バカになれ
「えっ、今日の放課後はいけないから別日程が良いって?」
「うん。本当にごめん長部智。」
体育館から帰る途中、賢雄が夕夏に今日は予定ができたから
夕夏から本を借りることができなくなったと説明する賢雄。
「そんなに大事な用事なの?」
「うん。大事な用事なんだ。」
夕夏は賢雄に疑問を抱きながら聞くが、賢雄の目に迷いはない。
「あっ、そういえば…」
「?」
夕夏が何か言い残していたものがあるかのように賢雄に語りかける。
賢雄がふと夕夏の顔を覗き込むと、
彼女の頬がまるで夕日に照らされたかのように赤く染まっているのが見えた。
「きょ、今日のあれ………チャラだから!いいっ⁉︎」
「………ふふ…うん、わかったよ。」
「じゃ、じゃあもう行きなさい!」
夕夏はそういうと、そっぽを向きながら手を払う。
その仕草に賢雄は思わず笑みをこぼすと
賢雄は教室に行くルートから外れ、職員室に向かった。
◆◆◆◆◆
「もう一度問う、何の用だ?」
新美が、教卓に腰を掛けながら賢雄を見上げる。
「私を呼ぶということは、それ相応の理由お前にはあるはずだ。」
合理的な新美は短く的確な言葉で賢雄に問う。
「今日、体育館の夜間の使用を許可してもらえないでしょうか?」
賢雄はひるまず、そうしっかりと説明する。
「............理由は?」
「はい..........みんなとの差を埋めたい。それだけです。
僕は今日の小早川先生の言葉で入学して終わりではなく、
その先を見据えた行動が大切だと知りました。
この行動はそれに感化されたためです。」
あの時の新美は、その性格から容赦なく本音を言う。
それに一度は落ち込んだ賢雄だが、
新美に言われたことを行えば上達できるであろうと考え直した。
「ほう............つまり、今日の汚名を明日返したいと?」
「はい。」
「何時間だ?完成するのに何時間かかる?」
「...........六時間くらいです。」
「...........私はこの後用事がある.....別のものを向かわせよう。」
「あ、ありがとうござ.......」
お礼を言おうとした賢雄だが、新美の次の言葉にすべてをかき消される。
「一位とれ。」
「えっ?」
「明日の訓練で50点を超え、一位をとれ。」
「そ、そんないきなり.......」
賢雄はそんな急な無茶ぶりに縮こまってしまう。
そんな賢雄の姿を見て、新美は指摘する。
「この仕事は人の生死がかかわる。
そのため国を守るために全部を投げ捨て、全力で挑む。
私はそんなバカを見てみたい。...........しかし自信とエゴのないメンタルは身を亡ぼす。
私はそんな奴らをたくさん見てきた。
私もここの先生である故、お前らには中途半端になってもらいたくはないのだ。
.........服部。明日の訓練で50点以上をたたき出し、一位になれ。
それが約束できれば、体育館の使用を許可する。」
新美は教室の窓に向かいながらそう話すと、最後に窓越しに賢雄を見る。
不安、焦り、恐怖.......いろんなものが混ざり合ったような顔をしていた。
「..........結局お前はそこまでだったか......では失礼する。」
あきれた新美が、教室のドアから出ようと歩き出したときだ。
「待って下さい。」
賢雄が声を発した。
「..........やります。やってやりますよ。」
賢雄の目はまっすぐと新美を見ており、その奥には闘志がともっていた。
一瞬で変わった姿に、新美は驚く。
「お、おまえ..............」
「そこまで言われたんだ、一位を取って見せますよ。」
新美は今日の賢雄のポイントを知っている。
1点。
これが今日的に当てた回数。
それを明日には50以上にする、目の前の男はそうほざいている。
新美はニヤリと笑い、賢雄に鍵を渡す。
「結果で見せてみろ。」
「えぇ、楽しみにしていてください、先生。」
そう言ってバカは体育館に走り出した。
◇◇◇◇◇
パンッ、という乾いた音が再び体育館に響き渡る。
賢雄は的を撃っては弾を込め、撃っては込めを繰り返す。
結局人間は反復練習しかないのだ。
しかし、いわば賢雄は今、一夜漬け状態。
こんなので、何年もまともにやってきたやつらには勝てない。
そんなことは分かっている。
分かっていつつ、練習をしている。
この考え事の最中でもパンッという銃声は休みを知らない。
ただただ時間だけが過ぎて行く。
「........やっぱり、独学では限界があるな.......」
今の賢雄のスコアは20点。
これだけ見ても素晴らしい成長だが、課外プログラムまではあと60点足りない。
銃の構え方、弾の込め方、姿勢。
全て賢雄がドラマなどで見たものを真似ているだけで、
完璧とは程遠いと思わざるえなかった。
[確か、だれか来るんだったよな?]
その人に聞いてみようかと考えていたところ.......
「やぁ、賢雄。超久しぶり。」
「!!」
聞きなじみの声が聞こえた。
「なんで、今日早退したはずじゃ........」
「生徒が頑張ってて、先生が頑張らないって変じゃない?」
そこには包帯が取れた、眼帯の最強が立っていた。
「いや~、ごめんね。新美しかいなくてさ.......
あいつ、人付き合い下手すぎるから。」
「そ、そうなんですか?」
「まぁね。現に賢雄たちに銃の扱い方教えてないでしょ。」
「..........確かに。」
賢雄は今日の一日の訓練の際の新美の様子を思い出す。
確かに少しだけあの先生は放置主義なのかもしれない。
「......新美から聞いたよ、『五法』達にいじられたんだって?」
「......知ってたんですか?」
そうだよと返事をしながら、怕維人は台に置かれた賢雄の銃をとる。
「賢雄1分セットして。」
「えっ、は、はい。」
賢雄はそう言われスイッチを押す。
ビィーという音が鳴り、壁の中から的が複数飛び出してくる。
それに瞬時に照準を定め、怕維人はハンドガンとは思えない速度で連射していく。
弾込めにかかる時間も少なく、最も完璧に近い動き。
賢雄はそれに見とれ、一つも見逃すまいと目を開く。
指の動き、腕の動き、ましてや使うかもわからない
腰や、足の動きまでよく観察した。
長いようで短い1分は終わりを告げる。
点数のボードを見ると78点と刻まれていた。
一仕事が終わったような雰囲気に包まれている怕維人は、
銃口に息を吹きかけ、煙を飛ばす。
「どう?少しは分かった?」
「......はい、先生。.......完璧です。」
時計は夜9時を回っていた。
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