間話 私と『私』の話 前編 ーー川端ことね視点
夜明け前に、私は目覚める。
明かりをつけて、部屋の鏡を見ると、笑っている『私』がいたーー
私は鏡に向かい声をかける。
「⋯⋯『私』なんで笑っているの?」
すると、鏡の中の『私』が満面の笑みで、答える。
『ふふ。 すっかり慣れたね! 朝早く起きるの、おはよう私!」
「まったく、貴方のせいでね。 ⋯⋯おはよう『私』」
『よし! じゃあ今日もジョキング行こう!』
鏡の中の『私』はガッツポーズをして、朝から元気な様だ。
身だしなみを整えて、玄関に向かう。 すると、玄関口に高坂湊がいた。
「お! 今日もこんなに朝早くからジョキングか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ーー私は喋ることが出来なかった。 彼の言葉は、私に向けられたものではないからーー 別に、彼の笑顔が眩し過ぎて声が出ない訳じゃないからね。
その様子に見兼ねたのか、『私』が彼に声をかける。
『湊! おはよう! そうだよ! 私、すっかり慣れたみたいなんだ!』
「そうか。 まだ暗いから、足元に気をつけろよ」
『うん! 湊の愛情のこもった朝飯を楽しみにしているね!』
そう『私』が言うと、私達は家を飛び出すのだったーー
『もう! しっかりしてよ! どうしてそんなに照れているの? 毎日一緒なんだから、会話ぐらい出来るでしょう?』
「⋯⋯だって、湊の笑顔が尊いから⋯⋯」
私は、湊のことを思い浮かべる。 彼は私の家の世話係として一緒に生活している。 私の家はこの土地で大切な家系だそうだ。 ーー親が、この地を離れているから、あまり認識はしていないけど。
『いつもそう言って! 湊と会話するの会話するのいつも私じゃん!』
「⋯⋯別にいいでしょう。 私じゃ無理だし⋯⋯」
『もう! そんなことでどうするの? 私がいなくなっても大丈夫なの?』
「貴方がいなくなる? ⋯⋯そんな冗談、考えたことなかったよ」
私の親がいない時に、私に話しかけてくれる『私』。 いつも、寂しい時に話しかけてくれる元気な声。
一緒に色々なことをした。 『私』が『山奥の祠が気になる! 行ってみよう!』と言い出し、深夜にコッソリと祠に向かったこと。 ーー結局、見つかってしまい、その人に怒られたけどーー
同じ年のピンク髪の彼女を、彼女の家まで送り届けたこともあった。 『私』が彼女を見て、『なんだか、また会いそうな気がする⋯⋯』と珍しく考え込んでいたけど、彼女の妹と毎日連絡をとっているから、普通に会うと思うけど?
「おはよう。 ことね様は今日も元気ですね」
「美月さん。 おはようございます!」
「⋯⋯もう、貴方も高校生ね。 まったく、時間が過ぎるのは早いわね」
柳田美月は、母の世話係だったが、『私』の説得により、今はこの土地で生活している。 『私』が言うには『美月さんはここにいるべきだよ! ⋯⋯なんとなく。 仕事が忙しくなる? ⋯⋯お母さんは、そんなに働かなくていいから! それよりも遊ぼ! 例えば⋯⋯推活とか』だそう。
お母さんーーそう言えば、お母さんに電話をするように進めたのも、『私』だった。 私はあまりしたいと思わなかったが、今は私も楽しみにしている。
いつものジョキングコースを走っていると、道脇にまるで、私達を応援するかのように、猫がいる。 毎日通っているからか、猫は私に向かいポーズを決める。
「かわいい⋯⋯おはよう猫ちゃん」
私は、立ち止まり猫に挨拶をする。 私が、ジョキングをする理由の一つに、この猫の存在がある。 その猫は私に懐いてくれる。 一緒に暮らそうと思った私は、猫を飼いたいと湊を説得したが、あえなく断られた。
かわいい。 猫を見ていると、時間が経つのを忘れてしまう。
「ニャン!」
「ふふ」
『⋯⋯えっと、そろそろ行こうよ私⋯⋯』
「ニャン!」
「はう。 んにゃん」
『ホラ! 早く!』
猫から、デイリーボーナスを貰った私は、渋々ジョキングを再開するのであった。
「ただいま!」
「おかえり! ことね。 ご飯もう少し待っててな」
「⋯⋯シャワーを浴びたら、ちょっと寝るね⋯⋯」
「⋯⋯またかよ! 寝坊するぞ!」
「今日は大丈夫だから⋯⋯」
私はモジモジしながら応える。 そして、部屋に戻り布団に顔を埋める私。 顔は真っ赤である。
『うん! 悪くないよ!』
「やっぱり無理。 恥ずかしいよ⋯⋯」
『ハア。 しょうがないな』
そのまま、湊が起こしに来るまでじっとしていた私だった。
「おい~ 二度寝姫! ご飯だぞ~」
「⋯⋯わかった行く⋯⋯」
そして、私は食卓につく。 私がジョキングをする一番の理由、それはーー
『今日もありがとうね! 湊! 大好き!』
「はいはい。 俺もことねが好きだよ」
そう言って、私達をまっすぐ見つめてくる湊に、私は自然と笑顔になるのであった。
高校生になっても、続くと思っていた『私達』の暮らし。
ーーでも、高校入学式の前日、鏡の前で制服の試着をしていた時、『私』が突然驚いた顔をして、私に告げて来たのだったーー




