こんなんでいいの
「ニャンヒカル猫撫で放課後クライマックス……とうとう猫だって認めたのか……」
俺がつい呟くと、セーラー服を着たニャンヒカルはニヤリと笑い
「……パブリックイメージを利用しているだけですよ」
チリは首を傾げてニャンヒカルが誰なのか思い出そうとしているようだ。
ナニコのアナウンスが
「では!ソング対決を始めますねー!先行ニャンヒカル猫撫で放課後クライマックス!長いよーもっと短くしてよー覚えられないってえー」
とスタジアム内に鳴り響き大歓声に包まれる。
「ニャンはあいさつー」
いきなりニャンヒカルが良い声で歌い出した。背後のセーラー服を着た大人たちは
「あーああー」
などとコーラスをつけている。
「ニャーンは注目してー」
「らーららー」
「ニャッは放っておいてー」
「るーるー」
「ニャッニャッの短く区切った連発はー?」
ニャンヒカルがコーラス隊を振り返ると
「ええ加減にせんとー怒るでしかしー」
コーラス隊が完璧な音程でハモると
ニャンヒカルはバッとこちらを向き直り
「シャー!は蛇のまねー!ガチギレ中!」
「近づくとー引っかかれるよー」
そして全員が同じメロディラインで
「そんなー猫の気持ちと恋人の気持ちは暗号のようさー翻訳機が欲しいねー」
と歌いだして妙な高揚感に包まれる。ニャンヒカルがサッと腕を上げると全員が口を閉じた。全てのパートがやたらクリアに聞こえるのはケイオスの影響か。マイクも無いのにスタジアム中が聞いていたようで、地鳴りの様な拍手が巻き起こった。
終わったようだ。勝ち誇った顔のニャンヒカルが俺たちを見てくる。ショラが難しい顔で
「わしらはアドリブで一曲歌わんといけんようやな」
と俺に言ってくる。確かにそうだ。アイドル忍者軍団はチリと棒立ち子しか残っていない。しかもチリはファイ子と、滋養強壮薬の後遺症なのか謎のゴリラ化していて、棒立ち子はケイオスの根元から離れたからか、棒立ちしかしていない。ショラが俺の耳元に
「勝つ必要ないで。ナニコちゃんの近くまでこれたんや。適当にやって負けてから探索開始や」
俺が頷くと
「わしが先導するから適当に後ろで踊った振りしててや」
ショラはいきなり先頭に立つと
「イケるで!始めてや!」
と空に向けて吠えた。アナウンスが
「ちょっと待って……今お菓子片付けるから……パリ……パリパリ」
と明らかにスナック菓子の袋を片付ける音が大音量で響いて
「えっと、アイドル忍者軍団の歌が始まりまーす!」
適当なアナウンスがスタジアム中に響いた。
「ゴリラ音頭や!」
ショラが背後のチリとファイ子を振り返ると、二人同時にビクッと反応して、何故か最後尾の俺を見てくる。いや二人に見られてもどうしようもねーし!ううっ……わかったよ踊るよ!
俺は地元の夏祭りで習った盆踊りを渋々踊り始めた。すると二人もぴょんぴょん跳ねながら
「うほっうほっ」
「うほっうほっ」
言いつつ似たような動きをし始める。こちらの様子を見たショラが頷いて、動かない棒立ち子と肩を組むと
「ゴリラの遺伝子はー地球人に近いーそう友達にきいたでー」
俺の踊る盆踊りのリズムをゴリラ化した二人が
「うほっうほうほっ」
「うほっうほうほっ」
と鳴き声で表し始めた。ショラが
「ゴリラについてーようしらんーようしらんけどー黒いらしいー」
といい加減に歌い継いだところでゴリラ化した二人が何と
「はい!」「はい!」
と合いの手を勢いよく入れ、またリズムを刻んで踊りだす。ショラは勢いに乗り
「ゴリラの社会はー地球人に似てるー友達にそうきいたでー」
「はい!」「はい!」
アドリブの応酬が次第に噛み合ってきているのが怖い。
「ゴリラについてーようしらんーようしらんけどーにとるらしいー」
「はい!」「はい!」
合いの手を入れた二人が踊りながらジッと俺を見てくる。……多分何か歌えって言われてるな。いや無理だろ……歌いますよ……歌えばいいんでしょ……。ゴリラたちの眼力に負けて
「ようしらんゴリラにー恋をしているー」
適当なメロディを差し込むと、ショラも合わせてきて
「ようしらん同士がー恋をするーつまりゴリラーゴリラ音頭ー」
「はい!」「はい!」
その後も一分ほど踊って、多分尺的にもう良いだろ……。というところで止めると、地鳴りの様な拍手が大歓声に包まれた。いや、こんなんでいいの!?




