この街でないもの
「いてっ」
ベシッと仰向けに都市に着地した。普通、竜巻に巻き上げられ、とんでもない距離落ちたのだから、この瞬間以前のどこかで死んでいるはずだが痛みもすぐ消えて立ち上がれた。
近くには同じように着地したビキニ姿のファイ子がバッキバキでムキムキのまま、背中を丸めてウロウロしながら
「うっ、うへへへ……ははは……」
と怪しく笑っている。俺は近づいて
「なあ……大丈夫か…?」
「はい!」
ファイ子は急にシャキッとして勢いよく答えた。大丈夫じゃないな……大丈夫じゃないけど……
「チリとショラさん探すぞ」
「はい!」
ファイ子はそう言うとすぐに
「うほーうほっうほー!」
と変な鳴き声を上げながら猫背のままぴょんぴょん飛んで駆けていった。俺はようやく周囲の景色が入ってくる、この街は一見近代的だが、建物やビルの看板を眺めると
「とんかつ屋オンザラン」「お菓子やヘコチン」「同人誌ショップたちばなんぴあ」「古本屋モペー堂」「スーパーニョロニア」「コンビニラウファミリア」「ファミレスヴィクトリアネス」……など、多分チリが看板に私の好きな店が並んでる街と書いたんだろうなというのが分かるラインナップだった。丁寧に架空の店名の前に、何の店なのかすら書かれている。
俺はファイ子の後を追いながら、人けのない街並みを眺める。
すぐにチリはファイ子によって見つかり
「うほーうほっうほー!」
「うほっうほっ」
二人は謎の鳴き声で会話し始めた。そしてすぐに近くのビルとビルの間に猫背のままぴょんぴょん飛んで入っていく。追っていくとそこにはショラが倒れていた。周囲をぴょんぴょん跳ねる二人を避けて抱き起こすと
「……島の外の世界への侵食に成功したな」
と呟いて、大きく息を吐いて立ち上り
「えいなり君、急いでこの街の中の異物を探すんや」
「どういうことですか?」
「簡潔に説明すると、ここはチリちゃんがナニコちゃんの世界に創った異物やけど、看板というケイオスの根元から遠い。そんなには形を維持できん」
ショラはそう言いながら、足早に歩き出し俺たちもついていく。
「この街が壊れる前に、この街でないものの中に避難するんや、そしたらそれが大会会場に連れて行ってくれるやろう」
「よくわからないけど探します」
俺はファイ子とチリに
「この街じゃない部分を探そう」
と一応言ってみると、二人は即座にウホウホ言いながら同じ方向に駆けていった。その先には高い電波塔らしき建物が見える。
「ケイオスでできた世界の薬飲んだから、感覚が鋭敏なんかなあ」
ショラが、前方で変な走り方をしている二人を見て呟く。
「あいつら大丈夫なんですかねえ……」
「……」
ショラは明らかに聞かなかったふりをして
「信じるしかないやろな」
電波塔の入口前までたどり着いた二人はその前に守衛のように立っていた白いマネキンにドロップキックと回し蹴りを同時にいれて倒し、こちらへと
「ウホウホーっ!」
「ホッホッホーッ!」
と勝利の鳴き声をあげてくる。




