過去に触る
怕維人の施設で子供を探しているシーンは今は何言ってるかわからないと思うので、
「へー、はいはい。」と言う感じで読んでください。
石鳥蜂と言う女の子は普通の男性とバツイチの母との間に生まれた。
生まれつき体が小さく、脆弱な体で何をするにも人の助けが必要。
しかし、それでも両親は蜂に愛を注いで育てた。
そう、あの時までは..........
「........蜂さんには鼓・膜・がありません。」
目の前にいる白衣の医者はそう告げた。
「えっ?.........う、嘘ですよね先生?」
最近になって蜂に様子がおかしいと思い、検査に行ったらこの有様だ。
「え、えっ?…………も、もう一度お願いします。」
「申し訳ございませんが………蜂さんには生まれつき鼓膜がありません。
つまりろう者(音が聞こえない人)です。」
母は医者の言葉を聞いて絶句しているが、
当の蜂は母の膝の上で母の顔を覗くばかりで何も変化がない。
「……な、治せるんですよね⁉︎」
母は一途の希望で医者に問う。
すると、医者の顔がみるみる曇っていく。
「……生まれつきですから、治す以前の問題です。
ですが………一つだけ手段があります。」
「そ、それは一体?」
母親は恐る恐る聞く。
「人工鼓膜です。」
「じんこうこまく.....?」
「はい、蜂さんの耳に人工の鼓膜を取り付けます。」
淡々と恐ろしいことを述べる医者に母親は拒絶感を抱く。
「それで、聞こえるようになりますか?」
「………可能性は低いでしょう。」
「なんで!?」
声を荒げる母親を医者の隣にいる看護師がなだめる。
そして、押さえつけられた母親は頭を抱えながら椅子に座る。
段々と深刻化する話に頭を痛める母親。
そんな母親を蜂は下から覗き込む。
蜂本人はこの会話が自分自身のことなのだとわからないのだろう。
途中途中で「キャッ!キャッ!」と楽しそうに笑っている。
「今、蜂さんは何歳でしたっけ?」
「ご、3歳です。」
その言葉に医者はパソコンのモニターを見ながら頭を掻きむしる。
「蜂さんのようなケースは今までに無いんです。
……だから、通常の手術と違うことをしなくてはなりません。」
「しゅ、手術…………」
不意に出てきた『手術』というワードが母親の頭を駆け回り、
不安感をより一層煽っていく。
「ひ、費用は?」
「これは私の推測ですが……手術費と入院費などで200万、
それに蜂さんの体に合わせるためには
特別な手術を施さなくてはならなくてプラスで150万ほど…」
「合わせて350万ですかっ!?」
あまりの高額さに腰が抜ける母親。
350万なんてそんなもの用意できるはずがない。
しかし、用意できなければ蜂が………
その二つが頭の中でせめぎ合って、母親の思考を鈍らす。
「石鳥さん。」
そう医者は母親の名前を呼ぶ。
「私個人の意見ですが、耳の手術というものは危険を伴います。
例えば、神経を切ってしまって耳どころではなくなったり、
脳も近いので脳にも影響が及ぶ可能性が……
そうなるよりかは蜂さんはこのままの素の状態のほうがいいと思います。」
◆◆◆◆◆
蜂の母親は雨の中を歩いていた。
あの医者は困ったらまたきてくださいと言っていたがそれは無いだろう。
なぜなら........
もう置いてきたのだから。
母親の腕に少女の姿は無かった。
◆◆◆◆◆
七里怕維人は子供と関わるのが好きだったのか
保護施設に来ては子供達と遊ぶ自称ボランティア(?)みたいなことをしていた。
そして、彼は今ある保護施設に来ている。
「ここで終われば良いんだけどな.......」
そんな淡い希望を抱きながら、怕維人は施設のドアを開ける。
すると、ドアを開けた音に反応したのか子供たちがやってくる。
「.......うわー、おじさんだれ?」
「だれ?」「だれなの?」
そう子供たちに問い詰められる怕維人。
なんとか悪い印象を抱かれないように笑顔を作ると………
「やぁ、みんな!悪いね、大人の人はいるかい?」
「うん、いるよ!僕呼んでくる。」
見た目的に活発そうな男の子が走って奥に消えていく。
それに釣られたのか、みんなも呼ぶために走って行ってしまった。
(……行ったか?)
怕維人は周りを確認すると、
下駄箱をトントンと叩きながら今は11人いることを確認する。
周りから見たらいかにも怪しそうな行動だが、これには意味も理由もあった。
(女の子用の靴が………3足か。)
真面目そうな顔の怕維人が顔を上げると同時に廊下の横の扉から
明らかに優しそうなお婆さんが出てきた。
「あら、いらっしゃいませ。」
「いきなりすいません.......あの〜、ある子を探しにきたのですが………」
怕維人は若干声を高くして、下手に出ながら話す。
その怕維人の姿を見たお婆さんは
新しい里親候補がきたと思い、目を輝かせながら言う。
「おやおや、そういうことかい?
……それで、探しているのはどういう子なんだい?」
お婆さんがそよ風のような、優しく小さい声で怕維人に聞く。
それを聞いた怕維人はにこやかに言う。
「じゃあ………ここに『七里怕維人』って名前の子供はいますか?」
「しちりはいと?……こりゃまた珍しい名前だね。
でも、うちにはいないなぁ…ごめんねぇ。」
怕維人が言った要望に応えられず、落ち込むお婆さんを見て
怕維人は慌てて次の候補を言う。
「あ、えっとね………それじゃあ、難聴な子はいますか?」
次の問いはおばあさんに心当たりがあったらしい。
お婆さんは手を打つと、小走りで奥に消えて行った。
1人残された怕維人はソワソワしながら待っていると
ふと、視界に玄関の棚に飾っているピンクのバーヘナが入る。
一輪一輪が際立っていて、とても甘い香りがしそうだった。
そして、バーヘナと睨めっこ状態だった怕維人にお目当ての子がやってくる。
「……この子だよ。」
お婆さんが後ろを振り向きながらそう紹介する。
顔の半分だけ見えるその子は銀髪をした可愛い女の子だった。
しかし、よく見えないため怕維人が覗こうと横にずれると………
「…………」
「あっ、」
スッとまたお婆さんの後ろに隠れてしまう。
分かる人には分かるだろう。
これの繰り返しだ。
怕維人が横にずれると、それに合わせてずれてくる。
だが、これにも終わりが来る。
一周した後、お婆さんが女の子の体を引っ張り前に持ってくる。
それと同時に怕維人も怖がらせてはいけないとしゃがみ込む。
同じ目線の高さになることで女の子の青い瞳が光に反射して、
宝石のように光り輝いているように見える。
「きみ、お名前は?」
怕維人は首を横に傾けながら笑顔で言う。
しかし、女の子からの返答がない。
よく見ると、何かに戸惑っている様子だった。
なんだ?俺に何かついてるのか?そう考える怕維人は
自分の体をペタペタと触れているうちにある事に気づく。
「………あっ!あ〜ごめん耳が聞こえないんだった。」
そうして自分の過ちに気づき、胸ポケットから紙を取り出して書いていく。
『きみ、いまなんさい?』
そう書いた紙を女の子の前で見せると、女の子は指で5本の指を大きく開く。
『5さい?』
こくっと首を振るのを確認すると、怕維人はメモ帳を取り出し
『難聴』『5歳』『女』の項目に丸をつける。
そして、怕維人はさらに質問をしていく。
『おなまえは?』
そう聞くと、女の子は先が丸っこい鉛筆を使って
その質問の下に答えを書いていく。
丁寧にゆっくりと書く女の子に、怕維人は急かさず静かに見つめる。
そして、書き終わったのか紙をバッと怕維人の前に掲げる。
『いしとり はち』
紙にはそう書かれていた。
「そう……だよね〜……」
怕維人はため息をつきながら、しゃがみ込んでしまう。
何年も続けてきたが、ここで終止符を打てなかったことに
残念さが残ってしまう。
結局のところ、怕維人の哀れな希望だったのだ。
「はぁ…………いしとりはち、ね。」
いしとりはち、それが目の前の少女の名前…………
(ここも……ボツかぁ。それにしてもこの子の名前は漢字でどう書く…………‼︎)
その瞬間に怕維人の頭では、点が線に、線が広がり、全てが繋がっていく。
全てを理解した怕維人は諦めかけていた頭を再稼働して、もう一度質問する。
『きみのなまえは、いしとりはちでまちがいないね?』
『?……そうだけど?』
そうと決まれば話は早い。
怕維人はパッと立ち上がると、おばあさんの方を向いて言った。
「俺、この子の里親になります!」
お婆さんはにっこりと笑うと蜂に顔を向ける。
蜂自身は理解できていなそうだが、お婆さんにつられて笑い出す。
その笑顔は太陽のように明るかった。
◆◆◆◆◆
蜂は終始にかけて、ゆっくりと丁寧に賢雄に分かりやすく書いていた。
それは話を聞いていくにつれて蜂の深く深くに潜っていく、
そんなような錯覚をもたらしていた。
「蜂。」
賢雄が肩を叩きながら蜂に呼びかける。
「耳が聞こえないのにどうやってこの話を知ったの?」
話の中で唯一あった不明点。
すると、蜂はさらさらと書き始める。
『これは怕維人先生に引き取られてから先生から聞いたの。
なんか色々と調べてくれていたっぽくて……』
蜂はそう淡々と説明をしていく。
その顔には色褪せたようななんともいえない感情が隠れているように見える。
賢雄は蜂の話を思い返す。
その頃の蜂は物心がなかったと思うが、
やはり親に捨てられると言うのはショックだったろう。
「........大変だったんだね。」
心の中で思ったことが無意識に溢れ出す。
蜂を見て、この世の中は無常で冷酷なのだと再認識する。
大切なものを守るために他の誰かを傷つける。
揺れる電車に呼応するように賢雄の心も揺れ動いていく。
「…………頑張ろう。」
賢雄は前を向きながら蜂に言う。
その言葉は真っ直ぐに蜂の心に突き刺さる。
「…………うん、あいぼ。」
同じような境遇の2人は決意する。
もう自分たちの日常を壊されないために……
ー「ねぇ、新美。あの2人って付き合ってんのかな?」
「知らん。自分の口で聞いてこい。」ー
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