コンサート開催中
55、コンサートの前座を務める
ヨシ! みんな私の歌にメロメロだね!
私は、歌いながら、観客の様子を確かめる。
この歌は、私がとある歌手にハマった、思い出の曲。 ずっと毎日歌っていたから、親に私の歌だと勘違いされるほど。
さあ! いよいよサビだよ! 盛り上げて行こうーー
「⋯⋯お母さん。 お父さん⋯⋯」
あれ? なんか変な声が聞こえる。 榊原さんの声に似てるけどーー
「⋯⋯私を置いていかないで⋯⋯」
観客の反応を見ても、変化なし。 気のせいみたいだね!
私は、気持ちよく歌い上げた。 観客は拍手喝采だ。
ミッションコンプリート! 急いで退場!
「⋯⋯⋯⋯⋯」
あ! ステージにギリギリ見えない位置で、榊原さんが待っててくれた! 心配して様子を見に来てくれたんだね! 私は、榊原さんの優しさに感謝する。
「榊原さん、いやーーゆいゆい。 本番期待してますね!」
私は、にこやかにその場を後にするーー
そして、司会席で紹介を始める。
「さあ! お待たせいたしました! 本日のメインが登場です! 皆様、拍手でお願いします!」
観客の盛り上がりは最高潮。 これで、ゆいゆいに文句は言われないね!
ライトが三人を照らした。
黒田さんと新田さんが踊り出す。
あれ? ゆいゆいが俯いたまま動かないーー どうして?
まさかの事態に、観客が騒然となる。 ステージの二人が、ゆいゆいに話しかけているーー
私も慌てて、ステージへ向かった。
「ゆいっち! どうしたの?」
「結衣⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
私がステージに到着しても、状況が変わっていない様だった。 私は榊原さんに駆け寄る。
「⋯⋯どうしたんですか? ここにいる観客は、貴方のパフォーマンスを待っていますよ?」
「⋯⋯うるさい⋯⋯」
「え? ⋯⋯すみません。 もう一度お願いします⋯⋯」
「アンタがうるさいって言ってるのよ!」
会場に榊原さんの怒号が響くーー
「⋯⋯アンタが悪いの。 あんな歌を歌うから⋯⋯ お陰で私、歌えないじゃない⋯⋯当てつけなんでしょ? よりにもよってあの歌を歌うなんて⋯⋯はぁ。 ⋯⋯もうどうでもいい。 今回もアンタに見せ場を奪われたわ⋯⋯」
「⋯⋯奪われたって。 むしろ面白いって、言ってくれたじゃないですか! ⋯⋯だから今回も、榊原さんに喜んで貰えるように頑張ったのに⋯⋯」
ーーそう、私は榊原さんが言っていた言葉ーー出番を奪われて嬉しいを実行したのだ。 しかし、どうやらこの雰囲気は嬉しいとは、真逆のようだ。
「アンタ⋯⋯あんなのでまかせよ! ⋯⋯もしかして、アンタわざわざそのために、こんなことをしたの?」
「あ、はい。 そうですが?」
私がそう答えると、榊原さんが俯いて笑い出す。
「⋯⋯ふふ。 なら、撤回しないとね! アンタは臆病者なんかじゃない! そして私はこのコンサートの主役! アンタはタダの前座よ! 下がりなさい!」
そう言うと、榊原さんは私を舞台から押し除けた。
そして歌い始めるーー
私たちの様子を見ていた二人は、位置に戻りダンスを始める。
観客は混乱したが、榊原さんの歌唱に引き込まれて、さっきのはパホーマンスだと勘違いしたようだーー
みんなが盛り上がっている。
その中で私は一人、頭にハテナマークを浮かべていたーー




