私の歌心
「ちょーろーどうですかー?」
ナニコがアナウンスで尋ねると、長老がフガフガと
「……ダンス対決じゃろー?つまりー地球のニホンにー影響されたお笑いはー差し引かんとなー」
長老のいきなりの鋭い言葉にスタジアム中に緊張が走る。
「あーそーですねー。長老はどっちが好きだったー?」
「同族贔屓したいとこじゃがー……フルーツ音頭の革新性が……ぐう……」
「あっ長老寝ちゃったねー。たぶん……えっとつまり……うーん……アイドル忍者軍団の勝ちです!」
俺とショラは崩れ落ちて、ゴリラ共はウホウホ言いながら棒立ち子の周囲で勝利の舞いを踊り始めた。角刈りアンドその他たちは爽やかに拍手をしてくれた。
棒立ち子をみんなで抱えて、またスタジアム上層の豪華な室内に戻る。
ショラが疲れ切った顔で椅子に座り、リモコンでモニターをつけると
「いやそれはな、優勝したらチリちゃんのお父さん治すの考えるって、ナニコちゃんも言ってたけどやな」
と言って、俺に近くの椅子に座るように促し
「さすがに無理やろ。わしら持ちネタ最初からゼロなんやで」
「ですよねえ……せめて練習してたアイツらが戻れば……」
横目で見ると、ゴリラたちは棒立ち子の頭巾を脱がせて、ウホウホ言いながら髪をいじっている。ダメそうだ。二人で愚痴りながら、チャンネルを変えていると、今度は土壁と土の地面でできた粗末というか、悲惨な部屋で車座になったニャンヒカルたちが
「……みんなで土下座して何とか、一般応募リーグに残れたな。良いか、敗者復活リーグからも敗退して普通ならもう諦めるところだが、私は違う!」
俺とショラが唖然としてモニターを眺めていると、ニャンヒカルは立ち上り、拳を天井に突き上げ
「ここから全勝して這い上がるぞ!優勝だ!」
メンバーたちも立ち上がって拳を突き上げた。ショラは驚いた顔で
「とんでもないやる気やな。土下座する目的を間違っとるけど……」
確かに地球やガニメデ基地に帰してくださいと土下座すれば、ナニコおばさんがどうにかしてくれそうだが……。更にショラが
「正式に負けられればわしらも、ナニコちゃんをみんなで拝み倒してどうにか、お父さんのこと頼めると思うんやけどなあ」
「……俺らが勝つ意味無いですからね……」
などと俺が脱力して返していると、扉が叩かれた。俺が出ると、恐らくはイボボボンガツーであろう制服を着た肌の黒い美女が
「ナニコ神のご意向により、アイドル忍者軍団さんたちは、急遽、三回戦を早めることになりました。行きましょう」
と言われて、色んな意味で開いた口が塞がらなくなる。
ゴリラたちによって髪の毛がウンコみたいな巻き毛にされていた棒立ち子を、四人で担架に乗せて運びながらグラウンドに出ると
……こう言っては失礼かもしれないが、凄まじいメンヘラな感じの女子が1人立っていた。鮮血色の大きなリボンを巻いた、前髪パッツンな黒髪は腰まで伸びていて、服装はゴシックロリータな漆黒のフリフリドレス、血の気のない顔のギョロッとした大きな両目の下に黒い隈、紫の薄い唇は半開きで震えている。分厚いドレスの下の体はやせ細っているようで、さらに左頬には血の涙のメイクが描かれている。
ナニコのアナウンスが
「ヘラクレスヘラートヘラリちゃんです!対決でやるやつはダンスでも歌でもお笑いでもなんでもいいよー……えっとーえいなりー……アイドル忍者軍団のみんなーわかるよね?」
俺は黙って頷く。病気が具現化している可能性が高い。
先行はヘラクレスヘラートヘラリで始まった。彼女はドレスを左右に揺らしながら
「愛するあなたをーお墓から掘り起こすのー」
という不吉なアカペラから曲を始める。ヘラクレスヘラートヘラリの背後の地中から滲み出てきた、影の楽器をもった人影二人と、影のドラムセットに座った人影が三人で重厚なバンドサウンドをいきなり奏でてイントロが始まり、俺とショラは圧倒される。さらにギターの音圧の凄まじいカッティングに乗せて
「お母さんはー私を愛してくれなかったわーお骨になったあなたをートランクに乗せてー会いに行きましょう」
怨念に満ちた歌が、音域の広い声の自在な高低音の行き来で歌われていく。畳み掛けるように
「丸い風穴がーキッチンの壁に空いたときートランクからはみ出たあなたはー笑っていた」
「高い崖が私に微笑んだときー宙を舞うあなたにー黒い羽根が生えたのー」
不吉すぎる歌詞が気持よく歌われていき、ドラムロールと共にベースラインがうねって
それに合わせて、彼女はドレスを左右に揺らして踊り、そして息を大きく吸い込むと、解放されたように暴れ狂い出した全楽器と共に
「角のある天使が私を導く!さわれない影が囁きかけて!私は終わりの支配者になる!なるのー…なってしまったの……」
いくらなんでもヘラリすぎだろ!九十年代にアルバム二百万枚売ったヘラリロックの名手西瓜梨子でもこんなん聞いたことないわ!というサビを歌い切り、演奏をピタッと止め、うつむいたまま動かなくなる。圧倒されていると、背の高い方のゴリラがいきなり
「とうとう、私の歌心を発揮するときがきましたかあ」
さらに背の低いゴリラも
「あんなの見せられたららねっ」
ゴリラたちは完全に人間とエリンガ人に戻っていた。




