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学園生活の道標


「た、ただいまぁ~」


賢雄は疲れている体を強引に動かしながら、ドアを開ける。

すると中から鈴そして......


「お帰り~お兄ちゃん。」

「お帰りなさいませ。」


スーツ姿の森さん[ep1で出てきた車送迎してくれた人]が出てきた。


「毎日本当にありがとうございます。」

「いえいえ、大したことではありませんとも。

 家に帰っても一人でいるだけですので。」


そういいながら、顔のひげをいじる森さん。

森さんには賢雄が学校に行っているときに、鈴の面倒を見てくれている。


「今日ね。森さんとオセロやったの。でね、私が勝ったの。」

「いやはや、鈴ちゃんは強いね。」


その状況と場面が想像できる。

よほど楽しかったのだろう。

今までの暮らしでは鈴を縛るものが多く、窮屈な思いもしていたはずだろう。

しかし、今では鈴の満面の笑みが見れてよかったと思っている。


「おっと、もうこんな時間.........では、私はこれで。」


賢雄がそんなことを考えていると、森さんは玄関のドアを開ける。


「じゃーね、森さん!」

「今日もありがとうございました。」


賢雄と鈴が手を振ると、森さんは丁寧に手袋を取り振り返した。


「鈴ちゃん、ちゃんとお野菜は食べるんだよ。.......じゃ!」


鈴に注意をした森さんの姿がドアが閉じられ見えなくなる。

森さんがいなくなり、二人だけの時間が流れる。

すると........


「ねぇねぇ、お兄ちゃん?」

「ん?.........どうしたの鈴?」

「いつも通り学校の話聞かせて。」


そう鈴がねだってきた。


家にずっといる鈴は外の話題に飢えているのだろう。

そんなことを思いながら賢雄は答える。



「うん。今日はね........」



◆◆◆◆◆


ビィー!という電子ホイッスルの音が鳴り、賢雄の射撃訓練が終わる。


「..............はっ?」


ふいに声が聞こえる。

その声の主は........


「.......おい.....おい、おいおい.....おい!......なんだよ、これ?」


晋也がまるで人じゃないものを見るような目で賢雄を見る。

それは『五法』や、ほかのメンバーも同じで全員が賢雄を見ている。

掲示板に出たスコアは.......『61点』

その点数が意味するのは、


「......なんで.......なんでだよ!」


圧倒的なスコアによる首位交代。

2位との差は7点。

明らかに大きい壁が存在する。


「.........ぎ.....く、ぐ.......なん、でお前な“んかがぁ......」


目は血走り、手からは強く握りすぎたのか血が滴っている。

前回の最下位が前回の1位に逆転。


そのことが晋也の脳を駆け回り、プライドをズタズタに切り裂く。


「........昨日の最下位が1位?......ふざけるな!....絶対不正をしていやがる。」


晋也が賢雄に指をさし、そう断定する。


「な、なんで⁉.....俺はただ......」

「うるせぇ...........」


賢雄が弁解しようとするも、晋也の低い声がそれをかき消す。


「おい、普通はなぁ......このテストで60点アップってありえねぇんだよ。

 それもぉ?昨日まともにできなかったやつがぁ?.........笑わせるんじゃねえよ。」

「ちょ、ちょっと、晋也君言い過ぎだって。」


そう晋也に声をかけたのは、晋也のサポート役である鳳翔。

場が凍てつき、静まり変える。

空気が鉛のように重たく、さらに重たくなっていく。


「あ”ぁ?じゃあ鳳翔おまえは、これがおかしいと思わねぇのか?」

「そ、それはちょっと.......」

「ほらな!『五法(お前ら)』もそう思うだろう?」


晋也はそう言って、鳳翔以外の『五法』にも声をかける。

一瞬の静まりの後、それぞれが声を発する。


「..........私もそう思う、さすがに怪しい....」

「.......賢雄君には悪いけど、俺も。」

「..........私も同じ意見。」


続々と晋也の意見に同調が集まる。


[こいつらがここまでなるってことは......60点台の恐ろしさがわかるな.....]


手に顎を乗せながら、賢雄はそう自分がやってしまったことを冷静に整理する。

しかしその間にも晋也の怒りは積もる。


「........そうか!先生だな?.....先生が協力したんだ。そうだろ?」


挙句の果てには、このことと関係がない怕維人にも被害が出る。

その怕維人だが、自分で自分を指さし混乱している。

今にも「えっ?俺?」という声が聞こえてきそうだ。


「確かに、先生が仕組んだならこうすることはたやすいな。」


そこまで言うか?という感じだが、晋也はまだ続ける。


「たかが、先生に気に入られた運がいい負け犬はさっさと.........」



「........アンタさっきからピーチクパーチク.......うるさい男はモテないわよ。」



冷めきった体育館に熱いお湯のような声が通る。

それはしびれを切らした夕夏の声だった。


「あ”っ?お前俺に言ってんの?」

「そうよ。案外察しいいじゃない。」

「おまっ、」

「そういうところよ。器の小さいお子様さん。」


煽りにキレる晋也の声をかき消すように夕夏は話し続ける。


「ウチの話はまだ終わってない。

 賢雄の技術は素晴らしいものだった。

 確かに、アンタが言う通りぶっ飛んだ成長だけど.......

 けど、見た感じは不正してなかったし、先生も訓練中何もしてなかったわよ。」


夕夏がそう弁論すると、怕維人は無実のことが証明され天を見上げる。


「............アーメン。」


意味の分からない言葉に一同が一瞬混乱しつつも、話は進む。


「引かなきゃいけないのは、アンタじゃないの?」


その言葉に夕夏の後ろに隠れている蜂も首を縦に振る。


「.....て、てめぇら.......」

晋也は歯ぎしりしながら、賢雄と夕夏と蜂をにらむ。


「ごめん、吾車君。」


白熱しているこの会話に賢雄が入り込む。


「僕は不正をしていないけど、ズルをした。

 .......みんながやっていない夜の時間、

 僕は体育館を開けてもらって練習していたんだ。

 そして、怕維人先生からもいろいろなことを教わった。

 こんなことをしたことには理由があるんだ。

 .......それは、君なんだ。」


そう言い、賢雄は晋也の目をまっすぐ見る。


「君が僕にきつい言葉を言ってくれたから、僕はまだまだだと思えた。

 君がすごいスコアを出したから、僕は君の背中を追おうと思った。

 今の61点の僕がいるのは君のおかげなんだ.......ありがとう。」


言い切ると、賢雄は晋也に向かって深く頭を下げる。


「ちょ、ちょっと」という声がしたが気にしない。


賢雄自身はこのことを本当に晋也のおかげだと思っているからだ。

すると、体育館内にパチパチと拍手の音が聞こえる。


「すんばらしい思考回路だね、賢雄。」

怕維人が手をたたきながら、ほめたたえる。



「相手を認めて、成長することは立派なことだ。

 だが、賢雄。この業界認めすぎもよくない。

 エゴやプライドを出していかないと絶対つぶされる。

 その点では0点だよ。

 けど、吾車君。君はそれ以下の以下だ。

 君にはその偉大なるプライドとエゴがあるのにそれを正しく使えていない。

 これは、この仕事以外にも通用するけど.......」


そう言うと怕維人は晋也に歩み寄り、

晋也のおでこをトントンと叩きながら言う。



「他人から納得されない行動は無意味でカスだ。」



その言葉は晋也だけでなく、全員の心に突き刺さる。

今までの行動を振り返させる言葉になる。


「......まぁ、まだそんな気負わなくていいよ。

 みんなはまだ高校生なんだから........」


怕維人はそう言うと、晋也の前から離れる。

するとドサッという音が鳴り、晋也があっけにとられた顔で座り込む。

あの独特の緊張感が消えうせ、全員が怕維人のほうを向く。


「.........今日のナンバーワンは賢雄だった。

 これは間違いない........ただ、()()()とは限らない。

 次の1秒、1分でそのナンバーワンが変わってしまうかもしれない。

 未来のことなんて誰にも分らない......だから未来は変えられる。

 俺はその1秒に飢えて、全力で生きているバカを見てみたい。」


怕維人は、なんか自分いい感じの言葉を言った感を出すと、次の言葉で締めた。



「さぁ、学園生活は始まったばかりだよ。」




もしかしたら、なぜ蜂は耳が聞こえないのに話の内容がわかるのか

という疑問がある方がいると思うのでここで解消します。



今は放課後。

賢雄が窓の外をずっと見ている蜂の肩を軽く叩く。

叩かれた蜂は驚きながら、紙を用意する。


『どうしたの、賢雄?』


そう問われているが賢雄は黙り込んで考えている。

そして賢雄は決心し、口を開く。


「あのさ......これでも通じてるの?」


そう言うと、蜂は紙に書き込む。


『はい、とても良く。』

「えっ、どうしてわかるの?」

『私は言った通り耳が聞こえないから、モールスと手話、そして読唇術を教えられたの。』


賢雄は緊張しながら聞く。


「えっ、じゃあ、自分がその紙に書いて会話していたことは?」

『あぁ、ごめん。誤解させちゃった......?

 それは書きのほうが、伝わりやすいからだよ。

 あと、読唇術は人の顔見ないといけないしね........』


心の中で安堵のため息をつく賢雄。


『だから........』


そう書くと蜂はいきなり立ち上がり、


「もっとはなそ!」


賢雄はそんな彼女が、夕日で照らされて輝いているのを感じた。



よかったら評価よろしく。


不明点やアドバイス、感想、アンチコメも受け付けてます。

皆さんの意見をぜひお聞かせください。

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