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ワープ

チリが驚きを通り越してもはや呆れた表情で

「またあ?また来たの……?」

とファイ子を見つめる。

「……わ、ワープだよな?」

気付いた俺の言葉にチリもようやく事態のヤバさを自覚したようで

「一回、一億円取られるあれ……?」

そうなのだ、エリンガ人はワープ技術を貸出という形で高額の利用料を取っている。確か授業で習ったところによると、乱用すると空間の不安定化を招くので、それを防ぐ為の下準備がとても大変だかららしい。当然エリンガ人自体が使うのも、ただじゃないはずだが……。


俺達が全裸のファイ子をベッドから見つめていると

「も、もうやめてえ……私のえいなりを汚すのはあ……」

涙目で、ファイ子がどう言いながら一歩ずつこちらに近づいてきた。

俺とチリは抱き合ったまま固まるしかない。

ベッドの脇まで来たファイ子は跪いて

緑の両目から大粒の涙をこぼしながら

「宇宙船の中しか知らなかった私があ、やっと、やっと見つけた希望なのお……」

と手すりに長い手ですがりついて

抱き合っている俺たちに懇願してきた。

チリは何か悟った顔で、俺の体から手を離し

「辛かったんだね」

と泣いているファイ子の頭をなで始めた。

俺はしばらく固まったあとに、何か着せないと、と思い立ちベッドから飛び出して、クローゼットから貰い物でサイズが大きめで着ていなかった新品のTシャツを取り出し、ファイ子に渡した。ファイ子は俯いて受け取るとモゾモゾと被るように着て、チリから渡されたハンカチで涙を拭う。


先程の音に驚いた爺ちゃんが部屋に入ってきて、俺が事情を説明すると、難しい顔で腕を組み

「ふむーそれはいけんな。ファイ子さんは何か食いたいものはあるかね?」

「あのお、水と塩を別々に……」

爺ちゃんは頷くと、素早く水の入ったコップと塩入れの小瓶を持ってきて丸机に置いた。ファイ子はコップに慎重に塩を測りながらまぶすと、一気に飲み干した。そしてようやく落ち着いた雰囲気になった。


丸机を4人で囲んで座る。

爺ちゃんが最初に口を開き

「ファイ子さんは、えいなりをどうしたいんじゃ?」

と穏やかに訊ねた。ファイ子はいつもの余裕ある表情に戻っていて

「私だけのものにしたいと思ってますう」

冷静に答えた。爺ちゃんは頷いて

「そうなったとしたら、えいなりはどうやってファイ子さんを愛せばいいんじゃ?」

確かにそれは気になると俺とチリも注目すると

「脳波を頭に被った補助具で同調させてですねえ……ずっと24時間私と愛を分かち合いますう」

ファイ子は本当に幸せそうにはにかんだ。

爺ちゃんは感心した様子で唸ったあとに

「子孫はどうやって作るんじゃ?」

「彼の一番元気な精子を取り出して、それにい、私から取り出した卵子を人間に合うように改変しつつ受精させてえ、二人でじっくり遺伝子操作しながら、脳波で愛を伝えつつー特製子育てカプセルでえ、素敵な子供に培養するんですよお」

実に幸せそうに語るファイ子に3人で絶句する。どうやらエリンガ人たちには性交や自然分娩といった発想はないらしい。

爺ちゃんは黙って俺を見てくる。

「ファイ子、お前の言いたいことは分かったが、どうしても俺じゃないとダメか?」

ファイ子は、また涙を宝石のような両目にためだして、俺が地雷を踏んだ……と慌てている横で、立ち上がった爺ちゃんが、素早くヤカンに水を入れて持ってきて、コップに水を注ぐ。すぐにファイ子は水の中に塩をまぶして飲み干して落ち着いた表情に戻った。


……今まで超然とした態度で隠されていて気づかなかったが、ファイ子ってとんでもないメンヘラなんじゃ……とチリを見ると、頷き返してきて

「ファイ子ちゃん、ライバルだねっ」

と爽やかに宣言した。

俺がまた泣くんじゃないかと慌てていると、ファイ子は意外にも真剣な眼差しで

「負けないですう。絶対にい」

言い返してホッとする。


とりあえずチリと爺ちゃんの機転で状況が落ち着いたので、今夜どうするのかファイ子に尋ねると

「そろそろ迎えがありますよお」

と言った瞬間に俺の部屋の窓が開いて、黒装束と黒頭巾の忍者のような小柄な二人が入ってきた。そして一人は風のようにファイ子を連れ去ると、もう一人は俺たちに畳に頭をつけて土下座してから、実に申し訳無さそうに

青いカードを一枚、爺ちゃんに手渡してきた。

「調査したところワープによる空間異常はございません。三百万円ほど使える現金カードです。譲渡税は予め日本政府に支払済みの真っ白なお金です。これで今夜のことはご内密に……」

爺ちゃんが返そうとする間もなく、その人物は窓から出て、しっかり閉めてから音もなく去っていった。

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