聞いてた話と違う
バー裏の倉庫にある食料を適当に選んで、リュックサックに詰め、また島に戻ると、落書きで真っ黒になった看板前で三人がまだ話し合っていた。
「進んでる?」
と声をかけるとチリが涙目で
「……ショラちゃんが悪の財務大臣で、ファイ子ちゃんも王妃になった」
「……ま、まあいいんじゃね……」
話し合いの末に設定変更があったらしい。ショラが腕を組んで
「そのままそうなるとは限らんのよなあ」
「いつ変化が始まりそう?」
リュックサックからスナック菓子にビーフジャーキーや水筒食い物を出して配っていると
ファイ子が難しい顔で
「そろそろ始まってもおかしくないですがあ……我々の望みとは違うものになる可能性も高いですよお」
「スーパー人間のナニコちゃんの、ケイオスを操る力次第やな」
「今のところ、とてつもなく強いと思うんですよねえ。根元にこれだけ書いても変質が一切ない」
「たしかになあ。ここ以外根元っぽいの見つからんしなあ」
ファイ子とショラの難しい話を聞き流しながら、炙ったイカを齧る。俺は高校生なので当然酒は飲まないが、ビーフジャーキーとかスナック菓子とか、これらが酒のつまみなのは分かる。婆ちゃんと爺ちゃん……たまにツンツクボールに来てお掃除しつつ酒飲んでたんだろうなあ。と思いながら背後の天までそびえ立つ岩の塊を見上げていると
「えいなりも何か書いてよ」
とチリに黒い木の棒を渡された。
下の方の微かな余白に何か書こうとするが何も思い浮かばずに、散々迷った挙げ句
チリがすごいアイドル忍者になる すごい
と書き殴って、チリが顔をしかめ
「私は王妃だよっ」
と言った瞬間に辺りは真っ白な光に包まれた。
……
次に目を開けると、俺は派手な玉座に座っていた。目の前にはレッドカーペットが遠くまで敷かれ、目の前には黒頭巾を被って、一昔前に流行ってそうな金のラメ入りのハイレグピンクレオタードを着たチリが跪いている。俺の横には殆ど紐の白ビキニ姿のファイ子が立っていて、チリをみて、軽くガッツポーズした後に
「アイドル忍者頭のチリよーおもてをあげなさいー」
顎を上げながら命令する。チリは悔しげに立ち上がり
「王様、アイドル忍者がしらのチリです」
と自己紹介してきた。俺はとりあえず頷いて様子を伺う。これがケイオスによる変質ならば、とてつもない力だ。さっきまで何もない砂浜だっただろここ…。
ファイ子が自慢気に
「私は首相のファイ子ですー。アイドル忍者チリは命令に従うようにー」
と言って、チリは悔しげに頷いていた。
ショラの姿が見えないがそのうち姿を現すだろと思っていると、いきなりチリと同じ格好をした三人の女性たちが、扉をあけて駆け込んできて、俺の前で跪くと
「王様!ショラ姫が暗闇忍者奥義洞窟にさらわれました!」
と言ってきて、俺は絶句する。ファイ子が冷静な表情で
「アイドル忍者部隊は直ちに救出に向かいななさいー。首相の私は国王と話がありますう」
と命令して、チリは三人の女性に連れ去られるように去って行った。
玉座の背後の別室に二人で移って窓際の椅子に座りファイ子に
「聞いてた話と違うんだけど……」
と言うと
. 「チリさんと私で、設定の変更しあってですねえ。それで間を取る形でショラさんが王妃にい」
「なんだそりゃ……」
「私の設定ではチリさんは、城下町の一般人でえ、城に入れないと書きましてえ。チリさんは私をビキニを着たメイドにしてたんですがあ」
俺は話を途中で止める。よく分かった。張り合って、お互いを俺から遠ざける設定で看板にそれぞれ書いていたようだ。それで配役がめちゃくちゃになっているらしい。などと思っていると、いきなり重装備の鎧兵が室内になだれ込んできて
「おい!ビキニメイドが首相のふりをしていると通報があったぞ!」
「神妙にしろ!」
「わっ……私は首相ですよお」
「うるさいっ!不遜だぞ貴様!」
と瞬く間にファイ子は縛り上げられて連れて行かれた。固まっていると兵士の長らしき人物が進み出てきて
「国王様、ご安心ください。直ちに死刑にしますから」
と言ってきて俺は全身の血の気が引く。




