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爺ちゃん

暮れていく空を呆然と見上げていると

「ということでね……」

チリがそう言いながら抱きついてくる。

「う、うん……あの悪いんだけど」

「……あとにする?」

「そのほうがいい気がするな……」

チリは少し頬を赤らめて頷いた。

メンタル強いなと俺は感心している。


俺の部屋で二人でお菓子やジュースを飲み食いして、高校でのことや、漫画アニメの話などしていると

「帰ったぞーい!お、見慣れぬ靴じゃ」

爺ちゃんが帰ってきて、チリと一階に降りるとチリを見て嬉しそうに

「おおっチリちゃん、久しぶりじゃあ」

農作業着を着た小柄な体で良く焼けた右手を伸ばし、わざわざチリと握手した。そして日焼けして禿げ上がった頭を左手で触りながら俺を見て

「いつ結婚するんじゃ?」

と半笑いで尋ねてくる。

「いや、爺ちゃん、俺ら高2だぞ」

「そうかそうか、卒業したら結婚かあ」

俺は苦笑いして、チリは幸せそうにこちらを見つめる。


両親は今日は、地域の飲み会や行事の用意があるので帰ってきてこないと爺ちゃんから聞かされ、夕飯を3人で作って食べることにする。

チリは爺ちゃんと息ぴったりで夕飯作りのサポートをして、1時間ほどで一階居間の机には魚の切り身や味噌汁、漬物、ご飯など和食の夕飯が並んだ。いただきますと3人で声を合わせて食べ始める。


「チリちゃん、家は最近どうかね?」

そう言って爺ちゃんが沢庵をかじる。

チリは言葉を選ぶように黙って

「……お父さんは帰らないし、母さんは夜もずっと仕事」

「そうかあ」

チリの父親は日本中を飛び回っている長距離トラック運転手で、母親は街で小さなバーを経営している。一人娘のチリは、田畑高校近くにアパートを借りて母親と住んでいる。

爺ちゃんはしんみりしないように話題を変え

「異星人はどうかね。ほら、えいなりに纏わりついとる、ファ何とかとかいう」

興味深そうにチリに尋ねてきた。

俺達はさっきあったことを話し忘れていたことに気付き、慌てて説明する。


爺ちゃんは腕を組み、難しい顔でそれを聞くと

「困ったもんじゃなあ。わしも奴らの性癖はよう知っとるが、えいなりには子孫を残してもらわにゃ困る」

「いや、ファイ子には興味ないから大丈夫だって」

気まずいのでテレビをつけると、二十歳〜四十歳くらいのさえない男たちが乳首に二プレスをした上半身裸と股間が盛り上がった色とりどりのタイツ姿で二十人ほど集まって、へたな歌を合唱しているところだった。爺ちゃんは目を細めてそれを見つめ

「あれでアイドルグループなんじゃろ?」

「ダンダン合唱団っていって、CDがミリオンヒットしてるんだって……エリンガ人しか買ってないらしいけど……」

俺が脱力しながら解説するとチリも深刻な表情で

「やってる人は悲しくないのかな」

爺ちゃんが首を横に振り

「仕事が忙しくなり、さらに金が入れば、人は社会に認められたと思うもんよ」

「そうかあ……」

その後、夕飯の片付けをして風呂に別々に入った。


下着しか着替えを持ってこなかったチリは、俺の学生服のシャツをすっぽりと着て、漫画を読んでいる。

俺は勉強をしたあとに腹筋運動や、スクワット、腕立てを始めた。

チリは、こっちを見つめてきて

「疲れて寝ないでよっ」

とはにかんできた。当然意識はしている。爺ちゃんはわざわざ3種類のサイズのコンドームをコンビニで買ってきてくれて

「自分に合ったものを使うんじゃぞ」

とウインクして、さらに5000円の小遣いまでくれた。


23時を回った頃、俺は覚悟を決めた。

ベッドのシーツを代え、チリを寝かせ、部屋の電気を消した。そしてベッドに入りチリの柔らかい体を恐る恐る抱きしめる。

「えいなり……」

息遣いが耳元に聞こえる。

布団の中、手探りでチリの着ているシャツのボタンをゆっくりと外していっているその時だった。


シュイイイイイイイインン!


虹色の閃光とともに、けたたましい異音が部屋中に響き

「待ってえええええ!ヤメテエエ!」

と聞いたことのある耳をつんざく奇声が聞こえてきた。

慌てて、電気をつけると消えていく閃光と共に顔面蒼白で全裸のファイ子がそこに立っていた。

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