あの子はホントに
「えー地球で、この番組を観ている諸君。ニャンヒカルだ。皆さんも代表的エリンガ人一人の一人である、私のことはご存知だとは思う」
ニャンヒカルは緊張した面持ちのでさらに
「今回、月と地球の中間地点にワームホールを作り出したのは私だ」
と画面内で言って、俺は飲んでいたお茶を噴きそうになる。ショラが深く頷いて
「確かに彼のせいにしたらええわな。少なくともいきなり核兵器は撃ち込まんやろ」
ニャンヒカルは画面外を見て、一瞬嫌な顔をすると
「……これからそのワームホールから全長が数百キロメートルに及ぶケイオス粒子に包まれた超巨大宇宙生物が出現するが、彼は地球の重力により、宇宙の旅の休息を得たいだけであり、地球に対して攻撃の意志は無い」
そこでニャンヒカルは画面外から差し出されたお茶を飲むと
「彼はパウジャミルといい、ガニメデの第三層海に病気療養のため長年潜伏していた。。病気が癒えたので地球の重力を利用し安息を得る。それだけが目的だ。詳しくは私が、彼と共に地球に帰還した後に話す。くれぐれも攻撃はしないでもらいたい」
そこで画面は砂嵐に変わった。俺は唖然として放送を眺めていた。ショラは何度も頷いて
「よしよし、先制攻撃はないな。多分百五十くらいやろな」
「何が百五十なんですか……」
「地球と衛生兵器からパーくんに打ち込まれる主な核兵器とレーザー兵器の数やで?」
「いや、跡形もなくなりませんかそれ……」
ショラは黙って扉を見ると、婆ちゃんが入ってきた。
「人望ないのは知ってたわ。でもあんなのでも87%の攻撃意欲を削いだ。十分よ」
そしてソファに座ると面倒そうに
「あーさっさと爺ちゃんに会いたいし。始めましょうか」
と言うのと同時に、ナニコが横にワープしてきて
「パーくんもう行けるよー?」
婆ちゃんとショラが頷くと、ナニコも頷き返して消えた。婆ちゃんは黙ってリモコンを操作してチャンネルを変え
「時間的には十一分程度よ。見なさい、人類とエリンガ人の歴史が変わるわ」
とんでもないこと言ってくる。
寝室から寝ぼけ眼のチリとファイ子を起こして戻ると、画面には宇宙空間の虹状の霧へまるで膜を突き破ろうとするかのごとく暴れながら何度も突進する半透明な龍の姿が映っていた。女性レポーターの声が
「とてつもない光景が国連の調査船団から中継されています!化物によって、じ、人類は終わってしまうのでしょうか!?」
などと悲鳴を上げている。婆ちゃんは煩そうに音声を消して
「宇宙空間だからどうせ無音よ。しかしパーくんもうちょっとスムーズにでれないの?あれじゃ出た瞬間に先制攻撃食らうじゃない……」
ショラが真剣な表情で
「この内的世界に乱れを生じさせんだけでも大したもんやで。ケイオスによって物理的な伸縮や振動をゼロにしとる」
婆ちゃんは納得いかなそうに俺を見て
「えいなりは、うちの爺ちゃんと出来の良い息子の優秀さを受け継いでるから、なーんの特殊才能もないのに、あっさり難件を片付けたというのに……あの子はホントに身体だけは超一流なのに……」
ブツブツと呟いている。チリとファイ子はモニターの光景を見て、ガタガタと震えだして左右から俺の身体を抱きしめてきているが、俺も震えたいし泣きたいですよ!ガニメデまで来た結果がこれかよ!何を観させられてるんですか!
虹色の霧を突き破り、長く超巨大な顔を出した虹色に光る龍の鼻先の空間が歪むのと同時に、画面は大爆発に包まれて、砂嵐になった。婆ちゃんが大きくため息をついて
「せっかくニャンヒカルに演説させたのに、パーくんが暴れすぎて台無しになったわ」
「婆ちゃん……何が起きたの……」
ショラが代わりに
「無理やりワープポータルをパーくんの鼻先に設置してからの、恐らくは最大火力の核ミサイル7発のゼロ距離爆発やな」
「……なんで俺たち無事なんだよ……」
婆ちゃんがイライラした表情で
「……パーくんもっと聖なるドラゴンって感じで登場しないと!もうっ!何であの子は何やらせてもだめなのよ!」
と言いながら、部屋から出ていった。
画面には砂嵐しかまだ映っていない。




