃないですか?」
賢雄はため息をつきながらもゆっくりと立ち上がる。
やはり、上には上がいる。
そんな気持ちでやっていかないと人は腐ってしまう。
そう思う賢雄にとって怕維人の考えは真逆だった。
「まぁまぁ、俺がいるから1番にはなれないけど、2番にはなれるんじゃね?」
「えっ……あ、はい。」
素晴らしい傲慢ぶりに思わず感心してしまう賢雄。
逆にこの仕事ではこれぐらいのメンタルでやらないとダメなのかもしれない。
自分が1番だと思うことで、保つことができるパフォーマンス。
しかし、その反面に欠点があることも知っている。
それは…………
「う〜ん、やっぱメンタル強化は最終的にバトルに行き着くんよ。
やっぱ戦わせることでしか、得られない経験は絶対あるわけなんね。」
圧倒的な空気に対する読解力のなさである。
この先生は一体明日が生徒達にとって
どんな日だと思って戦わせているのだろう?
そんなみんなの思いを汲み取ったのか卓球場の空気が一気に冷える。
「………あれ?……俺っちなんかしましたっけ?」
「…………ふぅー……一回頭冷やしましょうか?」
賢雄は夜蝶からもらった氷のうの蓋をとって、怕維人の頭にぶちまけた。
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