劇
ヘラナがブルブル震えながら
「み、みなさん!エロスに勝つにはタナトスしかありません!ここはえいなりのイメージ作成能力とナニコ神の御親戚という立場を最大限利用しましょう!」
と言ってきたので、四人で耳を傾けるととんでもない計画を明かしてきた。
イボボボンガツーの用務員にナニコへの伝達を頼んだり、5人で話し合ったりしていると、準備に三十分ほどかかってしまう。ヘラナが右腕を上げて
「ナニコ神!スタジアム中に中継お願いします!劇の始まりです!」
という合図とともに俺はイメージでどこかのホテルのロビーのような一室を作り出す。隅に棒立ち子が立っていて、俺はその壁と同化したので、あとはこの舞台を維持するだけだ。そして、そのロビーの形をした舞台の左手の入口から地蔵の衣装を着たチリが入ってきた。……というかこれも俺がイメージで着せている。
「あー今日の道ばた地蔵の仕事辛かったなー真夏で暑いんだよなあ……うっ……ぐっ、まさかお前が……ぐはっ」
チリはその場に倒れ込んで、口元に血がにじんだ。スタジアム中から悲鳴が上がる。ちなみに血も俺がイメージでくっつけました。本物ではないです。
そこに舞台の右手から白ビキニのファイ子と黒ビキニに赤リボンのヘラナが出てきて
「くっ……白ビキニデカ、遅かったですわ……これは近年連続しているお地蔵様連続殺人犯の仕業っ」
刑事と書いてデカです。二人は刑事役だそうです。ファイ子は真剣な眼差しで
「黒ビキニデカ、我らイボボボンガツーが何より大事にしているお地蔵様を殺すサイコ……許せない」
と二人で現場検証を始めた。というかイボボボンガツーはまじで地蔵を大事にしているようで、スタジアムから本気で「許せねええ」と怒号が上がっているのでビビる。そこにお姫様ドレスのショラが左手の入口から入ってきた悲鳴を上げ
「こっ、これは何でお地蔵様が……」
白ビキニデカが近寄って
「イボボ中央署のものです。このお地蔵様について何か知りませんか?」
「あ、確か、ここから五十メートル先の四つ辻でいつもサルピスをお供えられていた、チリ地蔵様では……」
黒ビキニデカも近づいてきて
「サルピスなんて作るの大変なのに……犯人許せないですわ!」
サルピスって何かの動物のお乳とおかゆを混ぜたものだったと思う。確かにわざわざ作らないし、美味しくも無いそうだ。
白ビキニデカが真剣な顔で死体役のチリの身体を仰向けにひっくり返し
「……被害者はぽっちゃり体型……お肉多め、小柄、知能は……高くなさそう」
などといきなりアドリブで言い出したので、チリは顔が真っ赤になって微妙に手が震えている。ヘラナはオロオロしだし、見かねたショラが棒立ち子を舞台中央まで抱えてきて
「この人が何か言いたいことがあるそうやで」
と演劇の展開を先に進ませた。ここからのシナリオは覚えている。ショラが棒立ち子の背後から口真似でセリフを言って、それを白ビキニデカと黒ビキニデカが推理をしていき、最終的には棒立ち子が夏の暑さを利用して腐ったサルピスをわざとチリ地蔵に食べさせたとわかり、逮捕されて終劇という流れだ。流れだったのだが、いきなり今まで一切動かなかった棒立ち子がギョロッとビキニデカたちを見つめ
「クックックッアーハッハッハ!」
と笑い出した。




